第一章 アルゼンチン・トスカ村・トスカ郵便局
郵便局の仕事は、存外忙しかった。
二年前の『崩壊』以降、郵便局など、全く意味のないものだと思っていた。
郵便を届けたい相手が、どこに、いつ飛んでしまうのか分からない現在、郵便など成立しない。
崩壊とともに消えた職場の一つだと、そう考えていた。
扉を開けて、品の良い高齢の女性が入ってきた。
「こんにちは。孫娘に手紙を送りたいのですけど、お願いできますか?」
「はい、お手紙ですね。お預かりしました。送り終わったら、左手の『端末』に表示されますので、確認してください」
「『端末』は私には難しくてねえ。送ってくれたら、それでいいから」
そう告げて、女性は窓口にクッキーを置き、ゆっくりと帰っていった。
様々なところで働いてきたが、高齢の女性がお礼にお菓子をくれるのは、どうやら世界共通らしかった。
私はクッキーをかじりながら、預かった手書きの手紙をスキャンする。
そのあと、スキャンデータを『端末』のメッセージフォーマットに合うよう加工し、送り先である孫娘の端末IDを検索し始めた。
「なんで自分でやろうとしないのかね」
隣の窓口で別の手紙を送り終えたレイモンドが、話しかけてくる。
彼はフランス出身の若者だった。私と同じ大学生で、初日からすぐに打ち解けた。
「ほんと、そうだね」
そう答えながらも、内心では、たぶん無理だろうなとも思っていた。
「こういう人が『懐古思想』の信者だったりするんだろうな」
と、レイモンドは平然と口にした。
繊細な話題にも気にせず切り込んでくる、その小気味よさと危うさを感じたのも、彼と打ち解けた理由の一つだった。
「そんなことを言うものじゃないよ。彼らのお陰で、私たちの『日雇い』があるんだから」
そうたしなめたのは、チャンさんだった。
妙齢の女性で、元々の仕事も年齢も、教えてくれなかった。
先ほどの手紙の一文が目に入る。
「また元の家で、あなたと、あなたのお父さんとお母さんと、四人一緒に暮らせる日が来ることを願っています」
それは、多くの人が抱えている願いだった。




