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マグス・マグヌス  作者: 蒼崎 れい
第一章:若き陰陽師と幼きマグス
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第八話 戦闘開始 Act04:ウェリス、降臨

「さあ、始めようか。人間」

 宙に(たたずむ)むウェリスを中心に、大量の氷柱(つらら)作り出された。

 全長約一メートル超。先に放った物と同じサイズだが、その数が尋常ではなかった。

 一つや二つではない。三桁にも届きそうな大量の氷柱、その矛先が一斉に全身武装鎧(ブラーデ・アーマ)へと向けられたのだ。

「行け」

 ウェリスの命令に従い、巨大な氷柱が一斉に動き出す。

 攻城兵器――例えば城壁を破壊するために百キロ以上の砲弾を打ち出す臼砲(きゅうほう)――など足下にも及ばないような大量の氷柱が、全身武装鎧(ブラーデ・アーマ)を目指して殺到した。

「やらせはせん!」

 ラウドはそれを迎え打つために、残った方の腕を上げ肘から先の部分を射出する。

 莫大な質量を抱えた腕は勢いを殺さぬまま爆散し、自らを貫こうと降り注ぐ氷柱を反対に打ち砕いた。

「人間にしては、なかなかやるようだなぁ。これは、少々手を焼くやもしれん」

「やはり精霊か。力の規模こそ中位階層(ミーミル)だが、技術だけ見れば上位階層(ヒューネラ)にも匹敵する。厄介な相手だ」

 それが初撃を終えての、互いが互いに抱いた感想だった。

 例外は存在するものの、人間は精霊よりも劣る。筋力的な意味でも、魔法に関するものでも。

 またラウドのマグスとしての実力も、一般のレベルを大きく上回る。桁外れの大きさを誇る、まるでゴーレムのような全身武装鎧(ブラーデ・アーマ)もその証左の一つだ。

「だが、それを渡すのは少々忍びないのでな、返してもらおう」

 ウェリスは更に大量の氷柱を作り出した。今度は十センチ程度の非常に小さなものだが、数は先の二倍近くもある。

「なるほど、数で押し切る腹か。相手が精霊とはいえ、甘く見られたものだ」

 ラウドの視線の先で、氷柱が一斉に動き始めた。

 空を覆わんばかりに広がった氷柱は、先ほど同様ラウドへ向かって殺到する。

「変遷せよ」

 大量の氷柱が、巨大ゴーレムのような全身武装鎧(ブラーデ・アーマ)に衝突した。

 着弾と同時に全運動エネルギーを破壊の力へと還元、衝撃に耐えきれず氷柱本体は木端微塵に砕け散る。

 砕けた氷柱はまるでダイヤモンドダストのように輝き、とても戦場とは思えない幻想的な風景を作り出した。

「さて、向こうはどう出るか」

 周辺には戦場とは思えない美しいダイヤモンドダストが舞っているが、爆心地である全身武装鎧(ブラーデ・アーマ)は砕けた氷の白煙によって完全に押し隠されていた。

 だがそれも時間の経過と共に風で流され、白煙の下に隠されていた威容が露わとなる。

「ほほう、これはこれは」

 白煙は完全に消え去り、ラウドの巨大すぎる全身武装鎧(ブラーデ・アーマ)が現れた。

 だがその姿はウェリスの予想に反し、全くの無傷であった。

