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マグス・マグヌス  作者: 蒼崎 れい
第二章:汝が力は誰が為に……
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Act21:開幕、マギア・フェスタ

 流星群の観察から数時間後、雲一つない晴天の空に特大の花火が次々と打ち上がった。

 金管楽器のファンファーレが鳴り響き、それに合わせてメレティス王国軍の曲技飛行隊が空中で華麗な演技を見せる。

 一糸乱れぬその動きはまるで機械仕掛のように正確無比で、まだ魔法使いの卵である魔法学校の生徒とは一線を画する技量と存在感を見せつけていた。アイナ以上の速度で宙を飛び交い、ぶつかりそうなほど密集したまま複雑な軌道を描く。

 かと思えば空いっぱいまで広がり、炎の魔法で様々なものを描き出す。参加校の国旗や校旗、あるいはドラゴンといった獣魔達の姿。その見事な開幕セレモニーに、観客たちは終わらない歓声を上げ続ける。

 年に一度、近隣諸国の魔法学校が覇を競う魔法競技会、マギア・フェスタ。その火蓋が切って落とされた。

 参加するのはレイゼルピナ、メレティス、バルトシュタインの三大国を中心とした近隣諸国の魔法学校、計十四校。その十四校がそれぞれの競技の順位に応じて点数を獲得し、総合得点で優勝を決定する。いわば、巨大な体育祭、その魔法版とでも言うべきものである。

 しかし、注がれている熱意は体育祭と言うには常軌を逸している。否、全く別のものと表現した方が正しい。

 この場にいるのは、いわば国を代表する生徒。将来は国の中枢で活躍を期待されている、若きエース達だ。その背中には自分の学校だけではなく、自国のプライドも一緒に背負っている。

 また生徒たちは、この大会の持つもう一つの意味も正しく理解していた。未だ魔法学校で修行中の者ですらこれだけの能力を持っているのだと、他国に見せつける場だということも。

 生徒ですらこれだけの技量があるのだ、正式な魔法兵ともなればどれだけ力を持っているのか、わかるだろう?

 そんな微妙なやりとりの甲斐があって、現状の平和を保っていると言ってもいい。

 個人の能力が大きな割合を占める魔法戦力はできるだけ外部に公表したくないが、それでは相手に実力を示すことはできない。

 正規軍による大々的な演習ではなくとも、他に似たようなものはないか。つまりこの大会は、各国の軍事演習の代替の場でもあるのだ。

 そんな各国の思惑が絡まる大会であるが、生徒達にそこまでの自覚はない。

 掲げる目標はただ一つ、優勝すること。その最大の壁となっているのが優勝常連校、王立レイゼルピナ魔法学院なのである。

 最近の大会でも連覇記録を継続中であり、今回優勝すれば六連覇となる。

『続いて、選手代表、宣誓』

 風魔法を用いた拡声器の声が、会場全体に木霊する。すると、レイゼルピナ魔法学院の並ぶ最前列から、上級生が一人前の方に進んでゆく。

 前回大会で優勝した学校の代表者が、選手宣誓を行う決まりになっているらしい。

「宣誓! 我々、選手一同は……」

 競技がかいしされるのはもうしばらく先になるも、既に水面下では見えない戦いが始まっていた。剥き出しの殺意が、四方八方から飛び交っている。

 漏れ出る魔力からは攻撃的な感情が溢れ、さながら出兵前の軍隊のよう。

 と、そんなことがわかってしまうレナは、改めて自分の成長具合を確認していた。

 そして、今まで経験したことのない恐怖感に襲われていた。

 気付けば選手宣誓は終わり、先輩も元いた場所へと戻ってきている。何を言っていたのか、周囲の気配が張り詰めすぎていて全然聞き取れなかった。

 魔力の気配だけでここまでの恐怖感があるだなんて、これならいっそわからないほうが良かったかもしれない。

 魔力察知の能力が技量向上に欠かせないことは、既に嫌というほどわかっている。魔力や精霊達の気配が感じ取れるだけで、見える世界そのものが違ってくる。昶が見ている世界に一歩でも近づけたというのは、それだけでも嬉しい。

