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ちび神様の楽園ダンジョン  作者: もちもち物質
第三章:ダンジョンは世界を飛び越えた!
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スライム親善大使*4

 何はともあれ、こうして俺達は車とバイクの集団となり、国を移動していった。

 ……いや、まあ、目立った。めっちゃ、目立った。

 そりゃそうだよ、この世界じゃ、まだバイクだって碌に普及してないところで、いきなり自動車が複数台ぶんぶんいってんだからさ……。

 道行く人々は皆、目を丸くして俺達を見ていた。馬車を牽く馬が驚いちゃって、ちょっと御者さんに申し訳ねえことしたなあ。その御者さん自身も、この謎の集団に度肝を抜かれていたし……。

「速くって気持ちいいねえ、アスマ様!」

「うん。そうね。ところでミシシアさん。運転手やっぱり俺にしとかない?なんかさっきから速度上げすぎじゃない?」

 ……尚、俺とミシシアさん、そしてクソデカスライムとスライム大好きお姉さんが乗ったこの車が先頭に躍り出ております。なんでかって?ミシシアさんに運転手を交代したら、めっちゃ飛ばしまくってるからだよォ!




 ミシシアさんが運転する怖い車に乗っていた俺は、寿命が多分10年ぐらい縮んだ。が、まあ、生きてる。生きてるって実感できる。なにこれ。ダンジョンに入る前からこれかよぉ……。

 そのまま、近くの宿場で一晩過ごして、翌朝、また俺達は出発。

 車とバイクだから速い速い。本当なら『移動には丸5日かかりますね』みたいな道も、1日ちょいで移動できちゃう。まあね。エンジンは馬とは違って草を食わないし。休憩も無くていいし。燃料補給は魔石をぶち込んでやればそれで済むってことで、非常に便利。

 何より、やっぱり乗り心地が格段に良くなった!俺達の乗ってる車は、俺が最初期に開発したチャリから生まれたブツだが、タイヤにスライムのもっちりやわらかの魔力を使ってるところとかは概ねそのままである。更に、車には俺が『サスペンション入れましょうよぉ!』とゴネた。おかげで、乗り心地が良い!

 乗り心地が良いということは、移動で消耗する体力が少なくて済むということである。というか、逆に言うと、今まではただ馬車や馬に乗って移動するってだけで滅茶苦茶に疲れていたのである。それが無くなったわけなので、正に大革命だな!

 エルフ達も、この移動方法には驚いている様子である。『なんと乗り心地の良い車だ……』と驚きの声を隠せない様子。

 ……まあ、1名、スライムに埋もれてるから乗り心地も何もない人も居るんだけどね。うん。彼女は今日も、俺とミシシアさんの後ろで『最高の乗り心地』って悟りを開いたような顔をしているよ。これなんなのもう。


 で、そうして移動を続けた俺達は、いよいよ例の地へと近づいてきた。

「さて、ここから先は隣国だ。何があってもおかしくないと言える。気を引き締めて進軍せよ」

 ラペレシアナ様のお言葉もあり、緊張が高まる。

 ……そう。ここから先は隣国。一応、最近まで戦っていた国なのである。




「ところで、先の戦って何が原因だったの?」

 さて。そういう訳で、国内最後の宿泊。国内最後の飯。その最中、折角だからリーザスさんに聞いておくことにした。彼、当事者だからね。

「あー……まあ、簡単に言ってしまうと、うちでもあっちでもない国が『聖地をどちらの国のものとするか』で戦い始めて、その余波で資源と領土の問題が出てきたので周囲一帯が巻き込まれた、ってところか。それでうちと隣国も戦わないと領土を獲られるってところまで来て、戦になった」

