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【完結】悪役令嬢はおねぇ執事の溺愛に気付かない  作者: As-me・com


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番外編① ローゼマインとマリーローズ

 セリィナとライルの婚約が無事に整い、平穏が訪れた頃……アバーライン公爵家の双子姉妹は悩んでいた。


 いや、別に深刻な悩みではない……はずだ。このふたりにとっては本当に“些細な事”なのだが、ふたりの周りの人間にとっては全く些細ではないらしい。だから悩んでいるのである。


「「はぁぁぁぁぁ……面倒臭いですわ」」


 ローゼマインとマリーローズは同時に深いため息を吐いた。セリィナがライルに会いに子爵家に出かけていて留守だからか、余計に弱音が口から出てきているようだ。もちろんそれを咎める使用人はいない。黙ってお茶の準備をして立ち去るメイドに感謝しつつ、ふたりはつい先日の事を思い返していた。







 それは数日前。ローゼマインとマリーローズは父の執務室に呼び出されていた。内容がなんとなくわかっているだけに面倒臭いと思いつつ、姉妹は顔を上げる。


「ローゼマイン、マリーローズ。セリィナもライルと婚約して将来は子爵家に嫁ぐことが決まったし、お前たちもそろそろ自分の婚約者を決めないといけないぞ……グスッ」


「「お父様、セリィナの花嫁姿を想像して泣かないでください。鼻水が出ていますわよ」」


 当主らしい真面目な顔をして話を始めたかと思えば、最近セリィナがライルとくっついてから涙腺が緩くなったのか厳つい顔を情けなく崩している父の姿に今までの威厳は欠片もない。しかし、まぁ……父の言いたい事もわかるのでそれ以上は言及しなかったが。


「ずぴーっ!……特にローゼマインは次期当主になるのだから、伴侶が必要だ。マリーローズも他所に嫁ぎたくないのならば婿養子を探し出す事が条件なのだぞ。こればかりは仕方がないのだ」


 だから、鼻をかみながらキリッとされても厳つさが半減しています。……なんてツッコミを入れるのもやめて、ローゼマインとマリーローズは「「わかってますわ」」とそっぽを向いた。


 もちろんわかっている。それに、将来子爵家に嫁ぐセリィナの為にもアバーライン公爵家の地盤を固めておくに越したことはないのだ。セリィナの姉がふたりとも婚約者もおらず独り身だなんて噂されたら、それこそどれだけ侮られるかわからない。あぁ……せめて男に生まれていたら婚約者問題にここまで悩まないのに。なんて、思った事は何度目だろうか。


 もしも、わたくしたちふたりが……せめてどちらかひとりでも男児であれば、もっとセリィナを守ることが出来たのに。そんな考えをどうしても捨てきれなかった。なんだかんだとまだまだ男尊女卑世界なのだと舌打ちをしたくなる。こればかりは例え今の王家を始末したとしてもすぐに変えられるものではないと、ふたりも理解はしていた。ちっ、面倒臭い。



 女だと言うだけで下に見てくる下賤な奴らを相手にするだけでも虫唾が走るのだ。そういう奴らに限って必ずセリィナの事をまるで鬼の首を取ったかのように問い詰めてくる。そんな下世話で下心しかない野蛮な生き物たちに嫌気がさしていた。親には言っていないが、セリィナの事で脅してきて関係を求めてきた輩は片手では数え切れないほどいたのだ。


 ……もちろん、そんな奴らは裏で一掃したけれど。わたくしたち専属のメイドたちは、とても優秀なのである。



 それにしても、やっぱり一般的な貴族の男はどうしても好きになれないと思っていた。しかしアバーライン公爵家の存続の為には“婿養子になってくれる貴族の男”が必要なわけで────。そして、またもやローゼマインとマリーローズはため息をつくのである。



 それから数日後。例の如くセリィナはライルに独り占めされている状況にふたりは口を尖らせていた。


「また!ライルの所へ遊びに行ってしまいましたわ!」


「ライルの奴……まだ婚約者の立場の分際でセリィナを独り占めするなんてズルいですわぁ!」


 結婚したらライルがセリィナを手放すわけがないとわかっているからこそ、今のうちにセリィナと一緒に遊んだりしたい!……なんて思っているものの、「ライルとデートなんです!」と満面の笑みで言われたら快く送り出すしかない。セリィナの最高の笑顔は、やはりライルにしか引き出せないのだと……負けを認めるのも悔しいが。ちっ。


