第九話 一夜明けて…… Act02:休息から日常へ
さて、レナが自分の部屋で来客者に対し杖をぶん回している頃。彼女のサーヴァントたる昶が、いったいどこにいたのかと言うと……。
「やあ、気分はどうだい?」
「……とりあえず、だるい」
ミシェルの部屋にいた。より詳細に言えば、その部屋のベッドの上に。
普段は真っ暗な部屋の安物のベッドで寝起きしている昶にとって、それはなかなか新鮮な気分であった。
「……なんで?」
間延びした声で、なんとも間の抜けた質問をかます。
まあ、未だに九割くらい寝たままの状態なので、仕方ないと言えば、仕方がない。
「あぁ、昨日君は帰る途中で寝てしまったみたいだからね。レナがだいぶごねたんだが、女子寮では休めないと思ってこっちに連れてこさせてもらったよ」
「昨日……」
そう言われて、ほとんど睡眠状態の頭に検索をかける。
確か……、
例え出来損ないと揶揄されようと、草壁の姓が示すように昶は草壁宗家の人間である。
過去、里中の陰陽師が総掛かりで行うような大きな仕事にも、参加したことがあった。
低級とは言え鬼神、つまりは神格を封印する仕事だ。その時に感じた、身の毛もよだつ圧倒的なプレッシャーを今でも覚えている。
それはもちろん、再契約時に感じたレナの魔力とは最低でも桁が二つや三つ以上違う。
だが、今の雷はいったいなんだ?
村正と血の力を併用し、詠唱を完全に読み上げた時の、天心正法すら足下に及ばない、圧倒的な魔力量。
昶が封印に参加した時の鬼神すら、一撃で屠るほどの威力。
元の世界も含め、今まで経験した中でダントツに強大な魔力だった。
それはつまり、昶の知る中では最強の魔術師、実の姉である草壁朱音ですら到底及ばないと言うことを意味する。
頭ではわかっているのと、肌で感じるのとでは訳が違う。
低級とはいえ鬼を超える魔力となると、あの雷を放った術者は神格に匹敵すると言うことになるのだ。
「今のは?」
「なんなんですか、あれ?」
レナとアイナも、その光景を呆然としていた。
真昼を思わせる光量、全てをかき消す音の暴力。例え魔力の気配がわからなくとも、どれだけの破壊を内包されているのか。
それがわからない二人ではない。
「見りゃわかるだろ、雷だよ。ったく、どこの誰だよ。あんな神話級のとんでもないもん、構成しやがって」
だが、それっきりだった。
雷は一撃放たれただけで、直後にはこつ然と消えてしまったのだ。それを放ったであろう、術者の魔力と共に。
探索範囲を広げてみても全く引っかからない。完全に見失ってしまったようである。
「とにかく、シェリー達に合流しようぜ。なんか、だいぶ人数増えてるみたいだけど」
「わかったわ。行きましょう」
「はい」
昶はアイナが拾って来てくれたアンサラーを鞘にしまうと、レナの杖へとまたがった。それから落ちないようにと、細い腰へしっかりと腕を回す。
正直、自力で歩けるだけの自信もないのでありがたい。しかも、目がかすみ今にも意識が飛びそうな状況である。しっかり腕をまわしておかないと、落ちてしまうかもしれない。
まあ、その時にどっちが昶を乗せるかで騒いだものの、主であるレナが乗せると言うことになり昶の感覚を頼りに飛び立つのだった。
昶の昨日の記憶は、ここまでだった。
「じゃあ、シェリーの所にいたのって、ミシェル達だったのか?」
「あぁ。ぼくと、ミゲル、あとリンネだよ」
そうなんだ、と昶は頷いた。
記憶にもあるように、シェリー以外の魔力があったのは覚えている。
ただ、精も魂も尽き果てた状態だったので、何人増えていて、それが誰なのかまではわからなかっただけだ。まだまだ、修行が足りないようである。
「アイナやミシェルはまだわかるとして、あのお固そうなミゲルがなぁ」
なんて、かなり失礼なことを考える昶。まあ実際、全く話したこともないので無理もない。
