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マグス・マグヌス  作者: 蒼崎 れい
第一章:若き陰陽師と幼きマグス
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第八話 戦闘開始 Act09:再会、そして再び

 シェリーと別れた昶は、学院から逃げ出した三人の誰も追ってはいなかった。

 もちろん、学院に戻ったわけでもない。

 学院からまっすぐ西の方角を目指し、ひた走る。

 この魔力、間違いない。忘れられるわけがない。

 黒き雷を操る、漆黒のローブに身を包んだ少年。

 どこか理性のたがが外れたような、無邪気な笑みの殺戮者。

 この世界に来て、初めて明確な殺意を抱いた相手。

 昶はその場に立ち止まった。

「出てこいよ。居るのはわかってんだ」

 姿は見えない。だが、二つの魔力は確かにある。今、自分の目の前に。

「へェ~。やッぱリ、君の感覚はスゴいョ。コレ解いて」

「あいよ」

 まるで焦点のあっていないカメラがピントを調整するかのように、ぼやけた影がゆっくりと像を結んで行く。

 そして像が完全に結ばれた時、二つの人影が現れた。

 一人は漆黒のローブを被った人物。もう一人はこの世界には場違い、むしろ昶の世界にいるほうが自然な格好をした女性だ。

「やァ、久しぶりだネ。アキラ」

「……“ツーマ”」

 名前を呼ばれた“ツーマ”は、フードを取り去った。

 色素が完全に抜け落ちたような真っ白な白髪。血を彷彿とさせる深紅の瞳、右目の下には瞳と同じ色をした薔薇の刺青。

「おい、素顔さらすんはあかんのんやなかったか?」

「別にいいョ。ボクのコードネームも知ッてるんだシ」

 場違いな格好をした女は、ニヤニヤとした笑みを浮かべながら、昶の全身を舐めるように見つめる。

「あの話は、ホンマやったみたいやな」

 女は明らかに、昶に向かって話しかけている。

「しかしまぁ、日本人(●●●)やとはな。予想外やったで」

「っ!?」

 昶は一瞬、自分の耳を疑った。

 ――あの女、今なんて言った…………?

