Act09:商人と科学の国
昶がこの世界に残るかもしれない。レナとアイナは朱音が帰ってしばらくしてから、ようやくその事実に気付いた。
その後、久し振りに濃密なやりとりをした二人の間では、ある密約が交わされた。
色々と条件はあるものの、とりあえず朱音が帰るまでは一時休戦、となったのである。
待ってくれる人が居るなら絶対に帰った方がいいと思っていたレナであるが、待ちきれずに迎えに来た朱音の言葉は、レナには意外すぎる言葉だった。
必ずしも連れて帰るつもりはない。異世界にまで迎えに来ておきながら、朱音はそんなことを言ったのだ。
もし、もしもだ。もし昶が、自分の世界に帰らなかったとしたら?
昶が自分の意志で帰らないことを決めたとすれば、一緒にいたいって、あたしもそんな風に思ってもいいのかなぁ?
昶は、気付いているのだろうか。口では帰った方がいいなんて言っておいて、今更虫が良すぎると思うけど。
でも、やっぱり昶とは別れたくなんてないから。
「レナさん、私と協力しませんか」
「奇遇ね。あたしもちょうど、同じことを考えてたところよ」
昶が未だにどうしようか悩んでいるのは、レナも知っている。
帰るべきか、ここに残るのか。レナはこれまでの間、前者を進めてきた。家族が、待ってくれている人が、昶にもいるはずだから。
だがその家族が、こっちに残ってもいいと言っている。それも昶は、元の世界よりもいきいきしていると。
昶が昶らしく生きてゆける世界が、自分達の世界だとすれば。昶を傍でずっと支えてあげるのが、自分の役目なのではないか。
帰すのではなく、共に並び立ち、支え支えられながら同じ時間を過ごすのが、昶にとっての一番ならば……。
その隣にいるのが、あたしだったら嬉しいな。
新たな決意を胸に秘め、レナは深い眠りへと落ちてゆくのだった。
翌日。早めに全員が集合できたのもあり、水蒸気機関車は予定より少しばかり早く出発した。これならば、お昼を少し過ぎた頃にはメレティスの首都、メルカディナスに到着するだろう。
まあ、それはそれとして、だ。
「ねぇ、アイナ。この状況って、いったいどうなってるわけ」
「それはむしろ、私が聞きたいくらいなんですけど」
休戦協定を結んだレナとアイナだったのだが、ここに来て予想外の事態が起きていた。
「リンネさん、いったい何をあんなに話してるんですか? 私全然わからないんですけど!」
「あたしだって、なんとなくしかわかんないわよ。時々、数学っぽい話をしてるみたいだけど……」
二人の斜め後ろのボックス席。昨日から引き続き、リンネのトークが止まらないのだ。
昨日から続いている電車の話に加えて、日本の高速鉄道である新幹線や研究中のリニアモーターカーの話をしている。高度な魔法技術と正反対に、科学技術が近隣国と比べて貧弱なレイゼルピナ国民のレナ達には、単語そのものが既に未知の領域なのであった。
昨日はまだ、水蒸気機関車──現在レナ達が乗っている乗り物──の話だったからなんとなくわかったが、今の話はまったくちんぷんかんぷんなのである。
ちなみに、席の組み合わせは昶、朱音、リンネ、シェリーの四人組、ソフィアとシャリオの二人組、そしてレナとアイナの二人組となっていて、席はそれぞれがかなり離れていた。
「だったら、ちょうどいいわ。打ち合わせでもしましょう」
「そ、そうですね。あの、盗み聞きされたりは、しませんかね?」
「う~ん。どうかなぁ、集中すれば小声で話してても聞き取れるだろうけど、これだけ騒がしいとねぇ」
列車の機関音と駆動音、そしてそれに負けない生徒達の話し声。
一度だけ使った昶の肉体強化の感覚を思い出しながら、レナは大丈夫だろうと思った。そもそも五感の強化、特に聴覚に関しては指向性で特性が大きく異なるのである。
特に視点を定めなければ単に広範囲の音を収集し、聞き分けることができる。
