世界樹*2
ミシシアさんの旅の目的は、以前聞いた。
彼女は『世界樹を植える場所を探す』ために、旅をしているらしい。……とはいえ、ここ1年弱はパニス村に滞在してるらしいけど。まあ、彼女、時間の感覚がアレだからな。うん……。
……そして、世界樹の種を植える場所が中々見つからない、ということも、言っていた。
魔力の多い土地はあっても、そこにミシシアさんが種を植える許可を得られない、というようなことだったと思う。
……彼女が生粋のエルフではなく、ハーフエルフだから、というような話も、していた。
ミシシアさん、いい人だし、俺としては、彼女みたいないい人がしょんぼりしてるのは、ちょっとやるせねえな、と思う。世界樹の種を植える場所、見つかったらいいな、と。……彼女に許可を出してくれる土地があったらいいな、と。そう、思ってた訳だ。
だが……そりゃ、他力本願って奴だったかもしれん。
よくよく考えてみりゃ、俺はダンジョンの主なわけで、この土地……このダンジョンの、神様、みたいなもんらしい。らしいよ?俺は知らんけど……。
……で、ダンジョンは魔力を集める場所、であるらしい。このダンジョンで再構築した水は魔力たっぷりの水になるらしいし、最奥のキラキラした光は魔力が降ってきてるやつっぽいし。……まあ、つまり、魔力の多い土地、だと思う。
ならば、だ。
……俺が許可を出せば済む話なのかもしれない。
ミシシアさんが暗い顔をしていた原因が、ここで全部吹き飛ぶのかもしれない。
「勿論いいよ!許可する!どうぞ!」
ならば、俺が許可を出さない理由は無い。いいよ。ミシシアさんの苦労がこれで報われるっていうんなら、幾らでも許可くらい出すさ。
……例え、『ところでなんで今?なんで今、この状況で、世界樹……?』という疑問が生じたとしても、である。
彼女が『なんとかしてみせる』って言ってる以上……多分、なんとかなってくれるんだろ!頼む!なんとかなれ!
俺が許可を出した直後、ミシシアさんの行動は速かった。
ミシシアさんは、彼女の襟の中から例のアレを取り出していた。
ペンダントだ。世界樹の種だ、という、例の。
赤い石にも見えるそれを、ミシシアさんは握りしめて……。
「世界樹……どうか、私に応えて!」
それを握ったミシシアさんの手が、地面へと振り下ろされ……種が、地面に、叩きつけられた。
その途端。
「なっ、何だ!?」
……ぴか、と、一瞬、閃光が走った。
だがそれも一瞬のこと。光に目が眩んだ奴の腕から俺もなんとか逃れようとしたが、それはできず……しかし、異変はそれで終わらない。
「……生えてきた!」
ぽかん、とするゴロツキ達と、ちょっとわくわくしてる俺の目の前で……そして誰よりも、ミシシアさんに見守られながら……ぴょこ、と、木の芽が生えてきた。
そして。
ごっ、と、凄まじい音と風が俺達を襲う。
……木が、凄まじい速度で成長したために。
そして……その成長によって、洞窟は崩落したのであった!
……気が付けば、俺は、緑色に包まれていた。
あれ、と思って周囲を見回せば、ここがどうやら、大樹の枝の上らしい、ということが分かる。……緑色の葉っぱがワサワサする中に、俺は引っかかっていたらしい。
「……ん!?」
が、大樹はさっき植えられたばかりの世界樹として、で、そんでここどこよ!?と、慌てて周囲をもうちょっと見回す。
……すると。
「あ……キラキラしてる割れ目がある……ってことは、ここ、最深部か……」
樹の上に、キラキラと光を零す割れ目がある。どうやらこの世界樹、洞窟を崩落させて一気に最下層まで突き破って落ちてきて、そしてそこに根付いたらしい。すげえ生命力である。俺も見習いたい。
「ミシシアさんは……あっ、ミシシアさーん!」
そしてミシシアさんは、ちょっと離れた位置の枝の上に立っていて、じっ、と、世界樹の幹を見つめている。
「育った……」
ミシシアさんの表情が、綻んだ。まるで、ずっと会いたかった人に会えたみたいに。
そして。
「育ったよ!アスマ様!」
「う、うん!よく分からんけどおめでとう!」
「ありがとう!」
状況がイマイチ分かっていない俺と、興奮冷めやらぬミシシアさんとでよく分からん会話をして、『まあ、とりあえずミシシアさんが望んだとおりになったっぽい』ということは把握した。よし。
さて。
俺とミシシアさんは木の枝に引っかかってる訳だが、他のゴロツキ連中はどうなったのか、というと……。
「お、おい……こいつは本物の世界樹じゃねえのか!?」
「この枝葉を持ち帰れば、ガキ1人2人よりよっぽど金になるぞ!」
喜色満面、樹の根元あたりでこちらを見上げていた。こっちはこっちですげえ生命力である。俺も見習いたい。
だが、彼らの中で数人、動かない人もいる。
……隻腕隻眼の人が鞄ぶん投げてぶっ倒した人2人と、その後、剣で斬った人2人。そして、隻腕隻眼の人自身。
彼らは、意識が無いのか……それとも、死んでしまったのか、動かない。
「早速頂くとするか!」
……が、生き残っているゴロツキ連中は、動かない仲間のことなんて気にもかけずに、剣や斧を世界樹に向かって振り下ろすべく、ぞろぞろわらわらとやってくる。懲りねえなこいつら!
