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海神大祭の最終日、我が国を訪れていた各国の代表者達もほとんどが帰国されていよいよこの二週間の祭りが終わってしまうのだと実感する。
エレティコス侯爵家一家はローゼリア様と面会され、直接今の彼女の様子を見て頭を抱えていらした。夫人は報告されていたので覚悟を決めていたが彼女のあまりの変わりようにショックを受けて倒れてしまい、先に帰国する事になってしまった。弟君のロルダン様は来年にマナンティアールに留学を考えているので大祭終了後も少しだけこちらに滞在してから帰れられるそうだ。歴史に興味があるそうなので今は王立図書館に毎日通って読んだ事のない本に囲まれて目を輝かせている。
「毎年の事ですが二週間はすぐに過ぎてしまいますね」
「今回は特に色々とあったからね。少し早いけどお疲れ様クレス」
「お兄様もお疲れ様です」
空が夕焼け色に変わり始めたこの時間帯はもうすぐ終わりが近づく合図でもある。後は小さな船を送り先祖の魂が帰るのを見送るだけなので、その時間まで家族でゆったりとしているのだ。
「忙しくてこうやって過ごす時間もなかったからな。今年はクレスにも多く仕事を割り振った。よく頑張っていた」
「そうですわね。アルフレドもクレスもお疲れ様」
「お父様、お母様ありがとう御座います。ですが、まだ最後の仕事が残っていますわ」
「うむ。そうだがこれは父と母からの言葉だ。最後まで勤め上げた後に王としての言葉は贈ろう」
父が珍しく私の頭を撫でている。その大きな手で撫でてもらえるのが嬉しくてねだっていた幼い頃を思い出す。今となっては恥ずかしいのでそんな事は言い出せないが、それでも嬉しいのは変わらない。
「おまえももう十六か、いつの間にかこんなに大きくなっていたのだな」
「まだ子供だと思っていたのにできる事も増えて、もう立派な淑女ね」
「それでも学ばねばならない事はまだまだあります」
来年の立太子までにもっと頑張らないといけない。兄は臣籍降下して一代限りの公爵になるのは私が即位してからになると正式に決まった。それまでは王族としての公務を今と変わらずに務めていく事になる。ローゼリア様とはよほどの事が無い限りは結婚するそうだ。そのよほど事とは犯罪などを指しているのだが、さすがに彼女はそこまではしないと思う。
「クレスの伴侶も考えねばな……誰かいいと思う男のひとりくらいいないのか? 二人でも三人でもいいぞ」
「二人も三人もいません!」
気が多い女みたいに言わないで欲しい。私が想うのはたったひとりで、それだってテレサ様とエレナ様に話したばかりで他に知っている人はいないのだ。友人達には落ち着いてから話そうと思っていたのでまだ話していない。
「よし、ひとりはいるのだな。父に話してみなさい。たとえどこかの王族だろうが平民だろうが何とでもしてみせよう」
「お父様、本気ですの!?」
冗談で言っているだけだと思いたいがどうなのだろう。母の方を見ればクスクスと笑っているので冗談なのですよね。
「あなた、そんなふうに聞くのもどうかと思いますわよ。第一にこういう話は父親とはやりにくいでしょうね。だから、まずは母にお話ししてごらんなさい」
「お母様まで……」
これでは収集がつかないではないか。兄はと見てもにこやかに笑うだけで助けてくれない。
「とにかく、私はお父様がお決めになった方と添い遂げます。以前だって婚約者候補として名前をあげていたではないですか」
「あれはなぁ……あちらからどうだと言われたその中の家から問題なさそうなところを選んだだけだしなぁ。しかもそのひとつは問題があったわけで、結局は白紙にもなっている」
父が言っているのはプラージャ公爵家の事でしょうね。もしかしたら私はエミリオと結婚していたのかもしれない。三神様が縁の話をしていたがそうなっていれば義理とは言え夫人の娘になっていたのだ。不思議な事だが今となればもう無くなった話なので意味もない。
「クレスが幸せになる相手ではなければ意味がないから、おまえが選べばいいと思うのだがそれならば俺の方から何人か候補を選んでおこう。それでいいか?」
「……お願いしますわ」
「よし、まぁそう考え込むな。会って見て合わないなら別の者を探せばいい。おまえの伴侶は将来の王配という立場だが、必要なのはお前を支えてくれる人材だ」
側近となる者達はほぼ決まってきている。私の友人達を筆頭に私のまわりにはたくさんの支えてくれる人達がいるのだから何も心配はしていない。
「クレスの隣に立つ男のすべき事は第一におまえを幸せにする事。女王となる前にクレスは神子だ。不幸になって海神様に隠されるなど俺は嫌だぞ」
「そうならない者を選べばいいのですよ父上。私もクレスを幸せにしてくれる男をひとり推薦しましょう」
「あら、私も推薦しますわ。彼ならきっとクレスを幸せにしてくれると確信しています。海神様も認めてくださると思います」
兄も母も誰を推薦するのかは知らないが相手に無理強いだけはしないようにお願いしておく。大丈夫だと言っているが本当に大丈夫なのか心配だ。「この話はこれで終わりだ」と父が締めたので、海へ向かう準備をする事にした。
結局はレジェスの事は言わなかった。言わなくて良かったのかもしれない。もし王命でも使われたら彼は従わなくてはいけなくなる。そこには彼の気持ちも関係なく決まってしまうのはきっと駄目だ。私だけが幸せになるのでは無く、お互いを幸せにできる相手ではなくては結果的に駄目になってしまう。そんな相手がいるのかはわからないが見つかればいいと思う。その前に初恋にはけじめをつけるつもりだが、もう少しだけ想っていたい。
暗い海に明かりを灯した小さな船が何隻も浮かび上がって沖へと向かって行く。この船は特殊な材料でできているので海に流しても問題なく作られている。海神様に聞いた話と伝承では違う事はもうわかっているが、それでもこの祭りが無くなる事はない。私にとってこれが先祖の魂を送るためのものだというのは変わらない。
最後にすべてに安らぎを願うように祈れば本当の終わりだ。祈りが天へ昇っていくつもの星が降る。この流れ星に民は願いを込め、そして海神様に感謝の祈りをささげる。
こうして今年の海神大祭は終わりを迎えた。来年もまた無事におこなえるようにという願いが叶うように、私はこれからも力を尽くしていく。