「宗教ってマジで碌なことしねえな」

「俺もそう思う」

 テーブルの向かいに座ったリーザスさんはため息を吐きつつ、ちょっと遠い目をしている。

 そうだよね、そのせいで片目と片腕、無くしてるもんね。あと、その余波で職と妻も……。

「……まあ、そういう訳で、相手国は相手国で厄介な相手ではある。何せ、どさくさに紛れてこっちの領土を持って行こうとしたからな」

「もしかしてそれ、更に別の国から『うちの国に加勢してくれたらあっちの国のそこらへんあげるよ』とか何の根拠も権利もない約束されたとかそういうきっかけだったりする?」

「ん?詳しいな。ラペレシアナ様あたりから聞いたか?」

「いや、歴史はどこでも同じような繰り返しなんだなと思って……」

 なんか俺も遠い目になっちゃいつつ、ふと、別件が気になってきた。

 というのも……ほら。俺達の目的地って、隣国であって、でも隣国の中にあるエルフの森じゃん?っていう。

「で、隣国におけるエルフの扱いなんだけど」

 ……ということで、俺がそう、リーザスさんに聞いてみたところ。

「邪魔者扱いだな」

 後ろから声が聞こえた。

 振り返ると、そこにはリーダーエルフが立っていた。おお、当事者だ!


「邪魔者、っていうと?」

 どうぞどうぞ、と俺の隣の席を勧めるも、リーダーエルフは立ったままである。人間と同じテーブルには着きたくないのかもしれない。まあ別にいいけど。

「そのままの意味だ。『あいつらが居なければ国土がより広く使えるのに』などと思っているらしい」

「へー」

「その一方で、エルフの魔法の恩恵によってここまで栄えてきているからな。邪魔だが排除もできないのだろう。全く、我々の施しを受けて育っておきながら、エルフも森も邪魔だとは、なんと恩知らずなことか」

 成程ね。まあ、隣国は隣国で大変そうね。エルフはエルフで、『人間風情に施しを与えてやったのだから人間は首を垂れて縮こまっていろ』みたいな態度取ってそうだしな。

 ……というか、よくぞ同じ国の中に住んでるなこいつら。分裂しなかったのが謎である。紛争もっと起きろよ。どうなってんのよ。

「えーと、エルフって人間の国から独立しないの?」

「何故エルフが自分達の土地を人間に与えてやらねばならないのだ?」

「あ、互いに自分の国だと思ってるやつか……」

 なんかもう色々と頭抱えたくなってきたがこれは置いておこう。俺は流石にこっちにまで首突っ込む気は無いので好きにやってくれということで終わり!


「じゃあ、エルフの森には人間は居ないのね」

「ああ。エルフの森は人間にとって不可侵の場所とされている。……だからこそ、森が燃えるのは由々しき事態なのだ」

「あー、領土が減っちゃうってことでもあるのか」

 森じゃなくて元森なら不可侵じゃない、ってことなら、とりあえず焼くよね。分かる分かる。

「……ってことは、今、エルフの森を焼いて利がある人って、こっちの元大聖堂の連中だけじゃなくて、向こうの国のお偉いさんとかもそうなのかぁ」

「まあそうだろうな。我々もそれに頭を悩ませている」

 ほーん。俺はてっきり、元大聖堂の連中がエルフ達を救う技術を押し売りするためにエルフ達の生活を困窮させようとしてるんだと思ってたんだけど、それだけじゃない可能性が出てきちゃったのか。うーん。

「となると、本当にスライム連れてきといてよかったなー」

「……ところで、ダンジョンの攻略にあのスライムを使う、ということだったが、アレは一体、何なのだ?こちらのエルフが1人、アレの中に囚われているようだが……」

 うん……あのスライム大好きお姉さんは自ら囚われに行ってるからそこは勘弁して頂きたい。

「ダンジョン攻略はね、まあ、ちょっと変わった技術を使うよ、ってことでよろしく。スライムはどっちかっていうとその後始末の方かな」

「ほう」

 まあ……スライムって、色々と強みがあるからね。今回はそれを利用した戦いになると思うよ。




 ということで、飯食って寝て翌日。俺はまたミシシアさんにかっ飛ばされないように運転席を死守した。小学生ボディで車の運転をするのはかなり大変なのだが、そこのところは気合でなんとかした。じゃないとまたかっ飛ばされるから!かっ飛ばされちゃうから!

