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【完結】悪役令嬢はおねぇ執事の溺愛に気付かない  作者: As-me・com


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71:奪われた未来へ継ぐ(???視点)

 俺には大切な妹がいたんだ。


 妹は両親を事故で亡くしてからずっと2人で支え合って生きてきた、たったひとりの家族だった。親の残してくれた遺産や保険金でなんとか生活は出来ていた。とはいえ将来に不安がなかったわけじゃないけれど……でも、ひとりじゃないって思えたから頑張れたんだ。


 まだ幼い妹は生まれつき体が弱くて入退院を繰り返していた。でも、いつも前向きで明るくて「お兄ちゃんの描く絵が大好き」と無邪気な笑顔を見せてくれた妹。駆け出しのイラストレーターとして働いていた俺はその笑顔に何度も心を救われていた。


 その妹が、自分が物語の主人公みたいになった絵を描いて欲しいとお強請りしてきた。……大きな手術が決まって不安だっただろうに、そんな感情など微塵も見せずいつもと同じように「お願い」と笑った。


 俺は対象の人物そっくりに描くのが得意だったから、幼い妹に生き写しのようなキャラクターを描き上げた。


 妹が「可愛いお姫様みたいにキラキラの髪と宝石みたいな目がいい」と言ったから、長い髪の毛はプラチナブロンド色で瞳はエメラルド色にしたんだ。妹にそっくりな渾身の1枚のイラストを見せたらとても喜んでくれたから、もっと喜ばせたくて小さな姿から大人になった姿までたくさん描いたんだ。きっと病気に勝って、こんな素敵な大人になれるよ。と願いを込めて。


「私きっと、素敵なお姫様になれるね!大人になったらくるくる回るダンスを踊るんだぁ!」


 そう言って笑った妹の笑顔は輝いて見えて、俺も嬉しくなった。




 ちょうどその頃に、乙女ゲームのキャラデザを描いて欲しいと仕事がきた。初めての大きな仕事だった。


 妹の手術代の為にもお金が必要だったから、その時は仕事を優先した。でもそれが間違っていたとわかったのはもっと後のことだ。


 しばらく妹のお見舞いにもいけなかったが、ゲーム会社の奴らからの要望をこなす為に何日も徹夜で頑張った。何度も何度も描いたイラストを突き返され、疲弊してきた頃……妹をモデルにしたあのイラストたちを奴らに見られてしまったのだ。


 そいつらはそのイラストをひと目で気に入ったらしく、悪役令嬢のキャラデザにしたいと言ってきた。


 でも、その乙女ゲームの悪役令嬢は残酷な死に方をするキャラだったから断った。これはプライベートなイラストで仕事用じゃないからと。


 そう、確かに断ったんだ。それから他のイラストも納得したからと契約を結んだ。ようやく終わったと安心して「特にヒロインは可愛らしく描けたと思う」なんて握手した自分をぶん殴ってやりたい。


 あいつらは……あのイラストを盗んで勝手に採用してしまったのだ。


 騙された。契約書にも細工されていて、頼むからやめてくれと土下座して頼んだけれど「契約書にサインしたのはお前だ」と追い返された。


 駆け出しのイラストレーターにゲームの発売を止めることなんて出来るはずもなく、あっという間にあのキャラクターは“悪役令嬢”として発表されていてゲームは店頭に並んでしまったのだ。


 妹になんと言ったらいいのか……何日も悩んで悩んで、なんとか重い足を動かし病院に行くと……。



「………………“私”、シんじゃった」



 ノートパソコンの画面の中で、悪役令嬢が断罪されるシーンを見ながら妹がポツリと呟いていた。


 どうやら俺が描いたイラストが起用されたゲームだからと、気を利かした親戚の誰かがオンラインでゲームを購入して妹にプレゼントしてくれたらしい。親戚は乙女ゲームに疎く、悪役令嬢がどういったモノかよくわかっていなかったようで「お兄さんが、君にそっくりのキャラクターを描いたみたいだよ」と妹に言ったのだとか。




「酷いよ、お兄ちゃん」



 妹は俺の顔を見ること無くそう呟いてそっぽを向いた。俺が「違うんだ」と、どんなに弁明しても振り向いてくれることはなく……妹からは笑顔が消えた。そして、急に病状が悪化して手術を受けることも出来ずに死んでしまったのだ。





 どうやら俺の描いたキャラクターデザインが素晴らしいと、俺は「人気絵師」だとか「神絵師」だなんて謳われて持て囃された。言われるがままにイラストを描き続ける毎日の中で、微笑む“悪役令嬢”を描く度に涙が出てくる。


 あの乙女ゲームは人気で、今も誰かがプレイしている。そして、その度にゲームの中で“妹”は何度も死んでいるのだ。


 何度も何度も何度も。


 俺を騙したゲーム会社の奴らが憎い。その内、悪役令嬢を死に追いやるヒロインすらも憎いと思うようになった。なぜって?大切な“妹”を何度も死に誘い殺してしまう嫌な存在だからだ。


 ヒロインなんて不幸になればいい。これまで悪役令嬢が何度も断罪されてきたように、これからはヒロインが同じように繰り返せばいいのだ。八つ当たりだ逆恨みだと言われても関係ない。……なんて、そんな事を考えている時点でもう俺は狂っていたのかもしれない。


 それから俺の頭の中は、あのゲームの物語とは少しだけ違う物語でいっぱいになっていた。俺に完璧な物語を創作する才能などないが、もしも出会う順番が違っていたら……もしも悪役令嬢を助けてくれる存在がいたら……。そんな()()()の思考がぐるぐると回る。


 最初のお祭りでヒロインが攻略対象者たちに出会わなかったらどうなる?そして、暴漢に襲われた悪役令嬢を()()が助けてくれたならば……今後の物語は大きく変わるのではないか。


 でも、メインキャラクターの奴らはどうしてもいけすかない。特にこの王子だ。自分でデザインした顔だと言うのに、見る度にヒロインと同じく虫唾が走りそうになる。こいつも不幸になればいいとすら思う。だから、攻略難易度が高くてまだほとんどのプレイヤーが発見すらできていないシークレットキャラに目をつけた。なぜかこのキャラクターなら、悪役令嬢を助けてくれるような不思議な気持ちになった。


 今から思えば、なぜこんな風に思ったのかはわからない。ただその時は()()()()()()()と思ったのだ。


 俺の妹と同じ姿をした“悪役令嬢”が生き続けられる世界を作るために。


 それから俺はこの“最初の物語”をデータ化した。プログラムに関しては素人だったが、それこそ眠る事も食べる事もやめてパソコンに齧り付いていた。


 その辺の事は実は記憶が曖昧でちゃんと覚えていないんだ。でも、人間は死ぬ気になったらなんでも出来る。なんてよく聞くけれど、本当にその通りだ。……だって、()()()()()が出来上がったのだから。




「ダメ元だけど……これで、あの子も少しは許してくれるかな……?」


 俺は妹の命日のその日、最後のボタンを押した。どこまで上手くいくかはわからない。所詮素人が作った書き換えプログラムのウイルスだ、単なるバグだとセキュリティに消滅させられるかもしれない。ただ……もしも入り込めれば、混ざってしまえば()()()()()()()()()()かもしれないという希望……いや、執念か。これは俺の自己満足でしかない身勝手な復讐なのだ。


 そして“妹”を殺され続ける世界にさよならを告げて……俺は自分の人生を終わらせたのである。





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