 しかし、同時に嫌でも相手の技量までわかってしまう。

 通常、マグスは魔力察知の能力を有していない。そのために、自分達が常に一定量の魔力を放出していることを気にも留めない。魔力を察知できる者がそもそも例外的にしか存在しないのだから、それは当たり前のことである。

 故に魔力察知の能力を持つ者は、この場にいるマグス達がどれだけの力を有しているか手に取るようにわかってしまうのである。

 今のレナはまさに、ドラゴンの檻にでも入れられたような気分だった。周囲にいるほぼ全員が、自分よりもずっと強い。

 同じ学校の先輩達も自分より強いのは強いが、同じ学校の生徒というだけあってここまで攻撃的な気配ではなかった。油断すれば、次の瞬間には本当に殺されてしまうかもしれない。そんな雰囲気が会場をいっぱいに満たしている。

 早くこんな開会式、終わってくれないだろうか。レナは学院生活で初めて、寝坊すればよかったなんて思いながらひたすら式の終わりを祈り続けた。




 そんなレナのお祈りとは関係なく式は滞り無く進み、予定通り標準時約三〇分で終了した。選手達が退場した後にも様々なパフォーマンスが行われ、会場は立ち見の客まで含めて大きな盛り上がりを見せている。

 その間に、選手達はそれぞれの種目に合わせて各会場へと移動する手はずになっている。

 魔法戦闘に関する競技はこのメイン会場で行われるが、飛行レース参加のアイナや、錬金術部門のリンネは別会場となっている。

 知り合いが少なくなるのはちょっと寂しいけど、二人に比べれば知った面子がいるだけまだゆとりが持てる。

 自分との勝負になる錬金術部門のリンネはともかく、飛行レースのアイナは知り合いが誰もいないせいもあってかなり不安だろう。レースとは言っても魔法戦に片足を突っ込んでるだけに、あちらも血の気の多い選手が多い。

 しかもこの魔法競技会、普通の一般的なスポーツの競技会とは明確に違う点が一つある。

 それは全ての競技が男女混合で行われるのである。これは魔法の技術に男女の壁は存在しない、という理由のが理由らしい。

 更に突っ込んだ理由としては、実戦で男女別の戦いなんて相手がやってくれるわけがないだろバカか? というわけだ。

 半分は各国の魔法戦力の見せ合いの場である。実戦に男と女がないように、マギア・フェスタでも同じように扱われる。女子生徒の放つ殺気よりも、男子生徒の放つそれのほうがわかりやすい分恐ろしい。しかも男子生徒は体格的にも女子生徒より大柄な場合がほとんどなので、見た目的にも威圧感が割増される。

 あぁ、こんな中で一人は心臓に悪い。早く誰か探して合流しよう。レナは同じ会場内にいる知り合いの気配を探して、ふらふらと移動を始めた。

 少しして、特徴的なポニーテールが目に入った。

 男子生徒に混じって、頭一つ高いだけあってよく目立つ。ついでに、背中にしょっている大剣の発動体も良い目印になっていた。

「……シェリー」

「……レナ」

 いつもなら勝ち気でカラッとしているシェリーも、今日ばかりはどんよりとした空気をまとっていた。

「そっちも辛そうね……」

「えぇ、魔力の気配に混じって色々とね。敵意がすごすぎて胃がキリキリする」

「……そんなに?」

「えぇ、できるならこのまま帰っちゃいたいくらいには」

 お腹の真ん中を押さえて眉間にシワを寄せるレナを見ながら、わかっちゃうのも考えものねとシェリーは優しく背中をさすってやった。

「そういえば、アキラってどこかで見かけた?」

「アキラなら……」

 と、シェリーは後ろの方へ向き直って指をさす。

 そこでは学院出発以来、ほとんど顔を合わせた記憶のないミシェルとミゲルの双子の兄弟の姿があった。

「本参加は本参加、補欠は補欠でまとめられてたみたいだからね。久々に、ヤローだけにしてあげるのも優しさってもんじゃない?」

「それはまぁ、そう思うけど……」

 いきなり襲われるなんてことは万が一にもありえないが、昶の隣にいる方が安心できる。

 あれ、あたしってこんなに昶に頼りきりだったっけ? なんて思考が浮かんだのも一瞬だけ。やっぱりこの突き刺さるような気配はキツい。

 しかし、昶だって自分の時間が必要だろう。宿屋での生活は基本的に自分達とずっと一緒に行動していたし、男同士でなければ話せないことだってあるはずだ。レナにだって、女の子同士でしか話せないことがあるように。