それに、シェリーも同じことを考えていた訳であるし。
とその発言に対して、まったく予想外の声が返答して来た。
「僕がどうかしたのかい? レナのサーヴァント」
あれ、今の声は? 自分の耳を疑いはしたものの、一応声のした方向を振り返ってみる。
するとそこには、部屋の扉にもたれ掛かるようにして、腕組みをした不機嫌面の少年が立っていた。
「あれ、この部屋ってミシェルのだよな?」
「あぁ、ぼくのだ」
まあ、当然と言えば当然だろう。
話したこともない人間を泊めるなんて、常識的に考えてほぼありえない。
昶はそう結論づけ、次の質問をなげかけた。
「じゃあさ、なんであれがいるわけ?」
ミゲルの発言は全てスルーして、昶はミシェルに話しかけた。
それがどうも、ミシェルの勘に障ってしまったらしい。
「弟が、兄の部屋にいてはいけないのかい? それに、人を『あれ』呼ばわりするなんて教養がなっていないようだね。それとも、君の主の口癖でも移ったかな?」
「こらこら、ぼくの部屋で暴れるのは止めてくれ」
なにやら険悪な雰囲気になってきた、昶とミゲルの間に入るミシェル。
二人とも割と交戦的な性格なので、部屋の中で暴れられてはたまったものではない。
まあ、飛行中に寝てしまうほど疲れていた昶も、背中に大きな傷を負ったミゲルも、そろって元気なのはいいことである。ただし、限度はちゃんとわきまえて、であるが。
とにかく、安心と不安との両方の入り混じったため息をつくミシェルであった。
ミシェルの部屋は、レナの部屋と比べてかなり簡素な内装となっている。
昶の寝ている、一人半サイズのベッド、勉強用の机、制服や私服のしまってあるクローゼット、来客用のソファーと小さなテーブル。
それ以外には、医学関係の本が十数冊床に散らばっているくらいである。
これだけでも十分豪華なのだが、物が多いレナの部屋しか見たことのない昶にとっては、驚くほどさっぱりした景色に映った。特に床の見えないシェリーの部屋と比べたらもう、さっぱりしすぎているくらいだ。
「そんで、そっちはどんな奴だったんだ? こっちは例の闇精霊の野郎だったけど」
「あぁ、レナから聞いたよ。まったく、君は相変わらずとんでもないことやってるみたいだね」
「そう言えば、兄貴達は飛行実習の時あったんだったか。……その、闇精霊を扱うマグスに」
昶の口から飛び出した不気味な単語に、ミシェルはまたかぁ、ミゲルはおぃおぃ、といった感じの視線を送る。
ミシェルもミゲルも、飛行実習の際に闇精霊による攻撃――黒い雷――を目撃している。
レイチェル先生の氷の壁をいとも簡単に粉砕し、第三級危険獣魔のフラメルを次々と撃ち落としたあの雷を。
ミシェルは前回その場にいたので特に驚きもしなかったが、ミゲルの方は未だに信じられないでいるようだ。
「まあね。あの時もアキラがなんとかしたんだよ。君が引き返した時には、もう会えないだろうと思っていたから、あの時はぼくもびっくりしたよ」
「今回も死ぬかと思ったけどな。ってそうじゃなくて、そっちはどうだったんだよ」
「こっちは水精霊を主体とするマグスだったよ。足の裏に氷を張ったり解除したりして高速で地面を移動するやつで、氷の剣での接近戦を主体にしていた。まったく、自分達でもよく勝てたと思うよ」
と、昶の質問にミゲルは肩をすくめながら答える。
まあ、単なる学生の身で襲撃者を撃退したのだから、自分でも信じられないのは無理もないだろう。
と、そこできゅるるぅ~っ、とミシェルのお腹が鳴った。
「どうだい、お腹もすいてるだろうし、食堂にでも行かないかい?」
と提案するミシェル。実は昶の様子を診ていたのもあって、朝食を食べていないのだ。
「おごってくれんの!?」
最近、食料関係の話題に目のない昶はマッハの勢いで返す。この間、わずかコンマ一秒。
そんな自分に、若干の自己嫌悪を抱かなくもないが、背に腹は代えられない。
