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マグス・マグヌス  作者: 蒼崎 れい
第二章:汝が力は誰が為に……
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Act14:ちょっと息抜きに

 部屋を出た昶は、目的もなく建物の周囲をぶらぶらと歩いていた。先ほどキャシーラにも言った通り、外の空気を吸いに来ただけだ。とはいえ、もう少し厚着して出てくればよかったと既に後悔しているわけであるが。

「悪いやつじゃないって、あれ完全に悪人面だろ」

 以前に見たスメロギの顔とキャシーラの言葉があまりにも食い違っていて、思わず吹き出してしまう。どこの世界に、腕にびっしりと刺青を入れた善人がいるだろうか。昶が躊躇している理由も、九割方があの男が原因だというのに。

 しかし、人望があるのも確かなのだろう。先ほどの手紙の内容や以前戦った時の感じから、どうやら計画性の皆無の人間のようであるし。そんな人物に、口先だけで人心を掌握するような所業はできまい。アマネという女も、スメロギには惚れ込んでいるような様子であった。

 ついでに言えば、戦い方も頭を使った頭脳プレイではなく力任せのごり押しと、ある意味昶と似通ったスタイルであったか。そんなやつぶまで負けてしまったのかと思うと、情けなさを通り越してむなしさを覚える。

「ん? 終ったか……」

 昶がスメロギに負けたことを思い出して落ち込んでいると、不意に巨大な二つの力のぶつかり合いが突然途切れた。

 恐らく、朱音とソフィアの戦いに決着がついたのだろう。どっちが勝ったかまではさすがにわからないが。

 ちょっとだけ顔でも出してくるかと、昶は二人の気配がしていた方向へと足を向ける。少し歩くと、遠めにも大きくえぐれた地面や、赤く沸き立つ大地が見えた。

 確か、朱音が主に使っている術も、ソフィアが主に使っている術も、火属性であったはずだ(浄化の炎と混沌の炎と、性質は正反対に当たるが)。

 一応、周囲の生徒達には配慮していたようで、術による被害は一定範囲内に収められている。

 本気でやりあっておいて、よくもまぁ加減なんてできるものだ……。

 もう少し近づくと、地面にへたり込んだ生徒達の姿も見えてきた。あまりのプレッシャーに気圧されたか、次元の違いすぎる戦いに繊維を喪失したか。誰もが疲れきった目をしていた。

 もっとも、今の自分の方がよほど酷い顔をしている自信があるが。昶はその中から、レナ達の気配を探り始める。朱音とソフィアがいるとすれば、レナ達の近くだろう。もしいなかった場合は、見つけるのは諦めるとしよう。二人は力の放出を完全に抑えているので、気配だけでは見つけられない。

