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ちび神様の楽園ダンジョン  作者: もちもち物質
第二章:ダンジョンは国を平和にした!
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馬車への道*1

「えーと、整理しよう。この世界には魔力を持つ道具……『魔道具』が存在する、と」

「ああ、そうだ」

「剣に魔力が宿ってる奴は例外的に魔剣と呼ばれることが多い。それ以外は概ね『魔道具』で……ポーションもその類、と」

「ああ。特にパニス村のポーションは魔力が多くて効きが良いと評判だな」

 ……俺は、リーザスさんの話を聞きながらこの世界の認識を改め始めていた。

 なんか……俺が思っていた以上に、この世界はファンタジーであったらしい。


 リーザスさん曰く、この世界においては魔力を持つ品というものはそう珍しくないが、その魔力を適切に使用できるような状態にするのは難しいらしい。

 えーと、例えば……薬草。薬草の類って、体力回復とか治癒促進とか色々な効果がある訳だが、それって、『薬草を手に持っていれば発動する』ってもんではないわけだ。

 薬草はポーションの形にして服用するのが一般的な訳だが……アレはどうも、『そうしないと効率よく魔力が作用しないから』ってことらしい。

 で、この世界においては、『どういう風に入っている魔力を、どういう風に運用したら、どういう効果が出るのか』っていうのがあんまり解明できていないらしく……まあ、つまり、『とりあえず試行錯誤で先人が試してきた魔力と魔力を持つ物自体と運用方法の掛け合わせを引き続き使っている』っていう状態らしい。

 リーザスさんは『ポーション以外でも……ほら、聖騎士達が着ていた鎧。あれも守りの魔力を備えたものだっただろう?』とのことであった。成程ね。確かにそうだったのかもしれない。アレは『魔銀』が材料だったわけだが、つまりアレは『頑丈になる』みたいな魔力を持ってたんだろうなあ。

 ……生憎、あいつらの鎧の守りの魔力とやらが役に立つことは無かった訳だけれど。だって窒息にはさ、鎧の頑丈さとかさ、あんまり関係ないからさ……。


 さて。

 そんな魔力と道具の話が、何故、今まであんまり俺の認識に無かったのか。

 ……それは、至極単純である。

「で、高価だからあんまり流通していない、と!」

「そういうわけだ。だから……この村の中で見るのはポーションくらいか?」

 そう!結局のところ……『先人が見つけた、まともに魔力が作用するブツと運用方法の組み合わせの例』ってのが悉く高級素材を使うものらしく、パニス村になんざある訳が無かったからだよ!




 はい。そういう訳で、パニス村には資料が無い。そりゃそうだわ。

「時々、貴族が村に来る時にワイバーン素材の馬車に乗っていることがあるな……」

「気づかなかった……」

 分解吸収してみないことには分からないからね、そのブツの魔力が多いかどうかって。なので俺は、『おっ!革張りの幌の馬車だ!』ぐらいにしか思ってなかったし、それがワイバーン革なのか牛革なのかとか全く考えてませんでした。

 まあ、手元に資料が無いもんはしょうがない。現状、調べようがないので、次に貴族が高級馬車で乗り付けてきた時に、一瞬で分解吸収再構築をやってデータだけ採らせてもらうかんじでちょっとやっていこうかな……。


 だがまあ、調べてみたところで、それを実現できるかは微妙なところである。

「となると、やっぱりこの世界で品質のいい馬車を量産しようと思ったら、やっぱりサスペンションの方がいいのかなあー、うーん……」

 ……何せ、現時点でパニス村にほとんど例のないブツな訳だ。そしてその理由が『高級素材を使わないと作れないから』なので……どう考えても、それを量産するのは難しい。難しすぎる。

 今後、流通を活性化させていくにあたって、大量の馬車が欲しい。馬も欲しい。というか自走式の車にできねえかなマジで……とか色々思うところはあるのだが、それはそれとして……まあとにかく、『量産できること』は前提の条件になるんだよな。

 それでいて、俺が帰った後もそれが継続できた方がいい。それは間違いないので……やっぱり、この世界の技術だけでなんとかできるものを考えるしかないんだよな。うーん、となるとやっぱりサスペンション……。




 考えていてもしょうがないので、『どういう形状のサスペンションにしたらいいかね』というのを、模型を再構築で作りながら考える。

 車軸の上に板ばね、板ばねの上に車体……っていう形状が単純でよろしいんじゃねえかという気はするんだが……いや、ちょっと待て。そもそもファンタジーパワー馬車の場合は、これ、車軸含む枠と車体が繋がってなくて浮遊してる、みたいなかんじになるのかな。

 となると……なんか、リニアモーターカーを想起する。ほら、あの、電磁石の要領で浮くやつ。

 まあ、浮いたままレールの上を走るブツじゃなくて、浮いたまま牽引されるブツに仕上がってる訳だから、色々と勝手が違うんだろうが……まあそれはそれとして、どういうファンタジーパワーがどう利用されてるのかはまあ、ちょっと察しがついたな。

 ……浮く乗り物というと、ヘリコプターとか?VTOLとか?いや、ファンタジーに行くとなると、やっぱり魔女のホウキみたいな……?