逆にあそこのあの人の声を聞きたいという風に視点を定めると、数十メートル先の声でも聞くことができる。
つまり朱音どころか、昶にだってこの話を聞かれている可能性があるわけだ。
とはいえ、もし昶がこの話を聞いてくれているなら、むしろ好都合でもある。自分達にとって昶は何にも代え難い存在で、ずっと一緒にいたいと思っていると、伝えることができる。
昶に直接話したわけではないので、これなら朱音の条件にも引っかからない。
「ほんとうに、マジュツシさん達の術ってとんでもないですね。五感まで強化できるって、どういうことですか」
「あたしも使ったのは一回だけだったけど、かなりすごかったわよ。でも身体に合わなかったみたいで、全身を内側からくすぐられてるみたいだったけどね」
と、昶達の使う肉体強化の説明をレナから簡単に教えてもらったアイナであるが、うへぇと強烈に苦い顔をした。
「うわぁぁ。それ、けっこうキツくないですか?」
それっていったい、どんな状況なのだろう。くすぐったいのか、それとも痛いのか。想像しただけで背中がぞわぞわざってなってくる。
「キツいけど、使えるようになったらきっとすごいわよ。目だってすごくよくなって、遠くまではっきり見えるようになるし。それに動体視力もすごく上がるから、たぶんシェリーの剣なら楽にかわせるようになるわ」
「あの、シェリーさんの剣、かなり速いですよ?」
「でも、本当の意味で全力の昶ほどじゃないでしょ」
「そりゃ、そうですけど……」
アイナは創立際の日の出来事を思い返す。あの日目の当たりにした、昶の本当の力を。
肉体強化時のシェリーも確かにすごいのだが、昶の場合はこう、根本から違うくらい別次元にあるというか……。
とにかく、すごいというのしか印象に残っていないくらいすごかった。肉体強化もそうだし、使っている術も同じく。
シェリーには悪いが、これにはレナに同意せざるを得ない。
「それで、アキラさん引き止め作戦は、具体的に何をするんですか?」
「そこよ、問題なのは」
「へ?」
話の筋も戻ってようやく本格的な会議が始まると思った矢先、発案者のレナはいきなりため息混じりにそんなことを言い出したのだ。
これにはアイナも、思わず頭の中が真っ白になった。まだ何の作戦もでてきていないのに、いったいどこに問題があるのだろう。
「あのねぇ。ちょっと考えればわかるでしょ。帰る帰らないの話は、あたし達から話しちゃいけないのよ?」
「そ、それくらいわかってますよ。で、それがさっきの話とどう繋がるんです?」
「はぁぁ。つまり、あたし達からはアプローチができないわけ。ひたすら待ちな状況なわけよ。これで、どうやって昶を引き止める気なのよ?」
「あぁッ! なるほどぉ!」
「だから、引きとめるんじゃなくて、相談されなきゃいけないわけよ。わかった?」
「あ、はい。とっても……」
レナに説明されて、アイナはようやくそのことを思い出した。ある意味で一番重要な部分なのだが、完全にすっぽ抜けていた。
だって、しょうがないではないか。誰かの意志ではなく、昶が自分からこの世界に残りたいと思っていれば、朱音は無理に連れて帰ったりしないと、確かに言ったのだから。
別れを待つだけだったアイナにとって、それがどれだけ嬉しかったことか。
無論、昶が帰ってしまう可能性だって、全くのゼロではないが、そうならないように頑張ることだってできる。まあぶっちゃければ、アイナは止められても昶に付いて行く決心をしているのだけれど。
「前々から思ってたけど、あんたけっこう頭悪いわよね」
「どこぞの貴族様と違って、孤児院育ちの一般市民ですから。教養なんてありませんよ~だ」
「いや、今のは直接話を聞いていた人なら、誰でもわかると思うけど。もしかして言葉も不自由するほど教養がないのかしら?」
「なっ!?」
そこまで、そこまで言いますか!
