最終話:元・悪役令嬢はおねぇ執事に溺愛されている
ライルが珍しく悶々とした夜を過ごしてから約半年後、ライルとセリィナは真っ白な純白の衣装に身を包み神の前で愛を誓い合っていた。
純粋過ぎるセリィナの言動にこのままでは身が持たないと悟ったライルは、アバーライン公爵から提示されていた結婚への条件である「売り上げ2倍」を更に上回る3倍にして直談判したのである。その完璧な仕事ぶりに、粗を探そうにも文句のひとつも言えなかったアバーライン公爵は渋々としながら結婚式を許したのだとか……。
「セリィナ、君に永遠の愛を誓います」
「私も────誓います」
ふたりの唇が重なり、セリィナの宝石のような瞳からは一筋の涙が溢れたのだった。
***
さて、私とライルが無事に夫婦となってから周りがどうなったかと言うと……。
まずローゼお姉様とマリーお姉様だが、ふたりとも私とライルの結婚式の日取りが決まった途端にどこからともなくお相手を連れてきてさっさと結婚してしまった。どちらも婿養子に入ってもらったそうなのだが、お姉様たち曰く「「ちょうどいいのがいたから」」らしい。
それでいいのだろうか?と思わず首を傾げてしまったが、まぁ……本人たちは満足そうなので良いのだろう。
そしてローゼお姉様は公爵家を継ぎ、マリーお姉様がその補佐をする今までと変わらぬ生活の中にそれぞれの夫が加わったわけだが、使用人たちが言うには上手くいっているようである。さらには先日ローゼお姉様とマリーお姉様の妊娠が同時に発覚したそうで公爵家はお祭り騒ぎなのだとか。
お父様とお母様はと言えば、まだ見ぬ孫を待ち侘びてそわそわと準備に忙しそうである。
使用人たちもみんな元気で、サーシャとジャズ以外にも結婚と同時に数人が子爵家に来てくれたのだが……なぜか執事だけはライルが頑なに拒否した為にしょんぼりと肩を落として帰って行ったらしい。サーシャが「ライルさんって厄介ですね」と肩を竦めていた。やはり元執事だからこだわりがあるのだろうか?なんて深く考えずにいた。
でも、それは大きな勘違いだったとわかったのはそのすぐ後だったのだ。
「セリィナ、お茶のおかわりはいかが?」
それはとある休日、見慣れた執事服を身に纏ったライルが恭しく頭を下げた。
「ラ、ライル?その執事服は……」
「やっぱりこの執事服が1番落ち着くわぁ。言葉遣いもこっちの方がラクなのよね。ふふ。実はサーシャさんたちと相談して、当主としての仕事が終わったらご褒美として執事をしてもいいってことになったのよ。もちろん普段は子爵当主らしくするけど、ご褒美の時間中は特別ってことで」
そう言ってにっこりと微笑んでウインクをしたライルはとても楽しそうだ。サーシャはもちろん他の使用人たちも了承済みのようで微笑ましいと言わんばかりにこちらを見ている。
「ご、ご褒美って……そんなに仕事したらライルが大変なんじゃないの?」
さすがにダブルワークなんてしたら倒れてしまうのではないかと心配してると、ライルは微笑んだまま私を真っ直ぐに見つめてきた。
「だってアタシ、セリィナの専属執事ですもの。それに……他の人間にセリィナのお世話なんかされたら────嫉妬でおかしくなっちゃいそうだわ」
ライルの灰色の瞳に私がうつっていて、執事姿でもあるせいか妙に胸がドキドキしてしまう。
「ライルも、嫉妬……するの?」
思わず声が上擦ると、綺麗な指先が私の顎を摘んで持ち上げた。そして……ライルの唇が優しく私のそれに触れる。
「セリィナの夫で……専属執事になれるのは永遠にアタシだけの特権でしょう?」
そこには、もう見ることはないと思っていた私が最初に恋した“おねぇ執事”がいて……。そして私をまるで綿菓子のような甘く優しい世界に誘うのである。
ああ、もしかして。なんて思ってしまうのだ。
こんな事、恥ずかしくて誰にも言えないけれど……。自惚れじゃなければ、私ってライルに溺愛されている……のかも?それは、ずっとずっと前から────。
そのことに、やっと気付いたのである。
最初に始まったのは、たったひとつの出会いだった。別の世界にいるはずだったふたりが出会って恋をしたのは偶然か必然か。
ただひとつわかっているのは、目の前にある真実だけなのであった。
それからさらに数年後、セリィナは双子の姉弟を産んだ。どちらもセリィナに瓜二つで、ライルが歓喜したことは言うまでもない。そんな双子が色々と問題を起こす事になるのだが……それはまた別のお話。