 まあ、魔女のホウキだと物資の大量運搬には勝手が悪そうだから、やっぱり馬車……?魔法の絨毯……いや、俺は魔法の絨毯を信用していない。あいつ絶対ペラッペラすぎて空中でひっくり返ったり捲れたり傾いて積載物が落ちたりする。

 となると、より効率的なファンタジー乗り物とはやはり、『ちょっと浮いてて、牽引できるハコ』みたいな感じになる、のか……?

 数百キロを浮かせることができる魔力が必要で、それがワイバーンとかドラゴンとかの翼にある、と……?


「……やっぱり一度、そのワイバーンの翼とやらを拝んでみたいなあ」

 ということで最終的に、まあ、そういう結論に至る。

 ワイバーンの翼とやらを量産品に使うことはできないだろうことは分かってるが、ワイバーンの翼が持つファンタジーパワーは解析しておきたい。

 ……もしかしたら、その魔力だけ別途再構築できる、みたいなことがあるかもしれないし。




 はい。

 そういう訳で俺は、ひとまず板バネ式サスペンションの馬車を作ってそれのテストなんぞしつつ、貴族の馬車がやってきたら片っ端から分解吸収再構築を一瞬で行い、馬車の情報だけ盗むことを繰り返した。

 ……そうしている間に、ワイバーンではないが、ペガサスの羽の繊維を織り込んだ帆布で作った幌馬車が一台やってきてくれたんで、それの情報は得ることができた。

「あー、成程ね。やっぱり『浮遊させる』みたいなファンタジーパワーがここに詰まってるわけだ」

 案の定、そこには魔力分子が数種類あって……その内の1つが、『物体を浮遊させる』ってかんじの効果であった。そりゃあな。ペガサスって要するに、空飛ぶ馬だろ?馬の体重があの揚力でどうこうできるレベル尚、それ以外にも『空気抵抗を減らす』とか『傷を治す』みたいな魔力分子もあった。

 ……で、まあ、そういう魔力分子なわけだったんだが……これを再構築で再現できないかな、と色々やってみた結果、まあなんとか、同等の構造をした魔力を作ることができた。

 まあこれ、魔力を元素レベルに分解してから組み立てるだけといえばそうなので、最終的な目的物の形と成分が分かってれば、材料はジャンクから拾ってこられるみたいな……。

 特に、ほら。最近は図書館用の本を大量に持ってきたおかげで、魔力も潤ってたし。だから材料は大量にあるし。

 どうも、『情報』から得られる魔力って、特定の効果があるものもあれば、ばらばらに得られる元素みたいなものもあって、まあ、つまりジャンクなんだけど……これを利用して魔力分子を組み立てることはできるわけだな。


 だが。

「えーと、ということは、できたこいつをとりあえず布にぶち込めばいいのか?ん?」

 出来上がった『浮遊』の魔力分子を添加した麻繊維を作って帆布にしてみた。

 ペガサスの羽繊維を織り込んだ布も仕組みとしては同じはずだし、多分これで浮く。浮くはず。

「……うん」

 出来上がった布を眺めてみる。

「……うん」

 眺めているが、布は浮かない。

 うん……うん、なんで……?




「わかんね!わかんね!あああああああ!んもおおおおお!うおおおおもっちりぃいいいいいいい!」

 ということで俺はもうクソデカスライムにダイブすることにした。やってられねえのよ!やってられねえのよこんなのよォ!

 元素の性質も分からなけりゃ、それでできる分子の性質はもっと分からない訳で、法則性とかが若干見えたり見えてなかったりする程度の俺が、『添加する対象によっては魔力が効果を発揮しないことがある』みたいなのの謎を解けるわけがないのであった!