そりゃ、お上品な会話は今でも苦手だし、貴族様の言葉も時々わからない単語は出てくるけど、学院の生活で不自由したことなんて………………ほんのちょっとしかないもん。
「まぁ、それはこの際どうでもいいのよ」
「自分でふっかけといて放置とか、レナさんも相当ヒドいですね」
ちょっとばかしアイナが呆けていた間に、言葉不自由疑惑をどうでもいい扱い。
これでは、ほんとにちょっとだけだけど、一瞬のことでしかないんだけど、悩んじゃった自分がバカみたいではないか。
アイナはじぃぃぃぃぃっと、抗議の視線をレナに向けた。
「あんたの本性も見せてもらったし、今更気を使っても仕方がないじゃない。それとも、まだ気を使って欲しかったのかしら?」
「まさか。悪寒がするんでやめてください」
「じゃあいいじゃない。多少言葉で苦労してたのは事実だし。ただ、あたしはあんたと、“そういう風な話もできる”仲になったって、そう思ってるの」
「うぅぅ……」
おぼっちゃまお嬢さまとの会話に苦労してたのも、完全に見破られていたらしい。こっちは必死になんでもない風を装っていたのに。
しかし、今の会話で気付いたこともあった。そういう風な話もできる仲に、多少の悪口くらい言い合える仲になったと、レナはそう言ったのだ。
大貴族のご令嬢が、孤児院育ちの雑草みたいな自分を、曲がりなりにも対等な相手と見てくれている。
何とも言えない感情が、身体の内側からふつふつと湧き出てくる感触に、アイナは少しはにかんでいた。
「な、なによ、気持ち悪いわね。いきなり笑い出して」
「なんでもありませんよ。丸くなっても、レナさんはレナさんだなーって思っただけです」
「悪かったわね、トゲだらけで」
「えぇ。だから、いつもアキラさんが心配なんです。レナさんのトゲに刺されていないか」
「ちょっとあんたいい加減にぃ……」
アイナの皮肉に顔を突き出して反論しようとしていたレナが、いきなり固まった。
いったいどうしたのだろうとアイナがレナをよく見てみると、その視線は自分にではなく窓の外へと向けられている。レナの視線を追って、アイナも窓の外の景色へと目をやると、
「うわぁぁぁ…………」
今までに見たことのない風景が、そこには広がっていた。
「すごい、こんなとこまで広がってるんだ。前は首都近郊部だけだったのに」
「レナさん、これっていったい……」
「これがメレティス。レイゼルピナとは違う、科学技術と商人達が主役の国よ」
アイナの視界に映ったもの、それは混沌と活気と煩雑でごったがえす、熱気と蒸気の溢れる街の姿だった。
メレティス王国は、様々な面でレイゼルピナとは正反対の性質を持った国である。
王国とついていながら政治は議会制であったり、貴族よりも商人の方が権力を持っていたり……。その中でも最も大きな違いが、ローレンシナ大陸で最も発達した科学技術である。
優秀な魔法兵の少ないメレティスでは、その科学技術を用いた兵器を多数配備することにより、周辺国との軍事的バランスを保っているのだ。
しかも、科学技術のもたらす恩恵は軍事だけにとどまらない。科学技術とは魔法技術と違い、学びさえすれば誰にでも身に付けられる技術である。その科学技術の幅広い普及こそが、今日のメレティスを形作ったと言っても過言でない。
『レイゼルピナ魔法学院の皆様、長旅お疲れ様でした。当列車は、終点の首都メルカディナスに到着致しました。マギア・フェスタでのご活躍、期待しております。列車とホームの間には段差がありますので、足下にはお気をつけください』
マイク越しに、車掌が目的地への到着を告げる。学院を出発してから一日半、レイゼルピナ学院の生徒達はようやくメレティス王国の首都、メルカディナスへと到着した。
