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 もうすぐ一年の留学期間が終わりに迫っていた頃、殿下達四年生も卒業が目の前という時期になっていた。最近はローゼリア様は殿下達の前に現れなくなっていて友人方とも距離を置いているそうだ。ただひとりだけは付き従うかのようにそばにいるらしく、それはボルケ子爵家のダナ様という令嬢で二人だけの時は楽しそうにしていると聞いた。今も中庭で殿下達と談笑をしているのだが、ここに彼女達はいない。

 殿下は学園にいる間くらいしか気安く皆と話ができないだろうとここでたくさんの生徒達とお話をされている。こういった試みもローゼリア様はきつく咎めていた。


 きっとお二人は最初から相性が悪かったのでしょうね。それでも少なくとも殿下は歩み寄ろうと努力をされていたみたいですけど……。


 殿下はとうとう婚約を解消する事に決め、それはエレティコス侯爵家も納得をしており、何度もローゼリア様を諭していた弟君のロルダン様ももう無理だろうと諦められたそうだ。

 皆に囲まれて色々な話を聞いたり討論したりと楽しそうな殿下を眺めていたが、私は女性陣で固まって流行のドレスや婚約者のお話など、ころころと話題が変わっていくのを聞いていた。


「こちらではマナンティアールで採れる真珠が人気がありますのよ。色、艶、形とどれをとっても最高品質で素晴らしいですわ」

「まぁ! そのように言っていただけて嬉しいですわ。すべては自然からの贈り物ですので、これからも大切にしていきたいものです」

「これも海神様のご加護なのですか?」

「そうですわね……たしかに加護されて恩恵もいただいておりますが、やはりそれだけではありませんわ。自然は時として私達に牙を向けてきます。神々は恩恵だけではなく試練も与えているのでしょう」


 私もエレナ様も神に愛された神子として加護や恩恵をいただいているが、やはり神とは気まぐれでもある。神子以外の事は基本的にどうでもいい存在と認識している。そこに存在していようがどうなろうが関係ないのだ。とは言え彼らも信仰を無くせば力を失ってしまう。私達神子は人々の代表として祈り、それを受け取った神々が加護を与えてくれる。甘やかすだけでは人は駄目になってしまうから時おり試練も与えて、このように世界が成り立ってきたと海神様は私に教えてくださった。神子以外はどうでもいいと言いながらも人々を愛おしそうに見守ってくれている。おそらくエレナ様もその事は知っているのだろう。先程の会話でも静かに頷いていた。




 今日は兄がこちらの学園を視察するために訪れる事になっている。国内では転移陣と呼ばれる古代の遺物によって移動が楽になっているが、これは国同士では繋がっていない。マナンティアール王国は大運河によって他国とは切り離されているため王都から港町に転移陣で移動し、そこからは船を使ってエザフォス王国の港町に行く事になる。あとはエザフォスの転移陣で移動すればよい。


「やぁ我が妹クレスセンシア、久しぶりだね」

「お兄様、お久しゅうございます」


 学園長室に入室すれば兄はすでにそこにいて、私に気づいたのか近づいて来て嬉しそうに抱きしめてくる。学園長も教師の方達も微笑ましく見ているが、ここはプライベートな場所ではないのだからいい加減に離して欲しい。


「アルフレド殿下、場所をお考えになってください」


 ゴホンとわざとらしく咳をして兄を咎めているのは護衛騎士のレジェスで、兄の友人でもあるから気安く声をかけられたのだろう。他の護衛騎士達は困ったように笑っているだけで一緒に来ていたベアトリス様は楽しそうに見ているだけだった。


「つい嬉しくて、すまないね」


 解放されてからも肩を抱き寄せているので今度はそれを見てレジェスはため息をこぼしている。


「視察は終わったのですか?」

「あぁ、色々と見させてもらったよ。うちの学園にも取り入れたいと思うようなものもあったから有意義な時間になった。学園長、交換留学の件も本格的に進めていこう」

「わかりました。こちらも準備を進めておきましょう」


 兄にとってはよい収穫があったみたいで満足そうに頷いている。この後はどうするのかと聞いてみればまだ中庭を見ていないそうなので私が案内をする事になり、それが終わったら一緒に帰ろうと誘われたので了承する。

 二人で並んでこちらでの事や自国での事を話しながら中庭に向かえばクリストバル殿下達の姿が見えた。


「クリストバル殿下達がいるね。何やら楽し気な様子だよ」

「殿下は時間のある時にはあのようにたわいのないお話や政治についてなど多岐に渡ってたくさんの方々とお話をされているのです。卒業してしまうと簡単にはお会いできなくなってしまいますからね。皆様の意見を聞いてより多くの問題解決に臨んでおられます」

「あぁ、たしかに。私も卒業してからは学園の時のように気安く話したりできなくなってしまったからね。今だからこそできる事だね」


 簡単に挨拶をしようと殿下達の元へ足を進めようとしたが、ひとりの令嬢が足早に向かっているのが目に入った。それはローゼリア様なのだが、いつもと雰囲気が違って見えるのは気のせいなのだろうか。よく見れば彼女の後ろにはダナ・ボルケ子爵令嬢もいるようで、あれだけ楽しそうに賑わっていた空気が霧散して今は静まり返っている。


 殿下に用事でもあるのかしら?最近は彼女の方が避けていたように思っていたのだけど……さて、どうしましょう。


 このまま私達も近づいていいのかわからなくて兄に視線を送ると、あちらを見たまま動かない。その瞳に何かが宿ったように感じたがそれは気のせいだったのか一瞬で消え失せ、私の視線に気づいて笑みをこぼしている。


「あの場に入っていくのはさすがに駄目だよね。彼女はたしかクリストバル殿下の婚約者殿だったかな?」

「エレティコス侯爵家のローゼリア様ですわ」

「そうそう、そんな名前だった。殿下に用事でもあるのかな? なら私達は遠慮して……」


 兄の言葉が途中で切れたのはあちらから聞こえてきた大きな声によるせいだろう。二人して口を閉ざして思わずローゼリア様に注目してしまった。彼女は今、なんと言ったのだろうか?聞き間違いであって欲しい言葉が聞こえた気がするが……。


「ですから、殿下の有責で婚約を破棄する事を望みますわ!」


 中庭にて高らかに言いきった彼女の言葉は静まり返ったこの場所によく響き渡っていた。



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