調査報告・参
シュバルツグローブの奥地にある、レイゼルピナとメレティスの国境沿い。誰も近寄れないこの場所に、彼らの本拠地はひっそりと存在している。
真・域外なる盟約。
一部の人間の間では異法なる旅団の名で知られる、域外なる盟約の戦闘組織として認識されている集団である。
水精霊の結晶により即席の港を作り、そこに彼等の船は停泊している。認識を阻害する結界も数種類張られているので、危険な獣魔達に襲われることもない。
その船室の一番広い部屋で、パステルグリーンの髪をした大男は、ベッドに全身を投げ出して……
「うっわぁぁ……。どうしてオレ様はこう考えなしなんだ。死にたい……」
う~う~うなっていた。
「スメロギ様ぁ、だからあの時連れてくればいいと言いましたのに」
うなっているのは、マサムネ=スメロギ。
真・域外なる盟約の長である。もっとも、こんな醜態を晒している時点で、威厳なんてこれっぽっちもないわけであるが。
そんなマサムネの元に、夜食の麺料理をお盆に載せた女性がやってきた。
彼女の名前は、アマネ=ミカド。実質的に、真・域外なる盟約の副官的な立場にいる人物である。
とはいえ、副官というよりもマサムネのお世話係の方が割合的に多かったり。
「うっせぇ。しゃあないだろ、あのガキ、すんげぇムカついたんだから」
「あと先考えずにその場の流れだけで物事を決めてしまうのは、スメロギ様の悪いクセです。もっとも、完璧ではないからこそ、お仕えのしがいがあるのですが」
と、アマネは夜食を渡しながら、頬をぽっと染めた。
しかし残念なことに、マサムネにアマネの思いが届くことはなく……。マサムネは、ずずずーっと豪快な音を立てて麺料理をすすった。
うん、豆のソースと鶏ガラからとった出汁が、いい感じに効いている。
「っとに、調子のいいことを……」
「調子に乗って、源流使いを引き入れ損ねた方は誰ですか?」
「うぅぅ……」
何も言い返せないマサムネは、素直に麺料理をすすった。
あぁ、料理は美味いはずなのになぜだろう、気まずさで全然味がわからない。
くそ、あの時連れてきてたら、この麺料理もちゃんと味わえたはずなのに。もう、オレ様のバカ野郎。
「いやマジで、何も言えねぇけど……」
と、マサムネはスープまで綺麗に飲み干して、底の深い容器をどんっとテーブルに置く。
そしてマサムネの夜食も終了したところで、アマネも本題に入った。アマネは事前に用意してきた二部の紙媒体の資料を、片方マサムネに手渡す。
その資料の見出しを見た瞬間、マサムネの目つきが変わった。
「まぁ、アキラ様の件はキャシーラに任せるとして、例の宝具の調査の件、経過報告が上がってきました」
「ついにか……。さぁと、お宝どもは、いったいどうなってんだぁ?」
マサムネはわくわくしながら、まずは一番上の資料に目を落とす。
「一応確認のためですが、天藍碑は前回の大戦以降、我らが族長が保有しています。それはよろしいですね」
「あぁ。だから俺達は、残りの二つを必死こいて探してるわけなんだからなぁ」
とはいえ、マサムネもアマネも、その宝具──天藍碑──を実際に目にしたことはない。
そんな名前の、とんでもない魔法を使えるようになる宝具がある、と聞いたことがあるだけだ。
したし、その存在を示す資料はいくつも見つかっている。
現在の域外なる盟約を仕切っている源流筋の連中と真正面からことを構えようと思えば、そんなおとぎ話じみた宝具も必要となってくるのである。
「それではまず、通称パピルス文書と呼ばれている黄金珠ですが、数年前の一件でローゼンベルグからレイゼルピナに渡ったようです。そこから先はまだ調査中ですが、レイゼルピナに入ったのまでは確かです」
「黄金珠っつうと、戦女神計画の中枢を担ってたとかゆうアレだよな」
現在はレイゼルピナの一部となっている、かつてローゼンベルグと呼ばれていた国では、足りない兵力を補うべく精霊を作り出す研究をしていた。
計画自体は失敗してしまったが、成功例の存在はマサムネ達も確認している。
「はい。まさか完成まで持っていけるとは、私も含めて源流筋の方々は誰も予測していませんでした」
