3 星の本音
列車がゆっくりと減速していきます。
「まもなく、さそり座ステーション。降りる方はいませんか?」
窓の外に、赤く輝く星が見えます。
「あれ、アンタレス。さそり座の心臓です」
「赤いね...」
光でできた駅が見える。でも、誰も降りる様子はない。
「ねえ、ここで降りたら、元の世界に戻れるのかな」
「...どうでしょう。戻れるかも」
まだ戻りたくないです。でも、僕からは言えません。
沈黙。
「...どうする?」
「綾香さんは?」
綾香さんは、窓の外の星々を見つめて
「私は...もうちょっと乗ってたい」
「じゃあ、僕も」
僕はほっと息をつきました。列車は天の川へと進んでいきます。
「さっきの告白、さ...」
突然、綾香さんが話始めました。僕はなんだか照れくさくて、
「あ、いえ、忘れてください。迷惑でしたよね」
「迷惑じゃ...ない。ただ、びっくりして」
「......」
綾香さんが僕をまっすぐ見つめて話し始めました。
「私、自分のこと好きだけど、誰かに好きって言われたこと、なくて」
「え?」
こんなに素敵な人なのに?
「みんな、怖がるから。ヤンキーって思われてるし」
「僕は、怖いとは思ってません」
これは僕の本心です。綾香さんに伝わってほしい。
「...知ってる。だから、困ってる」
「困ってる...?」
「どう答えたらいいか、わかんない」
沈黙。天の川の光が二人を優しく包む。
「でも、嫌いじゃない」
「!」
「まだ、付き合うとか、そういうのはわかんないけど...もうちょっと、話してみたい」
「はい...!」
僕はまだ綾香さんのこと勘違いしていたようです。僕が思っているよりもずっと素敵な人でした。
会話が続きます。さっきまでの気まずさが嘘のようです。
窓の外にオリオン座が現れました。
「オリオン座は冬の星座ですけど、ここでは見えるんですね」
「あの三つ並んでるの?」
「三ツ星です。オリオンのベルトって呼ばれてて」
「私、小さい頃、星になりたいって思ってた」
「星に?」
「うん。キラキラしてて、遠くからでも見える。そういう存在になりたくて」
「綾香さんは、もう十分キラキラしてますよ」
「...なにそれ」(少し照れた様子)
二人で、小さく笑いました。はじめて綾乃さんと同じ感情を持てた気がします。
「まもなく終着駅です。ご乗車ありがとうございました」
窓の外に、青い地球が見えてきます。
「ねえ、これって夢だったりして」
「夢でも、いいです」
「...変なの」(小さく笑う)
列車がゆっくりと地球に向かって降りていきました。
光に包まれる車内。
気づくと、二人とも学校の屋上に立っている。
列車の姿はもうない。
でも二人とも、確かにあの列車に乗った記憶がある。
「え...まだ5分しか経ってない」
「私も...同じ時間」
夜空を見上げる。星は静かに瞬いている。
「あの...また、星の話とか、してもいいですか?」
「...うん」
「明後日、流星群があるんです。屋上から見えるかも」
「......来てもいい?」
「! はい!」
綾香さん、小さく笑って屋上を後にしました。
一人夜空を見上げます。
景色は先ほどと変わっていません、でも、心が、少しだけ軽くなっていました。




