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勇者一行の戦力外ですが、なんやかんやで慕われています

作者: 丈藤みのる

これは、うっかり聖剣を起動し、魔王討伐を命じられてしまった勇者と同世代の仲間たち……と料理番の道中譚である。


 ◇ ◇ ◇



 こんにちは。ソウルです。


 早速ですが僕は今、お供させていただいている勇者さま一行と、魔族の戦闘を岩陰から見守っています。

 相手の女魔族さんは自由に空を飛び回る羽を持っています。その機動力が生みだすヒット&アウェイ戦法で中々勇者さまの攻撃が当たりません。

 それでも、勇者さまの剣技が、ショウさんの拳が、ナスタさまの魔法が数少ない攻撃機会の中で確かなダメージを与えていました。


「流石勇者一行、ここまで全ての手先を撃退させてきただけある強さ! だがこれならどうだ⁉」


 と魔族は軌道を変えるや否や、なんと僕の方へと向かってきました。恐らく人質に取って降伏させる気でしょう。


「ひゃあっ!」


 慌てて走りますが、戦闘経験のない僕が当然逃げ切れるわけがありません。


「戦いに卑怯の字はない!!」


 魔族の魔の手がソウルの背中まで迫るのを感じました。

 ――が、その手がを捕らえることはありませんでした。



 勇者一行が総出で攻撃の行く手を阻んでくれていたからです。



「何ッ⁉」

「俺たちのソウルくんに手ぇ出すなぁ!!!!!」

 一閃が、正拳突きが、高出力光線が女魔族さんを吹き飛ばしました。


「ぶげぇぇぇええ」

 女魔族さんは地面をしばらく転がり跳ねると、ピクリと動かなくなりました。

 勇者さまたちは女魔族をワンパンで伸したのです。

 なんなら、今までで一番の威力だった気がする。


「大丈夫かソウル! 怪我ァしてねぇか!?」

「あるなら直ぐ見せい! 最大回復魔法でもなんでも使うわい!」

「あばあばあばヾ(・ω・`;)ノ」

「ぼ、僕は無事です! ショウさん! 大丈夫ですので触診しないでください!」


「お、お前ら……」


「あ、起きた!」

「うるせぇ魔族黙ってろぉ!!」


「待て待て待て! 私はもう起き上がるので精一杯だ! それよりもなんだ今の攻撃! ずっと手を抜いていたのか!?」


「ンなわけあるか」


「じゃあなんで――」


「ソウルが死んだら俺たちが困るからだ!!」


「はぁ!? そんな武術も魔力も持ち合わせていない奴の何が大切なんだ?」


「ソウルはなぁ、俺たちパーティーを支えてくれてるんだよ! 昔はしょっちゅう焦がしてた食事は飯屋の次男坊ソウルが担ってからは毎日安定高クオリティだし! 相場が分からなくて無駄に多かった出費もソウルが来てから上手い具合に抑えられてるし! 野宿で水浴びから戻ればベストタイミングでコーヒー入れてくれてるし! 好みも把握してくれてるし! 相槌上手だし! 俺とナスタが大喧嘩したときは落としどころ見つけてパーティー崩壊防いでくれたし! 馬車の運転一番上手だし! いち早く情報仕入れてくれるから世界情勢音痴にならないで済むし! 俺たちが気が置けない仲になるまで数ヶ月掛かった人見知りのショウを一週間で懐柔し果てには一昨日も夜の茂みでショウとbecome one(一つになる)してたんだぞ!」

「ファッ∑(´°Д°`)!?」

「き、気づいてたんですか!?」

「むっちゃ響いておったぞ。夜の茂みでズッコンバッコン宿屋に泊まればズッコンバッコンぎゃぁぁぁああ……」

 ナスタさまはミンチにされてしまいましたが、僕は気恥しさで止めるどころではありません。

「えぇぇ……うわぁマジかぁ……/////」

「ピぃ……⁄(⁄ ⁄ ⁄ ⁄)⁄」


「――というわけで、俺たちはソウルなしじゃ旅を続けられる自信がない! 以上、Q·O·L!!」

「堂々と言えないことですけど、その通りですね、はい」

「ゥンゥン((( ´-` )」


 おおう……。ここまで言われてると照れくさい。

 今の僕は、きっと耳まで真っ赤になっているに違いない。


「……う、うぅ…………」


 ギョッと目を疑う。

 なんと女魔族さんは、酷く悔しそうに大粒の涙を流しているではないか。


「いいなぁ……いいなぁ……!」


「お、おいどうしたよお前。な、泣いたって許してやんねぇぞ……!?」

 突然の号泣に、勇者さまも口では警戒しながらも思わずたじろいでいます。


「羨ましいんだよォ……! 愛し愛されてるそのガキがよォ……!」

「なんじゃ? 貴女、魔王軍とは折り合い悪いのか?」

「悪いわけじゃねぇよォ! ただ、大地が二つに別れた頃からの悪天候で成人を迎えられる魔族は年々減少傾向でそれを打開しようと一か八かの侵略に賭けた魔王軍もカツカツで、複数で動く余裕がないんだよォ。ずっと独り任務で正直寂しいんだよォ……!」

