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夕凪と朝顔が咲くのを待つ日々  作者: 尾仲庵次
9/16

ランチ

 通信制のスクーリングは朝9時に始まって休憩を挟んで約4時間。

 席は自由だから、来た順に好きなところに座る。


 あたしは最初の頃に知り合って仲良くなった大樹と(あま)ちゃんの近くに座ることにしている。

 知り合って仲良くなってしまうとこの二人がいることがとても心強い。

 忘れ物した時は借りることができるし、何か分からなくて確認したいときは聞くことができる。

 なんと言っても短い休憩時間に話すことができるのはありがたい。


 授業が終わるのは13時頃。


 お昼ご飯は大抵、授業がすべて終わってから食べることが多い。

 授業が終われば帰るだけだから自宅にまっすぐ帰って家の掃除や晩御飯の準備をしてもいいのだけど、あたしにもちょっとぐらい余裕が欲しい。

 だから終わってすぐに家に帰るのではなくて、ランチを済まして気持ちをリセットしてから家路につく。


 T高校には安い食堂もあるのだけど、あたしはいつもお弁当を作って持って行っている。これだと節約にもなるしなんと言ってもいい天気の日は外で食べることもできる。学校の周りには公園も多いから、公園のベンチでお弁当を広げるのもなんだか楽しいのだ。


『お疲れ様』

『お疲れ様です。また次回ですね』


 大樹は授業が終わるとそそくさと帰ってしまう。

 多分、その後に仕事が待っているのだろう。

 帰り際に大樹と話をしていると、気が付けば(あま)ちゃんはどこかに消えてしまっていることが多い。

 その存在は消して……彼女はどこか自分の世界に没頭できる場所に行きたいのかもしれない。

 だから、授業が終わってランチをするときには基本的にあたし一人になっている。


 さてと……

 今日もいい天気だなあ。


『あのお……』

 教室の窓から見えるくっきりとした青い空を見上げて、なんとなくそんなことを思っていると姿を消したと思いこんでいた(あま)ちゃんが小さな声であたしに声をかけてきた。

『ん? どうしたの?』

 少しの驚きは隠せないけど、いかにも普通の表情を装ってあたしは言った。


 なんだろ……。


『え――と。その、お昼ごはん、一緒に食べませんか?』

 何か思い切った様子で(あま)ちゃんは言った。

 彼女にとっては誰かを食事に誘うという行為はとても勇気がいることなのだろう。

 もちろん断る理由もない。

『お昼? いいよ。どこにする??』

 彼女はきっとお弁当など持ってきていないだろうと勝手に解釈してあたしは言った。

 懐は少し心もとないけど、別に外食ができないほどでもない。

『あたし……春海さんと同じようにお弁当作ってみたんです』

 自信なさげに(あま)ちゃんは言った。


 お昼前にあたしたち3人はそれぞれの日常に帰っていく。

 あとは2週間後の金曜日にまた会う。

 一緒に授業を受けて……3年勉強したら卒業。

 卒業したら会わなくなるのかもしれない。

 そんな思いがあるのか……あらためて周りを見回しても一緒に食事に行ったりしている人たちはあまり見かけない。

 あたしたち3人もそれは例外ではなかった。


 だからこそ授業が終わった後のことは、お互いがどこで何をしているかは知らない。

 あたしがお弁当を作っていることを天ちゃんが知っているということはたぶん……授業が終わった後に学校近くの公園であたしがお弁当を食べていたのを見かけたからだろう。

 それで自分もお弁当を作ってきたのだろうか……。


 なんだかすごく涙ぐましい。

 彼女のようにコミュニケーションが苦手な人間からするとそんなことをするのは実に怖かっただろう。

 自分が当たり前のようにやってきた人とのコミュニケーションがいかに難しいものなのかあらためて考えさせられる。


 何も考えずに話して来たけど、無意識のうちに無難な話題を選び、少しずつ踏み込んでもよさそうな相手の領域を探りながら話をする。そんなことをしながら相手を理解していく。

 そうやって時間をかければその人の人柄が分かる。

 人柄が分かれば話せることも増えていく。


 だけど……

 この人柄が分かるまで……これが実に難しい。

 そして人柄が分かってもちょっとした誤解で仲たがいしてしまうこともある。


 誤解によって生みだされてしまった不和を考えると……

 人と話すのが怖いという人の気持ちがよく分かる。

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