 人数はそれなりにいるが、レナの魔力放出量は頭ひとつ分以上飛びぬけているのですぐに見つかった。

「おっ、アキラじゃない」

 寝転がっていたシェリーは、いち早く昶を見つけた。

 そして寝転がった姿勢のまま、やっほーと手を振る。その隣には、レナとアイナもちょこんと座っていた。

「おーっす。今日はリンネはいないんだな」

 手を振り返しながら、昶も三人の下へと歩み寄る。

「昨日寝てなかったみたいだしね。たぶんぐっすり寝てるんじゃない? 私らも起こしに行ったわけじゃないからわからないけどさ」

 昶のスペースを作るように、シェリーは上体を持ち上げて半回転する。その開いたスペースへと、昶も腰を落とした。

 朱音とソフィアの姿は……………………見あたらないのでもう近くにはいないだろう。

「隈すごかったですもんね、リンネさん」

「そうね。あんな充血した目でイキイキしてるリンネなんて、初めて見たわ」

 アイナとレナの中では、思い出したくない顔第一位を獲得しているらしい。表情筋が引きつってぴくぴくしている。

 技術者の狂気とでもいうのだろうか。二人ほどではないにしても、昶やシェリーにとってもあれはなかなかの恐怖体験であった。

「で、姉さんとソフィアさん、どうだったわけ? さっきまでドンパチしてたんだろ?」

 リンネの方はわかったので、続いて昶は本題の方を切り出したわけであるが……、空気が更に二度ほど下がったような気がした。

 そしてそれは錯覚でもなかったよで、シェリーの目からは当社比五割増しくらいで目からハイライトが消えていた。

「ど、どうした?」

 三人からは、一言の返事もない。どうやら、とんでもない地雷を踏み抜いてしまったようだ。

 いや、この惨状を見れば、地雷の威力がどんなものかは想像がつくのだが。今この場にいる生徒全員がいくらがんばっても、ここまでの惨状を作ることはできない。

「あー、うん。師匠がね、すごかったから」

 しばらくの間無言が続き、ようやくシェリーの口からその一言が搾り出される。

「アキラが、一応あたし達のこと考えて練習内容を考えてくれてたのはわかったわ」

「そうですね、なんか申し訳なくなってきました……」

 シェリーに引き続き、レナとアイナもそれぞれ一言。どこまでトラウマ植えつけてんだ、あの姉共は。

年上の癖して、加減というものを知らないのだろうか。

 いくらなんでも、限度というものがあるだろう。限度というものが。ダウナー過ぎて、自分のことも忘れてしまう。

 まあ、おかげで昶の気苦労を、三人とも少しは理解してくれたわけであるけれども。

「姉さん、飛炎(ひえん)使ったんだな……。符術だけならまだしも」

 昶は二人の戦った戦闘の傷跡から、特徴的なものをひとつ見つけ出した。

「ヒエン?」

「あぁ。武器を媒介にした術の一種。剣から炎とか飛ばしてただろ。それだよ」

 はてと首をかしげるレナに、昶は答えてやった。

「しかも烈火刃(れっかじん)使うって、ほとんど()る気でやってたのか……」

 爆発や溶解した痕跡の中に、まるで巨大な剣が地面を切り裂いたようなものがある。

 縦方向の深い傷跡、その断面には更に無数の傷跡が刻み込まれていた。熱で溶かしただけでも、刃物でえぐっただけでも、このような傷跡はできない。

「それって、そんなに危険な術だったの?」

「あぁ。えっと、なんて説明したらいいんだろ……。触れただけで、斬れる炎……みたいな。炎に物理的な属性を付与してるんだよ。物質化(マテリアライズ)とは、根本的に原理が違ってだな……」

 とはいえ、昶もこの辺りは感覚的り理解している部分が多く、言葉で説明するのは難しい。自分で言ってて、斬れる炎ってどういう意味なんだよ、とは思う。だって仕方ないじゃないか、本当に斬れるんだから。

 魔力を固めて実体を持たせる物質化(マテリアライズ)と違い、烈火刃によって放たれる炎に実体はない。本当に炎に触れた部分が、火傷と同時にずたずたに切り裂かれてしまうのだ。もはや、“そういう現象を引き起こす炎”としか説明のしようがないのである。

「あー、私全然わかんないから、レナあとで教えてね」

「私もです。なんだか、頭が痛くなってきました。あとはレナさんに任せました」

「あんたらねぇ……」

 既に考えることを放棄しているシェリーとアイナは、明後日の方を向いたまま流れる雲をじぃぃっと見つめていた。

 気持ちはわからんでもないが、せめて理解しようという姿勢だけでも見せて欲しいものである。

「で、それって加減して使えるような術でもないからさ。だからそうとしか考えられないわけ」

「じゃぁ、そこまで全力でやってたんだ。アカネさん」

 先ほど聞いた二人の話、昶の話、そして自分自身が感じた魔力の気配。レナは改めて、魔術師という存在に、畏敬の念を持つのであった。

「あ、そういや結局どっちが勝ったんだ?」

「師匠が勝ってたわよ」

 いけないいけない、本題をすっかり忘れていた。

 昶の質問に答えたのは、さっきまでアイナと一緒に雲の形連想ゲームをしていたシェリーであった。現実逃避をしている時間がるなら、その師匠に教えてもらえというに。

 ということは、一応は勝ったわけか。我が姉ながら、恐ろしい人である。

「ただ、ソフィアさんの方は本気の術は全然使わずに、しかもほとんど動かずに手加減してくれてたって、アカネさん言ってました」

 と、アイナがシェリーの言葉尻に付け足す。

 どうも、動くのは最小限で、空を飛ぶのは禁止。属性も炎のみで、必殺の黒い炎も封印していたそうな。

「そんだけハンデもらって、勝ちはしたものの烈火刃くらって無傷って…………。そりゃ俺でも自信なくすかも」

 とはいえ、今の昶にはなくす自信すらなかったりするわけであるが。

「で、みんな見せ付けられて戦意喪失してる訳ね」

 と、昶の一言に三人とも大きく頷いた。

 今日から本格的な練習でも始めようと思っていたのだが、ここまでやる気がないとむしろ効率も悪化してしまう。ここを離れる前に教えられることは全て教えていきたかったが、致し方ない。