「なに不思議そうなツラしとんねん。その黒髪と黒目、あと腰のもん見りゃ、誰やってわかるわい」

「じゃあ、お前も……」

 女はふっと笑う。

「エザリア=ミズーリー。一昔前なら、かなり有名やったんやけど。知らんやろな」

 エザリア=ミズーリー。昶の記憶の中にその名前はなかった。

 父親くらいに聞けばわかるかもしれないが、異世界にいる今では無理だ。

 だが、これだけはわかる。

 この女、エザリアは、これまで見てきた魔術師やマグスの中で、最も強い。

 意識的に魔力を押さえているのが、ひしひしと伝わってくるのだ。

「ちょッと、二人だけデ勝手に盛リ上がらないでョ。ボクも混ぜテくれなきャ」

 そう言って、“ツーマ”がエザリアの一歩前に出た。

 ケラケラと、まるで幼子のような笑みを浮かべながら。

 その悪意のない笑顔は、一見仲の良い友達に話しかける時のものでしかない。

 だが、二人の関係、昶と“ツーマ”の場合は命を奪い合った仲。

 笑顔で語らうことなど、できようはずもない。

「やァ、アキラ。一ヶ月ぶりくらいかナ?」

「あぁ、ちょうどそれくらいだよ。“ツーマ”」

 両者とも、既に得物に手を伸ばしている。

 昶は村正に、“ツーマ”は銀色に光る柄と鍔だけの剣に。

「エザリア」

「ん?」

「ボクの楽シみを邪魔シたら、許さなイからネ」

「ほな、ちょいと観戦させてもらおか」

 それが開戦の合図だった。




 昶は血の力を開放し、村正の柄を力強く握りしめた。霊力を操作しただけでは足りないのは、この前の一戦でよくわかっている。

 意識に黒いもやのようなものがかかるが、それも精神力で黙らせた。

 “ツーマ”は地面から五センチほど浮かび上がり、柄と鍔だけの剣に力を込める。

 そして、

「歳星の気を宿せ……!」

「始めようョ、死合いヲ」

 両者の身体が同時に動き出した。

 昶は地面を砕く勢いで飛び出し、“ツーマ”は滑るように宙を滑空する。

 互い存分にスピードを乗せたところで、剣を抜き放った。

 片や居合い切りの要領で腰から抜き放ち、片や闇精霊(レムレス)で漆黒の刃を形成し力任せに振り下ろす。

 その様はエザリアの目から見ても、なかなか面白く映った。

 二人はいったん離れると、再び剣を交えた。

 今度は力押しではなく、上下左右、縦横無尽に幾重にも剣が軌跡を描く。

 数手の打ち合いを終えた後、“ツーマ”は上段から漆黒の刃を斬り下げる。昶はそれを斜めに受けて左に流しながら、右足でハイキックを見舞った。

 だが“ツーマ”は宙に浮いているのをいいことに、腹の辺りを軸にして回転する。昶の蹴りを回避すると同時に、今度は左足を狙って漆黒の刃を振るった。

 しかし、昶はその軌道をしっかりと捉えている。片足でジャンプしてかわしつつ、腹部にそのまま蹴りを喰らわせた。

「相変わラず、そノ運動能力には惚れ惚れするョ」

「そりゃどうも」

 二人の身体が反動で遠のく。

 どうやら腕でカバーしたらしい。

 常人なら腕が折れていないとおかしいのだが、やはり侮れない相手である。

 時間にすれば数秒の攻防。だが、それがすでにこの世界でも常軌を逸したレベルにあるのは言うまでもない。

「やッぱり、接近戦は分が悪イみたいだネ!」

 “ツーマ”が剣を横薙ぎに振るうと、その軌跡から黒い雷が幾つも飛び出した。

 それぞれが不規則な軌道を取りながら、でたらめな方向へと飛来する。しかもその中に数本だけ、昶に向けて放ったのも忍ばせて。

「んなもん、俺が知るかよ! 二ノ陣――(つむじ)!」

 昶は村正を身体の前面で一回転させ、円形に広がった雷の盾を作り出した。