なぜなら、
――ぐぅ~。
昶の腹の虫も、全力で空腹を主張しているから。
「まあ、飛行実習の時のお礼もまだだし、構わないよ。好きなものを頼んでくれ」
「まったく、兄貴は人が良すぎて困る。僕は、先に行っているから」
不承不承と言う感じではあるが、ミゲルも来るらしい。なんだかんだで、兄思いと言うことなのか、それとも単に腹が減っているだけなのか、とにかく珍しい組み合わせが完成したのは間違いないだろう。
「さてっと……」
ベッドのすぐ横に置かれた靴を履き、ベッドから立ち上がった瞬間、
「い゛ぃぃ……」
身体全体を鋭い痛みが、まるで電流のように駆け抜けた。
「ど、どうしたんだい……?」
昶の並々ならぬ険しい表情とくぐもった声に、ミシェルは激しく動揺しながらも恐る恐る訳を聞く。
「いや、痛いだけ」
「あ、あぁ、そうかい……」
気まずい訳ではないのだが、なんとも微妙な空気が流れた瞬間だった。
昼食には若干早い時間帯なためか、単に部屋の外へ出たくないからなのか、それとも中庭にいる飛竜の成体が珍しいからなのか、食堂にはあまり人がいなかった。
今日のように授業のない日には同じ時間でも座席の二割ほどは埋まっているのだが、現在は一割にも満たない。
三人は、ミシェルの前に昶、左にミゲルと言う構図で、長テーブル端を陣取った。
メニューはと言うと、クロワッサン二、三個に、ジャム(お好みの味)、野菜たっぷりポトフと、常に比べて非常に簡素なものである。
それでも劇物である危険性が全くないのは、昶にとってなによりのご褒美だ。
ここで更にもう一段階、劇物の出現頻度が上がったら文句の一つでもつけてやろうかと、昶は安全なメニューを見ながら密かに思案した。
「ちょっと粗末すぎないか?」
「輸送量に限度があるんだ。多少の制限は仕方ないさ」
愚痴をこぼす弟と、それ窘める兄の図。その情景を目にし、昶はなぜか目頭が、カッと熱くなってしまった。
とそこで、正面の双子が自分を見ている事に気付く。
「アキラ?」
「どうしたんだ? レナのサーヴァント」
「いや、なんでもない」
理由はすぐにわかった。兄さんと姉さん、今頃どうしてるだろうか。
今まで一日の生活が大変だったり、命がけで戦ったりで、故郷を思い出す機会がなかっただけに、思い始めるとけっこう堪える。
まるで堰を切った水の如く、数ヶ月前までのことがどんどん思い起こされるのだ。
と、そこへ……、
「レナ、だからごめんって」
「こうして謝ってるんですから、許してくださいよぉ。レナさん」
「ぜえぇええええっったい、嫌!」
「…さ、三人とも、そそ、それくらいに」
絶賛大激怒中のレナと、そのレナに謝っているシェリーとアイナ、三人の仲裁をしようと、可愛らしく奮闘しているリンネがやって来た。
まったく、哀愁に浸っている暇など、あったものではない。しかもなんとなくだが、とてつもなく忙しくなりそうな気がする。
「あ、アキラさん!」
開口一番、昶の姿を発見したアイナは小走りで駆け出した。
「って、アイナ! まだ話は終わってないんだから!」
そんなアイナを追って、レナも走り出す。ただし、歩幅の関係からか、レナの方は小走りと言うより、けっこう真面目に走って見える。
「アキラさん、お身体の調子は大丈夫ですか? どこかおかしいとことかないですか?」
素早く昶の隣を占拠したアイナは、言いながら昶の手をつかんだ。
その行為によって、昶がどれだけの痛みを伴うのかも知らずに……。
「い゛っ…………」
微妙なうめき声は漏れたが、今回はなんとかしのぎきっ……、
「ど、どうしたんです?」
「アキラ、どうしたの? もしかして、どこか悪いんじゃ!?」
アイナは慌てて手を離し、レナはアイナの反対側に立って、昶のことを心配そうに見つめる。
自分でもわかっていたことだが、しのぎきれなかったらしい。