 注意力が散漫な状態で怪我でもしたら、そっちの方が大変だ。

「んじゃ、練習は明日からでいいか?」

 昶の提案に三人が頷くのに、一秒もかからなかった。




 リンネが起きるのを待ってから、昶、レナ、シェリー、アイナの四人は再びメルカディナスの中心街へと赴いた。

 レナの後ろには昶、アイナの後ろにはシェリー、そしてリンネが先導する形で、五人はメルカディナスの冬の空を漂っている。シュタルトヒルデの感謝祭(ネプティヌス)ほどではないにしても、レイゼルピナの首都、レイゼンレイドをはるかに超える人々で街中はごった返していた。

「すごい人ね……。下ってまともに歩けるのかしら」

「…普段は、こんなにいない」

 口を大きく開けているシェリーに、リンネがぼそりとつぶやく。

「…みんな、マギア・フェスタが、目的。運営関係者とか、そういう人も、いっぱいいる」

「無料開放されてる場所も結構あるから、この時期は観光客も多いんだったわね。去年はレイゼンレイドで開催されてたけど、やっぱり人がすごくてね……。気分が悪くなりそうだったから、お父様に招待されたけど行かなかったの思い出したわ」

 その時の人込みを思い出だしてか、レナの顔がやや青くなった。お願いだから、バランスは崩さないでくれ。

 リンネとレナの話を総合すると、地球で言えば学生オンリーの世界大会みたいなものらしい。毎年大会参加国が持ち回りで開催しており、学生達の魔法技術の向上と多国間交流を目的としているそうだ。

「…どうする? お昼、下で……食べる?」

 速度を落として近づいてきたリンネが、四人に尋ねる。

 リンネの起きた時間が中途半端なのもあって、お昼はまだ食べていない。とはいえ、カロリーを消費するようなこともあまりしていないので、せいぜい小腹がすいているくらいである。

 それを聞いたリンネはしばし考えると、

「…じゃぁ、この前のフィラルダ、みたいな……。食べ歩けるお店、まわる?」

「いいわね。それにしましょう。決まり」

「あたしも、依存はないわ」

「レナさんに同じく」

「俺もそれでいいぞ」

 全会一致で、まずは食べ歩きツアーに決定した。

 メレティスには基本的に、飛行禁止エリアは設定されていないのでこのまま街の真ん中まで飛んで行ってもいいのだが、降下できそうな場所はない。

 五人は中心部からやや遠ざかった、噴水のある公園を目指して降下していった。

 降り立って最初に気づいたのは、多数の観光客に混じって学校の制服らしきものを着た人間がちらほら見えることである。

 開会式も数日後に迫っているというのもあって、マギア・フェスタ参加校の生徒達が続々と集まってきているのだろう。そういえば、今朝も十数人分の魔力が新しく宿に入ってきていたっけ。

 あれも、多国間交流の一環なのだろう。普通に考えれば、一つの宿泊施設に同じ学校の生徒をまとめた入れたほうが管理しやすいのだから。

 もっとも、目の敵にされている身としては、肩身が狭いものである。ただでさえ、身内からも疎まれているというのに。

 これなら、制服だけじゃなくて私服も用意して来るんだった。あ、でも全員が私服なないと意味がないかと、昶はどうでもいいことに考えを巡らせていた。

 そうこう考えていると早速、殺気混じりの視線がどこからともなく飛んできた。昶がその方向をちらりと見てみると、いたいた。制服を着た集団が一つ、敵意を隠す様子もなくこちらを睨みつけている。

