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ちび神様の楽園ダンジョン  作者: もちもち物質
第一章:ダンジョンは村に進化した!
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トマトとエルフ*3

 ……そうして。

「こんなにたくさん……いいの?」

「いいの。代わりに種くれるなら、それで!」

 俺は、ちょっと洞窟の奥に引っ込んでから、そこまで長くはないパンをいくつか再構築して、布で包んで渡すことにした。

 トマトはもう、さっきの籠ごと持っていってもらう。どうせ食べきれねえし。

 ということで、ミシシアさんはとても感激してくれているのだが、まあ、俺としては大した出費でもない。これで喜んでくれるなら嬉しいことだね。


「ありがとう、アスマ様ー!次に来る時は種、持ってくるからー!」

「うん!待ってるー!ところでさー!なんで様付けなのー!?」

「神様だからー!」

 ……ということで、まあ、ミシシアさんは村へ帰っていった。多分、村の方。成程ね、あっちの方か……。

 まあ、これで飢えて困っている人達が多少救われるかもしれない訳だし、ついでに俺は作物の種を手に入れられる訳だし、気分は中々に晴れやかだ。いいねいいね。

 気になる点としては、俺が『神様』扱いされていることだが……そして、同時に『神様』扱いにしては、なんかラフな接し方をされている訳なんだが……うーん、この世界の宗教ってどんな具合なんだろうなあ。

 なんか……日本の多神教めいたかんじか?妖怪と神の境目があんまり無いかんじか?まあ、魔物とか居るんだろうしな、この世界。

 しかしその一方で、『寄付金』で『祝福』だろ?……なんか、なんかありそうだよな?そっちも宗教絡みっぽくないか?だとしたら俺の立場ってどんなもんなの?

「……よし。考えるのは止めとこう」

 考えても仕方ない。後は、ミシシアさんがなんかいいかんじに色々な情報の情報源になってくれることを期待しよう。一応、助け合える関係な訳だし、今後も良好なお付き合いをさせてもらえると信じて……。

 ……彼女、どう見ても人が好いかんじだったしな。『最近お世話になってる』だけの村の飢饉の為に、1人でダンジョンくんだりまで来るような人なんだし。




 ということで、ミシシアさんがいつ来てもいいように、洞窟前に石のベンチを作っておいておくことにした。ほら、次に来てくれたら色々聞かなきゃいけないし、立ち話ってのも何だし。

 ついでにお客様用のコップとか皿とかも作っておいた。水晶で作ると涼し気でいいね。

 まあ、お客様に水ぐらいは出せるようにしておきたいんで、洞窟入ってすぐのところに小さな部屋を作っておいた。そこに棚を作って、コップとか皿とか置いておく。あと、水瓶に水を入れておいて、籠にパンを入れておけば、まあ、体裁はなんとかなっただろ。よし。

「……これから人が来ることもちょっと考えておいた方がいいのか」

 それから、まあ、ミシシアさんが来たってことは、他の人が来ることもあり得る訳だ。で、新たに来た人が、ミシシアさんみたいなお人よしとは限らない。

 ということで、そんな今後を考えて、ダンジョンを整備することにした。

 洞窟の最奥まで入られると、ちょっとな。ダンジョンの主としてはなんか緊張するんでな……。あんまり人は入れない方がいいだろうし。ちょっとくらいはダンジョンの主っぽいこと、しておくか、ってことで……。




 ダンジョンの整備、ということで……まずは洞窟を迷路化しておくことにした。横道が沢山できれば、正解のルートが分かりにくくなるからな。

 二次元方向のみならず、上にも下にも絡み合うように延びる沢山の道。遠回りしつつも実は繋がっている無限回郎。竪穴に飛び込まないと先へ進めない構造。子供の体でなければ通り抜けできないような、道には見えない小さな割れ目の先にのみ続く正解ルート……。

 ……これだと、攻略は勿論、マッピングも困難を極めるだろう。少なくとも俺には、天然の三次元迷路をマッピングすることはできない。しかもこれ、B1F、B2F、みたいに綺麗に階層分けされてないからな。緩やかな上り坂から竪穴まで、階層移動も面倒なかんじだしな。

 もし誰かが金目の物目当てに侵入しても、これなら先に体力とか食料とかが尽きるだろうと思う。もしかしたら、一度迷い込むと脱出も難しいかもしれない。俺は近道が分かっているから問題なく出入りできるが、知らなかったら迷子必至だろう。


 続いて、それでも先に進めちゃった人が居た場合に備えて、上からデカい檻が降ってくるトラップと、床がパカッと開いて落とし穴で落とせるトラップだけはいくつか仕掛けておくことにした。

 ……もっと怖いかんじのトラップも、仕掛けようと思えば仕掛けられるんだけどな。でもそれもなんかな……って思うので。

 まあ、ダンジョンってのは『魔力を集める』ことが目的らしいが、人を殺すことが目的じゃないはずなので、当面はこれで行こうと思う。

 ……いや、ダンジョンってもしかして人を殺すのが目的?俺、ダンジョンの主の割にダンジョンのこと分かってないんだよな。

 この辺りもミシシアさんが知ってたら聞いてみるか……?