まあ、腕をなわなわと振るわせている上に、下を向いて妙なうなり声を上げれば誰でも心配になるだろう。それがよく知る人物だったり、もしくは意中の相手だったとすれば、なおさら。
「ダイジョウブ、力のツカいスぎからキたハンドウだから……」
本人の言っていることに反して、見ての通り全然大丈夫じゃない。全身がひどい筋肉痛みたいな状態で、立っていても座っていても、痛みの走る状態なのだ。
主を気遣っての行動と思うと、にやにやが止まらないミシェル。レナやアイナには気付かれないように、身体の向きを変えてクスクスと笑い始めた。
そんなミシェルの様子に気付かない、レナとアイナはと言うと、
「やっぱりどっか悪いんじゃない。隠さないでさっさと言いなさいよ!」
「もしかして、私の時みたいに、あの黒い雷で……」
その一言に、二人はそろって、シュバルツグローブでの一件を思い出す。
死んだ方が楽とも思えるような激痛。だが、そうしなければ本当に死んでしまう。実際に黒い雷で命を落としかけたアイナはその時の記憶が蘇り、背筋になにか冷たいものを感じた。
「いや、本当に大丈夫だから」
痛みが引いてきたせいか、しゃべり方が元に戻って一安心。
昶は深呼吸を一つおいて、心配そうに自分を見つめてくる二人に説明してやった。
「筋肉痛と一緒だよ。普段の何十倍も力使ったから、身体の方にガタが来たってだけ。休んでたら、その内元に戻るって」
「よかったー」
と、アイナが胸をなで下ろす。その一方で、
「それ、嘘じゃないでしょうね?」
レナは、昶の瞳をキリッと見つめる。
どんな光でも吸い込んでしまいそうな昶の、その真っ黒な瞳を。
「お前に嘘ついてどうすんだよ」
昶の目は、いつもの、ちょっとだるそうな目である。
自分のサーヴァントなのだから、もう少しは頼もしそうな目をしてくれてもいいのに。なんて思いながら、レナは心の中でようやく安堵するのだった。
「ったく、そっちこそ心配かけやがって」
「な゛ぁ!?」
とか感慨にふけっていたレナに、昶から反撃が加えられる。大丈夫そうだと安心していたのもあって、けっこうダメージが大きい。
「しししし、仕方ないじゃない! わわ私だってな、なりたくてなったんじゃないんだからぁあ!」
昶に心配されたと言われ、なぜか気持ちがポワーっとしてしまったレナ。
自分は昶の主。サーヴァントは、常に主の身を案じているもの、それが自然なの、当たり前なの。別に、嬉しいとかそんなんじゃなくて、純粋に昶がサーヴァントとしての自覚を持ち始めたから安心したって、それだけよ。
「そ、れに! 別にあんたなんかに心配されなくても、でゃ、大丈夫よっ!」
とそんな風に、レナはこのよく分からない気持ちを結論づける事にした。
サーヴァントは主を心配するのが、ごく一般的なあり方なのだから、と。
「……なに取り乱してんだ?」
「うるさいうるさい! あたしがいつ取り乱したって言うのよ!」
「いや、今してるじゃん」
「してないったらしてないの! これ絶対! 反論は認めないわよ、いい!?」
「わ、わかったから、そんなに怒るなって。な?」
そのあまりの剣幕ぶりに恐怖を感じ、あっさり白旗を上げてレナの主張に賛同する昶。
そんな傍若無人で理不尽な怒りを向けられても、いつも通りレナに安心した昶はそっと笑みを浮かべた。
「…………」
まあ、それを見たレナは明後日の方向を向いてしまったわけだが、昶には理由はわからない。ただ、ほっぺがちょっと桃色をしていたような気も、しないこともないわけだが。
まあ、そんな情景を見せつけられたアイナは、当然面白くないわけで、
「う゛ぅぅぅぅ……、アキラさん!」
脇腹に、思いっきり抱きついた。レナにはない、レナのより大きな二つの膨らみを、大いに押し付けながら。
「痛っ!?」
なんてことをされた昶は、痛かったり、ちょっと嬉しかったり、痛かったり、ちょっと気持ちよかったり、痛かったり、ちょっとくすぐったかったり、痛かったり。