「鬱陶しいのがいるわね」

「シェリー、あんなの相手してたらキリないわよ」

「…その気持ちは、本番まで、取っておく」

「み、みなさん、物騒なことは置いておいて。早くご飯にしましょうよ。ね?」

 昶だけではなく、全員気付いているらしい。今にも噛み付きそうなシェリーをレナとリンネが抑え、その背中をアイナがぐいぐいと押してゆく。

 そもそも、大会前に問題を起こしたら出場停止ものだ。シェリーのあれも、冗談であって欲しいものであるが。

 ともあれ、気分転換に来たのにこれでは意味がない。まずは腹ごしらえからと、五人は街の中心に向かって歩き始めた。




 しばらくして、五人はメルカディナスの中心街へとたどり着いた。そこからやや離れた小山の上には、王家の住まう居城が見て取れる。

 周囲には城よりも高い場所はないので、見晴らしはいいことだろう。あれなら、真上から攻めてこられない限りどんな敵でも容易に発見できるに違いない。

 しかしながら、王家の城に興味のある者は非常に少なく、みな昼食や商売に精を出していた。

「なんか、混沌としてるな……」

 街の第一印象を、昶はそう評価した。

 衣服の材料や意匠、装飾品、皮膚や頭髪の色、それとあちこちで飛び交う言語。どれをとっても統一感というものがまるでない。

「マギア・フェスタの時は、どこに行ってもこんなもんよ。近隣諸国から人が大勢集まるから」

「これでもまだ少ないくらいだしねぇ。大会当日になったらもっとすごいわよ。レナが酔うって言ってたくらいだから」

 レナとシェリーは、去年の大会を思い出しながらそう語った。

 観光側ならともかく、商売する方も過半数が他文化圏っぽいイメージを受ける。明らかに南国からきたっぽい浅黒い肌の商人や、こっちは砂漠地帯からだろうか。全身に白くゆったりした衣装をまとっている。

 しかも魚介系のにおいがすると思ったら、干物を売ってる人まで。さすがに、保存技術も輸送技術も未発達なこの世界で生魚は無理があったか。中には、詐欺まがいのぼったくり価格で二束三文の骨董品を売りつけてる怪しいおっさんも……。

 祭りというのは、どこの世界もみんなおかしなテンションになってしまうものらしい。

「あぁ、いいにおい……。一段とお腹が減ってきた」

 無造作に敷き詰められた大量の屋台から、空腹を刺激するおいしそうなにおいが流れてくる。シェリーは鼻を引くつかせながら、目を細めてにおいのする方へと引き寄せられていった。

 シェリーを追いかけて、四人はその後ろに続く。

「それにしても、これでまだ少ないのか。シュタルトヒルデの感謝祭(ネプティヌス)とどっちが多いかな?」

「最終的な人数は、こっちの方が圧倒的に多いわよ。感謝祭(ネプティヌス)も有名なお祭りだけど、あれはレイゼルピナの西部地方での話だし。地方のローカルなお祭りと、多国間の競技会を比べちゃ駄目でしょ」

「ちょっと待ってください」

 今一瞬、昶とレナの間で聞き捨てならない会話があったような気がした、てかあった!

 アイナはギロリと目尻を吊り上げて、ぐぐぐっとレナにつめ寄った。

「レナさん、いつの間にアキラさんとそんなお祭りなんかに行っちゃってるんですか!? 知りませんよ私!」

 そんな羨ましいイベント、いやそもそもアイナは感謝祭(ネプティヌス)の存在そのものを知らなかったわけであるが、そんなことはどうでもいい。

 レナが、昶と、お祭りに行っていたという事実が重要なのだ。

「あぁぁ…………。知ってたら、私も付いて行ったのに」

「内密にって頼まれてな。断れなくて」

「遊んでる暇なんてなかったわよ。お仕事よ。お仕事……。大変だったんだからね」

 そう、大変だった。なにせ、相手が相手である。レイゼルピナ王国第一王女、第二王位継承者のエルザ=レ=エフェルテ=フォン=レイゼルピナ王女殿下の護衛を仰せつかったのだ。しかも公式非公式以前に、抜け出して見に行きたいからという理由で。

 その上このお姫様が、けっこうお転婆(てんば)で活動的で元気で超の付くほどアクティブで、護衛されてる自覚なんてまるでないものだから、護衛する方は気の休まる間もなかった。

 レナは人混みの中あちこち連れ回され、昶もエルザの専任護衛官であるネーナと少し離れた位置から見失わないよう警護と周辺監視をしていたのである。

 しかも海竜レースの優勝商品の、『おいしいディナーを食べながら特等席で花火を見よう』が欲しいと言い出し、昶とネーナが大会に出場している間に反政府勢力からは襲われたときたものだ。

 まあ、レナにもエルザにも怪我がなくてよかったといえばよかったのだが。

「それと付いて行くっていっても、竜籠(りゅうかご)の定員もあるから、知ってても連れて行けないわよ。まぁ、終るまで他言無用って言われてたから、教えるってのも無理だけどね」

 それを聞いて、アイナは再び肩をがっくしと下げたのであった。

「にしても、たかが生徒の競技会でよくこんなに集まるな。魔法兵で演習とかした方が盛り上がりそうなもんだけど」

「…それは、間違い」

 と、感想を漏らしていた昶に、リンネが鋭い突っ込みを入れた。

「…一般的な魔法兵は、そこまで強くない」

 意外すぎるリンネの発言に、昶は目を丸くする。

 一般的な魔法兵がそこまで強くないって、なにかの冗談ではないのだろうか?

