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ちび神様の楽園ダンジョン  作者: もちもち物質
第二章:ダンジョンは国を平和にした!
56/129

町へ行こうよ*2

「ワァオー……」

「アスマ様、楽しそうだね」

「うん。やっぱりね、初めての経験ってのは何事も楽しいもんだね」

 ……見渡す限りの、緩やかなだらかな丘陵地帯。風はやや強め。

 ふかふかの雲にいくらか遮られた太陽の光が、帯状になって地上に届く。遠くの方を見ていると、日陰になってる部分と日向になってる部分が、ゆっくりと動いていくのが分かる。

 土が踏み固められてできている街道を進む馬車の上、俺は……初めて、この異世界で、おでかけしているのであった。




「馬車って新鮮なかんじだなあ」

 お出かけも初めてならこんな景色も初めてだし、何かと新鮮なんだが……その中でもやっぱり、『馬車に乗る経験』っていうのがまた新鮮だな。俺、馬車に乗るのは人生初。というか、馬をこんなに間近で見るのが人生初かも。

「そうか。アスマ様は馬車に初めて乗るんだな」

 御者台からリーザスさんが声を掛けてくれるので、それもまた新鮮なかんじだ。

 ……そして。

「うん。なんかね、思ってたよりね……乗り心地悪い!」

 人生初の馬車。それは、大層、乗り心地が悪いのだった!


「……まあ、ここの街道はそんなに大きくないからな。凸凹が多いんだ」

 ……そうなんだよな。馬車ってのは、乗り心地があんまりよろしくない。なんかね、自分が貨物になった気分で居ないと辛い。『ごとごと』っていう表現だと足りない。『ごごごごごがががが』みたいなかんじの揺れ方する。常に揺れてる。それでいて十数秒に一度、でっかく『ごっとん!』と揺れる。

「ここがダンジョン範囲内だったら街道全部をツルッツルの平面にしてやるのにぃ!」

「そんなにかなぁ……」

「うん!」

 ミシシアさんもリーザスさんも慣れているようだが、俺にはこの振動はちょっと耐え難い。

 村に帰ったら、馬車の改良から始めてやる。絶対に改良してやる。図書館はその後だ!馬車が先!んもう!




 ということで、俺は時々休憩させてもらいながら貨物と化し、なんとか本日の宿泊先である町、ラークへと到着した。

「……アスマ様、大丈夫?」

「うん……リーザスさんの膝のおかげでかなり楽できました……ありがとう……」

「とはいえ顔色が悪い。大丈夫か?もう一度吐いておくか?」

「ううん……出すものがもう胃に無い……」

 ……尚、俺は満身創痍である。理由は簡単。乗り物酔いである。

 元気で居られたのは序盤だけだった。新鮮さとか味わっていられた内は興奮が勝ってたんだが、一旦それが落ち着いちゃったら、もう駄目だった。

 俺、そこまで乗り物酔いする性質じゃなかったはずなんだが、小学生ボディになったことと、この馬車の揺れが合わさってこうなっちまったらしい。許さんぞ、馬車!

 途中から『細かい揺れもダメなら膝の上、座る?』と優しいミシシアさんのご提案により、御者を交代してこっちに来たリーザスさんの膝の上に載せられた。……ミシシアさんの提案なのにミシシアさんの膝の上じゃないんかい!とは思ったが、リーザスさんの膝の方が安定感あるし、まあ、女の子の膝の上に居るのはなんか申し訳ないんで……これはこれで申し訳ないが、リーザスさんにホールドしておいてもらって、ちょっと楽させてもらった。

 とりあえず発見したこととしては、『ぐったりしている俺が頭を凭れかからせる先があるとすげえ楽』ってことである。馬車の壁に頭凭れかからせようとすると、『ががががががが』っていう振動と共に、俺の頭が小刻みに硬い壁に向かってシェイクされちまうもんだからね。痛いのよ。その点、リーザスさんが座席兼シートベルトやっててくれるとそれが無いんで……リーザスさんの胸筋、壁みてえな硬さは無いんで……。

