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再会

掲載日:2025/11/27

松下(まつした)、ずっと好きだった」


イケメンに変身した過去のクラスメイトは、周りの目も気にせず俺にそう言った。



成人式。

寒いしどうすっかなと思っていたけど、一生に一度だし、あとで『行っておけばよかった』って思うのも嫌だから参加する事にした。

遊園地での成人式なので、それなりに楽しそうだし。


中学で仲良くなって同じ高校に入り、別の大学に進んだ友人の史也(ふみや)も行くと連絡があったから、半年ぶりに会える。

史也とは頻繁には会えなくても時折生存確認の連絡をし合っている。

それ以外の中学・高校時代の友人とはすっかり疎遠になってしまったけれど、そういうやつらとも久々に会えると思うとわくわくするかも。


慣れないスーツに着替えてアパートの部屋を出る。

電車を乗り換えようとしたところで史也と一緒になった。


音和(とわ)、久しぶり。元気そうでよかった」

「史也もな」


ぽつぽつ話をしながら電車に揺られる。

成人式が行われる遊園地の最寄り駅に近付くと振袖・スーツの姿がどんどん増える。

そして到着。

一気に成人式一色。


久々に会った旧友達と声を掛け合う。

俺はもう誕生日が来ていて二十歳を迎えているのでワゴンで出ているビールを買って飲む。

史也はまだ誕生日が来ていないのでジュース。

みんな変わってなくて、なんかほっとする。

来てよかった。


と。

なんか周りがざわつき始める。

みんなの視線が一か所に集まっているので、ビールを飲みながらそっちを向くと、長身のイケメンの姿が。


「…すげ」

「みんな見てんな。特に女子」


俺と史也でこそこそ言っていると、周囲を見回していたイケメンと目が合った。


「!」


一瞬怯んでしまう。

そしてなぜかイケメンは俺と史也のほうに来る。


「史也、知り合い?」

「知らん。音和こそ知ってるやつじゃないの?」

「全然知らない」


あんなイケメン、一度会ったら忘れない。

イケメンはスマートに人の間を縫って俺の前に立った。


「久しぶり」


声を聞いても全く聞き覚えなんてない。

誰だ。

もしかして人違いでは。


「え、っと…?」

片岡(かたおか)南央(なお)。覚えてない?」

「……」


片岡南央。

片岡…え!?


「片岡!?」

「知ってんの?」


声を上げる俺に史也が聞く。


「小学校の時に仲良かったやつ!」

「じゃあすぐ気付いてやれよ…」


史也の呆れた声。


そんなの無理だ。

だって、俺の知ってる片岡南央って…。


「え。ほんとにあの片岡?」

「うん」


片岡は爽やかに微笑む。


俺の知ってる片岡南央は、コロッコロに太っていて、いつも背の順で一番前だった。

ふざけてばっかりいていつも周りを笑わせていた…それが片岡南央。

片岡が小学校卒業と同時に引っ越して、それっきりだった。


マジであいつがこんな長身イケメンになんのか!?


