避けられない、酒*1
はい。そうして今日も元気にパニス村。
王立第三騎士団が帰っていった後も、俺達は元気に活動中だ。
なんだが……。
「ゅッ……みッ……!ぎゅ……!」
「あらあら、どうしたのアスマ様。奇声なんか発しちゃって……」
「おはよう、エデレさん!俺は今!悩んでいます!」
……俺はのたうち回っている。何故かって?そりゃあもうね……。
「人が増えた!安全にもなってる!だからラペレシアナ様には何かお礼したい!でもどうしたらいいかわかんない!あと村に働き口が足りない!」
事は、王立第三騎士団が王城へ戻った後くらいに遡ります!
……まず、ラペレシアナ様達が、暗殺者集団を捕まえて帰った後、やっぱり王城では、こう、もんもんちゃくちゃくと……悶着があったらしい。
そりゃそうだ。『功績があり、民衆からの覚えも良く、配下からの信頼も厚い第三王女を第二王子の陣営が暗殺しようとしていた!』ってなったらさ、そりゃ……そりゃ、悶着があるわけよ。
これについて、第二王子は『俺のせいじゃない。派閥の連中が勝手にやったことだ。俺も迷惑している』っていうしっぽ切りスタンスでいった。まあそうなるわな。
で、そうなったら陣営の支持者達が、『裏切るんですか!?殿下のために尽くしてきたのに!』ってなった。結果、処分されることになった連中はこぞって第二王子の他の悪行を色々とゲロり始めたし、今回処分を免れた連中も、『第二王子についていても未来が無さげである……』ってことで離反し始めちゃった。
これに対して第二王子とその母……えーと、国王のお妃様が、今、一生懸命対処中であるらしい。そして一生懸命、墓穴を掘っておられる、と。
……そうしている間に、第二王女が元々ケツ引っ叩いていた第一王子が、更に第三王女であるラペレシアナ様にまでケツをシバかれることになり、ようやく重いケツを持ち上げ始めたんだそうだ。
やる気があんまり無いだけで、やることやろうと思えばやれるタイプのお人らしく、『とりあえず、この第二王子についてはさっさと終息させないとね……』とバリバリ行動中らしい。
さて。
そうして王城が大変なことになっている訳だが……そんな政治のアレコレの他にも、王城では大騒ぎが起きたわけである。
それは勿論、『ラペレシアナ様の傷が消えているんだけれど!?何があったの!?』っていうアレコレである。
これについてラペレシアナ様は、『パニス村のダンジョンの慈悲によって第三騎士団全員の傷が癒えた』と告白。同時に、『我らはパニス村のダンジョンに恩がある。もし、かのダンジョンに無礼を働いてみろ。私が直々に始末しに行くぞ』と牽制。ありがてえ!
……おかげ様で、パニス村には人が増えた。それも、『ラペレシアナ様に始末されたくはないです!お行儀よくします!』っていう人が多いもんだから、滅茶苦茶やりやすい。助かっています。ほんとにありがてえ!
パニス村に来るようになった人達は、まず、研究者達。
『ダンジョンに治癒の力の秘密があるのでは!?』っていう、元々治療とか研究してた人達とか、『パニス村ダンジョンには魔力豊富な魔石が大量に出るそうですね!それがあれば研究が進みます!』っていう、魔法関係の研究者達。それから、『変なダンジョン調べる!』っていうダンジョン研究の人も。
……それから、冒険者も増えた。
やっぱりね、強く凛々しく麗しいラペレシアナ様は、冒険者達にも大人気だそうで。そんな彼女が認めたダンジョン……ってことで、『聖地巡礼』みたいなノリで来る人も増えたし、『ラペレシアナ様に訪れた奇跡を体験したい!』ってくる人も増えた。あと単純にダンジョンの知名度が上がって、人が増えた。
まあ、『ちょっと怪我しちゃって最前線は退いたから、宝石採りで細々暮らしたい。そのついでにもしダンジョンの慈悲とやらで怪我が治ったら万々歳』ってな感じの人が多いかな。まあ、そこの需要にクリーンヒットしてるダンジョンではあるので、俺としてもこれは予想済み。
そんな彼らのために、温泉を拡充した。今、パニス村には『古傷の痛みが軽減される湯』とか、『火傷に効く湯』とか、『関節の傷みに効く湯』とか、『お肌すべすべもちもち湯』とか……まあ、色々な温泉が湧いている。というか、もう薬湯だってことにしてる。スライム産の薬草も売りに出すことにしたからな!