 そのことに関しては少し残念に思う反面、どう料理してくれようかという加虐心がウェリスの中で大きく膨れ上がる。

 ただ殺すだけでは生ぬるい。向こうは愚かにも、自分と(マスター)――オズワルト――の思い出の品を持ち去ろうとしたのだ。

 天と地ほど力の差を見せつけ、なぶり殺しにしなければ、その怒りは収まりようもない。

 ――いや、殺してはならぬのだったな。

 ウェリスは自分に言い聞かせた。捕まえた後に、尋問やら拷問やらを行い、情報を引き出さねばならないのだから。

 ウェリスの心は激しい怒りに燃え上がりながらも、状況を正確に把握し冷静な判断力で最適な行動を選択する。

 資料室での盗みと王女殿下殺害未遂、その両方がまったく同じ日に起きるなんていくらなんでもできすぎている。必ず裏で糸を引いている人物――黒幕――がいるはずだ。

 その根拠に、二つの事件の犯人は共通のグループのようである。例えば、クインクの塔から噴き出した炎が黒かったことなど。

 ならば自分の仕事は、その黒幕を引き出すために最善を尽くすこと。

 目の前のゴーレムもどきを操るマグスを、生け捕りにすることだ。

 ウェリスは自分の攻撃に無傷だったゴーレムもどき――ラウドの全身武装鎧(ブラーデ・アーマ)を凝視した。

 攻撃の当たる寸前に、地精霊(グノーメ)の活動が活発になったのを感じ取った。つまり、組成をいじったと言うことだ。

 おそらくは、組成を強度の高い鉱物にでも変えたのだろう。色も茶系から黒っぽい色になっている。

「さあ、どう攻めてくれようか」

 ウェリスは四度目の、空中の水精霊(ウンデネ)を集め始めた。




 先の攻撃を防いだことで、ラウドはほっと一息ついた。

 なにせ相手は精霊。気を抜ける相手ではない。

 組成をただの岩から鉄に変えなかったら、今頃は蜂の巣同然となっていただろう。

 まったく、存在そのものが天災のような連中だ。

 ラウドは胸中で一人ごちた。

 だがそれとは別に戦いを司る思考回路は、戦闘再開の準備を開始する。

「再生」

 まずは失った腕部の復元。一見腕なぞ不要に思えるが、全身武装鎧(ブラーデ・アーマ)も腕でバランスを取る。

 全質量のかなりの部分を占めるので、これだけは元に戻しておかねばならない。

「人間の本気と言うものを見せてくれようぞ、精霊」

 巨大な全身武装鎧(ブラーデ・アーマ)を覆っていた白煙が、ゆっくりと晴れてゆく。

 再び淡いレモン色の月光を目にし、ラウドの中で戦闘再開の合図が上がった。

「いざ!」

 ラウドはいきなり地面を鷲掴んだ。直径五メートル以上ある半球体状のクレーターが、地面に穿(うが)たれる。

 巨大なゴーレムは、大質量の土砂を空中に静止している精霊――ウェリス――へと向けた。

「サウンドバースト!」

 ラウドは声高に中位(トライド)の攻撃呪文を口にする。

 すると両手に握られた大地の一部が、人間が三人そろってようやく抱えられるような砲弾を連続して吐き出したのだ。

 しかも全身武装鎧(ブラーデ・アーマ)同様に砲弾も“変遷”の効果を受けており、砂の砲弾は鉄の砲弾となっている。体積は同じだが、質量は大幅に向上しているのでその破壊力は計り知れない。

