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悪役令嬢はおねぇ執事の溺愛に気付かない  作者: As-me・com


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15/70

15:悪役令嬢のフラグ

 私が体を丸めて待っていると、すぐにライルは店に戻って来てくれた。


 少し疲れた顔をしていたけれど私には何も言ってくれない。ただ、私の顔を見て肩の力を抜いたように笑っただけだった。でも、私にはその笑顔が全てだったのだ。


「ライル……!」


 ヒロインと何かあったのかもと、気にはなったけれどその姿を見て思わず抱きついた私にライルは「お待たせしちゃったかしら?」と抱き上げてくれた。“いつものライルだ”と、そう思ったら涙が浮かぶくらい嬉しくなってしまった。だって、もしかしたらライルがあのままヒロインと一緒にどこかへ行ってしまうのではないか。そんな恐怖に襲われていたからだ。


「マダム、セリィナ様を守っていてくれてありがとう。助かったわ」


 ライルがそう言うと……「マダム」と呼ばれた店主はにっこりとした笑みを浮かべて「じゃあ、改めてお茶にしましょう」と言ってくれた。もちろんライルが私の目の前でお茶を淹れてくれて、お茶請けもライルお手製のお菓子を持ってきてくれていたのだ。


「ライルさんたら、また腕を上げたわねぇ。(それにしてもお嬢様を膝に乗せてお菓子を食べさせるなんて……これって、公爵様には内緒にした方がいいのかしら?)」


「あらやだ。これくらい執事としての嗜みよぉ?マダムったら口が上手ねぇ(どうせ護衛の影が見てるだろうから気にしないでいいわ)」


「さすがはライルさんねぇ(あぁ、いつものことなのね。公爵様も相変わらず過保護ねぇ)」


 ふたりはなぜか“にっこり”と頷き合っている。私はと言えば、ついライルに甘えてしまって膝の上に乗せてもらっていた。これも全て私がヒヨコなせいなのだ。本能には逆らえないのである。


 そしてお茶が終わると、ライルは何ごともなかったかのようにマダムさんからメジャーを奪って嬉々として私のサイズ採寸しだした。どのみちライル以外の人間に触られるなんて無理だからそれはそれでいいのだが、マダムさんがライルと掛け合いをしながらあまりにも私に気を遣ってくれるものだから……もしかしたら、ライル以外にも大丈夫な人もいるのではないか。そんな気持ちになったのだ。


 デザインを決めてからドレスの予約をして、帰宅する帰りの馬車でも屋敷についてからもライルの口からヒロインの話は欠片も出てこない。そのおかげでヒロインの存在がすぐに家族にバレることはなかったが……。でも、もういつどうなってもおかしくない状況なのだと思い、私は決意したのだ。


 確かにまだ怖い。怖いけれど……。でも、いつまでもライルにばっかり甘えていてはダメだって事もわかってる。それに、ライルが「大丈夫よ」って言ってくれる相手になら頑張れる気がした。


 あれからデビュタントパーティーまでの間……私はライルに協力してもらってとある事を実行していたのである。



「お、おは、おはよ、ぅ……ゴザイ……マス…………」


 ライルの背後から私の今にも消え入りそう声が響くと、その場にいた人間が目を見開いてごくりと生唾飲んだ。と、ライルが後から言っていた。


「あら、セリィナ様えらいわー」


 私の頭をライルが優しく撫でてくれると、緊張してカチコチだった体の力が少しだけ抜ける。そう私は……“アバーライン公爵家内でライル以外の人間に挨拶をしよう”大作戦を決行していたのである。まずはこの極度の人間嫌いを克服しなければどのみち私に未来はないのだ。


 その日、ライルの後ろに隠れながらなら家族や使用人に挨拶をして回る事に成功した。最初は完全に隠れていたが、徐々に慣れてくるとライルの背中から顔を半分くらい出して挨拶が出来るようになって来たのだが……それに対してお父様もお姉様たちもなぜかプルプルと小刻みに体を震わせるながら、視線を反らして返事をしてくれるのだ。ゲームでの印象なら確実に無視されるか睨まれるはずだか返事があるということはそんなに悪いことはない?……と思いたい。あくまで願望だが。でもなぜ震えているのかはわからないが、予想よりは蔑まれてない……と思う。


 ちなみに使用人たちには泣いて喜ばれてしまった。その姿を見たら……少しだけ怖い感情が和らいだのだ。


「ね、大丈夫だったでしょう?」


「うん……。私、このまま人間不信を治せるかなぁ?」


「セリィナ様ならきっと出来るわよ」


 しかし、実はなによりもの難題というか強敵がまだ残っている。私が未だに挨拶どころか、遠くから顔を見るだけで逃げ出したくなる人物。



 それは、悪役令嬢の母親だ。


 この母親は、最初から最後までいつも悪役令嬢に悲しそうな視線と深いため息を向けるだけで笑顔を見せることがなかった。前世の記憶を思い出す前のセリィナはそのため息が聞こえるたびに自分が男に産まれなかったからがっかりされているのだと幼心に思っていて、その度に申し訳ない気持ちになったものだ。


 だってセリィナ()は待望の跡取りではなく、なんの価値もない3人目の娘だから。


 だからお母様の事は少し苦手だったし、お母様から私に関わってくる事もほとんどなかったのだ。

 

 ちなみにゲームの母親はヒロインが実の娘だとわかった途端に笑顔でヒロインを抱き締めていた。


『いくら男児じゃ無かったからって、実の娘を見てあんな気持ちになるなんておかしいと思っていたのよ。偽物だったからあんなに憎かったのね。ほら、本物の娘はこんなに愛しいと感じるわ』


 シナリオでも笑顔で涙を流しながらヒロインを抱き締める母親の姿にプレイヤーは感動したものだ。


 ……本当は、私からちゃんと家族に言うべきなのだとわかっている。私はこの家の娘じゃない。本物の公爵令嬢は別にいると。だが、なぜそれを私が知っているのかを説明出来ない事が1番困ってるのだ。これからひとりで生きていく為の準備期間がもう少し欲しいのも事実だが、なによりも“自分には前世の記憶がありここは乙女ゲームの世界だ”なんて言えるわけがない。


 そんな事を言えばどうなるか……想像しただけで背筋が寒くなり、ぶるりと体が震えた。


 それに、ゲームではヒロインが公爵家の娘だとわかるのはゲーム中盤以降だ。ヒロインが自ら暴露するならまだしも、悪役令嬢の私が断罪回避の為にゲーム開始前に真実を口にしたら強制力が今度は何をするか予想もつかない。


 そして……私のこの行動さえもゲームのフラグに利用されているんじゃないかって思ってしまうのだが、それでも私は私の未来の為に思い付く事をやるしか無いのである。





 ***





 そして、数ヶ月後。



「はぁ……」


 大きな鏡を見ながら思わずため息をついた。


 そこには届いたばかりの淡いパープルカラーのレースをたっぷり使った可愛らしいドレスを試着した私がいる。


 あれから人間不信の症状は少しだけ改善された(お父様を見ても失神はしなくなった)が、未だにお母様は目も合わせてくれなかった。やはりそれは母親の勘で私が偽物だと見抜いているからだろうか?と、そう思ったら私も怖気付いてしまったのだ。


 嘘つきの偽物だと罵られ殺される運命からどんなに逃れたくてもそれがゲームの強制力だとしたら、私は……やはり断罪されなくてはいけないのだろうか。ゲームの開始まで後5年……それまでにどうにかしないと。





 そして、ヒロインとの衝撃的な出会いから数ヶ月があっという間に経ち……とうとうデビュタントパーティーが明日に迫っていた。







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