物珍しい水蒸気機関車も、これだけ乗っていればさすがに飽きる。元々乗り心地はそこまでいい方ではないし、一等席といっても飛行船舶と比べれば狭い。
とはいえ、レイゼルピナとは異なる車窓からの景色は、たっぷりと堪能することができたようで。みんな窮屈なりにも、列車の旅をそれなりに楽しんでいたようだ。
「さて、集まりましたね。あまり長居していても邪魔なので、手短に済ませます。今日から五日後のマギア・フェスタ開催までは、自由行動。観光しようが魔法の練習をしようが、好きにやってください。宿泊場所と練習場は確保してあります。食事は学院と同じ時間帯で、朝夕の二回。昼食は各自の判断で行ってください。くれぐれも、他校の生徒や付近の住民に迷惑をかけないこと。宿泊場所と部屋割りは事前に配っている資料を参考にしてください。大荷物はこちらで運んでおきます。では、解散」
引率であるはずのメルチェリーダだが、生徒の監視はここで終わりらしい。
生徒達は全身の筋肉と関節をほぐしながら、いくつかのグループに分かれて駅舎の中へと移動していった。
ここまでくると、自主性に任せると言うよりもほとんど放任のような気もしてくる。大会開催まで完全に自由行動だなんて、昶も朱音もソフィアも聞いたことがない。
大会の一週間近く前に現地入りしたのだから、学校側としてはそれなりの練習メニューやら、予定やらを立てて置いてしかるべきではなかろうか。
しかし、生徒達は特にこれといって疑問は持っていないようで、みんな楽しそうにしている。これが、レイゼルピナ魔法う学院の特色というやつなのだろう。
「で、みんなこの後の予定はどうするの?」
周囲の上級生達から敬遠される形で、自然と一ヶ所に集まっている昶の関係者一同。その中でシェリーは、持ち前のリーダーシップを発揮してくれている。窮屈な空間から解放されてか、目がキラキラしている。
「長旅で疲れたし、あたしは自分の部屋で休んでるわ」
「私も。水蒸気機関車、揺れが酷くてまだふらふらします……」
シェリーの質問に、レナとアイナは真っ先に答えた。しかもアイナは、どうやら列車酔いしてしまったらしく、顔色も良くない。
「ぼくは、ちょっと孤児院のみんなと会ってきます」
「わたくしも、院長先生にご挨拶と、他の子達の顔も見たいですから」
シャリオはこの近くに育った孤児院があるそうなので、そちらに顔を出すらしい。もちろん、ソフィアも一緒だ。
そしてシャリオ同様にもう一人、このメレティス出身者がいる。
「…あたしは、実家に行ってくる」
昨日から別人のように語り続けているリンネは、昶と朱音に目配せをしながら、恥ずかしそうにそんなことのたまった。
付いて来て欲しいんだろうな、これは。
昶は一応、朱音の方を見てみるが、小さくお手上げのポーズをしていた。
これは、諦めるしかないか。
「わかった。一緒に行けばいいんだろ」
「昶よりは色々知ってるから、私も行くわよ。リンネちゃん」
「…ありがとぅ、アキラ、アカネさん」
ああもう、すごい喜んでるよ。放っておいたら、スキップでも始めそうなくらい。
こんなに喜ばれたんじゃ、付いて行かないわけにもいかない。
「それじゃ、私もリンネに付いて行ってみよっかな~。リンネの実家も気になるし」
と、シェリーはがしっと背後からリンネに抱きつく。
とりあえずは、今日の予定は決まったらしい。それぞれ自由行動。
「じぁあ、あたし達は先に行ってるわね」
「お先にお休みさせていただきます」
レナとアイナは杖に乗って、空から直接宿泊場所へ向かい、
「では、わたくし達も行って参ります」
「行ってきま~す!」
ソフィアもシャリオを抱えて、駅舎の向こう側へ飛んで行き、
「じゃあ、行こっか。リンネ、案内して」
