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ちび神様の楽園ダンジョン  作者: もちもち物質
第一章:ダンジョンは村に進化した!
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おいでよダンジョン畑*1

「えーとね、パニス村は、私がお世話になってる村。王都からは離れてるし、街道沿いでもないから人もあんまり来ないけれど、穏やかでいい村だよ」

 今朝作ったばかりの石のベンチに座りつつ、水晶のコップで水を飲みつつ、ミシシアさんと並んで話す。さあ来い、情報。

「ただ……去年が不作だったらしくて。ほら、少し前まで、戦があったじゃない?それで村の男手が取られちゃって、畑も減らしたらしくて、余計に……」

 ……戦、あったんだ。で、徴兵されたらしい、と。成程ね……。そりゃ中々、大変そうだな。ミシシアさんが村にお世話になってる、っていうのも、人手が足りないから、っていう理由かもしれないな。

「それで、教会に払う寄付金が、今年はあんまり出せなかったんだって。そうしたら、『祝福』を授けてもらえなかったらしくて、今年ももう、不作がほとんど確実で……」

 で、前回からずっと気になってたワードが出てきちゃったわけよ。何よ、『教会』と『寄付金』と『祝福』って。絶対なんかあるだろ。

「えーと、その『祝福』って?」

「え?あ、そうか、アスマ様は生まれたての神様だから知らないのか……えーとね、教会の人が、豊作の祈願をしてくれるの。そうすると、土地の穢れが消えて、魔力の循環が良くなって、作物の育ちがいいんだよね」

 へー、成程ね。この世界においては、肥料じゃなくて祈祷、ってことか。で、実際にそれが効果アリ、と。

 流石はファンタジー世界だなあ。なんかもう、理屈がよく分かんねえけどしょうがねえや、ファンタジーだから。

「ただ、寄付の返礼ってことでやってもらうものだから……寄付金が少ないと、やってもらえないんだって」

「ケチだね!」

「だよねー、私もそう思うよ……はあ」

 ……ファンタジーなのに、宗教団体の営利化みたいなのはあるのか。嫌なファンタジーだ。

「えーと……『教会』ってのは?」

「教会?ええとね、国教?の団体だよね。私もあんまり詳しくないんだけれど……王都に大聖堂があって、そこが総本山。国中に支部があって、それが『教会』。それで、各地で教えを説いたり、困ってる人を助けたり……してる、らしいよ」

「らしい、んだ」

「うん。実際にあちこちに居るのは旅の途中で見たことあるし、『祝福』を授けられるのも彼らだけらしいんだけど……まあ、だから皆、寄付金を出してるだけで、国教の唯一神?を信仰してるわけじゃないしなあー、少なくとも、パニス村ではあんまり身近じゃないよ」

 あー、成程ね。うん。分かってきた。

 この国、一応一神教の『国教』が決まってはいるけど、土着信仰とかそっちの方が強いんだ。でも『祝福』が無いと不作ってことは、まあ、少なくとも表向きは国教の信仰が必須、みたいな……そういうかんじ?

 ……やなファンタジーだなあー!


「まあ、そういう訳で、パニス村は今、食べ物に困ってて……だから、アスマ様がくれたトマトとパン、すごくありがたいんだ。本当にありがとう。皆、喜んでる」

 ……まあ、宗教と利権が密接に絡んでいそうな嫌な話はさておき、ひとまず、ミシシアさんと村の人達は喜んでくれてるみたいだからな。彼らを助けられたのはよかった、ってことで。

「皆ねー、『新しいダンジョンの神様は慈悲深い方なんだなあ』って」

 ……俺、やっぱりダンジョンの神様扱いなの?うん、あのさ、さっき『一神教の国教の唯一神への信仰が少なくとも表向きは必須である』みたいな話を聞いた直後に神扱いされるとさ、俺としてもなんか居心地悪いんだけど。

「あの、いいの?俺、神様かもしれないけどさ、そういう俺への感謝とかって、『教会』の人に悪く思われないもん?」

「え?うーん……でも、実際に助けてくれてるのはアスマ様だし。うん。悪く思われるかもしれないけど、それはしょうがないよねえ」

 ミシシアさんはにこにこしてるが……ああ、うん、この世界の宗教観とかは、なんとなく分かった。分かったぜ。

 つまり……俺は多分、その『教会』とやらとは、相性が良くないな……。うん、見つからんようにしとこ。それが分かっただけでも万々歳よ。




「ところでミシシアさんは何をしてる人?」

「へ?私?」

 さて。世界の状況がちょこっと分かったところで、次はもうちょい身近なところ。

 そう。現状、俺と外界を繋ぐ唯一のパス。……ミシシアさんご本人のことを聞いてみよう。


「私はねえ……エルフの里を出て、旅をしているところ。ええとね」

 ミシシアさんは、ごそごそ、と胸元をやり始めた。うわあなんだなんだ、とびっくりしていると、襟の中から、しゃら、とペンダントを取り出す。

 それは、ごつごつした赤い宝石を糸で編んで固定したような、そんな素朴なペンダントだった。襟の中にしまってたんだから、大事なものなんだろうなあ。

 ……と、思ったら。

「これを植える場所を、探してるんだ」

 なんか、衝撃的なことを聞いてしまった。……ペンダント、植えるの?え?

