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【完結】悪役令嬢はおねぇ執事の溺愛に気付かない  作者: As-me・com


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番外編② ディアルド子爵家は今日も平和である

 ここはディアルド子爵領。自然に囲まれた静かで穏やかな田舎だ。そんな子爵家に新たなふたつの命が誕生してから約10年……。






 ***





 僕は最近イライラしている。理由はわからないが()()()()ならハッキリしていた。ほら、今日もまたその()()がやってきたようだ。



「聞いてよ、ルツ!また負けちゃったの!悔しいぃ~っ!!」


 プラチナブロンドの長い髪とエメラルド色の瞳をした少女が声を荒げて部屋に乗り込んできたのを見て、僕は思わずため息をついた。そっくり同じ顔をしているはずなのに自分と違って表情豊かな彼女が羨ましくもあり、時折煩わしくも感じるのだ。



「ステラティア姉さま、またルークにチェスの勝負を挑んだの?いい加減に諦めなよ。あと部屋に入る時はノックくらいしてってば」


「私たち双子なんだからノックくらい大目に見てよ~!それより聞いてってば!ルークが酷いのっ!」


 僕を「ルツ」と呼ぶ双子の姉であるステラティアは頬を膨らませた。僕の名前は“シュヴァルツ”だと何度も言っているのに、いつまで経っても幼い頃のように愛称で呼ぶ困った姉だ。さらに母親にそっくりな容姿のせいもあり父や祖父母(双子の伯母たちも含む)、それに使用人からも溺愛されているからか子爵令嬢でありながらかなりのお転婆だ。分析するに、この自由なところがやたら僕をイラつかせる気がしている。


 ちなみにさっきから憤慨している“ルーク”とは母付きである侍女長のひとり息子だ。僕らより3つ年上で今は執事見習いをしている黒髪のその男は、やたらとこの姉を構っているように……僕にはそう見えていた。そいつも僕をイラつかせる要因のひとつだ。



「ルークに負けるなんていつものことだろ?今日は何を賭けたのさ」


 僕が再び大きく息を吐いたのも気にすることなくステラティアは手振り身振りでついさっきの出来事を語り出した。


「あのね!私は今日は乗馬がしたかったの!それなのに外に出たければチェスに勝ってからだって言うんだもの!全然手加減してくれないしコテンパにやられたの!それで今日は外出禁止だって言うのよ!」


 どうやら側で勝負の行方を見守っていた父もその意見に賛同したらしくステラティアは反論を許してもらえなかったようだ。それで僕の所に愚痴を言いに来たわけだ。まぁルークとの勝負はいつものことで、ステラティアが負けるのもいつものことだ。つまりはいつも姉はルークに対する愚痴を僕に言いに来ていると言ってもいいだろう。


 チラリと窓の外に視線を動かせば、木の枝の影に使用人の姿が見えた。ステラティアは気付いていないようだが()()()いつもより警護の人数が多いように感じた。父もルークの意見に賛同しているとなれば答えはひとつだ。全ては母とステラティアを守るため……。



 つまりは()()()()()()なのだ。



 ならば僕がすることはひとつだけしかない。


「父様が認めたならそうするしかないんじゃない?仕方がないから……今度はルークに勝てるようにチェスの練習に付き合ってあげるよ」


 にっこりと笑顔を貼り付けてそう言えば、ステラティアは花が咲いたように顔を綻ばせた。ほんの一瞬でコロコロと表情が変わる姉の姿に目が離せなくなりそうになる。同じ顔のはずなのに、自分で鏡を見てもこんな笑みは決して見られないだろう。


「ほんと?ルツはチェスが上手だものね!よぉし、今度こそルークをぎゃふんと言わせてやるわ!」


 この満面の笑みを1番近くで見ているのは、たぶん僕だろう。でも、この笑顔を1番“出させている”のはルークなのだ。


 ────それが少しだけ悔しい。


 でも、僕はそんな感情を見せたりはしない。僕の大切な半身を奪おうとしている奴がいるのに、僕が隙を見せるわけにはいかないじゃないか。



 それから僕はステラティアのチェスの練習に興じた。絶妙に手加減をしてもう少しで勝てそうにすればステラティアは「もう一回だけ!次こそ勝てそうな気がするわ!」と興奮気味に僕にお強請りを繰り返すのだ。




「────あれ?なんだか庭の方から音がしなかった?」


「さぁ?気の所為だよ。それか────使用人たちが()()でもしてるんじゃない?」


 僕の言葉に「そっか」と納得するとステラティアは再びチェスの駒に集中する。たぶん今は、母も同じように屋敷の中で過ごしているはずだ。()()()が、母に気付かせているはずがないのだから。


 ルークがこの場に現れないということは、きっと()()に参加しているのだろう。どうやら今回はステラティアに()()()()()()役目は僕が勝ち取ったようだ。


「……それでね、ルークがこの駒をこうしてて────」


「それは、こうやって回避すればいいよ」


 チェスに夢中なステラティアの口からは無意識なのかルークの名前ばかり出てくる。その度に僕はイラッとするのだ。そう言えば昔、侍女長のサーシャが僕の様子を見て「……シュヴァルツ様はお父様似ですね」とため息をついていたけれど、あれはなんだったんだろう?




「……ねぇ、ステラティア姉さま」


「なぁに?」


 思わず名前を呼ぶと、ステラティアはきょとんと目を丸くした。


 大切な半身。双子の姉。僕にとって特別な存在だったステラティア……。でもこの姉の心には僕じゃない誰かがいる。もうすぐ彼女を守る役目は僕じゃなくなるだろう。


 でも、まだ今は……。もう少しだけこのままで。



「なんでもないよ。はい、チェックメイト」


「あ!それはズルいわ!もう一回だけ!次こそ勝てるから!」










 ディアルド子爵家はしがない田舎貴族のはずだった。しかし当主であるライルが頭角を現しだすと、その魅惑の美貌に魅力された人間や才能に嫉妬した人間から命を狙われるようになったのである。たかが子爵家だと高を括った輩が暗殺者を送るようになったわけだが……()()アバーライン公爵家で腕を振るった使用人たちが黙っているわけがない。特にこの数年は“来客”が多くなったとシュヴァルツは感じていた。


 そして今日はさらにいつもより来客が多かったのでステラティアを外出禁止にするために憎まれ役を買って出たルークだったが、当主であるライルはその才能を認めて“執事”として育てているのである。


 セリィナ至上主義のサーシャと、詳しくは知らないがセリィナの平穏に妙な執着を見せるジャズの間に産まれたルークが、セリィナにそっくりなステラティアにどんな感情を持っているのかは……知らない方がいいのかもしれない。




 ちなみに見た目はセリィナそっくりなシュヴァルツだが、性格はライルにそっくりである。彼が「重度のシスコン」とルークに毒づかれて対峙する未来はすぐそこであった。








終わり

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