「好きで王族に生まれたわけじゃない」が口癖の王子が元王子になるまで
ふんわり設定ですがよろしくお願いします。
これは、とある王子の話だ。
とある王子と言ってもそれは我が国の王子だった人の話だ。
そう、これは私が側近候補という名目でお世話を、つまり監視をしていた元王子の話である。
その王子は前々から生活面やその他のことが問題視されていた王子であった。
何が問題視されていたのか、それは数々あって、これだと断言はできなかったがまず一つ言えることはこれだった。
「好きで王族に生まれたわけじゃない」
ということを口癖のようによく言っていた。こんな言葉が口癖になってしまうくらい、王族であるという意識が低かったのである。
この口癖を聞くと、だったら王族でなくなってしまえばいい、と考えたものだった。この国の法で臣籍降下、もしくは見舞金をもらうことで“王族でなくなること“ができる。のだが、この王子は「好きで王族に生まれたわけじゃない」と言いながら、その王族の権利を放棄するための手続きも根回しもすることはなかった。それどころか、王族の特権を存分に使い公共の施設などを貸切にしたり、王族の警護が仕事である近衛兵に自分の参加する発表会の警備を請け負わせていたり、自分付きの侍従に飲食物のサービスを任せたりとしていた。そんな姿を見ていれば、自分の中でこんな考えが出てくるようになる。この王子は王族をやめたいわけではなく、王族の特権の恩恵を受けつつも責務は果たしたくない。そんなダメ王子なのだと。
「勉強ばかりで息がつまる」
口癖というほどではないが、そんなことをたまにダメ王子は言っている。だが、本来王族は王宮で複数人の教師がついて学ぶものだ。王宮の学習で学校で学ぶ課程は修了し、本来ならば学校に通う必要性などないのだ。たとえ通ったとしても上位の成績を修めていてもおかしくはないのだ。王宮でやっておくべき課程を学校にきて行っていることにこの王子は何も疑問をもたないのだろうか?
どうしても気になった私は思いきって聞いてみた。「王族であるあなたが学校に通う意味はなんでしょうか?」と。自分ではストレートに聞いたな、と思う。でもこれで通じるだろうか?王宮で勉強しなかったのに学校でなら勉強できると思ったんですか、とかもっとストレートに聞いた方がよかったのかもしれない。とも思ったのである。
「兄上も通っていらしただろう?」
どうしてここで兄王子が出てくるのだろう。
「兄上がおっしゃっていた。学校での学びは素晴らしいと。だったら私もやってみたいと思ったのだ」
ここまで聞いて王子の言う兄上が第二王子のダミアン様だということがわかった。王子よ、あなたとダミアン様では状況が全く違うことに気がついていますか?きっと気づいてないのでしょう。
第二王子ダミアン様は、非常に勉学に長けた方で五カ国で会話ができる。現在は外交や文化振興に深く関わっている。特に歴史関連に興味がある方で趣味で文献研究を行っているような方なのである。そんなダミアン様が敬愛してやまない教授がこの国にやってきて教鞭をとることになったのだ。ダミアン様はぜひお話が聞きたいと打診したが、「私は学校の生徒に教鞭をとるためにやってきたのです」と断られた。下手すれば王族に話すことはない、という不敬にもとられる発言ではあったもののダミアン様はこれをかなり前向きに受けとった。
「私が生徒になれば教授の授業が受けられる!」と、王族であることをふせて試験にのぞみ、見事合格しその教授の授業を受けた方なのだ。
そう、基礎がすべてできていて更に極めたいと思って学校に通ったダミアン様と基礎もできていないこの王子は天と地ほどの差があるのだ。
そして、ダミアン様は飛び級をして史学を専門とする大学に通っていた。今私たちがいるような高等学校ではない。
ダミアン様はご家族に話をする時はきっと大学のことを学校とおっしゃっていたのだろう。だから、この王子は高等学校も同じ学校だと思ったのだろうか?新たな疑問が出てきたが無視しよう。キリがない。
さて、側近候補(仮)としてそばにやってきたが王子は王族意識が低すぎる発言や態度以外はかなり不真面目な生徒というのが妥当な評価だった。王族としても貴族としても致命的だが、何か問題を起こすわけではなかった。そんな王子がやらかしたのは学校での宿泊研修である。
宿泊研修といっても最近話題になってきた観光地である。
その中で貴族や上流階級がほとんどであるこの学校の宿泊研修としては妥当グレードの宿泊施設だった。
宿泊研修であって個人で行う旅行ではない。と学校側からも再三の説明があったが中には不平不満を口にするものもいた。やれ部屋のグレードが低いだの、ルームサービスを使いたいと。それは個人の旅行の時にやってくれ。それよりも今回見た舞台の感想文を7日以内に提出しなくてはいけないのを忘れているのだろうか。この宿泊研修中にある程度進めていないと大変だぞ。そういったこともあって宿泊研修はなかなか大変だったのだ。