「わかったわかった、ちょっと怖いのは私も一緒だから。一緒に近くで待ってよ。アキラのことだから、私達が近くにいるのもわかってるだろうし」

「そうね、そうするわ。ありがと、シェリー」

「これくらい、お安い御用よ」

 昶達を視界の内に納めつつ、二人は人の少ない通路へと移動するのだった。

 一方その頃、久々の男友達と再開した昶はといえば、

「大会っていつもこんなもんなのか? なんか戦場にでもいるみたいな感じなんだけど」

「まあ、学生による国家間の軍事演習ごっこみたいなものだし、あながち間違ってないんじゃないかな?」

「兄貴、せめて声のトーンもう少し落とそうぜ。ちらちら見られて背中がムズムズする」

 想像していたものとかけ離れた大会の雰囲気に、呆然としていた。

 競技会と銘打っているからにはもう少しクリーンなものをイメージしていたのだが、これはその領域を超えているように思える。勝つためならば違反だろうと手段を選ばない、とみんながみんな顔に書いてあるくらいには、限りなく黒に近いグレーな大会らしい。

 もしかして毎年けっこうな怪我人、あるいは死者も出ているのではなかろうか。導火線に火のついた爆弾とタメを張れるくらいには、選手達も気が立っているらしい。

 開会式前からすでにくすぶっていたが、時間が立つに連れて肌のひりつく感覚がどんどん強くなっている。

 なるほど、単なる魔法の競技会ではなく『学生による国家間の軍事演習ごっこ』か。それならこの雰囲気も納得がいく。退魔の仕事現場よりも殺伐としているわけだ。

 周囲の視線も気になるので、三人は通路の端の方へと移動する。

「で、二人はなんの競技だっけ?」

「魔法戦の団体戦さ。まぁ、一年の補欠に出番が回ってくるなんてことはないだろから、楽なもんだけどねぇ」

「参加するだけで単位がもらえる上に、軽い旅行と他国の魔法学校のレベルも見れるし、いい機会をもらったものだ。もっとも、兄貴は女の尻を追いかけてばっかで困ってるんだが……」

 ちらり、とミゲルはいつもと変わらないミシェルを横目で見やる。

 ある意味、こんな中でいつも通りののほほん具合を発揮しているあたり、大物かもしれない。

「レベル差がありすぎて参考になるとは思えないけどねぇ。それなら可愛い女の子とお食事でもしてたほうが有意義な時間の使い方だと思うんだが?」

「で、ミゲル。こんなことをのたまってる兄貴の戦績はどうなってんだ?」

「撃墜記録更新中だ。あ、もちろん兄貴が撃墜される側だ」

「君ら、そんなに僕をいじめて楽しいかい?」

 単に事実を言っただけだ、とミゲルは無下もなく実の兄を切り捨てた。

 実の兄に対しても容赦のないこの毒舌ぶり、弟の方も兄同様にいつも通りである。

「にしても、さすがアキラだな。そっちは個人戦だろ?」

「それ以前に、生徒になったばかりの俺が出ていいのかも疑問なんだけど。在学期間の規定とかないのかよ? 不安なんだけど」

「あの、二人とも? 僕の話聞いてるかい?」

 おーい、聞こえてないのかなー、なんて言ってるミシェルをよそに、ミゲルは大会規約を頭のなかに思い浮かべる。さすがに細かい部分までは記憶していないが、そこは兄のミシェルと違って秀才タイプのミゲル、基本的な部分は全部押さえてある。