「……馬車だと2日の旅程になるの、分かった。休憩しないと死ぬし、早めに馬車を切り上げないと、死ぬ……」

「まあ、そうだな……。徒歩よりは楽だと思うが、それでも体力は消耗する。旅は無理の無い予定で進めないといけない」

「逆に、馬車がもっと揺れなくて、もっと乗り心地が良ければ、王都まで朝一から夕方までの一日移動で行けるんじゃないかという気がしてる」

「うん。王都から馬を飛ばしてきた人が1日くらいで到着してたことがあったと思うよ。多分、ラークの町で馬を交代したんだと思うけど……それができれば1日で進めるみたい」

 そっかぁー……。うん。なんか、色々とこの世界の課題が見えてきたな。

 うん……あ、駄目だ。やっぱり体調悪い。寝たい。揺れないところで寝たい……。考えるのはまた後でにしよう……。




 ということで、俺は無事に宿に運んでもらい、そして、ベッドの上に安置してもらえた。おお、揺れない地面……ふかふかのベッド……最高……。

「アスマ様とリーザスさんはしばらく休んでて。何か飲み物とおやつ、買ってくるね」

「ありがとうミシシアさん……」

「……まあ、その、ゆっくり休んでくれ。寝ててもいいぞ」

「ありがとう……じゃあ、ミシシアさん戻ってきたら起こして……」

 ……だが、空腹より疲労が勝る。俺は起きていることを止めた!オヤスミ!


 それから多分、俺はちょっとうとうと眠って、それからミシシアさんの元気な『ただいまー!』という声に起こされた。リーザスさんに起こされるまでもなかったぜ!

 が、ちょっと眠ったからか、大分元気になっていた。少なくとも吐き気は収まった。疲れてはいるけども。

 まあ、吐き気が収まったら多少は食欲が出てきたんで、ミシシアさんが買ってきてくれた飲み物とおやつを頂くことにする。

「おお……牛乳!?」

「うん。ここラークの町は畜産とお肉や乳製品の加工で栄える町だから」

 ミシシアさんが買ってきてくれた飲み物……意外!それは牛乳!

 ……さっきまで吐いてた人に飲ませるものとしては、その、どうなの?牛乳って……どうなの?と、思わないでもない。が、まあ、ひとまず元気になった、ということで、恐る恐る、牛乳を飲んでみる。

「……美味しいじゃねえか……」

「ね?美味しいよね?ここのミルク、やっぱり美味しいんだよ!」

 ちょっと、予想を裏切られた。なんかね、想像してたより大分飲みやすい。それでいて、只々『美味い』っていう感想が出てくる。

 こう、牛乳臭さみたいなのが全然無くて、代わりになんかよく分からんがほんのり爽やかな香りがある。味としては、まろやかながらサッパリした後味。で、ほんのりと甘味があって……うん。美味いのよ。なんか元気が出る味だわ、これ。

 そっか、異世界の牛の乳って、やっぱりちょっと違うのかなあ……と思いつつ、瓶を眺めていたところ。

「ミュー乳か。久しぶりに飲む気がするなあ」

 リーザスさんが、なんか……ちょっと滑舌が変だった?それとも変だったのは俺の耳?どっち?

「私、森を出てお水以外に初めて飲んだのが、ミューミャのミルクだったの!それ以来、ミュー乳大好き!」

 ……なんか、おかしくなったのはリーザスさんの滑舌でも俺の耳でもなかったんじゃないかという説が持ち上がってきてしまった。

「あの、ミューミャ?って、何……?」

「えっ、あっ、そっか!アスマ様は知らないよね。えーとね……」

 ミシシアさんはちょっと宿の部屋の窓から外を見回して……にこっ、と笑うと、俺を手招きした。

「ほら。窓からもちょっと見えるよ。あの、遠くの方に居る白いのがミューミャ!」

 ……俺も窓から外を見てみた。すると、なんか、ちょっと遠くの方に……のんびりと草を食む、白いデカい毛玉みたいな……あ、耳は生えてる。でっけえロップイヤーだ。いや、ちょっと待て!あれ本当に耳か!?なんか耳で羽ばたいて飛んだぞ!?