「…うん、こっち」
「昶、あんた顔色悪いけど大丈夫?」
「隣で見といてそれ聞くか普通?」
そしてリンネを先頭に、シェリー、朱音、昶の四人は駅舎をくぐって外へ出た。
駅を出てすぐ、大きな暗灰色の塊が三人の目に映った。
塊には窓のようなものがあり、列車のものを小さくしたような車輪が三つほど見える。恐らく反対側も同様の形状をしているから、車輪は合計で六つか。周囲の風景と比較しても、その塊は異様に際立っていた。
そんな怪しげな物体に向かって、リンネはすたすたと歩いて行く。昶達はやや不安に思いながらも、リンネの後ろに付いて歩いた。
「ねぇ、リンネ。これって、いったい?」
絶句したまま次の言葉が浮かばないシェリーは、ただただその塊──機械に見入っていた。こんな物、今まで見た事がない。
しかし、昶と朱音はなんとなく検討がついていた。自分達の知っているものと形は大きく異なるが、恐らくこれは……。
「…水蒸気自走車。すごい、できてたんだ」
自動車、なのだろう。水蒸気で動く、この世界の。
間近で見ると、大きさは小型のバスくらいある。水蒸気機関車をそのまま押し固めたみたいな、金属特有の重厚感と重量感が伝わってくる。
「お帰りなさいませ、お嬢! 待ってましたよ」
「…迎えに来てくれて、ありがと。話には聞いてたけど、できてたんだ」
「えぇ。ようやっと昨日。ただ、水蒸気機関の小型化がうまくいきませんで。これでも、だいぶ小さくしたんですが……。そちらは、お友達で?」
「…うん、紹介するね」
リンネはひょいっと、迎えに来た男の人の横に立って三人を見上げながら、
「えっと、アンフィトリシャ商会の製造部門の、新進気鋭の技術長」
「どうも。お嬢がお世話になっとります」
「…それで、シェリー」
「どうも」
「…アキラ」
「初めまして」
「…アキラのお姉さんのアカネさん」
「こちらこそ、うちの弟がお世話になってます」
手早く挨拶を済ませて、五人は水蒸気自走車に乗り込んだ。小型のバスくらいの大きさがある水蒸気自走車であるが、人の乗り込める場所は普通車くらいしかない。
なるほど、ほとんどが小型化できなかった水蒸気機関になっているのか。
「それでお嬢、どこに行きましょうか?」
「…あのね、製造部門。その、みんながびっくりするニュース、あるから……」
「わかりました」
自動車を想像していた昶や朱音の期待を裏切って、水蒸気自走車は静かに出発した。
とはいえ、これだけの巨大を動かすには、小型化途中の水蒸気機関では役不足だったようで、加速性にも問題大だ。
「ただお嬢、この水蒸気自走車、小型化以外にもまだ問題がありましてな」
昶達の感覚で一分ほどが経ったくらいで、水蒸気自走車はようやく速度を上げ始めた。
先ほどまで抜きに抜かれていた馬車の群れを、みるみる抜き返して行く。少なくとも、馬車の倍以上の速度はでているだろう。
加速性は悪いが、速度的には申し分ない出来ではなかろうか。
「まだ、一キロくらいしか走れないんですわ」
みんながみんな水蒸気自走車に感激していた矢先、技術長の一言で空気が凍り付いた。
え? たったの一キロしか走れないの、この車。それって、もうすぐなんだけど。
「いやー、どうしてもお嬢に水蒸気自走車を見せたくて。すいませんなぁ。しかしまぁ、馬車を待機させてますんで、心配には及びません」
最大速で走れたのは、標準時換算で五秒。地球の時間ではわずか十秒ほどであった。
出発時よりも緩やかに、少しずつ速度は落ちてゆく。先ほどごぼう抜きした馬車にも再び抜き返され、メインの道路から少しそれた脇道で水蒸気自走車は停車した。
技術長の言った通り、一キロと少し進んだ先で五人は馬車に乗り換えるのだった。