……だが、そんな彼らの乱暴な行動もこれで終わりである。
「もう許さないから!」
ミシシアさんの鋭い声が飛ぶと同時……ゴロツキ達の足元に、どすっ、と、矢が撃ち込まれる。
……そう。矢だ。ただし、それは光でできている。
「私は、世界樹の守り人。私の力は、世界樹と共に在ってはじめて、発揮されるもの」
ミシシアさんはそう言って唇を引き結ぶと……その手で、世界樹の細い枝を数本、折り取った。
そして、その枝をそのまま、弓に番える。矢羽根も矢尻も無い、ただの枝を。
「ってことで!覚悟しなさい!」
俺も冒険者崩れのゴロツキ連中も何もできない間に、その枝が放たれる。
弓から放たれた世界樹の枝は光って、真っ直ぐに飛んで……その途中で、数本の光の矢へと姿を変えて、それぞれに飛んでいった。……それぞれ、ゴロツキの元へ。
……そうしてミシシアさんは、世界樹の力を借りて、凄まじい戦いぶりを見せてくれた。
ミシシアさんが放った光の矢を受けたゴロツキ達は、手足に矢を受けて、割とさっさと逃げ出したり、或いは、立ち向かおうとしてもう一発矢を貰ったりしている。
中には反撃に出ようと、斧とか剣とかを世界樹に投げる奴も居たけれど、その斧や剣すら、光の矢に撃ち落とされて世界樹まで届かない。
「世界樹もアスマ様も、絶対に傷つけさせないから!」
……そう言いながら世界樹の上から狙撃するミシシアさんは、実に勇ましかった。
ゴロツキ達は逃げ惑いつつも、確実に動けなくなっていく。手に矢が突き刺さっちまえば、もう武器は握れない訳だし、足をやられれば当然、逃げられない訳だし……。
……そもそもここは、ダンジョンの最深部だ。
逃げられない。ここから地上に出ようったって、凄まじく複雑な迷路を通らなきゃいけないんだから……。
ひとまず、俺は樹から下りることにした。
……幸い、前に天井のキラキラの割れ目を確認すべく作った階段が、すぐ近くにあったのだ!ということで、そっちに飛び移って、階段経由で地面へ降りる。
「アスマ様!」
そうして地面へ到着した俺のところに、ミシシアさんが飛び降りてやってきた。うわーお。直に飛び降りてきたよこの人。
「ミシシアさん……わぷっ」
そしてそのまま、勢いよく抱きしめられてしまった。ああはい。俺はどうせ小学生ですよ!
「ごめんね、ごめんねアスマ様、怖かったよね……」
……けど、文句言う気には、到底なれないな。俺をぎゅっと抱きしめながら、ミシシアさんはその場にへたり込んでしまった。細い肩が震えている。
『怖かった』のは、ミシシアさんなんだよな。なのに頑張って守ってくれたわけだ。
「うん。俺は大丈夫だよ。ありがとう、ミシシアさん」
なので俺は、ミシシアさんを抱きしめ返しながら、ぽふ、ぽふ、とミシシアさんの背中を叩いて、ちょっと落ち着かせるのだった。
……ま、こういう役割を務められるんだから、俺は小学生ボディでよかったのかもな。
さて。
そうしてミシシアさんが少し落ち着いて、俺はようやく解放された。
……で、だ。
「……この人達、どうすりゃいいんだろうなあ」
かなりのどうしよう案件なのである。
「……トドメとか、刺した方が、いい……のかな……」
……俺とミシシアさんは、2人揃って青ざめている。
いや、だって、人とか、殺したくねえし。
……それに。
「あの、ミシシアさん……この人、俺のこと、逃がそうとしてくれたんだ……」
俺の傍で倒れている、隻腕隻眼のこの人。この人については、絶対に、トドメを刺すわけにはいかないだろ。
「この人のことは、助けたい」
頼む、という気持ちでミシシアさんを見上げると、ミシシアさんは……ぱっ、と表情を明るくしてくれた。
「うん。分かった!そうだよね!私もそう思うよ!よかったぁ……」
どうやら、ミシシアさんも同じようなことを思っていてくれたらしい。俺もほっとする。よかったー、この人も甘い人で!
……で、だ。
「この人、助けたいけど……ええと、『アレ』使ってみても、いいかな……」
「うん。今こそ『アレ』の使いどころだよ、アスマ様。あっ、アスマ様も使っておいてね!蹴られてたでしょ!?怪我してるでしょ!?」
「わ、分かった。じゃあ、ちょっといくつか持ってくるから……」
幸い、ここはダンジョン最深部。すぐそこが俺の家。
ということで、俺は一旦、家に戻って……そこに置いておいた『アレ』を持って帰ってくる。
「ミシシアさーん!ポーション、持ってきたよー!」
水晶再構築で作った瓶に入っている、透き通った液体。仄かに光を纏ったようにも見えるこれこそ……そう。『アレ』ことポーションである。
……このポーション誕生については、少々、話を遡る。