「おおー、見えてきたね。めっちゃ森だ」

「そりゃそうだよアスマ様!めっちゃ森だよ!当然だよ!だってエルフが住んでるんだもん!」

 ……そうして安全運転の俺達の目には、森が飛び込んでくる。

 木々の青々とした葉っぱが風に揺れて、それが延々と続いている。……本当に、延々と。

「森だー」

「ああ。エルフの森だからな。全く……見ろ、あちらが焼けているのは、例のダンジョンのせいだ」

 俺達はエルフの森を存分に見学しながら、『ほぇー』とやる。成程ね。あたり一帯が森だと、被害状況が実に分かりやすい。

 なんとなく、風に乗ってやってくる焦げ臭さが『あー、焼けてますね』ってかんじだ。エルフにとってこの匂いは非常に嫌な匂いらしく、エルフ達は顔を顰めていたし、ミシシアさんもイヤそうな顔をしていた。まあ、俺には野焼きとかの匂いに感じられちゃうんだけどね。

「では早速、ダンジョンへ向かうとするか」

「いや、待ってくれ」

 戦いの気配がする中、ラペレシアナ様がにやりと笑って馬上槍を構えると、エルフ達はちょっと緊張気味に首を横に振った。

「一度ここで態勢を整えた方がいい。ここから先は本当に、ダンジョン付近の……魔物がよく出るあたりだ。それこそ、我らが手こずるほどに」

 成程ね。ここから先に魔物がめっちゃ出る、と。

 ……まあ、エルフ達の話を聞く限り、本当にめっちゃ出るんだろうと思われる。ダンジョンの攻略に踏み切れない程度には、ダンジョンの外に魔物が出まくってる、ってことなんだろうしな。うん……。

「そうか。まあ、ダンジョンの外からして魔物だらけ、ということなら我ら王立第三騎士団の出番だな」

 ……魔物がいっぱい居ますよ、と言われてラペレシアナ様が嬉しそうなのが若干心配である。この人、戦うの大好きなの?お強いとは聞いてるけど、大丈夫なの?

「そして、ダンジョンへの道を切り開く。……アスマ様にダンジョン内部をお願いすることになるが、よいだろうか」

「お任せを!」

 まあ、ここまで来たら腹くくるしかねえな。俺は後続車両に積載してある例のブツを思い浮かべつつ、元気とやる気で心配とか不安とかをカバーすることにした。




 ということで。

「魔物が見えてきたよ、アスマ様!」

「うおおおわああああ、結構普通にヤバそうなのがいっぱい居る!」

 森を進んでいくと、どんどん周囲が焼けていき……そして、そこらへんの地面をうろつくのは、大蜥蜴、というか、ドラゴン、というか。

 成程なー、火を吹きそうな奴らだ。ついでにつよそう。

「成程な。面白い。トカゲ如きが我らの進軍を止められるとでも思ったか!」

 が、ここでラペレシアナ様である。呵々として笑った美女は……どう見ても重いでしょそれ、という見た目の馬上槍を天高く掲げ、凛々しく吠えた。

「王立第三騎士団、出撃!思い上がったトカゲ共を殲滅せよ!」

 ……騎士達の雄叫びに続いて、バイクのエンジン音。ここ、馬の蹄の音じゃないんですよね……。

 だが、騎士改めライダー達の進撃は凄まじい。馬上槍とバイクってもしかして相性いいんですか?いや、そんなことないよね?

