my name
―――「じゃあ私が名前を付けてあげる!」
夢、夢を見ている。
とても懐かしい夢。
まだ俺に名前が無かったあの頃の…。
「名前…?別にNo.520でもいいと思う」
あの頃はまだ世間知らずの子供だった。
「駄目だよ、名前はその人の存在を示す大事なものだってお父様が言ってたもん!」
「そうなのか、じゃあ君が付けるとしたらどんな名前を付ける?」
そうだ、この時から俺はNo.520と名乗ることをやめた。
「君は青空みたいな清んだ青い眼をしてるからソラ…ちょっと単純だけど駄目かな?」
「…ソラか、短くて響きもいいからそれでいいよ」
「じゃあ改めてよろしくね!ソラ君!」
そういって彼女は夢の中のまだ子供だった俺に手を差し出す。
あの時の俺はちょっとだけ戸惑いながらもその手を握って握手をした。
「あのね、ソラ君…私を助けてくれてありがとう」
彼女は穢れの無いような目と純粋すぎる笑みであの時の俺を見つめる。
だがあの時の俺は、怖かった。
自分とは正反対の生き方をした彼女のことがまるで自分と比較されるようで。
だからあの時の俺は…
「なんのこと…君を連れてきたのはただのついで」
素直になることもできずにただ彼女の御礼の言葉を切り捨てた。
――徐々に霞んでいく景色の中で彼女を置いて駆け出したあの時の俺が俺の横を通り過ぎていく。
聞き取れないほどの声で何かを呟きながら。
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意識が覚醒した時俺は自室のベットで横になっていた。
壁にかけてある安物の時計を見ると針はすでにリビングでの打ち合わせから抜け出してもう4時間は回っていた。
どうやら随分と長い時間寝てしまっていたようだ。
「何故彼女は今になって現れた…」
彼女の存在はなぜこんなに俺の心を掻き乱す。
止まらない数多の感情の波が俺を鎖で締め付けていく。
あの時俺はいったい何を呟いて彼女から去って行ったのだろうか。
ゴチャゴチャとした感情を切り払い頭の中をクリアにして残った言葉をゆっくりと口に出す。
「余計な感情はいらない…彼女を守る、それが俺の任務」