「え、ほんとに片岡…?」


もう一度聞いてしまう。

片岡は嫌な顔ひとつせず頷く。


「そう」


俺と片岡の会話を聞いていた周りの人間も、片岡を知っているやつらが騒ぎ出す。

そりゃそうだ。

印象が変わったとか言うレベルじゃない。

別人。


「…松下」


片岡は真剣な顔で俺を見て。


「ずっと好きだった」


そう言って俺の手を取った。


………。


「…えっと?」

「このあと時間ある? どっか入ろうよ」


片岡がぱっと手を離して言う。


「あ、うん…こいつもいい?」

「え」


なんとなく、史也を連れて行っていいか聞くと、片岡じゃなくて史也が『なんで』って声を出す。


「うん」


片岡はやっぱり嫌な顔などせず、頷いた。


そして成人式後、三人で居酒屋に入った。


「松下は誕生日来てるからお酒大丈夫だよね?」

「あ、うん…ビールで」

「わかった」


なんで俺の誕生日覚えてんだよ…。


「俺はウーロン茶で」


史也が言う。

片岡はやっぱりスマートにドリンクとつまみ数品を注文する。


「ほんとに別人だから全然わかんなかった」

「松下もすごくかっこよくなったよ」

「そうかな?」

「…ふ」


史也がちょっと笑う。

悪かったな、平均点の顔で。

…片岡はお世辞までうまくなっていた。


「ごめん、電話。出てくる」

「あ、ああ…」


史也がスマホを見て立ち上がる。

マジか。

俺と片岡ふたりにすんのか。

そして個室内に片岡とふたりきりになる。


「ごめん、びっくりさせて」

「ほんとに昔と別人だし、名前聞かなきゃ絶対わかんないよ。いや、まだ信じられない」


ビールを飲みながら言うと、片岡がちょっと笑う。


「いや、そっちじゃなくて、告白のほう」

「っ!?」


忘れようとしてたのに。


「引っ越してから、必死でダイエットして、中学から身長もどんどん伸びて、気が付いたらこんな見た目になってた」


笑う片岡。

優しい笑顔。


「最初は戸惑ったけど、この見た目なら松下に見てもらえるんじゃないかって思って、大学はこっちの学校受けて戻ってきたんだ」

「なんで俺?」

「だって松下、俺が真剣になにかしても笑われるの、ずっとかばってくれて…俺、ほんとにずっと松下が好きだった」

「……」


そんな事もあった。

普段から笑いをとってたから、真剣にやる事も、真剣に頑張った結果失敗したりするのも笑われていた。

自分はそういうキャラだからしょうがないって泣きそうな顔で言うのが可哀想でかばっていた。


「でも、俺男だし、今の片岡なら女子も選び放題じゃないの?」

「そうかもね…でも、俺にはずっと松下だけなんだ」

「………」


どう答えたらいいんだ。

史也、早く戻ってきて。


そこに史也が戻ってきた。


「ごめん、彼女がこれからうちくるって言うから急いで帰んないと」

「えっ!?」

「これ、ウーロン代」


そう言って史也は千円を置いて慌てて個室を出ていった。


「…俺とふたりが嫌だったら、松下も帰ってもいいよ?」

「え?」

「俺の事は気にしないで」


そんな悲しそうな表情で笑うな。

そういう顔されて帰れるやついないだろ。


「いや、久しぶりだし、俺も片岡と飲みたいから」


そう言ってビールをまた一口飲む俺を、片岡はちょっとびっくりした顔で見たあとに嬉しそうに微笑んだ。


「ありがとう…で、早速なんだけど」

「?」

「松下、今彼女いるの?」

「………」


早速過ぎるだろ。

いないけど。

高校ではお情けで付き合ってくれた子はひとりいたけど、それ以降一切そういう相手いないけど!


「…いや、いない」

「よかった…!」


そんな喜ばれても。


「じゃあ、…じゃあ、俺と付き合ってもらえませんか?」

「……だから俺、男なんだけど」

「うん。松下なら男でも女でもいい」

「………」


そんな盲目に好きになるような相手じゃないだろ、俺って。

過去の思い出が美化されて脳みそに焦げ付き過ぎてんじゃないのか。


「…付き合ったって、昔の俺とは違ってがっかりするだけだよ」


小学校卒業から一切連絡をとっていなかった。

その間に片岡が変わったように、俺だって変わってる。

いつまでも“記憶の中の松下”じゃない。


「そんな事絶対ない」


でも片岡ははっきり言い切る。


「なんで言い切れんの」


逆に不安になる。

八年も離れてた相手を、なんでそこまで好きでいられる?


「松下がめちゃくちゃ俺様になってても、暴力振るうような男になってたって、どんな最低なやつになっていたって構わないから」

「は?」

「俺、松下なら全部愛せるよ」

「………」


こんな風に俺を好きになってくれたやつ、今までいないからどう返していいかわからない。

俺は俺様じゃないし、暴力なんて絶対嫌だし、そこまで最低な人間じゃないと自分では思ってる。

でも万が一俺がそういう男でもいいって言えるのって、なんなんだろう。

それが本気で好きって事?


「…考えてみて。返事はいつでもいい」

「うん…あ、でも俺、片岡の連絡先知らない」

「ああ…そっか」


片岡と連絡先を交換して、とりあえず今は飲んで食べる。

……。

楽しい…。

八年も会ってなかったのが嘘のように話が弾む。

小学校の頃に戻ったみたいに笑い合って、でも飲んでるのはふたりともビールで。

気が付いたらもう二時間も飲んでいた。

そろそろ…って店を出て駅に向かう。

寒い。


「…松下はやっぱり松下だね」


片岡がぽつりと言う。


「?」

「俺の気持ちを否定したり、気持ち悪いって笑ったりしない」

「…真剣な気持ちに対してそんな事するわけないだろ」


俺もぽつりと返すと、片岡が俺を見る。


「そんな松下だから、ずっと好きだったんだ」


柔らかい微笑み。

ちょっと頬が赤らんでいる。


「……好きでいてよかった」


本当に幸せそうにそう呟くから、俺は胸が苦しくなる。

なんでか、そうしようと思ったわけでもなく俺の身体が勝手に動いて、片岡の冷えた手を握った。


「……松下?」

「寒いな」


指を絡ませると、手のひらからじんわり温もりが生まれる。

片岡は泣きそうな顔で微笑んで、それからぎゅっと俺の手を握り返した。


「そうだね」


そのままふたりで駅まで歩いた。


………。


アラームの音がする。

もう朝だ。

アラームを止める。


「南央、朝」

「ん…まだねむい」

「遅刻するぞ」


そう言って先にベッドから出ようとすると、南央の腕が俺の腰に回る。


「いかないで…音和」

「……」


仕方ないので、まだ半分眠りの世界でぽやぽやしてる南央の腕の中に戻る。

でも、俺も南央も授業があるのでのんびりはしていられない。


「音和、今日はなんの日か知ってる?」

「一月十日」

「他は?」

「…成人の日の翌日」

「他は?」

「…火曜日」

「他は?」


わざわざ言わせなくてもいいだろ。

ちょっと恥ずかしいから。


「俺と南央が初めて手を繋いでから一年の記念日」


わざと違う答えを言ってみた。


「正解」


…そっちで正解なんだ。


俺を抱き締める南央にそっとキスをすると、南央がふにゃっと笑った。


「音和、可愛い…大好き」


南央と再会してから今日で丸一年。

俺の隣ではいつも南央が笑っている。




END

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