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死神の鎌

小早川の命令で、昔の施設の怪力あたおかクソ野郎に襲われた唯だったが。アメリ、小早川ファンクラブ四天王、小夜、音々、陽菜に無事助けられた。


野郎は陽菜にぐるぐる巻きにされて警備員に引き渡されたが、小早川を狙う少年は鎌を持って今だに園内を彷徨っていた。園内を捜索した唯達は少年と小早川を見つけるが1足遅く、少年に小早川へ鎌が振り下ろされる所であった。

唯達の眼前で、黒いコートの男が鎌を小早川に振りかざそうとしていた。間に合わない…先頭を走る唯は思わず手を伸ばして叫んだ。


「もうやめて!」

「他人に汚え事押し付けるカスめ!」


だが間一髪。


「ウァァア!」


白い雲のふわふわした熊が黒いコートの少年に体当たり。ドサッと音を立てて熊と少年は倒れ込んだ。少年は何とか熊から這い出ると、平然と見下ろす小早川を視界に入れながら鎌に手をかける。ざわめき離れて見つめるギャラリーを見た唯は咄嗟に叫んだ。


「だ、だめよ!ダーリン!私の為に争わないで!」

「は?」

「女の子を取り合って争うのはやめなよ〜!」


唯や汐里の叫び声に吹き出すギャラリー。


「な、なんでお前なんかを…」


力が抜けるコートの少年。熊は再び少年に被さって叫んだ。


「クラクマも好きクマー!」

「えっ…ええ…お、俺、をお?」


唯はポカンとする少年から鎌をそっと回収し、それを見て微笑んだ。さらに小早川が無事に普通に立っているのを見て、長い息を吐いた。一方、楓はクマと一緒に少年を取り押さえた。


「絶世の美女ですみませーん!皆様お騒がせしましたー!」

「か、間接キスだクマー!」

「は?は?は?はぁ?」


クマ…夏輝は自分の頭を取ると、少年に被せた。背が高い唯、佳凛、楓、空手部男子が少年を隠すように立ち、皆はそれをさらに取り囲んだ。何となく男女関係の縺れというか痴話喧嘩が収集された、みたいな空気を纏いながら唯達が帰ろうとした時だった。


「刃物を持つ男を見たとか、激しい言い争いを見た、と報告を受けたんですが」


警備員が2人。その場にやってきた。


「はい。僕が襲われました。弟の夏輝が止めてくれて、唯ちゃんと田中さんが捕らえてくれました……」

「せ、先輩待っ」

「安心したら力が抜けてしまいました……怖かったです」

「だ、大丈夫か君!」  


目に涙を浮かべて座り込む小早川。警備員はそれを支えた。


「犯人は誰ですか?」

「わ、私をめぐって争っててその痴情のもつれでただの喧嘩です!絶世の美女で申し訳ありません!」


唯は不器量ではないが、特別美人でもかわいらしくもなく【普通か、ちょっとかわいい】くらいで、本人も普通だと理解している。苦笑いな空気に苦笑いする唯だが。


「痛っ」


俯いている小早川から負の感情を凝縮した塊が霰のようにバチバチ飛んでくるのを感じてビクッと跳ねた。一方、くま頭を脱いだ少年は夏輝、唯に頭を下げた。


「庇ってくれてありがとう。巻き込んでごめんなさい。俺が犯人です。花嫁さんも刃物で襲いました」

「襲われていません!首の傷はこの子じゃなくてゴミカスクソ野郎に襲われた傷です!そもそも今回収したのはプラスチック製です!ね、夏輝くん!田中先輩!小早川先輩!」

「はい。プラスチック製でした。この着ぐるみは視界が狭くないように作ってもらいました。しっかり見えました」

「確かに遠目から見ても光沢感とか質感が金属製では無かったわ。それにこの少年の体では金属製の鎌は勢い良く振り下ろせないでしょうね。鍛錬しなさい」


頷く夏輝と楓。唯は拾ったプラスチックのおもちゃの鎌を警備員に見せた。一方、小早川は座り込んだままため息を吐いた。


「……とても怖くてよく覚えていないんだ…でも彼が僕を襲うのは仕方ないと思います。僕の親の会社が彼の会社を吸収合併してしまったから…。凶器を隠し持ってて殺されても仕方ないです…」


両手で顔を覆い、小刻みに震える鼻声の小早川。警備員達は失礼します、と言って少年のボディチェックをした。少年も素直にコートを脱いだり、ポケットをひっくり返した。


「何にもないですね」

「そんな筈は!ロッカーにあるかもしれないしちゃんと調べてください!防犯カメラも見てください!…とても怖かったんです!殺される所でした!」

「兄さん!殺そうとはしてなかっただろ!刃物も持ってなかったじゃないか!」


珍しく真っ赤な顔で反論する夏輝を、小早川は悲しそうな目で見上げた。


「心配してくれないのか……そうだよな…僕が親から可愛がられていて、お前が疎まれていたのに庇わなかったから、今更僕を心配してくれっておかしいよな…嫌ってて当然だよな…」