「そういえば、ミシシアさんは食べ物とか金目の物を探しにダンジョンに来たんだよな……?」

 ミシシアさんの行動を考えると、まあ、食べ物は『トマトが植わっているスライムを見つけてしまったので』ってことなんだろうが、金目の物を期待して来たことについては、『ダンジョンにはお宝があるものである』ってことじゃないのか?

 ……ということは、今、俺のダンジョンは他のダンジョンに比べて大変にしょぼい可能性が高い。

 なんか用意しておいた方がいいのかなあ、お宝……。

 でも、身の丈に合わねえもん用意しといてもなあ、という気がするので、当面はこのまま行くことにした。いずれ、金銀財宝ざっくざくのダンジョンを目指したくなったら、その時はその時にやるってことで。




 そうして、翌日。

 今日も元気にトマトに水をやり、スライムに水と肥料をやり、そして大量のトマトを収穫した。

 スライム達は元気にトマトを実らせてくれているもんで、昨日を超える豊作になってしまった。まあ、好きだからいいんだけどね、トマト。

「今日もお前らは元気だなー」

 スライム達はすっかり水と肥料目当てらしい。もっちりもっちりと一列になって、実にマイペースに行進してくる。列になってくれてるんで、水と肥料を与えやすい。よしよし、可愛い奴らめ。

「お、新入りか。悪いな、お前らはトマトじゃない奴植えるから、もうちょっと待機な」

 そしてスライム達の間でこの肥料かけ流しツアーが口コミで広がってるのか、新しいスライムがまたやってきた。だが、こいつらにまでトマトを植えたらいよいよトマトしかねえダンジョンになっちまうので、それはストップ。

「ミシシアさんが他の種、持ってきてくれる予定だから……あっ」

 そんな話をしている間にも、ダンジョンの入口……森の途中あたりからダンジョンの入口が始まってるらしいんだが、そこに『侵入者』の気配を察知できた。成程ね、こうやってダンジョンは、お客さんの存在を知るってわけ。

 その『侵入者』の気配がこっちにまで近づいてくるのをのんびり待っていると……。

「アスマ様ー!おはよーう!」

 案の定、ミシシアさんが笑顔でこっちに走ってくるところだった!……が!

「ミシシアさーん!おはよーう!ところでなんで道じゃないところ走ってんのー!?」

「こっちの方が速いもーん!」

 ……やってきたミシシアさん。

 なんと、木から木へ飛び移るようにして、半ば飛ぶようにやってきていた。すげーな。これがエルフかぁ。やっぱファンタジーじゃん!




 猛スピードでやってきたミシシアさんに、『まあ一杯どうぞ』と水を提供する。一回分解吸収を経た、不純物なんも無い水である。なので風味とか旨味とかも無い。ミネラルとかも無い。無味。無味である。

「んっ!?……このお水、すごくおいしい……」

「あ、そう?そりゃよかった」

 が、ミシシアさんにはこの無味水が好評であった。おやおや、こいつはどういうことかな。

「清廉な魔力に満ちてる……これ、ダンジョンの湧き水?」

「ダンジョンの湧いてない水だね……」

 何、やっぱダンジョンって水湧かしといたほうがいいのか?うーん、検討しとくかなあ。

「そっか……ここのスライム達は、こんなにたっぷりの魔力を浴びて生きてるんだね。道理で賢い子達なわけだ!森も、ダンジョンの恩恵をもらってるみたい。急に元気になったから何かと思ってたけど……」

 ミシシアさんは何やら納得した様子である。水一杯お出しするだけで貰える情報ってこんなにあるもんだなあ。色々お出ししたくなっちまうね、こりゃ。

「ここのスライム、賢いの?」

「うん?うん、賢いと思うよー。人を襲わないし、頭に何か植えられてるのに、ちゃんと植えられたまんま大人しくしてるし……。ここに来るとアスマ様がお水くれる、って分かってるから、毎朝来るんでしょ?」