 兵というからには、それなりの実力があってしかるべきである。

「そうなのか?」

 信じられなくてレナにも聞いてみるが、答えはリンネと同じであった。

「そうね。リンネの言う通りで、この大会に出場してるのは、その国でもトップクラスの実力校。将来はその国の魔法兵の中でも、トップエリートになるような人達が参加してるわけだから、見応えはすごいわよ」

 そういえば、あんたが会ったのってほとんど蒼銀鎧以上のエリートがほとんどだったわね、とレナは最後に付け加えた。

 思い返してみれば。確かに記憶にあるのは白銀や蒼銀の鎧ばかりで、一般クラスの赤銀鎧はほとんど見覚えがない。

 恐らくだが、赤銀鎧の魔法兵が放出する魔力量は、一般人に毛が生えたレベルでしかないのだろう。

 生物というものは、生きている限りは何かしらの霊的な力を放出している。無意識の内に、ここまでは感知しないというフィルターにかかって知覚できていなかった、というのも十分に考えられる。

 だとすると、レイゼルピナ魔法学院の生徒達は魔力量に関して言えば昶のフィルターにふるい落とされないほどの量があるということであり、既に一般的な魔法兵よりも大きな力を持っているということになるわけだ。

 この世界に来て半年は経つが、まだまだ認識を改めねばならないことが多々あるらしい。これは、ますます本気の力を使うのは避けるようにしなければ。

「ほとんどプロに足突っ込んでるアマチュアの大会ってわけか……。そりゃ、確かにすごそうだ」

「…それに、魔法兵同士が戦うと、軍の面子……とかもあって。ちょっと面倒」

「むしろ、そっちが主な理由だったりして」

 言ってしまってから、アイナはようやくしまったと余計なことを言ってしまった自分を悔やんだ。

「深く考えちゃ駄目よ、アイナ。こういうのって、けっこうしょうもない理由だったりするんだから」

 ある意味一番ありえそうな理由に、四人ともちょっと気が滅入る。もしそんな理由だったとしたら、相当に格好が悪い。

 世の中、知らない方がいい情報というものがあるが、これは間違いなくそういう類のものだろう。

 大会が始まる前から、士気は順調に右肩下がり。これで、本番は大丈夫なのだろうか。

 昶だけでなく、レナやアイナまで不安になってきた。

「ほう、ほひふほほあひはってふほほ!」

 するとそこへ、アツアツの揚げパンをはふはふしながら、右手にホットココア、左手に特大フランクフルト、そして額には必勝ハチマキみたいなものを装備したシェリーが戻ってきた。って、どんだけ満喫しているんだ、お前は。

「シェリー、せめて口の中のもの飲み込んでからにしなさいよ」

「でもレナさん、あれすごい熱そうですけど」

「…火傷待ったなし」

 そして三人から総スカンをくらったシェリーは、揚げパンよりは熱くない(熱くないとはいっていない)ホットココアで、口の中で暴れていた揚げパンを一気に胃の中へと押し込む。が、さすがにホットココアでは十分な冷却はできなかったらしく、胃の中でも絶賛大暴れ中の揚げパンにシェリーは全身をもぞもぞさせてもがいていた。

 それから少しして、ようやく落ち着いたらしい。猫背になって、胃の中の熱い空気を勢いよき吐き出す。

「あぁ、空気が冷たくて気持ちいいわ」

「食い意地はるからそうなるのよ」

 レナに叱られたシェリーは、面目ないとチロっと舌を出して見せる。

 よく忘れがちであるが、年齢的には一応レナの方が年お姉さんなのである。

「…自業自得」

「で、さっきの揚げパンはどうだったんですか?」

「あ、うん。なんか砂糖がふってあってね、パンというよりもお菓子みたいな感じだった。おいしいわよ。アイナも食べる?」

 と、シェリーはフランクフルトをほお張りながら、先ほどの揚げパンを買ったお店のほうを指差す。のだが、人がいすぎて正直よくわからない。

 よくもこんな中、手口額とフル装備でまともに歩けるものだ。これも普段の練習による、体幹の強さとバランス感覚の賜物か。

 シェリーはさっさとフランクフルトの処理も済ませると、アイナを引き連れて再び人混みの中へと分け入って行った。なんだかアイナの悲鳴が聞こえたような気がするが、きっと空耳だろう。うん、空耳にしよう。

「あたし達は、もうちょっと人の少ないとこにしましょう。シェリーほどお腹へってないし」

「そうだな。リンネ、案内頼めるか?」

「…任せて」

 アイナをシェリーの生贄に捧げたところで、三人はまったりと昼食タイムへと移行するのだった。

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