 全てを(むさぼ)る黒い雷は、昶の作り出した盾の前に呆気なく消失する。

「壱ノ陣――(ひらめき)!」

 昶は村正に力を注ぎ、空間を切り裂くように大きく一薙ぎした。

 その軌跡から、“ツーマ”同様に多数の雷を解き放つ。ただし、色は通常の雷よりも白い。

 まるで多弾頭弾のように広がった雷撃は、“ツーマ”ごと辺りの木々を穿った。

 強度を失った木々は、葉を散らしながら何本も倒れる。

 地面に着弾した雷撃が、激しい土煙を巻き上げた。

「テネブル・ブレル・モース、狂いし精霊の加護以ちて、万物を喰らえ」

 すると今度は、土煙の中から、黒い光弾がいくつも放たれた。

 昶は村正に力を注ぎ、白雷をまとった刃で自分に向かい来る弾丸を迎撃する。

 過剰に放出された雷の一部が飛び散り、その一部が引火した。

大仙(たいせん)遷化(せんげ)せしめるを弔い、以ちて此処に雷法を生ず」

 更に昶はこちらの世界で作った護符を五枚取り出し、自らの眼前へと放った。

魑魅魍魎(ちみもうりょう)、泉下へ(そう)す。天心正法、壱之貫――禁!」

 放たれた護符は正五角形の形に並び、その中心から網膜を焼かんばかりの雷光が迸る。

 とても直視などできない力の奔流が、“ツーマ”ごと周囲の木々を薙ぎ払った。

 目標に直撃した雷光は四散し、幾千もの雷となって大地を穿つ。

「まだこンな強力な術があッたんだネ。さすがにびッくりしたョ」

 だが、漆黒のローブに身を包んだ“ツーマ”は、全くの無傷であった。正確には、表面を踊るエナメル質の魔法文字が、かなり薄れてはいるようではあるが。

「あれで無傷のお前も、たいがいだと思うけどな」

 さっき使った術は、前回の戦闘で使ったものより高い攻撃力があったのだが、それでもあのローブは撃ち抜けないようだ。

 威力だけならまだ上のものは確かにあるが、あんなものを使えばこっちが戦闘不能になってしまう。

 となると、やはり物理的手段で破壊するしかない。

「ふふふふふッ。それについては否定しないョ。それにしテも……!」

 “ツーマ”の身体がふわっと浮き上がり、昶に向かって突進した。勢いに任せ、乱暴に剣を振るう。

「ぐぅぅぅ……!」

 小手先の技術など必要ない、純粋な腕力から繰り出される一撃。

 それを受け止めた昶の足が、十センチ近くも埋没した。

「再び乞う、歳星の気を宿せ!」

 白く輝いていた村正の刀身が更に輝きを増し、闇精霊(レムレス)の刃を弾き飛ばす。

「雷華、参ノ陣――(さきがけ)!」

 昶は刃を降ろすと、“ツーマ”の方角に向かって勢いよく直上に振り上げた。

 軌跡に沿って放射状に薄い雷の刃が飛び出し、一直線に“ツーマ”を目指す。

「ライトニングラウンド!」

 ツーマが下位(モノスト)の防御呪文を唱えると、黒い雷の盾が生み出された。

 下位(モノスト)と言っても雷は風の上位属性であるので、一般的な中位(トライド)と同程度の防御力がある。

 ぶち当たった昶の雷撃は盾を撃ち抜くこと叶わず、周囲の木々や大地を吹き飛ばした。

「なんだ、呪文を使えば大したことないね」

「舐めんなよ……」

 だが、昶はすでに飛び出していた。

 地面と平行になるよう、まるで風のように大地を駆け、

「これでっ」

 腰だめに村正を一閃させる。さすがに呪文で作り上げた盾もこれには勝てず、上下に両断された。

 更に、

「終わらせてやる!」

 村正とは反対の手を、もう一振の刀に伸ばしたのだ。

 初撃の回転をそのまま利用し、逆手でアンサラーを抜き放つ。しかも、かすかに村正から漏れた雷光をまとわせて。

 狙うのは、“ツーマ”の頭部だ。

「ちょっと待ちぃ」

 しかし、

「得物を二つも使うんはあかんやろ」

