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【完結】悪役令嬢はおねぇ執事の溺愛に気付かない  作者: As-me・com


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33:悪役令嬢の真実②

 一気に辺りが静かになり、誰かがゴクリと息を飲む音だけが響き渡った。



  “あの日、赤ん坊はふたりいた”、“拐われたのはセリィナとは別の赤ん坊だった”。お父様は確かにそう言ったのだ。それは、私も知らない事だった。


「……そして赤ん坊を拐った侍女は、その乳母になるはずだった女の妹だ。あまりに酷い妄想に囚われていたので屋敷から追い出していたのだが、どうやら屋敷の合鍵を作っていたらしくてな。あの日それを使い屋敷に侵入し、赤ん坊を拐った……。自分の姉が産んだ赤ん坊だとは微塵も思わなかったようだ」


 お母様が産気付いたと知ったその侍女は隠し持っていた合鍵を使って屋敷に侵入し様子を伺っていたのだ。そして、新たな子供の為にと用意された部屋に連れてこられた赤ん坊を拐った。この赤ん坊さえいなければ自分がお父様に愛されると信じて。


「事の顛末は先ほど王子殿下が仰った事とほとんど同じだが、拐われた赤ん坊はセリィナではなく乳母の子供だ。そして侍女は別の子供を新たに拐い公爵家に戻ってきた」


「ちょ、ちょっと待て!意味がわからないぞ!その新たに拐われて公爵家に戻された平民の子供がセリィナのはずでは……」


 だんだんと混乱した表情になった王子が声を荒らげた。そんな王子を見て、お父様が「やれやれ」と息を吐く。


「王子殿下、それは無理な話です。なぜならセリィナと乳母の子は産まれた時にそれぞれ医師から女児であると証明されていますが、その侍女が連れてきた赤ん坊は男児だったのですよ?いくらなんでも男女の違いを間違えるはずがないでしょう。いやぁ、あの時は驚きました。妻と一緒に部屋に入ったら乳母の子が消えていて男児の赤ん坊が泣いているのですからな。なぁ、エマ?」


「えぇ、私も驚きましたわ。私とセリィナの後処置に手間取っている間にあんなことになっていたなんて……。そのせいで結局乳母の子は行方不明になってしまった。それもこれも、屋敷中の使用人が私とセリィナの為に動いてくれていたせいで屋敷の警護が手薄になっていたからです……どんなに償っても償いきれません」


 お母様が申し訳なさそうに目を伏せると、お父様はお母様の肩に優しく手を添えた。


「難産だったから仕方が無かったとはいえ……()()()はなぜか、みんなが()()()()()()()()()()()と思い込んでいたからな……。だからといって2度も侵入を許すなどあってはならないことだ。あの時の恐怖もあってずっとセリィナを屋敷から出すことが出来なかったくらいには公爵家全体にトラウマを植え付けた事件でもあった。

 ああ……ちなみにその拐われてきた平民の子供ですが、ちゃんと親の元に返しましたのでご安心ください。実はその時は下町でも大勢の目の前で赤ん坊が女に連れ去られたと大騒ぎになっていたのですよ。いやはや、怖いですな」


 お父様がにこりと笑うが、その目は決して笑っていない。


「それが本当なら、フィリアは……」


「乳母の子供ですね。さらに言えばその乳母は平民ですよ。昔、妻が外で倒れた時に世話になった恩がありまして親を亡くして貧しい暮らしをしていると聞き我が家で働いてもらっていました。……妹共々ね。しかしある時、彼女は市場に買い出しに行った時に暴漢に襲われてしまい子供を身籠りました。赤ん坊に罪はないからと産む決意をし、それならと同時期に妊娠した妻が是非お腹の子供の乳母になって欲しいと願ったのです。まぁ、その頃には妹の方は屋敷から追い出していたので姉の妊娠も知らなかったのかもしれませんがな」


 そして、 一呼吸置いてからお父様はゆっくりと王子に視線を合わせる。それがまるで獲物を仕留めるハンターのように見えた。


「────さて、王子殿下。王子殿下の仰る平民の子のくせに公爵家に寄生しようとしている者は誰ですかな?」


「な……!貴様!フィリアを馬鹿にしたのか?!フィリアは素晴らしい女性だ!平民だとか爵位など関係ないんだ!爵位があるかどうかで人を差別するなんて人としてあるまじき行為だぞ!恥を知れ!!」


 お父様の言葉に瞬時に反応した王子が青筋を立てて怒鳴り散らしてくる。さっきまで私を嘘つきの平民だと馬鹿にし、蔑んでいた口で「平民を差別するな」と言っているようだ。


 王子の近くにいた人たちがそっとその場を離れ出すが王子の口は止まらなかった。


「だいたい、証拠はあるのか?!そこのキズモノが本物で入れ替えられた赤ん坊が男児だったなんて証拠は?!そんなものあるは「ありますとも」へ」


 お父様に詰め寄ろうとした王子は動きを止める。それを合図にロナウドがパーティー会場の隅へと足を向けると、そこにいたひとりの人物をこちらへと連れてきたのだ。


 その人物は、プラチナブロンドの髪とエメラルド色の瞳を持った少年だった。顔立ちも少し“セリィナ”に似ているように見える少年は私と目が合うと優しく微笑んできた。


「世の中には似た顔の人間が3人は存在するとは良く言ったものですな。偶然とは言え、髪も瞳も顔立ちも良く似ている……性別以外は。

 王子殿下、彼こそが入れ替わりに利用された例の赤ん坊本人でございます」


 そして少年が口を開こうとした瞬間、王子は怒りで顔を真っ赤にして地団駄を踏み出したのだ。


「そんなものが証拠になるものか!赤ん坊の時に拐われたことなんて本人が覚えているはずがないだろう?!それにもしも本人だというならばそいつは平民だ!たかが平民の言葉になんてなんの価値も無いじゃないか!」


 またもや二転三転する王子の言葉に、さっきまで狼狽えていたはずの貴族たちの目が冷ややかになっていくのがわかる。この人は、自分の言っている事が本当にわかっているのだろうか?