 その内の一発が、ウェリスの展開した氷の盾の端をかすめる。

 盾は一瞬の抵抗すら許されず、砲弾の形に欠けた。

「質量兵器とか言うやつか。うむ。やはり今の力では……」

 過去の出来事により、自前の力だけでは大規模な力を行使できない。

 それに頼みの綱であるオズワルトからの魔力供給も、これだけ離れていてはままならない。

 ウェリスは盾にしていた氷を精霊素に還元して取り込むと、砲弾の間を縫うように急降下を開始する。

 地上に激突する寸前、降下に使っていた飛行力場急速反転し上昇する方向へと全力で放出した。

 ウェリスはホバーのように地上を滑る。それも恐ろしい速度で。

(つどえ)え、あまねく水の精」

 まるでアイススケートさながらに左右へ激しく移動しながら、右手に空気中から水の精霊素をかき集める。そこに先ほど取り込んだ分の精霊素も流し込んだ。

「其の意味は切断、其の容は剣」

 開いた掌を覆うように、分厚い水の層ができあがる。

 ウェリスは鉄の砲弾による弾幕をかいくぐり、一直線に全身武装鎧(ブラーデ・アーマ)の足下へと急加速した。

 その速度は、上位階層(ヒューネラ)であるセインよりも速い。

「顕現せよ」

 精霊素の形で圧縮された水精霊(ウンデネ)が、一斉に物質へと転じた。莫大な量の水は指先の方向に指向性を持って伸び、建物と見紛うばかりの足首へと迫る。

「切り裂け!」

 ウェリスは全身武装鎧(ブラーデ・アーマ)の足の下をくぐりながら、驚異的な切断力を持った水を吹き出した。

 音速を超えて伸びるそれは、間違いなくウォーターカッターと呼ばれる類のものである。

 そのカッターは鉄でできた全身武装鎧(ブラーデ・アーマ)の足首に、易々と突き刺さった。

 ウェリスは足元から抜けると飛行力場を跳ね上げ、一気に再上昇をかける。

 その際に、後ろ目で先ほど自分が攻撃を加えた部分を確認した。

「切断には至らないか。やはり力が不足している状態では、言の葉の力もこんなものか。あの方さえそばにいれば。まったく、大事な時はいつもおらぬのだから」

 ただの鉄ならば、今の攻撃で十分なはずだ。やはり地精霊(グノーメ)の力を借りているからだろう、通常の鉄よりも強度が高いようである。

 切断しきれなかった足首は、既に八割ほど結合を終えていた。

「ふっ、甘く見過ぎだ」

 相手には聞こえないだろうが、ラウドは叫びながら全身武装鎧(ブラーデ・アーマ)を勢いよく振り返らせた。

 巨大な掌に残った大地の残滓が形を変える。

「そこはまだ、コイツの間合いの内だ!」

 それは身の丈の倍近い長さの棒だ。もちろん“変遷”の効果を受けた棒は、鉄製である。その金属棒のフルスイングが、空中で静止していたウェリスに向かって振るわれた。

「しまっ……!?」

 一瞬の判断で盾を展開する。だが、先の砲弾の件を見ても分かる通り、この盾で防ぐことはできないだろう。

「あぐっ!?」

 金属棒の先端は空気や音すら切り裂いて、上から氷の盾ごとウェリスの身体を叩いた。

 それでもわずかに残った思考能力をかき集め、消え失せていた飛行力場を再展開する。

 だがそれでも殺しきれなかった勢いに押されて、大地にひときわ大きなクレーターを穿たれた。

「……今、のは……効い、た…………ぞ………………」

 ウェリスは全身を駆け巡る激痛に苛まれながらも、器の損傷具合について確認を始める。

『直撃を受けた右背部は全損。その他、右上腕部の筋肉損傷、両足のアキレス腱断裂、背面部の皮膚全損、骨折部位十三ヶ所……』

 もちろん、人間を模しただけの彼女には、筋肉や骨、皮膚などという概念は存在しない。だが人間を模して器を作っている以上、そのように考えた方が色々と都合がいいのだ。

 これらの損傷を確認した結果、器を再構成するために核となる部分を幾分か改変しなければならない。

 核と言うのは、言わば精霊の“魂”とでも呼ぶべきもので、器を形作る大元となっている。精霊はこの核の部分を操作することによって、器の形を決めることができるのだ。

「今ので、かなりやられたな」

 セインは元々途方もない精霊素を内包していたがために、その大半を失っている状態では器の大きさが大きすぎたのである。内包する精霊素の量と器の大きさが不釣り合いだと、存在そのものが不安定になりやすいので、器を再構成する必要が出て来たのだ。