「精霊すら作り出せる宝具かぁ……。いったいどんな仕組みになってんだか」
「それがわからないので、宝具と呼ばれているのでしょう」
そういえば今回の一件、どこぞのトンデモ術者が人工精霊を使っていたな。マサムネはちらっと見た程度だが、実物はやっぱり凄まじかった。
中位階層クラスでも、たった数柱で街一つを壊滅させていたのだから。とはいえ、人工精霊を完成させる技量は驚嘆に値するものの、マサムネは実際に使おうとは思わないが。
黄金珠に関する資料に目を通したマサムネは深呼吸を一つすると、アマネに向き直った。
「で、問題の大紅秘玉は?」
「なにぶん記録が少なかったもので難しかったですが、なんとか」
アマネは資料をめくりながら、その内容を噛み砕いて説明を始める。
「大戦前まではアプリスプの一族が擁していたようですが、謎の勢力に襲撃、強奪され、大戦後はバルトシュタインに渡りました」
「前大戦っつうと、七〇年近くも前だかんなぁ……。その頃のバルトシュタインっつうと、まだ未開のド田舎だったわけだろ?」
「えぇ。ですので、手っ取り早く、力を手に入れたかったのでしょう」
とそこで、アマネの顔に影が差した。
いったいどうしたというのだろう。何か悪い情報でもあったのだろうか。
別にアマネが悪いわけではないのだから、気にしなくてもいいものを。
「ただその大紅秘玉なんですが、十一年前に盗み出されてしまったようです」
「んだと?」
「そして、その盗み出した犯人の名前も、わかりました」
「マジでか……?」
「当時の域外なる盟約の族長連も一枚噛んでいたようで。別ルートから探していたものが繋がりました」
「…………腐ってやがるぜ。これだからジジイ共は嫌いなんだ」
やはり、今の域外なる盟約はもうダメだ。
そりゃ、まともなやつはいるが。族長連で唯一まともなのが会長をやっているからまだいいが、もし会長が変わるようなことがあれば源流筋の連中は自分達を放ってはおかないだろう。
「で、いったいどこのどいつなんだ? バルトシュタインから大紅秘玉を盗んだ犯人は……」
「……聖リリージア国、元聖殿騎士団所属、レイネルト=ル=アギニ=ド=アナヒレクス…………です」
その名を聞いた瞬間、マサムネはなぜアマネが悲しそうな顔をしたのかを悟った。
特に可愛がられていたからな、アマネは。
「……そうか」
そしてマサムネも、アマネの悲しみが移ったかのように勝ち気な表情に影を落とす。
「……あの、くそ生意気なオレンジ頭が、な……」
マサムネはしばらく、資料に書かれたその名前を見つめ続けていた。
そして資料をアマネに返しつつ、次の指示を出す。
「アマネ。キャシーラに連絡だ。ついでに、あのふぬけた源流使いも釣り上げる」
「承知いたしました。それで、内容はどのように?」
マサムネは命令する内容を大雑把にアマネに伝える。
もう外の連中とはなるべく関わらないと決めたのに、やっぱりそれは無理って話か。
だが、どうしても聞き出さねばならない。レイネルトがバルトシュタインから盗み出した大紅秘玉が、今どこにあるのか。
そして今、レイネルトはどうしているのか……。
初めましての方、初めまして。お久しぶりの方、おひさしぶりです。最近なかなか時間が作れず、帰宅後ぐったりの蒼崎れいです。最近残業がけっこうありまして、けっこう大変です。まあ、面白い事はやってるんですけど。
さて、次からいよいよ、レイゼルピナの外へと進出します。リンネちゃんがいろんな意味で本気を出します。いや~、今から楽しみですわ。
で、すぐにでも書きたいところなんですが、現在3DCADのお勉強中でして、とはいえちょいちょい書いたり残業とかであんまりできてません。で、ライセンス期限も10月いっぱいですので、そろそろ本気で危ないので、そっちに注力しようと思います。まだ会社でも導入してないので、私が第一号として頑張ってくれと、偉い人から…………。
そんなわけで、また少しの間更新停止しますが、ご容赦ください。まあ、奏交フォルティッシモ書いて、卒研にかかりきりになって、戦甲のヴェルメリア書いて、の期間に比べたら短いわけなんですけど…………。
では、また次回お会いしましょうノシ