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【完結】悪役令嬢はおねぇ執事の溺愛に気付かない  作者: As-me・com


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73:最愛の人(ライル視点)

 ライルが子爵家を継ぎ、セリィナの婚約者となってから1年の月日が流れた。


 これは、16歳になったセリィナと24歳になったライルの物語である。







 ***





「セリィナ、16歳の誕生日おめでとう」


 真っ赤な24本の薔薇の花束を手渡すと、今日の主役であるセリィナは頬を染めてニコリと微笑んだ。その髪にはプレゼントだと先に渡した真珠をあしらった髪飾りがキラリと光っている。


「ありがとう、ライル」


 あの衝撃的な経験から約1年。セリィナが気にしていた頬の傷は綺麗に消えてしまったし、短く切り揃えられていた髪も今は結い上げられるまで伸びている。この1年ですっかり大人びてきたセリィナの眩しいほどの美しさにアタシは思わず目を細めた。


「……セリィナ、そのドレスとても似合ってるね」


「ほんと?嬉しい!実はマダムに相談してドレスを作ってもらっていたのよ」


 そう言って翻したドレスは、黒とグレーを基調としたシックなドレスだった。相変わらずマダムとは仲良しで今やアタシよりドレスの相談を受けているのはマダムの方だろう。どうりでセリィナへのプレゼントを相談したら真珠を勧められたわけだ。確かにこのドレスには下手な宝石より真珠の方が似合っている。


 そして、マダムがドレスの色をなぜそんな色にしたのかなんて聞かなくてもわかっていた。()()アタシが黒髪に灰色の瞳だからだ。セリィナが綺麗だと言ってくれたあの髪と瞳は“ラインハルト”と共に葬られたのだから。


 無垢な笑顔で新しいドレスを翻すセリィナは幸せそうに笑ったが、アタシは多少の申し訳なさを抱えていた。もちろん今のドレスもセリィナにとても似合っているが、年頃の令嬢ならばもっと明るい色のドレスを着たいものではないのか。そんなふうに思ってしまう。それこそ執事時代は流行りの色やドレスの形、セリィナが陰口を叩かれないように色々と調べたものだ。それにセリィナが紫色のドレスを着ることは二度とないだろう。それが少しだけ寂しい。


 するとセリィナがアタシの服の袖を引っ張るように摘んでくる。


「16歳になって初めてのダンスは、もちろんライルが踊ってくれるよね?」


 お強請りするように上目遣いでそう言ってきたセリィナの頬がほんのりと染まっているのを見て、思わず抱き締めたい衝動に駆られた。だが今は我慢しなければいけないのが少しだけ辛いかもしれない。なにせ身内だけを集めたアットホームなパーティーだが、その瞬間にアタシの背中には突き刺さるような視線が集まったからだ。アタシの養父母はいつも通り「ほほほ」と笑っているだけだが、ある方面からの嫉妬のオーラに今にも射抜かれそうであった。


 たぶんここで抱き締めたら、後でお説教2時間コースは確定だろう。婚約者となって1年経つとはいえ結婚前なので適切な距離感をと、それはそれは口を酸っぱくして言われているのだ。つまり、“手を出すな”と釘を刺されている状態なのである。()()()に我慢しきれずにやってしまった事を未だに怒られているのであった。


 しかしセリィナの前では“大人のオトコ”として格好良くしていたいアタシはそんな感情など微塵も見せずに微笑みを向ける。


「もちろん」


 嬉しそうに笑顔を見せてくれる今のセリィナには周りの人間に怯えていた頃の面影は欠片もない。強くたくましく……そして美しくなった。


 そして音楽に合わせて踊り出したアタシは、セリィナの専属執事から離れたものの色々あってやっと再会する事が出来たあの日の事を思い出していた。


 やっと出会えたという気持ちを抑えきれなくて抱き締めてキスをしてしまった。おねぇ言葉や仕草は抜けなくてもやはり自分も男だったのだと改めて自覚した瞬間でもあったが、愛しくて仕方がないのだから許して欲しい。


 セリィナとは歳の差があるし、アタシは元々は孤児で執事だった身の上だ。なによりセリィナは公爵令嬢である。孤児の執事から運良く子爵令息になれたが、それでも通常なら身分差が問題になるだろう。果たしてアタシはセリィナに相応しいのだろうか?と、悩まなかったわけじゃない。でも、それでも……。