「ああー……そう考えるとやっぱり、基礎研究やってきた先人達は偉大なりぃ……」

 ……科学を解明してきた先人達、偉いなあ。元素とか分子とかよく分かってなかった時代からずっと、頑張ってるもんなあ……。

 逆に言うと、そんな先人達が1000年以上かけて解明してきたようなことをたかだか数時間でやろうってのが間違ってるので、今、こうして『魔力』を前に悩む俺は普通と言えば普通なのである。なるべくしてこうなっている。うん。

「……昼寝したらもうひと頑張りしてみるかぁ……」

 まあ、試行回数重ねれば、どこかで何かの成功例は生まれるかもしれないし……そうすれば、村の人達にも『浮遊』の魔力と、その魔力が効力を発揮する媒体を量産することができるようになるかもしれないし……。

 ひとまずは疲れちゃったので、このままクソデカスライムにもっちり埋もれつつ寝るということで……。




「おはよう」

 起きた。俺を抱き留めてベッドになってくれていたクソデカスライムに感謝を述べつつ起き上がって、さてどうするかな、と考える。

 ……寝て起きても、やっぱり『浮遊』の魔力を添加したはずなのに布は浮かないままだ。なので俺の顔も浮かない顔だ。

 だがここはひとつ、ちゃんと原点に返るべきだな。

 ということで、貴族の馬車をそのまま分解吸収した時そのままに再構築。すると……。

「これはやっぱりちょっと浮いてるよなあ……」

 ……こっちは大丈夫そうである。何だ。一体何が足りないんだ!


 それから『浮遊』だけじゃなくて他の魔力も全部そのままにした布とかも作ってみたんだが、上手くいかない。

 もしかしてペガサスの羽っていう物質自体に魔力を上手いことなんかやる力があるのか!?と思って馬の毛っぽいものや鳥の羽っぽいものを生み出してみたんだが、それも浮かない。

 浮けよぉ!と思いつつ片っ端から色々作ってみたんだが、やっぱり!浮かない!

 なんでぇ!?




 もうこんなのどうしたらいいんだよぉ!やっぱり俺にファンタジーは無理かぁ!?と諦めかけた、その時だった。

 ふよ、と俺の視界を横切っていく何かがある。

 ……ふよよ、と、それは、宙を滑るように、ゆったりもっちりした速度で、風に流されるかのように動いていった。




「スライムが浮いてる……」

 それは、俺が出した布に乗ったスライムであった。

 ふよよよ……と、微妙な高さでスライムが浮いて、わたわたしていた。おおお……。おお……?




 そして。

「成程ね!魔力を作用させる『先』が無いとダメなのね!成程ね!」

 俺はようやく、『浮遊』の魔力分子を作用させて、『ちょっと浮く馬車』を作り上げることができたのだった!やったね!




 だがしかし、問題はこれを量産することだ。

 ……多分ね、ドラゴンだのワイバーンだのペガサスだのの羽じゃなきゃダメな理由って、他に『浮遊』の魔力を持つ物質が無いからじゃねえかな、と思う。空飛ぶファンタジー生物が体内で生成する魔力分子なんだろうなあ、多分これ。

 現状、この『浮遊』を生成するためには、俺が再構築を使うしかない。が、やっぱりこれは長期的に考えていくと、俺抜きでできることが望ましい。

 パニス村の人達だけでもできるようなやり方で、なんとか……。

 空飛ぶ生物を、飼育するとか……いや、ペガサスとかどこに居るのよ、っていう問題が……それらの飼育ができてるんだったら、絶対に普及してるんだろうから、上手くいかねえってのは間違いないのよ。科学の徒の先人も立派だが、この世界の魔術の徒の先人だって頑張ってきて今があるんだろうからさあ。

 だから、えーと、代替品があればいいんだよな。それだとダメってんなら、それがダメな理由を探せばいい訳で……まあ、そっちの原因は大方、『浮遊』の魔力分子が少なすぎるってかんじだと思うんだけど……とにかく、空飛ぶ、飼育できるような生き物を探せばもしかしたら、後は遺伝子組み換えでなんとか……。




 ……あ。

 そういや最近、空飛ぶ生き物、見たなあ。

 ミューミャって言うらしい、あの、耳で空飛ぶ、謎の毛玉みたいな……ミルクがやたらと美味かった、謎の……うん……。


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― 新着の感想 ―
空飛ぶ生物より、空飛ぶスライム爆誕させませんか? まるで雲に乗っているような癒し系もちもち浮遊物質生み出しちゃいましょうよ。
というか、スライムをクッションにして馬車に乗ればいいだけでは?
まさかミャーミャというポッと出使ったりしないよな? もちろんスライムだよな? 浮気したりしないよな?
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