「先ほども言いましたが、証拠ならあります。まず、男児の赤ん坊の親を探すために医者と警備隊の協力を得ました。その医者は平民の出産も面倒を見ていましてな、自分が関わった赤ん坊の全ての記録を残しているのです。その中でも変わっているのが必ず“指紋”を取っているのですよ。親子関係や見た目の記録ではなく、赤ん坊本人の指紋です。この指紋は人間それぞれ全て違い、残された指紋があれば本人だと確認出来るのだとか……面白いでしょう?おかげでその赤ん坊が数日前に下町で産まれた子供だとわかったんです。そして“指紋”の模様は成長しても変わらない。この少年は()()()()()()()()()()だと、医者が証明しております」


「い、医者が嘘を……」


「ここに証明書があります。いやぁ、その医者は住む所を転々とするので探し出すのに苦労しました。まさかあんなに近くにいたとは盲点でしたが、十数年前の記録もしっかりと保管していてくれたのですぐに調べてくださいましたよ。この少年は確かにあの日、公爵家に連れてこられていたのです」


 そう言ってお父様は1枚の紙を取り出した。それを見て王子は血の気が引いたのか今度は顔を青くしたのだ。


「……これは、ロイヤルドクターのサイン…………」


「ちなみに申し上げますと、この少年は平民ではございません。まさに今日、男爵位を叙爵いたしております。陛下も認められた貴族の一員です」


「はぁ?!なんで平民が叙爵なんて……」


「おや、王子殿下はご存知ありませんでしたか?実は豪華絢爛なドレスや宝石を山のように求めて、さらに()()()()()()()に湯水のように金を使う王族がいるとかで、莫大な額のツケに加えてなぜか国庫から金が消えていたと陛下が頭を抱えておりましてなぁ。誰が原因とは言いませんが……おっと、これは秘密事項でした。失礼、殿下」


 お父様が人差し指を立てて口元へ持っていき視線を動かすと、周りの貴族たちは黙ったままコクコクと頷いた。それは子供たちもわかっているようでみんな石のように固まっている。


「とにかく、彼がその金をどうにかする代わりに男爵位をもらった……それだけの話です」


「そ、そんな金、平民に用意できるわけ……」


「この少年には父親から受け継いだ商人の才覚がありましてね。隣国では有名なのですよ?“まるで魔法使いのように何でも揃える大商人親子”だと。我が家でも重宝しておりまして、是非陛下にも紹介したいと思っていたのです。父親の方は辞退してきたのでそれならば息子の方をと……まぁ、アバーライン公爵家が関わってると知ってなかなか叙爵に同意してくださらなかったので今日まで時間がかかってしまいましたが────国庫の中身を埋める金と、王子殿下の“オイタ”の証拠を目の前に差し出したら了承してくださいました。


 さて、殿下。国王陛下の認めた貴族の発言と、ロイヤルドクターのサイン入りの証拠もありますが……まだなにか?」


 すると王子は声を震わせて私を睨んでくる。その瞳は憎悪に染まっていて背筋が寒くなった。


「フィリアが……フィリアが公爵令嬢になるはずなんだ!邪魔なセリィナを蹴落として!そうすれば全て上手くいくはずだったのに!」


「ほぉ、セリィナが邪魔ですか。公爵家は他にもあるのに、なぜ他の公爵家に養女にしてもらうなりせずにセリィナを狙うのです?」


「そいつの事が大嫌いでムカつくからだよ!その地位はフィリアにこそ相応しいのに、キズモノが偉そうにしていると思ったら虫酸が走る……!!」



 ばきぃっ!!



 突然、壁が砕けたような音がした。そこにいる全員が一斉にそちらを向くと……そこには拳の形にへこんだ壁かあり、いつの間にか移動していたライルがそこに立っていたのだ。こちらに背を向けていたのでどんな表情をしているかわからなかったが、振り向いたライルはにっこりと笑っている。


「帰りましょうか、セリィナ嬢」


 そう言って返事も聞かずに私を抱き上げると、スタスタと扉へ向かったのだ。


「えっ、あ、あの」


 戸惑う私にもお構い無しで先へと進むライルの後ろを公爵家の一行も「それもそうだな、帰ろう」と続いて歩き出した。例の少年までにこにこしながら付いてきてしまっている。しかもみんな笑顔なのに纏っている空気は重く感じた。


「ま、待て!逃げるのか?!」


「何を仰るのです、もう話は終わりました。これ以上セリィナを……我が娘を愚弄するのならば、こちらもそれなりの対応をさせていただくことになりますが?」


 慌てて詰め寄ろうとする王子の手を払いのけ、お父様は「では、ごきげんよう」と扉を閉めた。それはもう────これまで見たことのないような冷酷な笑顔で。


 それがまるで、王子の未来を予言しているかのように思えたのだった。









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