 今回もその例に漏れず、今の一撃で体内の精霊素の一部が結合力を失い、ウェリスを形作る全体の精霊素が大きく減ったのが原因だ。

「再構成に専念する時間は、ないだろうな。ふふふ」

 この核を改変するという作業、なかなかに時間を喰う。

 セインが核を改変し器を再構成するのに数日かかった点からも、またウェリス自身が先ほどの小さな傷でも手間取った点からも、そのことは明らかだ。

 ただ器を入れ物――陶器等――に例えるなら、ウェリスのそれは亀裂であり、セインのそれは穴が開いていた、ほどの違いである。

「まったく、あの若い火精霊(サラマンドラ)、これ以上の損傷でよく」

 『若い火精霊(サラマンドラ)』と言うのは、無論セインのことである。

 あんな目に見える損傷を負った状態でよくもまあ、あれだけのことをやってのけたものだ。

 ウェリスは今更ながらに、セインの異常性を理解した。まあ、自分()に言えたことでもないか。

 ウェリスはハッと我に返ると、飛行力場を急速展開しその場を離脱する。

 すると先ほどまで彼女がいた場所を、全身武装鎧(ブラーデ・アーマ)の足が踏み潰した。

「こちらも、甘く見過ぎていたか」

 ウェリスは全身武装鎧(ブラーデ・アーマ)から大きく距離を取った。二の轍を踏むつもりはない。

 器の再構成はもちろんできるわけもなく、全身から水精霊(ウンデネ)の精霊素がちろちろとこぼれ落ちる。

 実体化を解けば精霊素の漏れもなくなり、再構成に集中できるのだが、そんなことをすれば逃げられてしまう。

 それに一度実体化を解除したら、多くのエネルギーを使う実体化をもう一度行うことはできないだろう。

 戦闘中にそんな芸当ができるのは、上位階層(ヒューネラ)の精霊ぐらいだ。

 戦闘を継続しながら核を改変し、器を再構成するしかない。

「ロックスパイク!」

 しかし、相手もそれを容易には許してくれない。

 巨大な足が大地を踏み抜いた。まるで内部から爆発したかのように飛び上がった土砂は、大量の杭となってウェリスへと襲いかかる。

 見た目では、とても下位(モノスト)の攻撃呪文とは思えない攻撃である。

「その程度……!」

 ウェリスは高々と手を掲げると、それを下方に向かって振り下ろした。

 同時に大量の氷柱が生じ、直撃コースに乗っていた岩石の杭を次々と撃ち落とす。

 その停止している少しの合間に、微量ずつ核の改変を行う。

 あまりの負荷に、身体がバラバラにされそうな痛みが走った。

 するとそこへ走り出した全身武装鎧(ブラーデ・アーマ)が、上段から長大な金属棒を振り下ろす。

「そう簡単にはいかぬか」

 それ自体は難なくかわすものの、金属棒が空気を切り裂いたことによる衝撃波と砕けた大地の破片が、回避を終えたばかりのウェリスに降りかかった。

「くっ、小癪(こしゃく)な真似を……!!」

 だがそれも氷の盾でなんとか遮る。攻撃ではなく余波だったのが幸いしたのだろう。いくら殺傷力が高かろうと、明確に自分を狙って放たれたものでないのなら、恐れる必要はない。

 しかしダメージはなくとも、時間経過と共にウェリスの身体から精霊素が漏れ出る。

 それは直接的に、彼女の体力が減り続けていることに他ならない。

 損傷を無視して戦闘を行うのもできないわけではないが、そんなことをすれば存在そのものが消失してしまう恐れがあるのだ。

 操作する力の規模に、強度を失った器が耐えきれないのである。

 器の消失とはつまり、核が深刻なダメージを受けるという意味と同義だ。

「ウォテル・ソーンド、水の息吹よ、我が敵を切り裂け」

 しかし、だからと言って出し惜しみばかりしてはいられない。

 (そろ)えた中指と人差し指の延長線上から、音速を超える勢いで水流が吐き出される。

 半秒後には全身武装鎧(ブラーデ・アーマ)の右足付け根を捉え、切り裂いた。

 単純な厚さが足首より薄かったのもあるが、言葉(●●)によってより明確な(かたち)を与えられた分威力が上がっているのだ。

「なに!?」

 予想外の威力にラウドも驚いた。たかが水如きで鉄の塊を両断するなど。

 先と違って完全に切断されたために、すぐさま再生を始めることはできない。それに再生するにしても、切断面は凍り付いているために地精霊(グノーメ)の操作も容易でなくなっている。

