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 海神様は私の言葉に反応して離れたが、そばにいてくれるのは変わらない。兄の方を見れば頷いてくれたのでここは私が仕切るべきだろう。


「エミリオ・プラージャ、そしてデルフィナ・プラージャ。虚偽の報告によって場を混乱させた事についてお聞きせねばならないようですわね。まずはこの二人を拘束して監視をつけてください。陛下には報告はすでにいっていると思いますが、後ほど正式な沙汰がくだるでしょう。それでは連れて行ってください」


 騎士達数名に拘束されてそのまま連行されるがエミリオはがっくりと肩を落として大人しくしているのに対して、ようやく状況がわかってきたのかそうでないのか彼女は暴れている。


「なっ、わたしを誰だと思っているのよ!? わたしはヒロインよ! 水の精霊達に愛された精霊姫なの! この世界で神に選ばれた存在なんだからただでは済まないわよ!!」


 数名がかりで抑えられているのにどこにそんな力があるのか大暴れで拘束を解こうとしている彼女の最後の悪あがきを止めるために、彼女の両手を後ろに布でまとめて拘束してもらう。そこに魔法で作った水の輪をはめればじょじょに凍っていき、簡単には取れない簡易拘束具ができあがる。


「なにこれ、水魔法!?」

「そのまま連れて行ってください」


 口も布で塞がれたのかあれだけ騒いでいた声も聞こえなくなり、廊下の先に消えていった二人にようやく落ち着いた。もはや休憩どころではないので一度、会場に戻るしかない。ローゼリア様が大人しくしているのに思わぬ所から問題が発生した。


「お兄様戻りましょう。休憩などと言っている場合ではありませんわ」

「私が戻るからクレスは休んでいてもいいよ」


 兄はそう言ってくれるが首を振って否定し、歩いて来た廊下を戻っていく。先程、滝のように流れていた水はすでに跡形も無く消えて乾いている。彼女は水の精霊達に愛された精霊姫と自身の事をそう称したが、現実では精霊達に避けられている。ローゼリア様も何かの物語の世界に入り込んだかのように話していたので彼女もそう考えているのかもしれない。




 何事もなかったかのように会場に戻って王族席に座るが、すでに報告が入っているであろう両親は私達を迎えてくれた。


「クレス、ご苦労だった。プラージャ公爵夫妻にはすでに伝えている」

「このような事に遭遇するとは思いませんでした」

「そうか、だが気にしなくてもよい。問題など大なり小なり転がっているものだからな。俺のまわりなど問題事ばかりだ」

「陛下、そのような事を言ってはクレスを悩ますだけですわよ」


 一国の王ともなれば次から次に頭を悩ます問題がごろごろとわいて出てくるものなのだろう。解決していかなくてはならない事もたくさんあるのは傍から見ていてもわかる。国民の事、国の事など考えねばならない事が山積みな父と比べれば私に降りかかった問題など些細な事に感じる。


「私も陛下のようになれるでしょうか……」


 忙しくてあまり考えないようにしていたが本当に私が父の後を継いでもいいのだろうか。神子ではあっても私自身は酷く小さな存在でしかない。


「俺もまだまだ現役なのだから先の話だな。それまでにゆっくり学んでいきなさい。ひとりで抱え込まず、おまえのまわりには支えてくれる多くの者がいるだろう。頼りにすればいい。むしろ頼ってくれなければ彼女達は拗ねるのではないか?」

「……そうですね。皆様は私には勿体ないくらい頼もしく素晴らしい方々です」

「よしよし。あとは、クレスの伴侶か」

「その話題はここではしないでください!」


 会場内に聞こえないように小さな声で喋っていたので大丈夫だとは思うが、その話はもっと別の場所でして欲しい。




 ある程度の時間になれば私達王族はこの場から退出する。あの後はエレナ様やテレサ様とお話しする機会もあり、帰国する前にもう一度ゆっくりお話をしようと約束をした。クリストバル殿下からも新しい婚約者を紹介してもらい、今度の方とは上手くいっているようで安心だ。他の方達とも交流を楽しんで父の挨拶をもって私達は会場から出て、ある部屋に向かった。そこではプラージャ公爵夫妻がすでに待っており、私達の到着とともに頭を下げている。


「陛下、この度は……」

「二人とも頭を上げてくれ。まずは座ってから落ち着いて話し合おう」


 ソファーに両親が座り兄と私も座れば、公爵が夫人の肩に手を当てて支えながら座った。夫人には私も良くしてもらっていたので顔色の悪い彼女が心配になる。それでも今回の事はきちんと話さなければならないので父の言葉を待った。


「すでに伝えてあるが子息と令嬢はそれぞれ別の部屋に拘束している。エミリオの方は落ち着きを取り戻して取り調べにも素直に応じているそうだ。デルフィナの方は未だに暴れて手に負えないようだが……」


 簡易拘束具も溶けているので手足は自由になっている頃だと思うが、監視役には申し訳ないがそちらで対処をしてもらうしかない。


「エミリオは何故あのような行動に出たのかわからない、妹の願いはすべて叶えねばならないという思いがわき上がって自分自身でもおかしいと思いながらもあのような事をしたと言っているようだが、何か心当たりな事はあるだろうか?」

「そうですね、最近デルフィナと一緒にいる時は少し様子がおかしいと思いましたが普段はそうでもありませんでした。仕事も正式な近衛部隊員ではないとはいえ、真面目に務めていたはずです」


 父が同席している騎士団長に目を向ければ頷いてから彼の騎士団での様子も問題ないと答えている。やはりあの時だけおかしくなっていたのか、公爵の言ったようにデルフィナ様と一緒にいる時だけそうなってしまうのかもしれない。だとしたら問題はデルフィナ様の方になるのだが、同時にローゼリア様の顔まで浮かんできたのでそれを振り払う。


「ではデルフィナの事で何か気づいた事はあるか?」


 父が彼女について聞いた途端に公爵夫妻はお互いの顔を見合わせてから、何かを決心したように話し出した。



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