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ちび神様の楽園ダンジョン  作者: もちもち物質
第一章:ダンジョンは村に進化した!
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衣食足りてダンジョンを知る*1

 ダンジョンは、あらゆる物質を食らい、魔力へと変じる機構である。

 ダンジョンは、魔力を用い、あらゆるものを生み出す機構である。

 ダンジョンは、新たな魔力を求めて活動する。

 ダンジョンは、眠れども滅びない。

 ダンジョンは、主を待っている。




 ……そんなダンジョンに、1人の人間が落ちてきた。

 ダンジョンの主となることになる、異世界からの迷い人……飛鳥馬卓弥という名の、1人の青年が。

 ……否。

 さっきまで青年『だった』……少年が。


「ああああああ!?俺、縮んでる!?縮んでるよね!?なんで!?」

 ……ダンジョンがうっかり『食って』しまったがために、少年の姿にされてしまったその人間は、大いに混乱し……そして。

「……えーと、状況の把握からいくか。荷物はちゃんとあるかな、っと……」

 案外、すぐに立ち直ったのだった。


 ……この図太さと彼の持つ善性が、後に彼を『ダンジョンのちび神様』と呼ばせしめることになる。

 無論、彼はまだ、未来を知らない。知らないまま、ただ『パンツ消えてる!』と絶望していた!




 ~ちび神様の楽園ダンジョン~

 第一章:ダンジョンは村に進化した!




 さて。

 俺の名前は飛鳥馬卓弥(あすまたくや)。しがない大学生1年生だ。

 俺は今日、大学生協で昼飯を購入して退店した直後、地割れに巻き込まれて転落。そして今、何故か子供の姿になってここに居る!

 ……何も状況が分からないね。それはそう。俺、今、ものすごく困ってるよ。なにこれ!誰か説明して!

 だが困っていても困るばかりである。困らないためには困っていてはいけないのだ。だから慌ててはいけないあわわわわわ。


 ……状況を整理しよう。まずは周囲の状況。

 周囲を見回してみると、見渡す限りの岩壁。上を見れば、やっぱり岩壁。……どこかの地下洞窟の中、のように思える。

 ただ、それらが見えているということは、光源があるということである。そう。この洞窟、天井がものすごく高く……そして、その高い天井のてっぺんに、何か、謎のキラキラした光を放つ割れ目のようなものが見えるのだ。

 多分、アレが俺が落ちてきたところ……つまり、あの先に俺の大学の生協前の通りが繋がっているんじゃないかな、と、淡い希望を抱いている。

 が、高すぎて到底届かないので、今はパス。次。


 続いて、元々持っていたはずの荷物。

 こちらは壊滅的である。何せ、俺……小学生低学年くらいにまで体が幼児化しているのである!

 となると、まあ、当然のようにベルトは用を成さず、ズボンは脱げ、パンツも脱げたんだろうな。うん。

 ……今、俺が身に着けているものは、超オーバーサイズのTシャツ1枚である。

 下半身がスースーする。開放的すぎるこの感覚に、俺の息子が『落ち着かねえ!』と嘆いている!神よ!俺が何をしたって言うんですか!大学構内のハトを追いかけ回したのがそんなに罪深かったんですか!?神よ!

 まあ、神とパンツはさておき……ズボンのポケットに入れてあったスマートフォンも、左手首に着けていたはずのスマートウォッチも、消えている。高かったのに!

 ついでに、鞄は俺が倒れていた箇所の傍で発見されたんだが……何故か、その中からノートPCだけが綺麗サッパリ、消えていた。

 大学で使っているノートとか筆記用具とか、あと、購入したばかりだったBLTサンドとか、そのレシートとか、そういうものは何一つ欠けていないだけに少々妙に思えるが……荒らされた様子でもないので、首を傾げるしかないね。なんだろうね。


