衣食足りてダンジョンを知る*3
なんか、こう、植物の根からでんぷんを持ってきて、他に小麦に含まれるたんぱく質とか微量な無機質とかは他の植物からなんとか持ってきた材料で再構築して……。
……そして。
「……できた!パン!」
遂に。
遂に俺は……それなりのコスパでパンを生み出すことに成功したのだった!
「まあ……石からパンを作るよりは、よっぽど効率がいいよな」
コスパについては、まあ、悪くないと思う。
花崗岩をブロックにしたり板にしたり、っていうような、単純な形の変化だけならもっと魔力消費が少ないんだが……流石に、木の根っこのでんぷんからパンを作る、というのは魔力をそこそこ消費する。
それでも、石からパンを作ろうとした時よりはずっといい。当面はこれでいくかな。
とりあえず、パンは試食してみた。まあ、そこまで美味くもないが、別に不味くはない、くらいのラインの味になっていた。ありがとう、パン。とりあえず当面の俺の命はなんとか繋がれた。
「後は……タンパク質とか無機質とかビタミンとか脂質とかも欲しいんだけどな……」
さて。
人間はパンのみにて生きるにあらず。五大栄養素はまんべんなく摂れ。常識である。
「まあ、幸いにしてBLTサンドには全てが入っている訳だ」
が、素晴らしいことに、俺がこの世界に持ち込んだBLTサンド。ベーコンはケチられているが、レタスとトマトはそこまでケチられていないのだ。
これを分解吸収すれば、当然、これからはベーコンとレタスとトマトも再構築することができるようになるのである!
……まあ、ベーコンはちょっとキツいかな。植物からベーコン作るんだったら、最低でも大豆とか欲しいよね……。
でもまあ、なんとか構築して食わないと、健康を保てないんでね。特に俺、今は小学生ボディになっちまってる訳だから、食べ盛りだしね……。
さて。ついでに、ベーコン以外にも問題はある。
「近隣の植物を全部刈り尽くすわけにもいかないしなあ……。資源の枯渇は何としても避けたい」
そう。魔力は、資源を分解吸収すれば手に入る。だが、分解吸収する資源が無ければ、魔力も得られないという訳だ。
となるとやはり、永遠に続けられる食料供給法ではないんだよな……。
どうしようかな、と考えながら、BLTサンドのトマト部分を見つめていた俺は、ふと気づいた。
「……ところでトマトにも種はあるんだよな……」
……自給自足、というのであれば。
栽培する、ということは、可能なんじゃないだろうか。
ということで早速、BLTサンドのT部分から、種を取り出した。
……そう!この、トマトという野菜!こいつは生で入っていて、更に、種がそのまま入っているという、極めて優れた状態の野菜なのである!
トマトの実の中の種って、そのまま植えておいても割と発芽するらしいし、いけるんじゃないかな。どうだろ。ま、やってみる分にはタダなんで。
まずはトマトの種を分解吸収した。理由は、保険である。トマトの種も、他の植物の種とかを材料に再構築できないこともないので……トマトの種全滅時の保険のためにも、『設計図』は欲しかった訳だ。
が、ここですぐに問題が発生した。
「情報が……情報が、多い……!」
頭を抱えるレベルで、情報が多かった。トマトの種30粒程度だが、とんでもなく、情報の多い代物だった。
……まあ、これは、理由は分かるよ。
「市場に出回ってるトマトって、ほとんどがF1品種なんだっけか……」
……まあ、トマトの種の中には、1つ1つ異なる遺伝子情報が刻まれてるんだろうからな。そりゃ、情報量も多くなるよ。
日本の市場に出回っているトマトのほとんどは、F1品種。つまり、『品種改良の成果が次世代の種には受け継がれない、一世代限りの品種』だというようなかんじだったと思う。
品種改良のおかげで、病気になりにくく、大玉で、日持ちもするし栄養価も高いし美味しいし、といういいとこどりのトマトが生まれている訳なんだが、そのトマトの種から育てた二世代目のトマトでは、先人の努力の恩恵に与る事ができない。
つまり、二世代目のトマトは遺伝形質バラバラの、美味しくなかったり、病気になりやすかったりするかもしれないトマトになる訳だ。
……今、BLTサンドのTから取った種も、このまま植えれば間違いなく、何かのトマトにはなるだろう。だが、俺は折角なら、生育が早くて美味しくて栄養価も高くて日持ちもする、病気に強い、そんなトマトを育てたい。
「……遺伝子組み換えしよう」
なので俺は、トマトの種を再構築する際にそこんとこを弄ることにした。
「つかれた!つかれた!あああああ!」
そして一時間後。俺はものっすごく細かい作業からようやく解放された。
トマトの種の中にある遺伝子を組み替えるって、もうね、勝手が全く分からねえのよ!そりゃそうだ!
しかも小さいし細かいし、そんなのに意識集中させてたら頭痛くなってくるし、肩凝ってくるし、なんか魔力の消費そこそこデカかった気がするし……疲れた!俺は疲れた!あああああああ!
「駄目だ、ちょっと寝よう……」
流石にこの状態で次の作業に移りたくないんで、一旦寝ることにした。小学生ボディは長時間の集中に向いてないんよ。
ということで、畑の前に家だ。家。
衣食住の衣と食は一応、仮にでもなんとかなったんだ。後は住居なんとかしようぜ。
まず、このダンジョン最奥の天井の高い部屋……高い高い天井の割れ目からキラキラと光が降り注ぐこのスペースを、俺の居住地とすることにした。
まあ、部屋のど真ん中ってのは流石に落ち着かないんで、部屋の隅の方、壁際に家を建てることにする。
建材は、とりあえず石。石のブロックを再構築して積み上げていって、壁を作る。その壁に石の板で屋根を乗っけて、ひとまず完成。でも、折角植物素材もあるんだし、床は板張りにした。あと、ドアも木製だ。石のドアで片開きにしようとすると、蝶番の強度が心配で……。
それから、元が洞窟の中だから雨風の心配は無いわけだが、その分、通気性は確保できるように窓も作る。まあ、窓の外に広がる景色は洞窟の中の景色なので、眺めが良いとはお世辞にも言えない。それはそう。
……で、ひとまず家はできたので、家具を幾らかこしらえておく。
「机と椅子とベッドぐらいは欲しいよな……」
まあ、作るのは簡単だ。機械類とかでもない単純な作りの物体なら、一度も分解吸収したことが無くたって簡単に作れる。
ということで、木材で机と椅子、それからベッドフレームを作ったら、植物繊維のマットレスも作る。これでフカフカのベッドができた。時々干してやらないとすぐヘタりそうだけどな。まあ、ひとまずはこれで。
「そんなに寒くはないが、落ち着かないなあ……。これでいいだろ」
そして、マットレスの上には植物繊維の布をシーツ代わりに掛けて、それから、綿毛布めいた掛け布も再構築。これで、フカフカとフカフカの間に挟まることが可能となったので……よし。
「おやすみ!」
……畑を作ってトマトを植えるのはまた後で、ということで、俺はひとまず、昼寝することにしたのだった。
何せ、ね、小学生ボディなもんだから……すぐおねむになっちまうってな訳で……徹夜上等な元のボディに戻りたいぜ。全くよぉ……。