事情はどうあれ……
駅から続く長い坂をゆっくり昇って、あたしと天ちゃんは学校についた。
県立T高校。
公立の学校だけど県下でも新しい試みをしている学校で、ここには普通科の生徒も多く在籍している。
通信教育に着手したのは変わり者の学校長の方針らしい。
それにしても……公立であるからには県の許可も必要だったはずだ。
どんな仕事でも県の認可をとるということは多大なる書類を準備して提出しては修正を繰り返し、手間をかけてようやく認可が下りる。
あたしは前の職場でも、今の職場でも、県の指定業者になるための認可をとるということが、いかに大変かということを目の当たりにしてきたから、こういった学校の認可もさぞや大変なのだろうと容易に想像ができた。
まあ……実際はどうなのかは分からないけど。
どんなふうに認可をとったのか……
それともそもそも認可などいらないのか……
深い事情はあたしの知るところではないのだけど、この学校には通信科も存在している。
校舎は広く、普通科と通信科の校舎は隣り合わせにある。
この学校の生徒の自主性を重んじる校風は、他の学校にはない特色がある。
『おはようございます』
不意に後ろから声をかけられたので振り向くと、若い男の子がいた。
彼の名前は清水大樹。
あたしと同じように高校を中退して、また入りなおしてきたらしい。
まあ彼が高校を中退した理由はあたしとは違い、家庭に不幸があり経済的に支えとなる父親がいなくなってしまったからだそうだ。
天ちゃんと違って彼は明るい。
自分のそんな境遇も初対面の人に笑顔で話せてしまう。
彼がどんな暮らしをしているのかは分からないけど、きっと彼は自分の人生を自分で切り開いていくことの喜びを感じているのだろうと思う。
今、彼は自分の人生に満足している。
底抜けに明るい彼を見ていると実際にはどうかは分からないけど、そんなふうに見えてしまう。
『あ、おはよう。大樹。久しぶりだね』
『おはようございます。春海さん』
『その敬語、辞めてよね。大樹、そんなにあたしと歳変わらないじゃん』
『いや、春海さんの方が一つ先輩です』
『え? そうだっけ??』
あたしと大樹のやり取りを黙って横から見ている天ちゃん。
目を白黒させているあたり……たぶん何か話さなくちゃと思っているのだろう。
『あ……あの……お、おはようございます……』
消え入りそうな声で挨拶する天ちゃん。
大樹はそんな天ちゃんの繊細な気持ちに気づいているのかいないのか……
『おう。おはよう。今日もいい天気だな』
『あ……はい……』
『暑くなるんかな?』
『はい……え――と……』
目を白黒させながら一生懸命、大樹の話についていこうとする天ちゃん。
彼女は彼女なりに自分を変えようと努力しているのかもしれない。