 完全にバランスを失った全身武装鎧(ブラーデ・アーマ)は、前屈みに倒れ込んだ。そのあまりの重量に、まるで地震のような振動が起こる。

「あの手負いで、まだこれだけの力を。それに、今のは聖霊魔法(ロギアマジック)じゃないのか?」

 それが使えるとなると、相当厄介なことになる。使えると言うだけで、相手はかなり古い部類に属する、つまり強大な力を持っていることになるのだ。

 その理由は、精霊は年齢に比例して強くなる傾向があるのだが、それは年月を経る度に核が成長していると言う意味である。核の成長とは、直接的な強さの成長と同義だ。

 つまり一部の例外を除けば、聖霊魔法(ロギアマジック)の使える精霊は間違いなく高い戦闘力を有している、ということである。

 相手は正真正銘、百戦錬磨の古兵(ふるつわもの)というわけだ。

「ならば、手負いと言っても油断はならないな」

 先ほどは不意を突くことができたからよかったものの、それがなければかなり手こずっていただろう。

 ラウドは前方で息を切らしているウェリスを凝視した。

 その身体からは、視認できるほどの精霊素がこぼれ出ている。

「一気に畳みかけるか」

 ラウドは凍りついた部分を切り離し、地面へとこすりつける。

 再び全身武装鎧(ブラーデ・アーマ)が立ち上がった時には、岩石で固めた足が再構成されていた。

「あの質量を、たった一瞬で補充するか。あの人間、相当な魔力の持ち主のようだな」

 ウェリスは核の部分を必死でいじりながら、精霊素の漏れ出る部分を抑える。

 相手の間合いを見誤っていなければ、ここまで苦戦することもなかっただろうに。

「スプラッシュロック!」

 中位(トライド)の攻撃呪文。全身武装鎧(ブラーデ・アーマ)が広げた掌から、岩石が散弾のようになって降りかかった。それも連続して。

 遠くから見れば、巨大な壁が何枚も発射されているように見える。それほどの密度だ。

「少しは、再構成の、(いとま)を、与えて欲しい、ものだな」

 ウェリスは上下左右に移動しながら、時折水流を放って岩石を粉砕する。

 攻撃そのものは大したことないのだが、水や氷を用いて攻撃や防御をする度により大量の精霊素が全身からこぼれ出てしまう。

 このままでは器の維持すらままならなくなるのも時間の問題だ。

「其の意味は破壊、其の容は弾丸」

 一直線に三〇発、氷の弾丸が立ち並ぶ。

「射抜け!」

 ドッと弾丸が飛び出した。

 こぼれ出た精霊素を最大限利用して、攻撃に転用したのだ。

 その内のいくつかは岩石によって(はば)まれるが、残る二〇発余りは同じ箇所へと吸い込まれる。

 射出時に与えられた運動エネルギーを全て貫通力へと還元し、その大半が体内へと突き進んだ。ウェリスは入り口を凍らせて塞ぎ、内部で一気に氷を気化させる。

 一瞬だけ全身武装鎧(ブラーデ・アーマ)全体が揺れたが、ラウドは地精霊(グノーメ)を操作して上手く気体を逃がした。

「その程度、この全身武装鎧(ブラーデ・アーマ)には無意味だ」

 傷口はすぐに再生され、元通りとなる。

「バサーストクエイカー!」

 ラウドは全身武装鎧(ブラーデ・アーマ)で力強く大地を踏みしめると、放射状に亀裂が広がった。

 踏みしめた部分を中心に、直径五百メートルはあろうかという広範囲の地面が、大きく陥没する。

 その際に崩れた土砂や岩石が、刀剣や槍、矢の形を取って、一斉にウェリスへと襲いかかる。