「な、何あれ」

「え?ミューミャ!大人しくってかわいい生き物だよ!お肉にはならないけど、乳は美味しいからああいう風に飼育されてるの!」

 いや、まあ、大人しいんでしょうね、確かに。飼育員さんに『おーよしよし』ってやられてのんびり撫でられてる様子を見る限りは。

 でも俺は、耳で飛ぶ生き物なんざ知らんのよ。なぁにアレぇ……。

「……成程。これは、アレの乳かぁ」

「うん。美味しいよね!」

「うん……」

 ……いや、美味いよ。美味いんだけど、こう、異世界情緒が加わって、より一層、新鮮な味になったぜ。いや、ほんと侮れねえな、異世界。




 耳で空を飛ぶ毛玉の存在は一旦忘れるとして……いや、でも、パニス村でも牛乳、じゃないか、えーと、ミュー乳くらいは自給自足できた方がいいか、と考えると、アレもいずれは数頭飼っておいた方がいいんだろうなあ……。いや、まあ、それはエデレさんに任せるとして……。

「やっぱりパニス村と比べると大分栄えてるよなあ」

 ここはやっぱり、ちゃんと町の様子を確認しておかないとな。


 街並みは、概ね石造り。筋違は木材で出来てるのが見て分かる。つまり、ハーフティンバーだな。壁は石か煉瓦で出来てるんだと思うが、中には漆喰で塗ってある壁もある。

 パニス村の家屋は、筋違が外に見えないような造りをしてるんで……つまり、そっちの方が俺の再構築で造りやすかったんで、まあ、そういうデザインになってる。まあ、奇抜さの無い、どこにでもしっくりくるデザインだと思ってるよ。

 まあ、こうして街並みを見ていると、その世界の文化水準とかも分かるってなもんで……えーと、道は石畳だな。ガラス窓は見る限り見当たらない。

 輸送手段はやっぱり馬車なんだな。ただし、俺達の馬車よりももうちょっとは乗り心地が良さそうなのがいくつか見受けられる。座面がもうちょいちゃんとしてる奴とか。

 人々の服装は……時々ファンタジーな恰好の人が居る。俺はこの世界に来て初めて、真面目にビキニアーマーを着用している人を見たぜ。ただしオッサンだったが。いや、なんで!?なんで!?もう俺何もわかんない!

 ……まあ、ビキニアーマーはさておき、ファンタジー要素はやっぱり、いくらか見て取れる。

 日陰で本を読んでいた人が、『ちょっと暗くなってきたなあ』とばかりに、ランプに指先で火を灯す姿が見られたり。小さい子供が、楽しそうに空中二段ジャンプしているのを目撃してしまったり……。

 やっぱりこの世界ってファンタジーなんだな……。うーん、帰ったらもうちょい、洞窟内部の構造を変えたくなってきた。

 こいつら、燐寸とか無しに火を出せるし、空中二段ジャンプもできる可能性があるのか……。

 ……後でミシシアさんとリーザスさんに聞いてみたら、『俺はどっちもできるぞ』とリーザスさん。ミシシアさんは『私は火を出すのは苦手だなあ。森の民だからね』とのことだった。ちなみにミシシアさん曰く、エデレさんは流石に空中二段ジャンプはできないらしい。ちょっと安心した。いや、安心していいのか?


 まあ、そんなかんじに窓から眺める街並みを堪能したら、ミシシアさんが買ってきてくれたおやつを頂く。

「おお、ソーセージだ」

 ホットスナックの定番といえば定番か。ミシシアさんがハトロン紙の袋から出してくれたのはソーセージであった。焼き立てのを買ってきてくれたらしく、まだちょっと熱すぎるくらいである。

「うふふふ。ラークの町の腸詰、美味しいんだー!食べよ食べよ!」

 ミシシアさんに勧められるままに食べると火傷しそうだったんで、ちょっと冷ましてから食べてみる。

 ……うん。美味い。この、旨味と肉汁と脂が一気にじゅわっとするこのかんじ……めっちゃ美味い!

 あと、焼かれてこんがりしてるところも俺のお気に入りポイントだな!こんがりって、いいよね!