おかげで湯治に来る人も増えたし、ついでに『美容目的なんですが、お肌すべすべもちもちと聞いて……』って人も来るようになって、富裕層も増えた。なので、ラペレシアナ様用に作ったラグジュアリー宿を拡充して運用してる状態だ。
当然、富裕層は落としてくれる金が多いんで、パニス村は一気に潤っている。……というか、富裕層に金を落とさせるために、なんとかかんとか付け焼刃でやってる状態というか、俺の再構築で村の物資を結構賄っている状態というか……まあ、追々、要改善。
……まあ、ここまではいいんだ。ありがてえ。特に、研究者が増えたおかげで、『じゃあ需要もありそうですし、移動図書館の頻度増やしますね……』ってやってもらって、本から情報および魔力を得るのが滅茶苦茶簡単になった!ありがてえ!
だが!
「ねえ、君はなんで増えたん?」
……俺の目の前には、クソデカスライムがわんさか居る。
そう。わんさか、居る。
「……デケえスライムの需要はもう間に合ってたんだけどなー」
なんかね……村に人が増えて、そうなったら魔力が増えたとかそういうので、スライムが……増えた。それも、クソデカスライムが、一気に増えた。
「どうしよぉ……なんででっかいのばっかり増えたん……?」
「でもアスマ様、堪能してるよね」
「うん」
折角のクソデカスライムだもの。とりあえず上に乗って、ぽよよん、と柔らかい寝心地を楽しんでいる。そしてスライムの気まぐれでそのまま沈んで、『うわぁー!』ってなりながら適当にぺいっと排出されている。
「それに最近は、スライム目当ての学者さんとかも来てるし……いいんじゃないかなあ」
「いいのかなあ……」
うん。村に来てる研究者の中には、スライム研究の人も居るんだよな。なんでも、『これだけスライムがのびのびと暮らしている地域は他に無いのです!大抵は魔力を他の魔物に持っていかれてしまって発生しないか……発生した後で捕食されてしまうので!』とのことだった。まあ、スライム食う奴はここには居ないね。
「折角だし、スライムいっぱいの宿とか作ったらどうかなあ。案外、喜ばれると思うよ!」
「そう?でもこいつら気まぐれだしなあ……」
スライムって基本的には気まぐれだから、『ずーっとここに居ろ!』が利かないんだよな。
『なんとなくここに居ることが多い』『大体毎日肥料と水を貰いに来る』『気づいたら減ったり増えたりしてる』ってなもんで……最早俺も、正確な数を把握していない。
だもんだから、観光資源にするのは中々厳しいというか……うーん、でも確かに、『スライムと一緒に入浴できる温泉!』っていうのはちょっと話題を集めてるらしい。スライムって、案外、観光資源になる……のか?
……高級寝具とかには、なる、か……?
まあ、こうしてクソデカスライムが増えている一方で……この村一番の話題のスライムが居る訳だ。
そう。ジェネリック君。あの、世界樹ポーションを大量に摂取した結果、何故か発光するようになった謎スライムである。
かのジェネリック君は、アレからも洞窟の中でもっちりもっちりやることにしたらしいので、俺はジェネリック君のために、給水用の小さな泉をいくつか作ってやった。ジェネリック君はご満悦である。
……そしてそんなジェネリック君は、概ね宝玉樹のあたりをもっちりもっちり散歩していることが多い。
なので、つい最近ダンジョンを踏破した冒険者が居たんだけど、ジェネリック君と鉢合わせすることになっちゃったので……しょうがねえから、ジェネリック君にはまた世界樹ポーションの配給役を任せた。冒険者達は健康になって帰っていった。コングラッチュレーション。コングラッチュレーション。
「ところで、なんでジェネリック君は光るんだろうなあ……」
さて。そんなジェネリック君だが……まあ、謎に光っている訳である。めっちゃ光ってる。その日の気分にもよるらしいが、まあ、光りたい気分のときはマジでディスコのミラーボール並みに眩く光るもんで、もう、ダンジョンの中が賑やかになっちまってるよ。なにこれ。
「うーん、魔力が有り余ってるからじゃないかなあ」
「魔力って有り余ると光るの?」
「え?光らない?光ることも多いよね?」
光るの?え?光るの?……ミシシアさんが詳しいかなあ、と思って聞いてみたけど、イマイチこのファンタジーな感覚、俺には分からねえんだよなあ……。
……うん。俺にはこのファンタジーな感覚、分からねえからさあ。
ちょっと、俺の世界の知識に落とし込んで、考えてみるか。
まず、魔力っていうのが元素相当のブツと分子相当のブツを両方まとめて『魔力』としてるもんだから話がややこしい訳だな。なのでとりあえず、ファンタジー力の構成成分の最小単位を『魔力元素』とし、魔力元素によって構築され、一定のファンタジー力を持つに至ったブツを『魔力分子』とすることにしよう。
で、だ。ジェネリック君が光ったっていうのは……つまるところ、光る魔力分子が発生したからに他ならないはずである。
そうであれ。そうであってくれ。ここに来て第二第三の謎ファンタジーが発生しちまったら俺はもうどうしようもねえのよ!