「こうなったら、自棄ですわ!」


 ローゼマインの言葉にマリーローズも賛同した。ふたりは自棄になって平民変装セットを身に纏い街に繰り出すことにしたのである。ほんの短い期間だったが、髪を染めて平民として暮らしたあの時の経験はふたりにとって確かな刺激になっていた。たぶん自分たちが目を離した隙にセリィナが攫われるなんて事件がなければもっと積極的に使っていたであろう平民変装セットだが、やはりトラウマもありずっと封印していたのだ。


 だが、なんだか急にふたりの中で“何か”がハッっちゃけた。たぶんストレスだろう。そしてそのハッちゃけが、ふたりの運命を大きく変えるのであった。





 ***






「まぁ大変……人が落ちていますわね」


 見た目はちょっと綺麗な平民の女性……だが、隠しきれない貴族のオーラを放ちながらローゼマインが首を傾げた。


「これは……落ちているでいいのかしら?」


 同じくマリーローズも首を傾げる。そのふたりの視線の先には川沿いに横たわるふたつの男だろう人間の体があった。


 ピクリとも動かない“それら”に恐る恐る近付くと、ツンと指先でつついてみる。


 ツンツンツンツンツンツン……ピクッ。


「あら、動いたわ。どちらも生きているみたいですわね」


「それならドクターを呼んできましょう。……それにしても、この辺では見ない服装ですわね。ちょっとお姉様、見てください……まるで獣の耳みたいな────」


 マリーローズが指さした先にあったのは、頭部に生えている()()()()()()()()だった。水を含んでぐっしょりと垂れているが、どう見てもそれは犬のそれに見えたのだ。そして、そんな耳が生えている髪色もこの辺りでは見ることの無い珍しいミルク色である。


「この耳にこの髪色……まさか獣人族なのでは────」


 それは、書物の中でだけ伝えられている存在しているのかすらもよくわからない種族だったのだ。







 ドクターは驚きつつも獣人族だからと差別したりせずに治療をしてくれた。ローゼマインとマリーローズは拾った責任感からかそれとなくドクターの元へ通っていたのだが……まさか川で拾ったのが遥か遠い獣人族の国の第7、第8王子であったと発覚してさすがに驚きを隠せなかった。



 なんでも母親が第14側妃で人間だったために、異国での立場がかなり低く姉姫や兄王子たちに嫌がらせされたあげくに命を狙われて亡命したのだとか。さらに獣人族の証である“耳と尻尾”が耳しか無いために「半端物」として常に迫害されていたらしい。



「どうせ殺されるならと思って、乳母に協力してもらって死んだことにして小舟に飛び乗って海に出たんです」


「母も、元は奴隷として買われた身の上だったので……父王の気まぐれで側妃になったものの僕らを産んでそのまま……。だから、あの国で僕らの安否を気にする者はいません」


 そう言ってしょんぼりと耳を垂れさせるふたりの姿に……なぜか胸がキュンとした。それは双子姉妹にとって久しぶりの胸の高鳴りだった。


 そう、まさしく。セリィナがライルの元へ行ってしまい、満たされなくなってしまった“庇護欲”が爆発した瞬間だったのである。



 それからローゼマインとマリーローズは積極的に獣人兄弟のところへと足を運んだ。


 ご飯を食べさせて頭を撫で……耳の部分をブラッシングしたりした。自分たちに心を許し甘えてくる獣人兄弟に母性本能が溢れかえったのは言うまでもない。



 まぁ、色々と割愛はするが……最終的にローゼマインは弟とマリーローズは兄の方と結婚を決めたのである。



「わたくしたちに従順で絶対に逆らいませんし、なにより普通の人間より強いですわ」


「髪の色は染めればいいですし、耳は隠せばいいんですもの。バレたらバレたでどうとでもいたします。なにより、教えたことはキッチリ守るんですのよ。……わたくしたちの結婚相手に求める条件は今も変わっていませんわ。それは……」



 ふたりは口を揃えて言った。



「「自分の身は自分で守れて、尚且つ妹のセリィナをわたくしよりも大切にしてくれる方ですわ」」と。


 すっかり双子姉妹に見初められた獣人兄弟はアバーライン公爵から新たな戸籍と身分を与えられた。どうやら()()()()()()伯爵家の爵位が余っていたからとかなんとか言われたが、それを気にする素振りはない。


 ふたりはそれぞれ、盲目的にローゼマインとマリーローズに心酔した。もしもの際は義妹のセリィナを守れと言われればその通りにするだろう。もちろん自分の身は自分で守れるし、言われた事を命をかけて遂行する強い意志があった。


 そう、それはもう本能的に。実はこの双子兄弟が先祖返りで誰よりも本能が強いだなんて誰も知る由もない。そして、今後この兄弟の守護により公爵家がさらに繁栄する未来も……。




 つまりは、調教済みということである。








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