「おお、これは美味いな」

「美味しいでしょ!やっぱりお肉はラークの町のが美味しいんだぁ」

 ミシシアさんはにっこにこである。この人、自分が好きなものを他の人にも勧めて、気に入ってもらえると嬉しそうな顔するんだよなあ。いい人である。

「いずれ、パニス村もこの域を目指す……のは、結構難しいかもなあ」

「そうだね。まあ、当面はラークの町から買っていいんじゃないかなあ。これだけ美味しいんだし」

 うん。そうね。パニス村が何でもかんでも作れるようになっちゃうと、ここの暮らしも脅かされちまいそうだし……。

 ……多分、現状では王都からパニス村に観光に来る人のための宿泊地としてお金が落ちてる面があると思うから、パニス村の存在はラークの町にとって、プラスになってるとは思うんだけどね。

 まあ、そういうことならやっぱり、共存を目指す方がいいか。手を取り合ってね。美味しい食事を融通し合ってね。うん。




 おやつはおやつ。そして食事は食事である。

 おやつが終わって少し宿でくつろいだら、夕食を頂きに食堂へ。

 そこでは鶏肉っぽいのとホワイトソースのグラタンみたいなのとか、チーズ乗っけたパンとか食べた。更に、おやつで食っても美味しかったソーセージのグリルも追加で注文。美味い!美味い!

 ……なんか、ガッツリ肉と乳製品を食ったのは久しぶりのような気がする。パニス村に居ると、どうしてもお野菜中心になりがちだからね。まあ、最近は卵がかなり増えたんで、助かってるけども……。

 うーん……一度、ガッツリと肉を食べる幸せを思い出してしまったら、パニス村の食事が物足りなくなるかもしれない。となると必要なことは、やはりラークの町との食品のやり取りの強化……即ち、輸送の簡便化……。

 ……やっぱり馬車の開発は必要だよなあ。うん。帰ったらやっぱり、真っ先に、馬車……。




 翌日。

 昨日よりは馬車に慣れたのと覚悟が決まったのとで、馬車酔いは幾分マシになった。あと、今回は最初からリーザスさんの膝に乗せてもらっていたというのがある。ありがとうリーザスさん。

「さーて、アスマ様!元気が無いところ悪いけれどもうちょっと頑張ってね!」

 そうしてそんな馬車もようやく目的地に到着……というところで、ミシシアさんにそう、声を掛けられた。

「ここが王都。入るには……検問を受ける必要があるよ」

「検問……?」

 ちょっと馬車から顔を出して見てみると、確かに、門の前に門番が居て、行き交う人となんかやり取りしてるっぽい。入国審査みたいな。いや、入国じゃなくて入都審査なんだろうけど。

 まあ王都だもんな。当然か。……うん。

 うん。

「……それ、俺大丈夫?」

「大丈夫じゃない?……え?駄目なの?」

 ……その、ダンジョンの主です、みたいなのがバレたり、しない?しないよね?大丈夫だよね?なんか、俄然不安になってきたんだけど!


「ああ、大丈夫だ。そう心配しなくていいぞ」

 だが、ここで頼れる男、リーザスさん。苦笑しつつ、ちょっと身を乗り出して馬車から顔を覗かせると、笑顔で片手を挙げて見せた。すると……。

「……おお!?リーザス!リーザスじゃないか!」

「久しぶりだな。会えて嬉しいよ」

 ……どうやら、ここの門番の人達、リーザスさんの知り合いらしい。

 そりゃそうだ!この人、元々、王都の騎士なんだったわ!流石だぜリーザスさん!頼れる男!イカしてる!大好き!


「ところで、どうしてここに?……その、お前、色々あっただろ」

 ……が、よくよく思い出して、俺は気づいてしまった。

 そう。そうだよ。リーザスさんって……王都に色々と、因縁がある人だったよ!

 ウワーッ!そういう人を連れてきちゃった!ごめんリーザスさん!本当にごめんリーザスさん!うわあああああ!

 どうか、どうか……リーザスさんの元嫁とか間男とかと、出くわしませんように!

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― 新着の感想 ―
くっ!スライムさえ馬車に入ればクッションになるのに!
村で美味しい酒を作れる。 周辺の村から美味しい肉やチーズが手に入る。 癒しの温泉とスライムもあるし、もはや地上の楽園では…! オレは行くぜ、オレは行くぜ!!
子供が二段ジャンプとか思った以上にファンタジーでビックリ。 村の人達そこまでファンタジーじゃなかったし。
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