……ということで、ジェネリック君が光っている原因を探ることにする。
そう。俺は……俺は、光る魔力分子がめっちゃ欲しいのである!
だって電気とか火とか無しに使える照明器具って、便利じゃん!魔力分子を構成する魔力元素の種類とか量とかによっては全然実用的じゃないのかもしれないけど、光ってくれるならそれに越したことは無いわけじゃん!
……ということで、改めてジェネリック君が光っている原因だが。
ジェネリック君をほーんのちょこっとだけ分解させてもらって調べてみた結果、どうも、世界樹由来の治療用魔力分子の中の特定の構造だけを分解すると、残った部分がスライムの中の別の魔力元素とかとくっついて、ただ光る魔力分子が出来上がる、っぽい。
とりあえずそこまでは分かった。なので俺はジェネリック君の研究によって、『とりあえずなんか光るファンタジー力』を使えるようになったのである!
……が、そこで問題は終わらない。
『じゃあ、世界樹の治療用魔力分子から、何を抜いて何をくっつけたら光るだけの魔力分子が生まれるの?』『ジェネリック君は一体、魔力分子のどこら辺を食ったの?』という問題だ。
ということで、世界樹由来の治療用魔力分子と、ただ光る魔力分子とを比較してみたところ……。
「成程ね!『おいしい』魔力分子を食ったら、残るのが『光る』魔力分子ってことね!」
ジェネリック君がグルメだということが判明した。……えーと、具体的には、『成長』というか、『高栄養』というか……なんかそういう部分だけを綺麗に食ったら、残った部分がスライムの中に適当にプールされてる魔力元素と組み合わさって、光ってた、と。そういうことらしい。
「……とりあえず美味いだけの魔力も得られた」
成長とか高栄養とか、そういうファンタジー力はそりゃ、『おいしい』になるよなあ、と深く納得しつつ、そういう構造が世界樹由来の魔力分子に入っていることにもなんか納得がいった。やっぱり色々なモンは分解してみるもんだなあ。
さて。
これでジェネリック君が光り輝いていた意味が分かったし、魔力の分解によって色々と知見が広まったことだし……。
「……仕事を増やさねば」
俺は、目下のパニス村の問題点について考えていた!
はい。現在のパニス村、順風満帆なように見える。実際、かなりそう。
観光客が増えて、冒険者需要も高まって、外貨っていうか村の外からの金がバンバン落ちるようになったんで、大分豊かになった。
……が、そこまでっちゃ、そこまでなんだよな。
というのも、湯治で怪我が治って『これで働ける!ここに定住したい!』って人が居ても、現状、あんまり仕事が無いんだよ。仕事が無いと収入にも繋がらない訳で、そうなると、まあ、その人の生活はパニス村では実現できなくなっちゃうので、定住はできない、ってことになり……。
まあ、そういうわけで、職場が必要なんだよな。
一応、観光関係が伸びてるから、宿の店員とか、食堂の店員とか、そういうところでは働き口があるんだよな。でも、それってまあ、頭打ちになる時が来る分野なので……。あと、研究者の副業としては、結構ハードらしくて……。
……そして俺の悩みは、ぐるぐる回り始めた!