「……とても綺麗だ」


 それでも、単なる執事でしかなかったアタシがセリィナの婚約者になれたことは奇跡だ。ずっと秘めた想いは持っていたが、叶う事は無いとも思っていた。ただ傍にいられればいいと、そう思っていたのに……。今は、セリィナの全てが欲しい。


 今更だけど、自分がこんなに強欲な人間だと改めて知ったのだ。……彼女に相応しい人間になりたい。その為に、がむしゃらに頑張ってきたのだから。


「ライル……来年も再来年も、ずっとずっと私とだけ踊ってね?」


「セリィナ以外でダンスを踊りたい人はいないよ。ダンス以外だって、なにもかも永遠にセリィナだけだ」


 そしてセリィナが「うん。私もずっとずっとライルだけだからね!」とアタシに抱き着いて来たので、嬉しさのあまりその腰に手を回した。


 もちろんもれなく殺気も飛んできたけれど、そんな事など気にしている暇は今はないのである。









 そして、その夜。セリィナは子爵家にお泊りする事になりサーシャさんがやたら張り切っていた。だから、今頃はサーシャさんの準備した部屋でおしゃべりでもしているのかと思っていたのだが……。




「────ライル」


 もぞり。と、ベットの中に侵入者の気配を感じて目を開けた。その懐かしい感覚に驚いて毛布をめくると、そこにはセリィナが潜り込んでいたのである。


「セ、セリィナ……?!な、なんでアタシの部屋にいるの?!」


 最近は貴族令息らしくしようと言葉を矯正していたのに、驚き過ぎて封印していたおねぇ言葉が口をついて出てしまった。すると薄い寝間着姿のセリィナが「だって……」と拗ねたように口を尖らせた。


「しょうがないってわかってるけど、前みたいに毎日一緒に居られないし……昔はよくライルの寝床に潜り込んでたなぁって思い出したら懐かしくなっちゃったんだもん」


 確かにそうだが、それは執事おねぇとお嬢様の関係の頃でセリィナだって今よりずっと幼い子供だったから許されていたのだ。今の関係で同じことをしたら話が違ってくるのではないかとアタシは必死にセリィナをこの部屋から追い出す言い訳を考えたのだが、次のセリィナのひと言で思考は停止してしまった。


「それに……婚約者になったんだから、おやすみのキスをして欲しいなって……」


 頬を赤らめて目をつむるセリィナを前に拒めるわけがない。


「セリィナ……」


 ちゅっ。と、触れるだけのキスをするとセリィナは満足気に「えへへ」と照れたように笑った。それがあまりに可愛らしくて手を伸ばそうとしたのだが……。


「サーシャがね、()()()()()()()()()()()()()()()()だって送り出してくれたの!だから今夜はライルと一緒に寝れると思ったら嬉しくて!」


 その無邪気な笑顔を前に、伸ばしかけたアタシの手がピタリと止まる。()()()()()()()()()()って、やっぱりそう言うことよね?と心の中で冷や汗を流しながらその手を静かに引っ込めた。どうやらサーシャさんからもしっかりと釘を刺されてしまったようだ。



「16歳の誕生日の夜にずっとライルと居られるなんて最高のプレゼントだわ。それに婚約者になったって事は、恋人同士ってことでしょ?恋人なら夜遅くまでおしゃべりして、それから添い寝とかしても怒られないかなって思っちゃって……」


「……ふふ、そうね。婚約者で恋人同士ですものね。仕事の方も落ち着いたから夜更かししても大丈夫よ?」


「ほんと?あのね、ライルに話したい事がいっぱいあって────」


 事実、今日の誕生日パーティーに間に合わす為に仕事を詰め込んでいたのでセリィナと顔を合わすのは1週間ぶりだった。楽しそうに話すセリィナの声は耳障りがよく、無意識に髪を撫でればセリィナは嬉しそうに目を細める。最愛の人が目の前にいて笑っているなんて、それだけで最高の贅沢だと……久々におねぇモード全開でおしゃべりに興じた。


 そして、話し疲れてそのままスヤスヤと眠ってしまったセリィナに毛布をかけ直してアタシも眠ることにしたのだった。







 翌朝、目の下に隈を作ってため息をついているライルを発見したサーシャが「ライルさんなら()()()()()()と思ってました」と含み笑いをしたのだが、ライルには言い返す気力は無かったようだ。






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