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仮説展示室

掲載日:2026/05/12

高校の裏手に、それは突然できていた。


昨日まで何もなかった空き地。


駐輪場にほど近いそこには、銀色の仮設住宅のような建物が1つできていた。


プレハブ特有の、薄い鉄の壁。


でも人の気配は少ない。


「いつの間にできたんだろう」


誰に聞くでもなく、私はつぶやいた。



---



入口を開ける。


中は思っていたより静かだった。


床には何もない。


机も椅子もない。


ただ、左奥だけが少し違っていた。


そこには、小さな作業スペースがあり、

一人の職人が古い時計を分解していた。


細いドライバーを動かす音だけが、静かに響いている。



---



壁を見る。


そこには、無数の写真が飾られていた。


博物館みたいだった。


風景写真ばかり。


海。

山。

夕方の駅。

誰もいない道。


たまに人が写っていても、小さい。


後ろ姿だったり、遠くに立っていたり。


まるで、「誰か」ではなく「時間」を飾っているみたいだった。



---



「掃除、確認お願い」


いつの間にか声がする。


振り向くと、同じ高校の先輩たちがいた。


床には正方形のマス目の区画があり、

一人25マスと、それぞれ担当が決まっているらしい。


私は、その確認役だった。



---



歩きながら見ていく。


掃除された場所だけ、少し色が変わっている。


ちゃんと分かる。


ここは終わってる。

ここはまだ。


そんなふうに、タイルのマス目を数えながら一つずつ確認していく。



---



途中、一人の先輩の区画で足が止まる。


自転車が置かれていた。


室内なのに。


「これ、掃除大変そう」


思わず口に出る。


でも、先輩は特に気にしていない。


私は少しだけ考えて、何も言わず次へ進んだ。



---



確認を終えて戻る途中だった。


「ねえ、見て」


別の先輩が笑いながら手を見せる。


銀色の指輪。


細い輪が途中で二つに分かれ、

また一つに戻る、そんかな形の指輪。


そこに、小さなダイヤがついていた。


「婚約したんだ」


そう言って笑う。


私は「おめでとう」と返した。



---



先輩が帰ったあと、私は床に落ちている煌めくものを見つけた。


私はしゃがみ込んで、指輪を拾った。


先輩忘れて行ったんだ⋯。


気付かなかったのかな⋯?



---



ダイヤが少し浮いていた。


外れそうだった。


「危ない…」


私はなんとか押し込もうとする。


でも、うまくはまらない。


乗るだけで、固定されない。


触るたびに、不安定になる。



---



気づくと、指輪は眼鏡に変わっていた。


銀色のフレーム。


そこにも、小さなダイヤがついている。


「なんで…」


戸惑いながら触れると、

ダイヤがぽろりと落ちた。


胸がざわつく。


直さないと⋯



---



「すみません」


私は左奥にいた職人に声をかけた。


時計を直していた男が、静かに顔を上げる。


無言のまま、眼鏡を受け取った。


小さなネジを締める。


カチ、という音。


それだけ。


でも次の瞬間、

ダイヤはぴたりと固定されていた。


もう揺れない。


取れそうな気配もない。



---



「…すごい」


思わず声が出る。


職人は何も言わない。


ただ、元に戻ったそれを私へ返した。


気づけば、眼鏡はまた指輪に戻っていた。



---



私はそれを持って、先輩を探しに行った。


階段を上がる。


高校の校舎は、妙に静かだった。


二階。

三階。


教室を覗く。


でも、先輩はいない。



---



「先輩、どこ行ったか知りませんか」


別の先輩に聞く。


「あー、さっきどっか行ったよ」


軽く返される。



---



私はまた歩き出す。


銀色の指輪を握ったまま。


渡さなきゃ、と思う。


ちゃんと返さなきゃ。


でも同時に、どこかで分かっていた。


もう、私の役目は終わっているのかもしれない、と。



---



廊下の窓から、仮設住宅が見える。


銀色の壁が、朝の光を反射していた。


まるで、一時的な場所。


ずっとは残らない場所。



---



私は指輪を握ったまま、

静かな校舎を歩いていく。


誰もいない教室の前を通り過ぎながら。


まだ少しだけ、探している。










そんな中、私は目を覚ました。

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