警備員達が困惑の目を夏輝に向ける。


「えっ、そうじゃなくて!ぼ、僕は兄さんを尊敬してたけど嘘はいけないって思うんだ!」

「僕が被害者なのに……誰も僕を心配してくれない…襲われたのに……悲しいな…僕が悪いという証拠は無いのに…」


唯は小早川と夏輝の間に立ち、しゃがみこんで言った。


「確かにさっきの被害者は先輩です。でも先輩は」

「唯ちゃんは僕を心配してくれると思ったのに…」

「小早川君!散々邪険にした真田さんに今更縋る気なの?流石に酷いわ!」


汐里と紫は花凜を後ろに引き寄せて小声でいった。


(大丈夫だよ)

(え?)


その読み通りであった。唯の追及する心は揺るがなかった。すがる様な美しく悲しげな眼、綺麗な声で唐突な【唯ちゃん】呼び、甘美なそれらすべてが過剰にぶち込まれた時の人工甘味料や着色料のように唯は感じたからでもある。


「…もう信じられないです」

「春翔君!いい加減にして!」


草むらから立ち上がって出てきたのは。頭に草冠を載せ、天使のように可愛らしく、少しだけガッシリとした迷彩服の健康そうな美女だった。


「いつも嘘つく時は悲しそうに泣きながら相手の同情心に縋って!真っ直ぐ目を見て言うんだよね!話もずっと聞いてたけど春翔君の過失割合90%だよ!」


ぽかんとする唯達だが、さらに目も口もだらしなくポカンとしていたのは小早川だった。


「だ、だれ」

「初めまして。市川莉子と申します。所謂初代彼女であります」

「う、嘘だ!俺の知ってる莉子は華奢で可憐で…小柄で…守ってあげたくなるようなかわいい、頼りなくて天使のような…」


凄くかわいいじゃん、という皆の感想を無視して小早川は頭を掻きむしりながら半狂乱に喚いた。


「ウソダウソダウソダコンナキンニクシラナイー!ァァァ!」

「ちゃんと反省して歴代彼女さん達にも、真田さんにも、夏輝君にも小夜ちゃんにも、追い詰めてしまったこの子にも…傷付けた人全員に謝りなさい!償いなさい!」


そういうと莉子は伸び切ったラーメンのようになった小早川を重量挙げのバーベルの用に持ち上げた。


————その後。怪力あたおかクソ野郎(陽菜による命名)は一生刑務所暮らしになりそうだ、と夏輝は唯に告げた。一方、死神コスプレの少年は遊園地での件については不問となった。怪我人や病人等が出なかった事、金属の鎌を持っていた所が運良く動画に残っていなかった為、さらに小夜が腕の良い弁護士を呼んだからである。ちなみに金属の鎌は小早川に合う前に少年を見かけた初代彼女・莉子が自分の持ってたコスプレ用のプラスチックの鎌と交換して、ロッカーに預けていた。


「真田さんからのLAINで事情を察したの。…うちも貧乏な時期があったから気持ちはわかったし、絶対に早まった真似はしないで欲しかった」

「本当に良かったです。私じゃ説得出来なかったのに、すごいです。」


素直に尊敬の眼差しを向ける唯に莉子は首を振った。


「真田さんの言葉が響いたから、私の言葉も聞いてくれたんだと思う。あの子は【怖い目に合わせたのに、悪い人ではないと言ってくれた人がいた。】って泣きそうな目で言ってたよ。真田さんが親身になってくれたから反省してたんだろうね」

「私や先代彼女さんを傷付けなきゃいけなかったのにそれができなかったし、私のめまいを心配してくれたから、本当に悪い子では無かったと思います。まあめまいはウソだったから騙しちゃったんですけどね」


きちんと物事の判断が出来て、謙虚で優しく、自分より他人を優先できる…そして病弱だったのに体を鍛えてきた精神力…これがあの人の本当に好きになった人なんだ…かなわないなあ…そう唯は思った。


「あの人が市川さんを好きな理由がわかる気がします。私も市川さんみたいに優しくて強くなりたいです」

「もうあのカスとは縁切ったし、向こうも私に幻滅したし、そもそも私は弱いし立派な人間じゃないよ…あのね」


莉子は唯の手を握って言った。


「私はまたアメリカに帰るけど、何でも出来るわけでもないけど、何かの縁だから困った事があったら相談してね」

「ありがとうございます」


その後雑談をした後、莉子は唯を施設まで送ってくれた。


「奢っていただいて、お土産までいただいて、しかも送っていただいて、本当にありがとうございました」

「今日は楽しかったよ!こちらこそありがとう」


夕焼けの中、深く頭を下げた後、トボトボ背中を丸めて歩く唯。莉子はそれを心配そうな、悲しそうな色に染めて見つめていた。


「カスが酷い事を言ったのかな……私も、きっと歴代彼女さん達も本当はカスの事を一秒でも考えたくないだろうけど……でも」


元カノサミットやるしかねえな!莉子はそう決意した。

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