 不意に、その手を第三者につかまれた。

「なっ!?」

 それはエザリア、さっきまで遠くから二人の戦闘を眺めていた女性だった。

「おらよっ!」

 かけ声は軽い。それこそ、多少重い鞄を肩にかける程度のもの。

 だが、その細腕の繰り出した力は、もしかしたらシェリーや“ツーマ”、あるいは昶のそれを凌駕していたかもしれない。

 投げ飛ばされた昶の身体は、木を一本へし折ることでようやく止まった。

 骨に異常はないようだが、筋肉は損傷したかもしれない。

 かなり痛む。常人なら即死だろう。

「エザリア、君に言ッたよね? ボクの邪魔したラ、許さないッて」

 一方で、“ツーマ”はエザリアの頸動脈にぴったりと刃をつき付けていた。

 だが、エザリアに動揺の色は見られない。それどころか、むしろそれさえ楽しんでいる気さえする。

「せやかて、得物が二つと一つやったら不公平やろ?」

 そう言ってエザリアは、ジャケットのあちこちに縫いつけられたポケットから、“ツーマ”の発動体とまったく同じ物を取り出した。

「ほれ」

 エザリアの手から放たれた柄と鍔だけの剣は、ゆったりとした放物線を描いて、“ツーマ”のもう片方の手に収まった。

「それと、うちは自然愛好家なんや。こないぎょうさん木を薙ぎ倒すんやない」

 エザリアが、パチンと指を鳴らす。

 するとどうだろう、景色がいきなり一変したのだ。

 いや、正確には世界を取り巻く空気そのものが、全く別のものになったと言う方が正しい。

 夜にも関わらず、周囲の景色を完全に見通せる。

 昶はまるで、カラーの暗視スコープでものぞいているような気分になった。

 だが、これは明らかにおかしい。こんなものが、この世界にあるはずがない。

「これなら、好きなだけ暴れでも構わんで。ほな、うちは別の用があるさかい、あとは任せたでぇ」

「まだいたンだ。早く消えテくれないかナ? 目障りなんだョ」

「わかっとるっちゅーに。ほなな」

 エザリアの姿が、なんの前触れもなく消え去った。

 それこそ、まばたき一回分くらいの短時間で。

「ヘェ~、すごィじャないか。この空間にいるのは、本当にボクとアキラの二人だけみたいだ」

「……だろうな。この結界は、そういうもんだ」

 魔力を探るが、そこには自分と“ツーマ”しかいない。

 それもそのはず。エザリアが張ったのは、“位相空間結界”と呼ばれるものだ。

 わかりやすく言えば、景色が一緒なだけで、さっきまでいた所とは全く違う場所である。

「こレで、誰にも邪魔されナい」

 “ツーマ”は、先ほどエザリアにもらった発動体へと力を込めた。

 鍔の先から、真っ黒な闇色をした刃が不気味に伸びる。

「来いよ、本気(●●)で相手してやる」

 昶も更に、村正に力を込めた。

 溢れ出た電流の一部がアンサラーへと流れ込み、銀の刃をより一層光らせる。

「そウだね。お互イに、手ノ内を探り合うのにも飽きちャッたし」

「それは、こっちの台詞だ」

 両者共に得物を二つ持ち、攻撃の機を(うかが)って相対する。

 闘争心が燃え上がるのに比例して、二人の身体から魔力が、霊力が溢れ出した。

 昶は風精霊(シルフ)を、“ツーマ”は闇精霊(レムレス)を牽引し、それぞれがまるで防壁のように二人の周囲を渦巻き始める。




「……ふふふふ」

「……負けねえ」

 まるで申し合わせていたかのように、全く同じくタイミングで動き出した。

 残像を残すような速度で走り、あるいは滑空し始めた両者は、その中間地点で互いの剣を交える。

 “ツーマ”は二本とも上から振り下ろし、昶は右手に握る村正を真横から全力で振り抜いた。