「ま、魔族も魔族で苦労してんだな……」


「…………あの……」

「( ˙꒳˙ )?」

「どうしたんじゃ? ソウル」

「取り敢えず……一緒に一服しません? まだ吐き出したいことありそうですし、僕は付き合いますよ? コーヒー飲めます?」

「おいおい正気か? さっきまでお前を人質に取ろうとしてきた敵だぞ? 生活苦難者と云えど」

「砂糖あったら多めでぇ……」

「もう絆されかけてるよあいつ」

「頂く上に図々しいの。……はぁ。一服の間拘束はさせてもらうぞ」

「それでいいよォ……」

「d(˙꒳˙* )←縄持ってきた」



 ◇ ◇ ◇



 数十分後……。

 将来への不安を全て出し切った女魔族さん——改めユリハさんを、僕らは交渉の末に開放しました。


「短い間でしたが、お世話になりました」

「おう。魔王に宜しくな」

「あぁ。降伏するなら移住できるよう祖国の王に掛け合うから、あんたらが着いたら返事を聞かせてくれだったな。責任持って伝えよう。あと、ソウル」

「? はい」

「愚痴らせてくれてありがとうな。また会えたらその……友人になってくれると嬉しい」

「あ、はい。僕で良ければ」

「フー……( º言º)」

「寝取るほど腐っちゃいないわ。私だって彼氏いるし」

「いるのかよ」

「異性と友人関係とか、彼氏さん嫉妬せんか?」

「可愛いヤキモチなら妬くだろうな。戦争終えたら式を挙げる予定だから、その時は呼ばせてくれ」

「でしたら、僕らの式にも参列してくださいね。招待状送るので」

「婚約してたんかお前さんたち!?」

「は、はい。一昨日のその、アレで……はい……/////」

「照れ(///ω///)」

「そりゃあ楽しみだ。さて、私はそろそろ行くとするよ。またな」


 ユリハさんは翼を広げ、空へと飛び去っていった。


 ひと時の沈黙を、勇者さまが切り裂く。


「……結婚とか、嫌なフラグ立てて帰ってったなあいつ」

「まぁまぁ勇者さま。死亡フラグを破壊するのが勇者でしょう?」

「持ち上げ上手だなぁ。俺としては、お前の方が余っ程勇者に見えるよ」

「またまたご謙遜を」


「それはそうとソウルや。結婚したらどうするんじゃ? 地元戻るのか?」

「王都外れで食堂を営もうかと。〝勇者さま一行を支えた飯屋の次男坊〟って売り込みで」

「抜け目なくて好きよ俺w」

「微笑( ´꒳` )」



 それから魔族が与えられた未踏地の開拓に成功し新国家を立ち上げるのは、まだ数年先の話である。


 〜 了 〜


・ソウル

飯屋の次男坊。自分の店を持つため各地を巡っていたところを勇者一行に出会い、渡された路銀で料理を振る舞うや否や裏方としてスカウトされた。

終戦後はショウと共に王都郊外にレストランを構え、老後まで良い具合に繁盛した。

裏設定として、実は権力ある王子が遭難していたところを王都まで送り届けており、魔族に開拓地があっさり与えられたのもこれのおかげだったりする。


・勇者さま

本名グレイ。川で偶然釣り上げた鈍ら刀が行方不明の聖剣で、真の姿を取り戻したばかりに勇者に抜擢されてしまう。

ナスタとショウ揃って料理下手で、道中出会ったソウルの腕前を見るなり加入するよう拝み倒し加入してもらう。後悔はない。

終戦後は鍛冶屋に弟子入りし修行中。棟梁の娘と良い雰囲気になっている模様。


・ショウ

格闘家。物心つく前から鍛錬の日々で戦いしか知らず強者を求めて同行した勇者一行にも馴染むまで長期間を要したが、ありふれた人間像を引き出してくれたソウルに惹かれ告白。終戦後に夫婦となり、共に食堂を切り盛りしている。

後に娘の妊娠・出産を経て筋肉が落ちた気がするが、さして気にも留めてない様子。


・ナスタ

賢者。王都魔法研究者だったところを国王の指示でグレイの旅に同行する。

グレイとは食の好みを始めとことん反りが合わずくだらない喧嘩をしてはフライパンの制裁を受けているが釣り友だったりする。仲良いんだか悪いんだか……。

終戦後は本職に復帰するが、見合いを求める女性があとを絶たず頭を悩ませている。


・ユリハ

女魔族。親が自分の食事を優先して栄養失調死しており、次世代に同じ哀しみを背負わすまいと侵略による環境改善に執着していたが、ソウルの〝とっておきの交渉〟に希望を見出す。

彼氏とは幼なじみで、苦難を共にした末に婚約し開拓成功後に延期していた式を挙げる。

後に産んだ息子がソウル・ショウ夫妻の娘と仲睦まじくなっており覚悟を決めてる。

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