舞台の感想文に、古城見学のレポートとやらなくてはならないことは満載だったのだが不真面目王子も不平不満を口にしていた。ああ、口を動かす前に手を動かせ、とは思ったものの「宿泊研修の目的を果たしましょう」と、とても優等生ぶった発言をした。自分が不真面目王子の要求を叶えようとしないのを察するとホテルマンにルームサービスを頼もうとして声をかけようとし流石に止めた。のだが、王子という肩書きに配慮してくれたのかもしれないがホテル側がこっそりサービスをしてくれたのであった。申し訳ありません、と謝っていると機嫌を損ねられる方が大変でしょう、と色々察した言葉を言われた。
そんなこんなでとてつもなく長く感じた2泊3日の宿泊研修は終わろうとしていた。
最後に王子が代表に感謝の挨拶をして終わりである。
ここで不真面目王子は「みんなが感動するような挨拶を述べたい」とか言っていたが、何かとんでもないことを言い出されては困るので「感謝の気持ちをシンプルに述べたほうが気持ちが伝わりますよ」なんて言ってしっかり原稿を作って渡した。
しかし、王子はやらかした。最後に「もっとサービス精神を見せてくれてもよかった」などといらないアドリブを最後に言った。
これが一般人の投書なんかだったらまだなんとかなった。しかし、王族が顔も名前も出して堂々と言ってしまった。
もうこれは王家が批判しているのと同じようなものだ。
周りがドン引きしているのに王子はまるで「言ってやったぞ!」と言わんばかりのドヤ顔だった。
これは今までの不真面目案件よりも格上のやらかしだった。
これから発展が見込めるであろう観光地に王族が直々に「ここはサービスが良くない」なんて言ったらどうなるか。それはもう国内外からも観光客は激減するだろう。
この土地の国民の生活を守るためにも、国の税収を得るためにも、この発言は王家の意志ではないと証明しなくてはいけなくなった。だが、声明などを発表するわけにもいかない。そんなことをすれば王子が言ったことが本当だったと証明するようなものだからだ。下手をうったら賠償問題になりかねない。
どうするか。
かなりの荒療治ではあるものの、王子は実はとある商家の令嬢との結婚が決まっていて、この学校行事の時点では王族ではなかった。急な決定で周囲にそのことを伝えられず本人への心労がたたってしまい、思いが昂ってあんなことを言ってしまった。王族ではないのに王族として振る舞わなくてはいけない辛さからあんなことを口走ってしまった。
そんなでっち上げをしたのだ。急ぎで結婚相手をしたて上げ、全てが問題なく進んでいるかのようにしたのだ。
無理があるだろう。なんて思ったがやるしかない。嘘をまことにするしかないのだ。
当の本人である王子はなぜ自分が叱責され、突如結婚することになるのかがわかってはいないようだった。だが、自分が王族ではなくなることはよくわかったようだった。
王子は陛下から結婚等の話をされた時に聞いた。
「なぜ私は王子ではなくなるのですか!」
それを今陛下から懇切丁寧に聞いただろうに。あなたの不要な発言の後始末のためだ、言いたかった人間は私の他にもいただろう。だが、陛下は丁寧に王子に伝えた。
「お前に王族としての自覚がないからだ。自分の発言が、行動が何をもたらすのか、それを全く考えられていないからだ。私は前から言っていただろう?なぜそうするのか、どうしてそうするのか。その行動は何をもたらすのか、その発言によって何が起こるのか。よく考えろと。我々王族の影響力は大きいのだから、と」
「何を言っておられるのですか!僕はよく考えて行動しました!」
「だったらなぜ原稿を読むだけに止まらなかった?」
「あれくらいのことを言ったって何も問題はないでしょう!」
その王子の答えに陛下はため息をついた。
「わかった、追って沙汰を伝える」
そういって退室するように命じた。王子はまだ何か言いたいことがあったようで何か言っていたが兵に引き摺られていった。
この日を最後に王子は元王子になった。
元王子が王宮から去ってやってきたのは平穏だった。商家に多大な結納金を支払ったがそれも元王子がいなくなり余計な仕事がなくなった王家にしてみれば安い出費だった。
陛下や王妃様、兄王子たちや妹姫も手紙を出していたようであったが皆様にきた返信が「王宮に帰りたい」と言った内容だったようでいまだに自分がどうしてこうなったのかを理解できていないようだった。皆様がため息をついた。側近としての任を解かれて外交官として働くため各国を飛び回っていた自分にはその後のやりとりがあったかどうかはわからない。
しかし、現在の王族の方々が季節の挨拶の手紙だけを出している。ということが元王子が自分の発言の重大を理解せず、何か不用意な発言しそうな元王子のとばっちりを受けたくない王族との関係を表しているかのようだった。
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