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マグス・マグヌス  作者: 蒼崎 れい
第二章:汝が力は誰が為に……
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調査報告・肆

 シュバルツグローブの奥地にあるレイゼルピナとメレティスの国境線沿いに、真・域外なる盟約ヴェルム・プロスペリスの本拠地がある。

 本拠地とはいうものの、そこには中型の戦闘艦が一隻停泊しているのみ。しかも現在はその戦闘艦の点検中なので、襲われるようなことがあれば抵抗すらできずに壊滅してしまうだろう。

 そんな戦闘不可能な艦の中で、リーダーであるマサムネは物思いにふけって、

「…………アマネのミソシルが飲みてぇ」

 いなかった。自室のベッドに寝ころんだまま、何の変哲もない天井をじぃぃっと見ている。

 リーダーとはいうものの、頭を使うのはアマネの役割。マサムネはどっしり構えてざっくりとした指示を出したり、リーダーにも関わらず最前線で暴れまくったりする方なのである。

 そこまで頭がいい方ではないのは自覚している。なので会議や交渉の場には、いつもアマネを伴っているのだ。それでもこれだけの人数が彼の元に集まっているのは、一種の人間的な魅力(カリスマ)のなせる業かもしれない。

 そしてそのアマネはといえば、構成員を大勢引き連れてメルカディナスで御食事処をやっている。

 今年はメルカディナスで周辺国の魔法学校対抗で行われる魔法競技会、マギア・フェスタが開催されるらしい。一般公開もされているので、競技会を見ようと大量の観光客が訪れるのだそうだ。

 年明けから屋台とかいう移動式の店をやたらと作っていたと思ったら、全てはこのためだったようだ。

 この前のレイゼルピナの一件で、組織運用に必要な資金はたんまり確保できた。

 だがアマネに言わせれば『いつもキツキツなんですから、余裕のある時に貯めないとだめです』とのことらしい。今回の“大量の屋台でがっぽり作戦”でどれだけの資金が稼げるかはわからないが、アマネのことだからうまくやってくれるだろう。

 しかし、そのせいで今は残っている方が大問題だ。料理のできる連中は残らず屋台作戦にかり出されているせいで、料理のできる構成員が一人も残っていないのである。

 無論、マサムネもせめて一人くらいはと食い下がったのだが、真・域外なる盟約ヴェルム・プロスペリスの台所事情を管理しているアマネに逆らえるはずもなく、こうして腹を空かせているというわけだ。

 今でも思い出すとゾッとする。

『二、三日くらいどうにかしてください。あ、スメロギ様なら食べなくても大丈夫ですよね?』

 やはり、ちょっと前に経費で大人のお店に行ったのがいけなかったのだろうか。

『スメロギ様、こんな香りのシャンプーってうちにアリマシタッケ?』

 って、横向いたら鬼がいた。あれ絶対角はえてたって。

 だってさ、ミカドの家系だぜ。オニのシキガミだって使ってるんだぜ。本人の頭に生えてても不思議じゃないと思うわけよ。

 ビビってさ、洗いざらい吐かされた。でもさ、欲求不満は士気に直結するじゃん? 仕方ないじゃん?

 まあ、アマネには全然通用せず、こってり絞られたわけだけど。

 そんなことを思い出してまた恐怖が這い上がってきそうになり、マサムネは上体を起こしてぶるぶると頭を振った。

 あの説教だけは何度聞いても慣れない、なぜなのだろう。

 するとマサムネの視界に、アマネのまとめた報告書の束が目に入った。

 域外なる盟約(アウター・レギオン)から持ち出した、三つの宝具の所在に関する資料である。

 天藍碑(ヴェルーリヤ)黄金珠(レクスタパス)大紅秘玉(カルブンクルス)

 これら三つの秘宝が絶大な力を持った魔道具ではあるところまではわかっているのだが、どのような能力を保有しているのか、またどのような材質なのか、形状や大きさも依然として不明なままである。

 とはいえその内の一つ、天藍碑(ヴェルーリヤ)に関しては、所在がはっきりしている。

 マサムネ達が元いた共同体、域外なる盟約(アウター・レギオン)だ。恐らくは、源流筋の家系が管理しているのだろう。源流筋の中でも上位に入るアマネでさえ実物を見たことはないと言うのだから、どれほど厳重に保管されているかわかる。

 そんな域外なる盟約(アウター・レギオン)の源流筋と一戦交えるような事態になった時のためにも、最低でも一つは秘宝を確保しておかねばならない。

 とはいえ、その残り二つもまだ何年も前の痕跡を見つけた段階だ。きな臭い噂もあちこちで聞こえてくるので、単純な戦力補強の意味でも是非とも手に入れておきたいものである。