 そして、体。

 ……こちらについては、『小学校低学年ぐらいのボディになっている』ということが分かっている。

 鏡なんて洒落たモンは生憎持ち歩いていないので全体像は分からないが、まあ、目視できる限りではそんなかんじだ。腕も細いし、短いし、力も弱い。さっきまで平気で持ち運んでいたはずの、参考書とノートが詰まった鞄がクソ重く感じられる。

 ただし、体が小さいので、ズボンもパンツも失った俺の下半身は、無事、ブッカブカのTシャツによってカバーされている。ありがとうTシャツ。


 で、もう1つの変化が……。

「……これ、何だろうなあ……」

 俺の左手首には、見覚えの無い腕輪が嵌められていた。

 尚、継ぎ目は無い。

 ……つまりこの腕輪、外せないのである。

 怖い!




 ちょっと引っ張ったりつついたりしてみたが、腕輪が外れる気配は無かった。俺の左手首にガッチリ嵌っており、全く動かない。

 元々、スマートウォッチが嵌っていた箇所であるだけに、『おっ?スマートウォッチが化けたか?』と思わないでもないが、まあ違うだろうなあ。なんだこれ。

「……ん?」

 そんな腕輪を撫でたり見つめたりしている内に、腕輪に文字が刻まれているのが分かった。

 ……分かってしまった。

 どう見ても、俺が知る如何なる文字とも異なるそれを、『文字』だと認識し……更に俺は、それを読んでしまったのである。




 ダンジョンは、あらゆる物質を食らい、魔力へと変じる機構である。

 ダンジョンは、魔力を用い、あらゆるものを生み出す機構である。

 ダンジョンは、新たな魔力を求めて活動する。

 ダンジョンは、眠れども滅びない。


 ダンジョンは、主を待っている。




 俺がそれらを読んだ瞬間、最後の一文……『ダンジョンは、主を待っている』というその文字列が、光り輝いて、消えた。

 ……流石にびっくりしていると、ふと、脳裏に何か、閃くものがあった。

「……ダンジョンは、あらゆる物質を食らい、魔力へと変じる機構、である……」

 呟きながら、そこらへんに落ちていた石を握って、意識を集中させた。


 ……石は消え、代わりに俺の脳裏には情報が流れ込んでくる。

『花崗岩』と。

 ……さらに分解すると、『長石』『石英』『雲母』『角閃石』『磁鉄鉱』『ジルコン』『ガーネット』と情報が流れ込んでくる。

 更に更に分解していくと、『ケイ素』『酸素』『カルシウム』『アルミニウム』『ナトリウム』『硫黄』……と、情報が流れ込んでくる。

 情報が流れ込んでくる。情報が流れ込んでくる。情報が……。


 ……そうして、より細かく細かくなっていった情報は、やがて、最後に『魔力』になった。




「……これが、ダンジョンの機能なんだろうなあ」

 腕輪に刻まれた文字……多分文字。それを読む限り、どうも俺は、ダンジョンの機能を使って石を分解して、魔力へと変換して、吸収した……らしい。

 そして、腕輪から消えた文字を考えると……。


「俺が、ダンジョンの主、ってことかな」

 ……どうやら俺、ダンジョンの主になったらしい。よく分からんけど……。




 よく分からんが、よく分からんなら確かめてみねばなるまい。よし。俺、こういうの好きよ。早速、検証検証!

「さて、石……花崗岩が消えたわけだが、どうしたもんか」

 まずは、目の前にあったはずの花崗岩だ。

 消えちゃったわけである。花崗岩が。忽然と。……だが、これは恐らく『ダンジョンはあらゆる物質を食らい魔力へと変じる機構である』のことなんだろうな、と推測できる。

 ということは、だよ?

「出すこともできるんかね。『魔力を用い、あらゆるものを生み出す機構である』なんだし」

 折角だし、と思って、花崗岩、出してみる。

 ……すると、手の中に花崗岩でできたブロックが、ぽん、と出てきた。おお。


「……形、変えられるのかあ」

 ただの石ころってかんじだった花崗岩が、ブロックになった。つまり、変形はできるってことだよな?