あと……、
「アーキーラー……」
すご~く怖かったり……。
「ぬぅあーに、いちゃいちゃしてんのよぉおお!」
レナの怒号が、食堂を反響した。
まあ、そんな感じで女の子に板挟みになってる、昶の正面では、
「アキラ……、実にうらやましい」
ミシェルが固く、拳を握りしめていた。
「ったく、なにを言ってるんだか」
「ホント、それには激しく同意するわ」
ミゲルがギョッとして隣を振り向くと、いつからいたのか、そこにはシェリーの姿が。ちなみに、その横にちょこんと座っているリンネが、シェリーの発言に小さく頷いていた。
「君、いつの間に……。さっきまで、あっちにいたんじゃなかったかい」
「私は見るのが好きなだけで、加わりたい訳じゃないからねぇ」
と言って、シェリーは、一メートルほど先に視線を落とす。離れなさいと叫ぶレナと、嫌ですと反抗するアイナと、全身で痛みを訴えているアキラの三人がいた。
とにかく、昶の顔が非常に痛々しい。恐らく、アイナが全力で抱きついているのだろう。きっと今頃は、地獄を見ているに違いない。
「相変わらず、悪趣味な性格だねぇ……」
「あら、お褒めに預かり光栄です」
相も変わらず悪い意味で“いい性格”をしたシェリーは、目の前で繰り広げられている争奪戦を肴に、部屋で食べきれなかったフルーツ詰め合わせをつまむ。
「そういえば、背中の傷は大丈夫なの?」
そんな甘美な肴を片目に、シェリーは昨日の話題を取り上げた。昨日四人がかりでようやく倒した(それでも凄いことなのだが)、水属性のマグスのことである。
「僕のことを心配してくれるのかい? 君は僕のことを嫌っていたと、記憶しているのだが」
「うん。はっきり言うと、今でもだいっきらいよ。頭は固いし、他人への気遣いは足りないし、無愛想なとことか」
「ず、ずいぶんと、ストレートに言うんだね」
わかっていたとは言え、笑顔のままサラッと言われるとは、ミゲルも予想していなかった。
心に深い亀裂が入ったのは、言うまでもない。見た目には平気そうなミゲルであるが、実は繊細な心だったりするのである。
「でも、私の友人を助けてくれたことには、感謝してるのよ。ね~、リ~ンネ~」
シェリーは隣の席でフルーツをつついていたリンネを、ひょいと持ち上げ(肉体強化を使って)自分の膝の上に乗っけた。そのリンネの小動物ぶりが、なんとも非常にこの上なく可愛いかったり。
「そうそう、リンネが言いたいことあるらしいわよ」
と言いつつ、シェリーは自分の膝の上にちょこんと座っているリンネに視線を落とす。今日も、黒いリボンのツインテールが似合っている。
「…昨日は、えっと、えっと……、あの、その、あ、ありが、とぅ……」
雪のようにまっ白い肌が、夕焼けのように真っ赤に染まった。恥ずかしさのあまり、リンネはそのまま俯いてしまう。
「も~、リンネったら可愛いんだから~!!」
ついでにシェリーに後ろから抱きすくめられ、揉みくちゃにされてしまった。
更に果汁がつくのも気にせず、頬擦り攻撃も再開。おかげで、さっきセットし直した髪が、再び悲惨なことに……。
「ふ、ふん。気にすることはない。あれは、僕のミスが原因なんだ。自分の責任は自分で持つ」
「…そ、それでも、ふにゃっ!? あ、ありがと、ぅ~ッ、シェ、シェリー、止めてよぉ……」
まあ、その程度のか弱い声でシェリーが止まるわけもなく、むしろその勢いは増すばかりである。
そして、そんな揉みくちゃにされるリンネを、つい可愛いと思ってしまうミゲルであった。
ちなみに、
「アキラめ、アキラめ、アキラめ、アキラめ、アキラめ、アキラめ、アキラめ……」
そのミゲルの横では、双子の兄であるミシェルが、呪詛のように昶の名前を吐き続けていた。
「ん、あれは……」
そんな騒動が繰り広げられている食堂へ、丁度よく医務室からレオンが戻って来た。