「植え……それを?あ、スライムに植える?」

「あー、そうするとスライム、潰れちゃうなあ、きっと」

 ミシシアさんは笑って、それから、ちょっと声を潜めて、教えてくれた。

「……これね、世界樹の種なの」


「せかいじゅ……?」

「うん。世界樹。世界と世界を繋ぐ樹、って言われてるんだ。エルフ達にとって、命より大事なもの。……私はこれを植える場所を探して、旅をしているところ」

 ミシシアさんはそう言うと、ちょっと困ったような笑顔を浮かべた。

「……なんだけど、うまく、場所が見つからなくてね。私、エルフじゃないし、魔法苦手だからさあ、魔力が多い場所があっても、土地を借りる許しがもらえなくて……」

「えっ、エルフじゃないの?」

 なんか唐突に不思議なことが聞こえた気がしたぞ!?と思って思わず聞き返すと、ミシシアさんはちょっと複雑そうな顔をした。……ごめん。

「うん。ハーフエルフなの。混じりものだから余計に、森は嫌がるんだろうなあ……」

 ……なんとなく気まずいな、これ。無神経だったか。うーん……。


「……ま、その内丁度いいところ、見つかると思う。大丈夫。時間はたっぷりあるんだし」

 だが、ミシシアさんは明るくそう言うと、にっこり笑った。ああ……気を遣わせちまった気がする。

 ちょっと反省していると、ミシシアさんはまた殊更明るく笑って言った。

「それに、今は世界樹どころじゃないし!今はパニス村のお手伝い、したいから!だからちょっとだけ……まあ、5年くらいはここに居るつもりだし!」

 ……うん。

 そうかぁ、成程なあ……。

「……5年って、ちょっと、なんだ」

「え?うん。……えっ!?あっ、私、ズレたこと言ってる!?分かんないんだよぉ、この、時間の流れの感覚!エルフとも違うし人間とも違うし!」

 俺も、この世界のことがよく分かってない訳だが。

 ミシシアさんはミシシアさんで、この世界の感覚がよく分かってないとこ、あるっぽいな。主に、時間の感覚について……。

 ……まあ、101歳って言ってたしな。うん。なら、俺が思うより、本当に思いつめてないのかも。『時間はたっぷりある』んだろうし……。




「で、あの、アスマ様!この水も、少し分けてもらってもいい?」

 さて。ミシシアさんがまたごそごそと世界樹の種を襟の中にしまったところで。

「その、村に病気の子が居てね。薬を煎じたいんだけど、この不作で、薬草も育ちが悪くて……なら、魔力たっぷりの水で煎じれば、補えるかな、って!」

 ほう。薬草。そういうのもあるのか。興味あるなあ。ファンタジー植物なわけだろ?めっちゃ気になる。超気になる。

「そういうことならどうぞどうぞ。ちょっと待ってて、瓶に入れて持ってくる」

 水晶の瓶を再構築で作って、水をたっぷり詰めて、そこに植物繊維を固めて作った栓をムギュッと詰めれば、完成。お土産にどうぞ。

「……これのお礼は、薬草の種か苗でいいよ!」

「うん!分かった!持ってくるね!」

 いやぁ、助かるね。薬草、薬草か……。夢が広がるじゃあないの。いいねいいね。

 まあ、明日、スライムがまた来てくれたらそこに植える、ってことで。よし。楽しみ。




 ということで、翌日。朝。

「こうなるだろうとは思ってたぜ!」

 朝露を朝陽に煌めかせながら、もっちりもっちり、と行進してくるスライムの群れ。

 そして、彼らの頭にふさふさと生えた……お野菜!総勢、10種類!

 トマト、インゲン豆、レンズ豆、ツル豆……あと、麦、人参、キャベツ、ケール、ラディッシュ、ニンニク!

 すごいな。一気に実っちまったよ。ここまで一気に実られると困るけどな。なんだこれ。どうすんのこれ。ちょっと呆然としちゃうぜ。

「と、とりあえず収穫……収穫するしかねえ!」

 だがここで立ち竦んでいても状況は変わらない。俺は意を決して、籠と小さいナイフを持って、収穫作業に臨むのだ!


 が、まあ、手が足りねえ。

「あー!もう花が付いてる!はえーよ!はえーんだよお前ら!」

 朝陽が昇ってくるにつれ、スライム達の頭の上で、作物はどんどん成長を続けていく。ほら見ろ!人参とかキャベツとかケールとか、もう花が付いちゃったよ!