「確か、その学校に在籍していること以外は、特にこれといった決まりはなかったと思う。まあ、今回の君のような事例を考慮して、次大会以降は在籍期間の規定が加わる可能性はあるけどね」

「やりすぎないように、注意するわ」

 ミゲル達の視点から見れば大会参加者達は相当なレベルだが、昶の視点から見れば大半が中途半端な実力者だ。こういう手合は、実力差がありすぎるよりかえってやり辛い。

 シェリーのような近接戦が主体の相手なら与し易いが、マグスは大半が遠距離タイプである。昶の持っている長射程の術では威力が高すぎるため、今回は使用できない。

 そうなると相手に近づく必要がはっせいするわけであるが、近接戦に慣れてない相手がどこまで受け身をとってくれるものやら。

「で、この会場の最初の競技は何だったっけ?」

 だが、大会が始まってしまった以上、近接戦でやんわりとお相手する他ない。気持ちを切り替えて、昶は大会日程について聞いてみる。

 一応大会進行の資料はもらっているが、読めないため投げっぱなしになっている。

「魔法戦の団体戦予選があって、その次は個人戦予選だったはずだ。特に予選は総当り方式で時間を食うから、時間に余裕のある初日にもってくる大会が多い」

「ってことは、二人も行くのか」

「いや、前回大会で総合四位以上の学校は予選免除で、二日目以降の決勝トーナメントからの参加。今日から予選に参加するのは個人戦の君の方だ」

 と、ミゲルはぽんと昶の方を叩く。

「まあ、くれぐれも相手に怪我をさせないよう頑張るんだな」

「善処するよ」

 すいませーん、聞こえてますよねー、おーい、なんて両手でメガホンを作っているミシェルは置いておいて、昶はくるりときびすを返す。

 そして、この殺伐とした気配の中で唯一の心地良い場所へと足を伸ばした。

「もしかして、俺に何か用事か? だったら悪かったな」

 通路を挟んだ反対側で、シェリーが小さくひらひらと手を振っている。

「いや、用事ってほどのもんじゃないんだけどぉ……」

 と、シェリーは隣でほとんど張り付いている状態のレナを見やる。

「魔力がわかっちゃう分、すごく怖いらしくて」

「あぁ…………」

 魔力やそれに乗った人の感情まで感じ取れるようになったというのは、練習前から考えれば非常に大きな進歩だ。

 ここまでくれば、次のステップ──魔力の制御方法に移っても問題ないだろう。ここまで早く来れるとは正直想像もしていなかっただけに、嬉しさがこみ上げてくる。残念なのは、この後のステップはレナが自分で見つけ出していかねばならないことであるが。

「こんな中に居れば、不安にもなるよな」

 伸ばそうとした手を、ハッとなって戻す。

 今のは、ちょっと不自然だったかもしれない。

 ──レナが試合に出るのは、明日か。

「俺、今日から予選らしいからずっとは無理だけど、できるだけ傍にいるからそんな不安そうな顔すんなって」

 せめて、それを見届けてからにしよう。

 それが、最後になるかもしれないから。

 忘れないように、瞳の奥まで焼き付くくらい。

「それでも不安ってんなら、年末のあの時のことでも思い出せ。あれと比べたら、競技会なんてお遊戯みたいなもんなんだからさ」

 感のいいレナに悟られないよう、昶はそっと背を向けた。

 せめて月に一本投稿しようと思っていましたが、はい、すいません、めっちゃ空いてしまいました。

というわけで、初めての人は初めまして、久しぶりの方、マジスイマセンデシタ。


 雇用形態が派遣から正規に切り替わって色々と変化がありましたが、ようやく生活も落ち着いてきました。長年執筆で使っていた七年前の携帯電話が寿命でお亡くなりになりPCでの執筆になりましたが、全然慣れません。いかんですなぁ……。他にも書きたいことが浮かんできますが、脇道にそれずに頑張っていこうかと思います。

 さて、紅蓮の奏者篇、いよいよ本編に入ってきました。残業キツイですが、執筆ペースを上げていけるように頑張りますので、よろしくお願いします。


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