 この快進撃に、ドラゴン達はめっちゃビビったらしい。そりゃそうだね。まず大型二輪を知らない奴らだからね。未知の鉄の馬がエンジン音響かせてやってきたらビビるよね。わかるよ。

 ドラゴンが早速一匹、ラペレシアナ様の槍によって討ち取られると、騎士達は次々にドラゴンを槍で突き始めて、それを見ていたドラゴン達は追い立てられ、逃げていく。

「逃がすな!」

 ラペレシアナ様達、バイク部隊はそれを追って森の中へ。いってらっさい。

「装甲車、出ます!」

 更に、装甲車が後に続いていく。中に乗っている騎士達は、クロスボウに矢を装填しているところである。つまりあれ、クロスボウを中からバシバシ撃てる、動く要塞。耐火性能バッチリらしいよ。装甲車については王城の方でやってたから、俺はクロスボウを提供しただけだね。詳しくは知らねえ。


「に、人間は皆、ああなのか……?」

「いや、彼女らは特殊な人達なので……」

 エルフのリーダーが唖然としているが、あれが人間のデフォだと思わないでくれ。俺も思いたくない。

 というかだな、ラペレシアナ様達、第三騎士団の様子を見てようやく理解できたよ。そりゃ、彼女らが進軍したら戦にも勝てちゃうわ。そりゃそうだわ。




「……我々は何をすれば」

 そしてエルフ達は困り始めた。そりゃそうだね。人間がここまで威勢よく戦うとは思ってなかったんだもんね。俺も思ってなかったよ。

「あ、じゃあエルフの皆さんは消火器をどうぞ」

「なんだこれは」

「燃えてたらぶっ掛けてください。消えます」

「なんだそれは!?」

 エルフに消火器は早すぎたか。でもまあ、備えあれば嬉しいな、ってことで一応持っといてもらって……。

「それから、俺達の護衛をお願いします。このままダンジョン入り口まで進みますので……えーと、何が何でも、火気を発生させないでください。こっちはこっちで色々対策してはいますけど、念には念を入れたいので」

 まあ、エルフさんのお仕事もあるぜ。それは俺達の護衛だぜ。

 今回、俺達はダンジョンに入らずにダンジョン攻略しようとしてるけど、ダンジョン入り口までは行かなきゃいけないからな。そこで守ってくれる人は多けりゃ多い方がいい。

「……今回、ダンジョンに入らずしてダンジョンを討つと聞いたが」

「あ、はい。それが一番安全だと思うので……」

 ……いや、まあ、安全か、と言われると微妙ではある。が、俺はこれがベストだと思った。

 エルフ達に化学兵器やダンジョンパワーといった手の内をできるだけ明かさないようにしつつ、特に『ダンジョンの主の座は奪えるかもしれない』という激やば情報を隠してダンジョンをどうにかするには、これが一番いいのである。


 ということで、俺達はエルフ達に守られつつ、進軍。車3台が一緒に付いてくる。

 ……エルフ達が不審げに車を見ているが、まあ、君達は知らないものだからね。そういう反応にもなるか。まあこの世界の人達、皆知らないものだけどね……。

「おっ。これがダンジョンの入り口かな?」

 そして到着したのはダンジョン入り口。すっかり焼けちまっているあたり一帯の中、ぽつん、と佇む祠と、その祠の中から地下へと続く下り階段。どうやらこれが、目的のブツらしい。

「あ。じゃあ早速だけど注入開始しましょか。はい、タンク車持ってきてー。オーライオーライ」

 なので俺はそこにまで車を誘導。

 続いて、車に積載されたタンクからホースを伸ばして、ダンジョン内部へと差し込んでいく。この作業はリーザスさんとエルフ達に手伝ってもらって完遂。ありがとうな。小学生ボディにはこの程度のホースすら重いのよ。

「……何をしているところだ?」

 エルフ達は不思議そうにしている。なので『これ装着してくださいね』とガスマスクを渡した。彼らもお揃いのガスマスクでしっかり不審者になったところで……。

「えーと、これからシアン化水素を注入するところです」

 ……人間の罪を、俺は繰り返すぞ!すまん!


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― 新着の感想 ―
知っていれば誰でも出来るのが科学。そこに善悪はないのにね。早めに解毒スライム流し込みましょ
か、かなりえぐいですわー!
ツィクロンB!人間の罪!
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