 しかしながら、なかなか不思議なものだ。どんな形状をしているかもわからないのに、くまなく探せば名前だけは出てくる。

 そのおかげでどうにか追えているので、記録を残しておいてくれた人物には感謝しなければ。女性ならキス、野郎なら蹴りプレゼントして差し上げよう。

 そんな山積みにされた宝具の資料の隣にはもう一つ、小さな山が一つ築かれていた。

 源流使い(オリジネイト)、クサカベアキラに関する資料である。

 キャシーラに命令してレイゼルピナから持ち出した、クサカベアキラの関わったと思われる戦闘に関する資料。

 アマネがまとめた、ノールヴァルトやレイゼンレイドでの戦闘記録。

 そして域外なる盟約(アウター・レギオン)を抜け出してきた、クサジシの家系の者が作成した血統に宿る呪いについての記述。

 気に入らないが、放っておけるものでもない。マサムネは部下にいるクサジシの者に指示して、クサカベ家の保有する術についての資料作成を命じていたのである。

 そして最初に浮かんだ感想は……




 ────狂ってるぜ。




 憐れみと、そして怒りだった。

 自身へと向けられた怨念や呪いを糧として、ありとあらゆる能力をブーストさせる術。狂気の沙汰としか言えないような代物である。頭のおかしい強化術を持っているのはざっくりと知ってはいたが、ここまでキチガイなものとは思っていなかった。

 そりゃ、呑み込まれるやつがいても不思議じゃない。相手は人外、魔法的な意味で人の範疇から大きく逸脱した存在だ。

 そいつらの恨み辛みを何代にも渡って積み重ね、次代へと継承してゆく。渡される方からすれば、たまったものではない。生まれた瞬間には、自分の中に自分を殺したくてたまらない連中が存在しているのだから。

 また記述には、血統に宿る力を引き出せる割合には個体差があると書かれている。馴染みやすい者ほど多くの力を発揮でき、そして怨霊達の意思に呑み込まれやすいと。

 そしてマサムネもアマネも、一度だけクサカベの血に宿る呪い力を目の当たりにしたことがあった。

 レイゼルピナが戦火に包まれたあの日、クサカベの血に宿る怨霊を、鬼神を目にしたのだ。域外なる盟約(アウター・レギオン)源流使い(オリジネイト)とは比べ物にならない、正真正銘のバケモノ。

 そしてさらに、クサジシの記述はえげつない記録が(つづ)られている。飲み込まれた人間の中で自我を保ち続けた者は一人としていない…………と。

 方法はないかと考えてはみたものの、やはり資料が少ない。

 源流筋同士の間でも、他家に術に関する情報は一切開示されていないというのだ。それにマサムネの元へと来たクサジシの者も、内部ではそこまで高い地位にいるわけではない。

 まあ、いざとなれば域外なる盟約(アウター・レギオン)の連中に投げればどうにかなるだろう。最悪、処分するくらいの戦力──宝具──も持っていることだし。

 まったく、できもしない約束なんてするもんじゃないな。どうにかしたくて、かけずり回っちまうじゃねぇかよ……。

 宝具、源流筋、源流使い(オリジネイト)。全部まとめて一度にきやがって、少しは遠慮しろってんだ。

 もっとも、自分から面倒に片足突っ込んでる身で言うのもなんだが。

「スメロギ様、至急お伝えしたいことが」

「入れ」

 突然のノックに、マサムネの思考は急速にボスモードへと切り替わった。

 域外なる盟約(アウター・レギオン)の連中にはちょっかい出していない、他の国の連中はこの潜伏場所は特定できていないはずなので、少なくとも奇襲の類ではないだろう。もしそうなら、魔力の気配でわかる。

「どうした? 落ち着いて、ゆっくり報告しろ」

「は、はい。アマネ様達の警戒に当たっていた班からなのですが」

 部屋へと入ってきた男は、えらく緊張した様子であった。

 悪ふざけで絡むことはあっても、マサムネは部下の前で高圧的な態度をとるような人間ではない。もしそうだとすれば、男も今この場所にはいないはずだ。

 いったい何が、コイツをこうまで焦らせている。

 マサムネの指示で、男はまず乱れていた呼吸を整える。それから五回ほど吸っては吐いてを繰り返したところで、男は姿勢をただしマサムネへと向き直った。

「アプリスプの一族と思しき人物を見た、と報告がありました」

「なん、だと?」

 その名を聞いた瞬間、マサムネは大きく目を見開いた。

「黒いローブを羽織っていたので、もしかしたら見間違いだったかもしれませんが。真っ白な髪と、赤い瞳は間違いないんじゃないかと……」

 域外なる盟約(アウター・レギオン)にもアプロスプの一族はいるが、それ以外の一派の者となると、恐らく…………。

「引き続き監視しろ。魔力も殺気は出すな、気付かれるからな」

「わかりました」

 アプリスプの一族というのも気になるが、黒衣の連中というのも引っかかる。

 面倒事は一度にやってくるのは、間違いではなかったようだ。頭が痛いぜまったく。

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