……ということで今。まあ、色々と俺は悩み多きお年頃な訳だ。
「ラペレシアナ様には大変お世話になってるしぃ!パニス村には働き口が少ないしぃ!もう、何から何まで頭がパーリナイ」
「アスマ様、落ち着いて、落ち着いて!」
悩みに悩んでいたら、エデレさんに落ち着かされてしまった。俺はね、エデレさんにこう、むぎゅ、とやられると強制的に落ち着かされちまう生き物なんだ。もうどうしようもねえ。落ち着いた。
「返礼については、またいらした時におもてなしすればいいと思うわ。ラペレシアナ様も、この村を気に入ってくださったみたいだし……」
「うん、その方向で考える……」
まあ、エデレさんの言う事はご尤もな訳だ。返礼を考えるんだったら、おもてなしの方向。うん。間違いないね。
「となると、働き口の方はどうにかしないといけないよね……?アスマ様ぁ、何かいい考え、ある?」
「うん。無い」
……で、こっちはミシシアさんも一緒になって顔突き合わせつつ考えてみるんだが、残念ながら、そんなすぐにアイデアは出てこないのであった。
「……もっと知識層が定住してくれたなら、図書館を村立図書館にして、司書を雇うとかできなくも無いんだろうけど……それも現状、現実的じゃないしなあ」
色々と、考えてはみるんだけどな。やっぱり、三次産業は駄目だろ、という考えはある。
「が、農業はもう間に合ってるし……畜産関係は既に、エデレさん主体で進めてもらってるし……」
「そうねえ。なんとか、卵が日常的に食べられるようになったわね」
今、畜産はとりあえず養鶏から始まってます。牛とか豚とかも始まってはいるけど、肉が安定して食えるようになるのは先だろうなあ。
まあ、畜産はもうあるので、他に働き口を考えるとなると……うーん。
「一次産業、或いは二次産業あたりで何かねえかなあ……」
「アスマ様ぁ、いちじさんぎょうって何?」
「えーとね、ものを生み出す仕事。で、二次産業は、一次産業でできたものを使って何か作る仕事だな」
ミシシアさんにちょっとだけ説明しつつ、俺は頭を抱える。
「一つには、紡績とかの布製品を考えてはいるんだけどね。こっちの材料は、俺が提供しないとどうにもならなさそうだから、ちょっと迷ってるんだよなあ……」
そう。俺、『紡績関係とか丁度いいのでは?』って思ったんだよな。簡単な機械化でも、この世界においてはそこそこのテクノロジーなんだろうし、そこで差をつけやすい。
だが……布製品をやろうと思うなら、その原料、繊維をどうすんのよ、ってなるんだよな。
綿は種が無い。麻は探せばいけそうだけど、アレ、草丈がかなり高くなるからスライム栽培はちょっと難しいかもしれない。
で、蚕みたいなのは居ない訳で……結局、原料をどうするんだ、ってところはどうしようもないんだよな。
……いや、でも、原料だけは俺が作るにしても、それを織ったり縫ったりするのはパニス村に任せてもいいんじゃないか?ひとまず、働き手を囲い込んでおくためにも、原料の調達だけは俺が再構築でなんとかしちゃう、ってのは手、だなあ……。
「あっ、だったら、アレがいいと思う!ほら、トマトのお酒!」
俺が色々考えていたところ、ミシシアさんが早速、こっちでもアイデアをくれた。
「あれ、美味しかったもん!ラペレシアナ様も、お気に召したみたいだし!ね!」
「ああー……でもアレ、新鮮なトマトをその場で混ぜてるからこその美味しさだと思うよ?」
「あ、うん。でも、トマト混ぜる前の、強いお酒?あれもあれで悪くなかったよ」
飲んだの?エタノール飲んだの?え?ミシシアさんって、滅茶苦茶酒に強いってこと?
……そっちは深く考えないことにするとして、まあ、ちょっと考えてみたら、確かにそっち方面はアリかもしれないなあ、と思い始めてきた。
「……俺が再構築した以外のエタノールがあっても、いいよな……」
嗜好品の最たるところ。『酒』ってのは、確かに村興しにも、おもてなしにも、丁度いいかもしれないな。