 両者共これまで以上の雷を内包していたがために、行き場を失った雷はゴロゴロと轟音となって空間に解き放たれる。

 鼓膜を喰い破ろうとする鋭い音に、昶も“ツーマ”も眉をしかめた。

「学院長を襲ったのは、お前の仲間か!」

 昶は漆黒の刃を弾き飛ばすと、アンサラーを“ツーマ”の喉元(のどもと)に向けて突き出す。

「学院長? ボク達が狙ッていたのはお姫様なンだけど?」

 “ツーマ”はそれを左手の刃で弾きながら、身体を回転させて右の刃を叩きつけた。

「目的はエルザってわけかよ、壱ノ陣――閃!」

 昶はそれを村正で受け止めると、その村正から密着状態で雷撃を放つ。

 しかし“ツーマ”は、それをローブで受け止めた。

 ダメージはなかったが、反動で両者の距離が再び大きく距離を開く。

「別に彼女を狙ッていたわけじャないョ? 特定の条件を満たシていれば、誰でも良かッたみたいだシ」

 ツーマは空間を×字に切ると、その軌跡が黒く染まった。中心の交点が飛び出したかと思うと、次の瞬間には高速で飛来する(やじり)となって昶に襲いかかる。

 昶はそれを足首を軸にして前方に倒れるようにしてかわすと、その姿勢のままいきなり走り出した。

 その角度は二〇度にも満たない。普通ならそのまま地面に倒れ込んでもおかしくない角度である。

 だが、昶の常人ならぬ脚力がそれを可能としているのだ。

「その条件ってのは、なんなんだよ!」

 再び“ツーマ”との距離をつめ、身体を回転させながらアンサラーを斬りつけた。更にその勢いのまま身体を半回転させ、村正でも斬りつける。

 “ツーマ”は身体を反らせて攻撃をかわすと、その姿勢のまま昶の顎を撃ち抜くようにつま先を振り上げた。

「くっ!!」

「エヘヘ」

 昶の攻撃は防御の魔法文字を無視して“ツーマ”のローブを引き裂き、“ツーマ”の攻撃は昶の頬を浅く切り裂く。

「外した……」

「あの速度デ、よく今ノに反応できたネ」

 “ツーマ”はその勢いのまま斜め後ろ上空へと退避し、昶は大きくバックステップ。

「ダルク・スンデ・ティオリア・グラディオ、黒き精霊の加護の下、汝を断罪す」

 そろえられた二本の剣。

 “ツーマ”の詠唱に呼応して、漆黒の刃はその長さを百倍近くまで延長させた。

 障害物を全て無視して振るわれた一撃は、狙いを違うことなく昶を捉える。

 特に延長部の先端は常軌を逸した速度であり、回避のすきすら与えない。

「……こんのぉっ!」

 昶は右手に力を込め、村正一本でその一撃を受け止めた。

 右腕の骨がきしみ、筋肉が悲鳴をあげる。

 攻撃をこらえきれなかった昶の身体は、衝撃で遠方へと大きく吹き飛ばされた。

 遠のく意識をなんとかつなぎ止め、木の方が折れてしまいそうな速度で、幹へと垂直に着地する。

歳星(さいせい)の加護、太白(たいはく)矛戈(ぼうか)、汝は我が怨敵(おんてき)(めっ)する息吹也」

 だが、昶も負けてはいない。

 飛ばされながらも詠唱を口ずさみ、村正、アンサラーの切っ先を相手に向けたまま大きく溜めを作り、

「雷華、(よん)ノ陣――(さかずき)!」

 詠唱の完了と同時に、勢いよく前へと突きだした。

 瞬間、二本の刀の切っ先からそれぞれ、これまで拡散していた雷を収束させた一撃が飛び出す。

 高密度の雷は文字通り空気を引き裂きながら、またたく間に“ツーマ”へと迸った。

 途中の木々を貫き、薙ぎ倒し、焼き尽くし。

 正に、雷神の鉄槌とも言える一撃。

「エレクトルリウム!」

 それに対して、上位(フィフシス)の防御呪文を唱えた。

 黒き雷はこれまでにない厚さとなって、“ツーマ”の前面に構築される。




 ピシャァァアアアアアアアアアアア――――――――――!!!!!!