 いや、ちょっと待て。一応検証検証……ということで、ブロックをもう一回消して、今度は最初の石ころの形で出してみるように集中してみる。

 すると、石ころができた。


「……組み替えられたりするかな。石英と長石に分ける、とか……」

 もう一回石ころを分解して、それから意識して、花崗岩を構成する物質ごとに分けてみることにした。

 ……すると、透明な結晶が1つと、不透明な結晶が1つ、そして『それ以外!』ってかんじの黒っぽい塊ができた。

「できるんかい!成程ね?ほーう……?」

 さーて面白くなってきちゃったな。これができちゃうとなると、色々と話が変わってきちまうぞ?

 例えば、ほら、花崗岩の中にさっき、磁鉄鉱が混ざってるのが見えてたわけで……。そして、この洞窟、少なくとも壁の一部は花崗岩っぽいので……。

「……鉄、作れちゃうじゃん」

 ひとまず、鉄の確保はできることになっちまった。すごいね、ダンジョン。


「え、じゃあそもそも、花崗岩を分解吸収して、全く別の物質にすることってできる……?あ、じゃあ金とか……?」

 ……が、花崗岩を金にしようとしたら、それはできなかった。

 うーん、『魔力』は元の物質にしか再構築できない、ってことなのか、それとも、一度分解吸収したものしか生み出せないのか……?

 ならば、ということで、俺は自分の鞄をごそごそやって、ティッシュを1枚取り出す。で、それを分解吸収。

「ティッシュは量産できるか?……できるけど、アレかぁー、はいはいはい、成程ね、できるけどコスパ悪いかんじね?」

 ティッシュを3枚ぐらい出してみたところ、まあ、出せるんだけど、すげえ効率悪くなった。ティッシュ3枚で、子供の手で握れるサイズの花崗岩1つ分の魔力が尽きた。これは絶対に質量ベースじゃねえなあ。ということはやっぱり、花崗岩を分解して得た魔力は花崗岩を作るのに向いてて、ティッシュ由来の魔力はティッシュ作るのに向いてる、ってことかね。




「成程なー。分解吸収すると、その物体の情報が分かって、物質が細かく分解されていって、最終的には魔力になる……?」

 何度か分解吸収、それから再構築をやってみて分かったのは、『とりあえず分解吸収して、魔力に変換しておくと良さそう』ということだった。


 分解吸収しておけば、物質を『魔力』という形でストックできる。で、『魔力』っていうのが何かというと……『あらゆるものを生み出す』元になってくれるようである。

 とはいえ、一応、『素材』の概念はあるっぽい。花崗岩からティッシュ作るのが滅茶苦茶コスパ悪いってところね。

 多分これは、『魔力』とは別に元素がダンジョンのどこかにストックされてるんじゃないかな。で、それを消費して物質を再構築してる。元素が足りない場合には、魔力を元素に変換してるからコスパが悪い。そんなかんじだとすると説明が付く。

 石から金を作れないのは、金を分解吸収したことが無いから金を作れない、ってことかな。うーん、やってみてえなあ、錬金術。


「よしよし。なんとなく分かってきたぞ」

 まあ、一通り、この能力の基本的なところは分かったな。となれば、後はこれを利用して生き残り、あと、元の年齢に戻って、そして元の世界に帰りたいね。

 上を見上げれば、高い天井の割れ目から、きらきら輝く謎の空間が覗いている訳だ。……あそこに到達するだけでもちょっと大変そうだが、それ以上に、自分の元の体を取り戻すのが大変そうなんだよな……。こっちは目途すら立ってない。

 ま、そこは地道に、手段を探りながらやっていくしかないね。しょうがない。まずは生きることだ……。




 ……と、いうことで。

 今の俺には、真っ先に生み出すべき物体がある。それは……。

「まずは……パンツ欲しいね!」

 パンツである。ほら、俺の息子が未だかつて無いフリーダムっぷりに戸惑ってるからさ……。

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新生児の時から何かしら履かされますもんねえ息子さん……
この頃流行ってますよねノーパン。
キラキラはゼクノヴァかな?
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