褐色肌の美少女と氷の美少女
屋上から転落死しそうになって唯達に助けられた小早川ファンクラブ四天王の紫。彼女は色々思う所があったのか、ファンクラブをやめた。それをよしとしない会長・土屋佳凛は部室で副会長の水川汐里と会議をしていた。
小早川君ファンクラブと達筆で書かれた部室で。
「紫がファンクラブを辞めたいみたい」
褐色肌でウェーブのある明るい髪をポニーテールにした、豊かな胸の美少女は。手を天秤のように構えて軽くお手上げのポーズを取った。そして睫毛が長く彫りの深い眼差しで色白の美少女を見上げた。
「そう」
艶やかな長い黒髪のモデル体型の美少女は、スラリと長く白い手足ででんぐり返しをしながら部室を一周し、ため息を吐いた。
「罰の儀式を行うわ」
「あれマジでやるの……? ゆかりんメンタル弱いからかわいそーだよ」
「汐里は甘いわね。炎だから炎の罰よ」
「佳凛……マジこわ。怪我はさせないでよ」
佳凛と呼ばれた少女は、瞬きする度にガラスの破片が飛び散るような、冷ややかで美しい灰色の目でカラフルな細いろうそくを見つめ。歯ぎしりした。
「真田唯……見極めさせてもらうわ」
「歯ぎしりはやめなよ」
「うん」
ーーーその頃、高校最寄り駅近くのコンビニにて。
「いらっしゃいませ!……あっ夏樹くん!こないだはお菓子を持ってきてくれてありがとう!」
唯は暖かい眼差しを二重顎のふくよかな少年に向け、軽く手を振った。大きな目であたりをギョロギョロ見回しながら、その少年はカウンターに近付いてきた。ブランドのロゴが飾られた小さな縫い跡のあるリュックの中から、同じブランドのロゴの財布を取り出して、夏樹はボソボソ呟いた。
「お、お世話になりました……に、2番くじくだ……ひゃい」
「はい!何枚ですか?」
「さ、3枚」
「3枚でいいの?」
「お、お金貯めてるから……」
「えらい!」
カードで会計を済ませた少年に、唯はくじの箱を渡した。少年はふっくらとした手を箱に突っ込む。だが。
「あぁ……タペストリー外れちゃった……」
しょんぼり項垂れる少年に唯は励ますように言った。
「浮き輪も人気あるから、ツイスターで交換募集したら?」
「もう……色々こりて鍵垢にしてるんです」
「そうだった!ごめんね!あの時は良く頑張ったね」
「……唯さんと里見さんのおかげです」
—————それは大分前、唯が小早川と付き合う前のコンビニ前での出来事だった。
『里見先輩、警察に電話します!』
唯はスマホで警察に電話し、里見と言われた男はメモを電話中の唯に渡して外へ出た。
【コンビニの中にいて。ドアの鍵閉めて】
唯と里見の視線の先には。それぞれ赤、青、黄色の髪の少年達と、彼らに詰め寄られるオドオドした様子の背が高くふくよかな少年がいた。
『オメー何見てんだよ!喧嘩売ってんのか!』
『ゴーストスレイヤーズのマシュマロロンみたいなデブめ!退治してやる!』
『コイツにらんでやがる!』
『い、いえ睨んでません……下からこういう顔です不愉快な思いをなされたら申し』
赤に突き飛ばされた少年は尻もちをついて訴えた。
『ほ、ほんとに…わ、悪気はな』
『おい!』
青は少年がひっくり返って尻もちをつく直前に、少年の後頭部を保護するように手を伸ばした。あれ?優しい?と少年は思ったが。青は直ぐに少年の胸ぐらを掴み、赤はライトをカバンに当て、黄色はカバンを漁った。
『うん、小早川夏樹だ』
名前が書かれたノートを確認して、小さな声で確認する二人だが。鞄の中の財布には手を付けず、チャックを閉めた。
『君達なにやってるの』
少年達が振り返ると。音も経てずに近付いたコンビニの制服の筋肉質の大男がいた。
『な、なんでもねーよ』
逃げようとする3人のうち、青は捕まえた里見だったが。赤と黄色はふらつきながら逃げ出した。
『ま、待っ!』
『だめだよ危ないよ!』
夏樹はふくよかな体に似合わない足の速さで赤と黄色を追いかけた。
『と、ともだちをお、置いていくなんて!』
夏樹はギリギリ追いついた黄色に体当たりしようとするが。コケた上に黄色に逃げられてしまった。疲れて悔しくて暫く俯いていた彼に、自転車から降りてしゃがんだ唯は声をかけた。
『大丈夫?立てる?』
『えっ、は、はい』
唯は立ち上がった少年をまるで間違い探しをするかの如く凝視した。
『あっ怪我してるじゃん。水で洗おう。どこかトイレを借りれる所は……』
『だ、大丈夫です。それよりコンビニに戻らないと…お姉さんバイト中ですよね』
『緊急事態だから気にしない気にしない。よく走ったね』
唯はニコッと明るく笑うと、近くのミックドナルドに入り。トイレを借りて夏樹の肘をガシガシ洗った。その後、店員にトイレを借りたお礼を言ってからミックシェイクを1つ注文した。その時。息を切らした里見と青い少年が来た。
『ふ、二人とも、大丈夫か?』
『この子は怪我してしまいました。あっ、シェイク1個追加でお願いします』
『ちょ、今はバイト中だから!お客様いなかったし鍵閉めて来たけどバイト中だから!警察官の方にも謝らないと!これから来てくれるから!』
その後、少年二人は警官に連れて行かれ(唯は二人にシェイクを渡した)、里見とバイトに戻ったが。ヤンキーを深追いした事で叱られ、1ヶ月時給を減らされた。
——回想から戻った唯は、客がいないか確認したり、テーブルを拭いたり、袋の数を確認しながら夏樹に尋ねた。
「そういえばあの時なんで青の子は待ってたの?」
「里見さんが亡くなったお兄さんに似てたからつい従っちゃったそうです。唯さんや里見さんにも悪かったって謝って欲しいと言ってました」
「……仲良くなったの?」
「僕は友達になりたいと思いました」
唯は思わず目を丸くした。
「えー!胸ぐら掴まれたじゃん!」
「なんか、他人に思えなくて…」
夏樹は当たりをキョロキョロすると、スマホを見せた
【小学生の頃、当時の友達に万引きを強要されて実行したら一人だけ取り残されました。店長さんや母のお陰で前科はつかなかったんですが】
「酷い目にあったね……。ちなみに誰かにあまり言わない方がいいよ」
「はい。それで友達に裏切られたのが他人事じゃなくて。それに胸ぐらは掴まれましたが手加減はしてくれてました。感触でわかります。それに後ろにコケた僕の後頭部を咄嗟に守ろうとしてくれました。結局赤と黄色の事も黙ってたし悪い人ではない気がするんです。それより」
その時、チャラらららララーンとドアから音がした。
「いらっしゃいませ!」
ごめんまたね、と唯に言われた夏樹は頭を下げて店を出た。