中間報告①
この報告書は、十月末に元老院の議長主導の下行われる計画において、支障をきたすであろうと思われるが人物についてまとめた資料である。
本頁では、特に注意の必要な三名に関する資料の一部を抜粋する。十月二一日。
名前:ネーナ=デバイン=ラ=ナームルス
年齢:推定二〇歳前後
性別:女
現在、王都レイゼンレイドの近衛隊に所属する魔法兵。ただし、出自は貴族でなく一般の市民。能力優先主義の国王の方針によって近年導入された王都奨学制度を受けた一人目の人物であり、類い希な才能が認められ、王立レイゼルピナ魔法学院へ入学した経歴を持つ。当時、奨学制度の対象は貴族だけと意見していた保守派を無視しての採用であったが、その能力の高さから保守派を完全に黙らせる結果となる。これを機に、元老院も市民階級から採用する方針を固める。学院で修学を始めてからは目覚ましい速度で成長し、卒業と同時に近衛隊へ編入。そのままレイゼルピナ王国第一王女、エルザ=レ=エフェルテ=フォン=レイゼルピナの護衛を任命され、現在に至る。
発動体は指輪・ブレスレットを多用していると思われるが、詳細は不明。得意な属性は無と記録されているが使用頻度は極めて低く、基本的に地・水・火・風の四つの使用頻度の方が遥かに高い。なお、学院に入学当初は光の属性を発現させたとの記録もあるが、真偽のほどは不明。卒業後に契約を行い、サーヴァント(召喚を行ったわけではない)を有するが、精霊と言う事以外は謎。等々、魔法の技術に関しては詳細のわからない点が多い。
過去に、傷害や暴行等の逮捕歴があるが、書類上は全て抹消されている。また、出自についても同様。
名前:オズワルト
年齢:推定七〇~九〇
性別:男
本名不詳、王立レイゼルピナ魔法学院の創立当初から、学院長を務めている人物。過去、近衛隊に所属していたが、王都の警備隊へと転属した経歴を持つ。理由は、本人たっての希望によるもので、理由についての記録はなかった。最盛期には国王の直衛を務めていたこともあるのだが、転属以降の記録はほとんど抹消されており、退職直前の記録となると皆無と言っていいほどなにも残されていない。これは、当時の情勢も関係していたのかもしれないので、これ以上の言及を避ける。
発動体は左手のそれぞれの指に、サファイアをあしらった指輪をしている。得意な属性は水。本人は複数の発動体を装着している事について、出力不足、とコメントしているが、その場合だと別のものを使用すれば済むので、他の理由を調査する必要がある。
複数の発動体を使用するメリットとしては、当人の言う通り処理能力の向上、つまり一度に大量の魔力を扱うことができる。他にも、複数の魔法を同時発動、複合魔法の高速使用等が挙げられる。
デメリットとしては、大容量の魔力を扱える者でないと使用が難しい事、脳への負担が大きい、魔力の消費が激しい等が挙げられる。だが経歴を見ても明らかなように、オズワルトの魔力は膨大であり、その点については問題ないと思われる。
オズワルト本人がなにかを隠している可能性はあるが、並外れたマグスであることには間違いない。
残された資料によると、辞職の前に中位階層の精霊と契約を結んでいる。
名前:アキラ=クサカベ
年齢:十代後半
性別:男
ここ数年の間に確立された契約の儀式の最中に、突如現れた少年。書類上は、主であるレナ=ル=アギニ=ド=アナヒレクスが召喚したこととなっているが、実際は瀕死の状態で学院の外庭にどこからともなく放り出された。衣服・武器共に、ローデンシナ大陸には存在しないものを着用している。
契約の効果として上位の肉体強化の能力を有し、またかなりの実戦経験を持つものと思われる。戦績は、第五級危険獣魔:トロール鬼及び第三級危険獣魔:フラメルを撃破、集団であったとは言え王女の誘拐事件を防ぎ、あまつさえ元老院の議長であるヴェルデの私兵“ツーマ”を退けたりと、極めてイレギュラー戦闘力を有する存在である。
とにかく、現在はこの少年に関する資料は圧倒的に不足しているので、これ以上の調査は不可能である。