 高密度の白い雷が、分厚い黒の雷にぶつかった。

 それは先ほどから絶え間なく響く、空気を切り裂き、耳をつんざく轟音の主。

 白い雷はその身を削りながら、黒い雷を(えぐ)る。余波で飛び出した雷の残滓が、四方八方へと飛び火した。

 余波としては、あまりに絶大。残滓一つですら、下位(モノスト)の攻撃呪文一つ分の威力を有する。

 大地には次々と大穴が穿たれた。

 そして、

「今回は、ボクの勝ちミたいだネ」

 “ツーマ”は昶の攻撃をしのぎきった。

「らしいな」

 昶の放った一撃によって、両者の視線を防ぐものはない。

 物音一つ無い空間に、二人少年の声が木霊する。

「楽しいネ、アキラ」

「俺はそうでもないけどな」

 “ツーマ”の身体が空中を疾駆し、昶へと向かう。

「やッぱリ、君は最高だョ」

 両の手にある剣を、無秩序に振るった。

「俺は、そんな上等なもんじゃ、ねえよ!」

 昶は剣の軌道を正確に読み取り、村正とアンサラーで応戦する。

 タイミングよく“ツーマ”の二本を弾き返したところで、放電状態の村正を振るい、自分から引き離した。

「おッと、危ない危ない。ついつい楽シくて、余計ナことまで話しちゃいそうだよ」

 “ツーマ”は後退しながら、黒い雷で昶を牽制する。

 着弾地点は次々と土煙を巻き上げ、地面に深い穴を穿った。

「なら言ってみろよ。俺だって、なんでお前らがこんな下らないことをしてんのか、気になってたんだ、壱ノ陣――閃!」

 昶は“ツーマ”を追って、勢いよく地面を踏み抜く。

 白い雷を放射状に放ち、黒い雷を迎撃した。

 二人は再び刃を交える。

 バチバチと触れ合った刃が反発し合い、白と黒の閃光を撒き散らしながら。

「まァ、その意見にはボクも賛同するョ」

「じゃあどうして!」

 昶は“ツーマ”を押し返しながら、自らは反動で木の幹へと着地するやいなや、再び“ツーマ”に向かって飛び出した。

 何十度目かの、白と黒の雷が大地を焦がした。

「仕事だョ。ちなみに、今回のは君ノ足止めヲすること」

「俺を?」

「そうだョ」

 再び地上へ降り立った二人は、五メートルほどの間合いを取って対峙する。

「アキラ、君は、自分自身ノ価値ニ気付いテいない」

「俺なんて、兄さんや姉さんの予備(スペア)程度の価値しかねぇよ」

「それは、君の世界(●●●●)ノ話。ボクが言っているのはレイゼルピナ(ここ)での君ノ価値についてだョ」

 ――――君の世界――――――――。

 それは、誰にも信じてもらえない事実。

 (マスター)であるレナにだけは打ち明けたことがある、本当の自分。

 昶は激しく動揺した。

「君ノ力は、君自身が思ッているよりもズット大キい。だッて、ボクと対等に渡リ合えたノは、君が初めてなンだから。だかラ、君を足止めする役としテ、ボクが選ばレたんだ」

「お前、さっき、世界って、なんで……」

「アァ、エザリアだョ。ボクは、あの人と依頼人(マスター)ノ話を聞いテただけ。どうヤら、君はこの世界とは別ノ住人みたいだネ」

 と言うことは、やはりエザリアは、

「お前の口からその言葉を聞くことになるなんて、夢にも思わなかったよ」

 自分と同じ、別の世界から連れて来られた人間。

「そうそう、あと依頼人(マスター)から伝言があッたのをすッかり忘れてたョ」

「伝言?」

 “ツーマ”は二本の剣をそろえ、上方から一気に振り下ろした。

「『こちら側に来る気はないか?』だッて」

「その『こちら側』ってのは、お前のマスターとやらのことか?」

 昶はサイドステップでかわし、逆手に持ったアンサラーで“ツーマ”の両腕を狙う。

 が、“ツーマ”は後ろに倒れて斬撃を回避。そのまま地面スレスレで一旦停止して後退。昶から離れた所で再び起き上がった。

「ま、そウいうことになるネ。ソれだと、ボクの楽シみが減ッちゃうから嫌なんだケド」

「ならよかったじゃねえか」

 昶はアンサラーをしまい、村正を両手で握る。

「そんな下衆の下に就くなんざ、こっちから願い下げだ。参ノ陣――魁!」

 昶は村正に全力で霊力を込め、詠唱の言葉を口にした。

 上段から振り抜かれた村正の軌跡をなぞるように、放射状に広がった雷光の刃が“ツーマ”へと迫る。

「それはヨかッた!」

 “ツーマ”は最大限に魔力を込め、漆黒の刃を振るった。

 黒い雷の刃が空中へと飛び出し、昶の雷撃を相殺する。

「アキラ、君とのコロシアイはボクの一番の楽シみなんだからネえ!」

 喜悦に満ちた表情を浮かべ、“ツーマ”が急降下して来た。

 だが、昶の目には“ツーマ”ではない、驚くべきものが映っていた。

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