中間報告⑥
エザリアの調査を進めている内に、私はとんでもないものを見つけてしまった。もしかしたら、私自身も仲間同様殺されてしまうのではなかろうか…………。不安は募るばかりである。
諜報部統括官の手記より。十二月十七日。
先日ついに、ラズベリエにてエザリアの出入りしている建物への潜入が成功した。
エザリア、黒衣の者、それとどこかの貴族の青年がそろって外出。
私を含めた諜報部の人員五名で、即座に内部調査を開始した。
シュタルトヒルデにて発見された建物同様、レイゼルピナの魔法技術では建造不能と思われる階段が、地下深くへと伸びていた。
報告には聞いていたが、実際でこの目で見ると絶句せざるを得ない。
大人が横になってようやくすれ違える大きさの通路は、全て硬化のかけられた石材が使用されており、しかも驚くほど滑らかな研磨が施されていた。
手元のランプを頼りに階段を降りていくこと数分、鋼鉄製の扉へと到着する。
こちらも非常に強力な硬化系の魔法が施されており、上位クラスの呪文でも使わない限り、破壊するのは不可能に近いだろう。
もっとも、こちらはシュタルトヒルデとは違い鍵の類はなかったので、簡単に中へと入ることができたのであるが。
重い扉を開いたその中には、まさに以前の報告の通りのものがあった。
鋼鉄に覆われた部屋は、ちょっとした舞踏会が開けるほどに広い。
そしてその空間を埋め尽くす、大量の機械群。
先端科学の国として知られるメレティス王国を視察したことがあるが、明らかにそれらを超えていることがわかった。
極彩色に輝くガラス板と、それを覆う鉄製の箱。
人の胴体ほどもある多数のケーブル。
必要最低限の光量を放つ電灯。
しかし、それらも置き去りにするほど驚愕するものが、そこにはあった。
樽のように中心部が膨れ上がった、床から天井まで届くガラスケース。
薄赤色の溶液で満たされたその中には、人間が浮いていたのだ。
正確には人間かどうかは不明であるが、人間の形をしたなにかが、ケースの中に浮遊していたのである。
ガラスケースは合計で三つ。どうやっているのか、それぞれが内側から発光している。
横一列に並んだガラスケースは、真ん中が空っぽで、両端の物には男性と女性の姿がある。
共に烈火の如く赤い髪をなびかせ、赤と黒そして金を基調とした長衣という姿だ。
顔の造型は恐ろしいほど整っており、まるで人形のよう。
果たして、エザリアはなにを作っているのだろうか。
その後室内をくまなく調べたのだが、ガラスケースの中の人間と機械群以外には報告すべきような物はなかった。
例の日が迫っているので、恐らくは今回で調査は最後となるだろう。
城に戻ったら、これらのことをまとめてあのお二方にご報告しなければ……。