 成程ね、スライムって本来、人を襲うのか。怖いね。

「アスマ様の魔力に影響されて、スライムも人を襲わないんじゃないかな。えらいねー」

 ミシシアさんは、もっちりもっちりやっているスライム達を『えらい、えらい』と撫でている。スライム達は、ぷるるん、と震えて返事をしている……ように見えるが、まあ分かんねえなこれ。


「あっ、そうだそうだ。それでね、アスマ様……はい、これ!」

 そしてミシシアさんは、ウエストのポーチから出した袋を、俺にくれた。

「種!約束の!」

「おおおー!」

 小袋がいくつか、俺の手の上に乗せられる。それぞれ、知らない文字でタグがついてるな。まあ知らない文字なんだけど読めるな。怖いよ。なんで読めちゃうんだよ。

 ところで俺の腕輪に刻んである文字とこのタグの文字はちょっと違う文字っぽいな。なんだろ。腕輪の方が古代文字とかそういう奴なのかな。それともタグの方がエルフ文字とかそういう奴なのか……。

「これがレンズ豆、これがエンドウ豆、これがツル豆。豆がいいって言ってたから、色んな豆の種、貰ってきたよ!」

「ああ!種!うわあー、これは嬉しいな!ありがとうミシシアさん!」

 もうね、ありがたい。すげえありがたい。豆……えーと、ツル豆っていうのだけ知らんが、レンズ豆とエンドウ豆はなんとなく分かる!よし!いける!

「でね、これが麦、これがラディッシュ、これが人参、これがキャベツ、これがケールで、こっちはニンニク!」

「めっちゃ多い……ありがたい……」

 更に大量の種が並ぶ。それぞれ、小袋にちょっとずつ入ってるかんじみたいだが、別にいい。萌芽して育ってさえくれりゃ、後は猛スピードで育つからな。そんなに株は多くなくていいわけで……。




 さて。

「よーしお前ら一列に並べー!」

 俺が号令をかけると、スライム達が、もっちりもっちり、実にマイペースにやってきて、一応、なんとなく一列に並んだ。

「植えるから1匹ずつ順番にこっち来い!あ、もう植わってる奴はどっか行っていいぞ!で、明日の朝にはまた戻ってくるんだぞ!いいな!」

 ……こっちの言葉が分かっているのか、このスライム達、なんとなくちゃんと言う事を聞く。成程ね。確かに賢いわ、こいつら。……脳みそがあるようには見えんのだがなあ。やっぱファンタジー。

「えっ、えっ、植えちゃうの……?」

「うん。植えちゃう」

 ということで、スライムの頭に種を植えていくんだが、ミシシアさんは『うわあ』みたいな顔をしてる。……いや、まあ、確かにちょっと『うわあ』な光景だろうけどさ。でもこれが一番早いんだよ、収穫までが……。

「もうちょっと仲間連れてきてもいいぞ。種はまだあるからな」

 スライムに話しかけてみると、スライムは、ぷるるん、としながらのんびり去っていった。

 ……まあ、元気そうで何より。明日もよろしくな。




 さて。

 スライムに種も植えたことだし、これで明日収穫できるものは収穫出来ちまうだろう。怖いけどな。よくよく考えると、結構怖いけどな。

 まあスライムはさておき……こっちだ。

「で、ミシシアさん。今日もトマト、持ってく?」

「えっ、いいの!?」

「うん。パンも持ってくなら、今出してくるけど」

 ミシシアさんに提案してみると、ミシシアさんは『貰えるなら、ありがたいけれど……アスマ様の負担じゃない?』と、ちょっと心配していた。なのでそこは大丈夫、と答えて、ちょっと奥引っ込んで、パン出して戻ってきた。

 ……ということで。

「で、話、聞かせてもらえるとありがたいな。俺、ここの外のこと全然知らないんだ」

 ついでにここの中のことも全然知らないが。まあ、内外合わせて、色々聞かせてもらえるとありがたいね。

「うん。分かった。じゃあ……パニス村の話から、でいいかな」

 よし来た。まずはご近所の話を聞いて、分からない単語が出てきたら適宜聞いていく方針でいこう。

 ……これでようやく、この世界のことがちょっと分かってくるぜ!

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― 新着の感想 ―
トマトの苗抜いて他のを植えたりしないんですかね? いつかは枯れるからそれ待ちでもいいかもですが。 …あ、スライムと一体化してるから枯れないかも?
根菜類は頭からずぼって引き抜くのか……
肥料かけ流しツアー! 新しい農業の形が今ここに。人口密集地帯でやったらえらいことでしょうが。
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