「ああもういいやぁ、花が付いちゃった奴はこのままほっといて種採る用にしよう。えーと、麦を優先だな。後は豆類は後回しで……」

 しょうがないので、もう色々諦めながら作業を続ける。種が実っちゃったらそれはそれで悪くないので、まあ、それはそのままで……。

「あ。ツル豆ってお前、大豆だったのかよ!ちっちゃいけど!」

 そして、正体不明だった『ツル豆』だが、どうやら大豆の仲間だったっぽいことが判明。なんかちっちゃい枝豆みたいなのが実ってる。いいねいいね。これで植物性ながらタンパク質ゲットだぜ。

「しかし、豆とか麦とかは特に、もうちょい品種改良したいなあ……。収穫が面倒だ」

 品種改良って、味だけの問題じゃないからな。実の付き方とか、実の大きさとか、そういうのはモロに収穫のしやすさに関わってくるわけだから。

 今後のことを考えると、品種改良した方がいいかもしれないな。うん。特に、麦なんてこの後、脱穀とかの作業もある訳だし……。




 ……ということで、収穫作業を頑張り続けた俺の周りに、収穫が終わっていないスライム達がもっちりもっちりと集まってくる。が、終わらない。中々終わらない。

 そりゃそうだ!トマト7株だけでもちょっと持て余してたのに、一気に品種は8倍、分量は5倍ぐらいになってるんだぞ!終わるわけがねえ!

「終わらない……終わらない……」

 次々に花が咲いて、種ができていく作物を横目に、必死に収穫作業を続けていくわけなんだが……ああ、終わらない……。特に、豆と麦が、収穫する時の手間が、とんでもねえ……!どうすんだこれ!


「やっとおわった」

 そうして太陽がいよいよ高く昇った頃、俺はようやく、収穫作業を終えた。

 スライムへの種蒔きはちょっとどうするかなあ、と考え中だ。いや、だって、トマトとか豆類とかはどうも、一回株ができちゃうと、後は種の蒔き直しなんざしなくとも、延々と採れ続けちゃうみたいだし……。

 そうなると、明日以降、またこの大変な収穫作業が待ってる訳だし……。

 どうするかなあ、と考えながら、『ねえ、まだ?』みたいなかんじにもそもそしているスライム達を手慰みに撫でて……ふと、思い出す。

「あれ、そういやミシシアさん、遅いな……」

 ……昨日は、朝から来てくれてたんだが。大丈夫かな。




「アスマ様ー!」

 少し心配していたが、それからすぐ、ミシシアさんの声が聞こえてきた。おお、いらっしゃい。

「ごめんね、遅くなっちゃって……」

「いや、大丈夫。あの、薬、どうだった?」

「うん。多分、前より効果が出てると思う。ありがとうね、アスマ様」

 そうか。なんか持ち帰った水で事件でもあったかと思ったが、それは大丈夫だったらしい。よかったよかった。

「……で、何か、あったのか?」

 だが、その割にはミシシアさんの表情が暗い。

 ……そして。

「村の畑が、荒らされてたの」

 なんとも衝撃的なことを言われてしまったのだった!




「エデレ……ええと、パニス村の長をやってる人なんだけれどね。その人が今、ちょっとお金がある、かなりガラの悪いのに絡まれてて……」

「ちょっとお金があってかなりガラの悪いの……!?それで、私怨!?私怨で畑、荒らされたの!?」

「多分、そう。エデレ、美人だから……その、旦那さんが戦で亡くなってるんだけど、それをいいことに、再婚を迫られてて……」

「思いの外ドロドロしてる!」

 事情を聞いたらあらまあビックリ。すげえ嫌な話だった!

 みかじめ料として美人村長を寄越せ、っていう、そういう奴だった!なんてこった!

「……村の子供が病気で、薬が必要だし……なのに畑も駄目になっちゃって、いよいよ、そいつと再婚するしかないか、って……」

「うわあ……居るんだ、そういうの」

 ファンタジーなのになあ、と思ったが、よくよく考えたらファンタジー世界だからこそこういうの、多いのかもしれないな。うん……。


「えーと……つまり、その、エデレさん?って方をはじめとした村人全員の食糧事情が、もう、危うい、と」

「うん……」

 ついでに、村の子供の病気ってのも気になるしな。うーん……。


「ねえ、ミシシアさん」

 そういう訳で、俺はミシシアさんに提案する。リスキーではあるが……自分のご近所で、そんなドロドロした嫌な話が展開されてるのも嫌だしな。

 助けられる人が居るなら助けたいし……助けてもらえるなら、助けてもらいたい!

「それなら……村の人達には、こっちの畑の世話をしてもらう、ってのはどう?」


「……えっ?」

「その……見ての通り、人手が足りないから……手伝ってもらえたら、助かるんだけど……」

 ほら見てよこのスライム。『早く肥料寄越せよ』と言わんばかりの、もっちりもっちりした、この圧をよぉ……。


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― 新着の感想 ―
スライムのこと畑って言ってる…
↓くそ怖え事言ってるヤツいるんだが 発想も怖えし万一大量に芽吹いても怖えわ
DQNもスライムに埋めれば。
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