「これは!?」

 飛行力場を全力展開し、その場から離れた。

 するとそこを、大蛇のように集まった武器の怒涛が突き抜ける。それは雲を突き抜けた所で大きく曲がり、今度は下に向かって駆け下りた。

「やはり誘導型か!!」

 ラウドが唱えたのは、上位(フィフシス)の攻撃呪文。その中でも屈指の威力を持つものだ。

 これまでも規格外の全身武装鎧(ブラーデ・アーマ)を始め、人間離れした攻撃を行ってきたが、今もウェリスを追い続けてくる攻撃はその中でも目を見張る物があった。

「目障りだ!」

 ウェリスは必死になって飛びながらも、時折宙を撫でては氷の矢を生み出し、自らを追随する武器の怒涛を迎撃する。

 だが、あまりに数が多すぎた。いくら撃ち落としても減った気がしない。

「ちっ、私も墜ちたものだな。まさか人間如きに押されようとは……!」

 ウェリスは地上に向かって鋭角的に飛び込み、地上スレスレで飛行力場を反転させる。下方への勢いを打ち消し、超低空飛行に入った。地上からわずか五〇センチの位置を、精霊素を撒き散らしながら突き進む。

 後方ではウェリスを追従しきれなかった武器の怒涛が、ドドドドとけたたましい爆音を上げて次々と自爆した。

 更に、

「其の意味は防御、其の容は盾」

 こぼれ出た精霊素に容を与えて、最大限活用する。

「我を守護せよ!」

 一辺が二メートルはありそうな、氷でできた正六角形の盾が現れた。

 百本近くがそこで阻まれるがが、依然として勢いが衰える気配がない。

 それに大量の攻撃を防げると言うことは、その分だけウェリスの身体から多くの精霊素が漏れていると言うことでもある。

「しつこい」

 ウェリスは宙を撫でると、後方斜め上へと上昇した。

 撫でた空間から伸びた壁が、ウェリスを追従して矛先を変えた武器の怒涛のいくらかを防ぐ。

 だがそれも所詮は、鉄砲水を薄い鉄板一枚で防ごうとする程度のものでしかない。

 最初と比べれば随分と減ったが、まだ半分ほとんどが残されている。

 と、ウェリスの勘が不意に前方から敵意を感じ取った。

「しまった!?」

 上と下から挟み込むような形で、武器の怒涛がウェリスに襲いかかる。

 ウェリスは全身武装鎧(ブラーデ・アーマ)から離れるように直角に曲がり、軌道を修正した。

 だが、それよりも早く回り込む二つの影があった。

 地上付近とはるか上空を行く武器の怒涛はウェリスを大きく追い抜いた所でターンし、前方の斜め上と下から向かってくる。

 そしてそれは、後方からも同様に迫って来た。後方から迫りくる怒涛は左右分裂しながら広がり、ウェリスの逃げ道を完全に封鎖する。

「其の意味は迎撃、其の容は矢。仇為す者を撃ち落とせ!」

 自身を起点として球状に氷の矢を展開し、一斉射。

 更に、

「其の意味は切断、其の容は剣。怨敵を切り裂け!」

 今度はウォーターカッターだ。自分を中心にして上下左右、無秩序に振り回す。

 自分に迫っていた刀剣や槍のことごとくを薙ぎ払った。

 だが、

「其の意味は破壊、其の容は弾丸……」

 それでも、まだ全体の二割程度が残っている。

「撃ち抜け!」

 必死になって撃ち落とすが、間もなくウェリスは大量の武器に飲み込まれた。

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