わけアリでもすべてが同じではない
通信制の学校に行くというにはそれなりに事情のある人が多い。
あたし自身もそんな『事情』を持った一人である。
別に他人のことにとやかく首を突っ込みたいわけではないのだけど、たまに行く授業で少しお互いのことを話すことができた友人と呼べそうな人ができた。なんだか卒業できなかった高校生活が戻ってきたような気がしてちょっと楽しかったりする。
学校に通っている人の年齢も通常の高校と違って様々なのだけど、それでも周りを見回すとやはり現役の若い子が大多数を占めている。
天ちゃんのように中学時代に何かあったような子もけっこう多いようにあたしには見える。
彼らの表情もまた十人十色。
これから学ぶ内容に目を輝かせている人もいれば、そうではなく何か不安そうな顔をしている人もいる。
天ちゃんは後者。
彼女の気持ちはなんとなく分かる。
人生において何かにつまづいてしまいリスタートを余儀なくされた時……
自分はこれからちゃんと生きていけるのだろうかと不安になることは少なくない。
そもそもあたしなどは高校を中退した時、子供を身ごもっていた。
あの時の絶望感を考えると、問題は違えど天ちゃんが今感じている不安は共感できるような気がする。
もちろん彼女が抱えている問題はあたしのものとは違うし、取り巻く環境もまったく違う。
だから彼女の辛さや不安がどこまで分かるかといえば100%分かるわけではない。
でも、人生の早い段階で失敗をして、気持ちが折れてしまって……それでもなんとかリスタートしてがんばりたいと前向きになろうとしている人の気持ちはそれなりに分かるつもりだ。
『勉強、楽しい?』
あたしは月並みなことを天ちゃんに聞いた。
それはいつも娘の夕凪に言っているようなこと。
『う――ん……楽しいというよりもなんだかやらなきゃならないからやっているという感じ……ですかね』
下を向きながら彼女は言った。
少し長めな黒髪。
枝毛が目立つ。
あまり気にしないのだろうか。
『まあ、高校は出ないと社会出るときに困るからね』
『春海さんは困ったことあったんですか?』
『あたし? あたしは困ったことだらけだったよ』
『そうなんですか……なんかそんな風には見えないです』
『高校出てないとね……仕事見つかんないのよね』
『ああ……それは分かります』
『でしょ。あの時は困ったよ』
『実家にいれば生活には困らないですよね』
『そういうわけには行かなかったのよ』
『え? なんでですか?』
『まあ……いろいろあってね』
『……』
子供の話は隠すようなことではないけど、話が重くなってしまいそうなので、なんとなくこの段階ではしない方がよさそうだとあたしは思った。
それにあたしはこんなに大変な体験をしてきたのだから大丈夫……みたいなことを天ちゃんには言いたくない。
あたしと天ちゃんは違うのだ。
『でもね。そんなに悲観することもなくてね』
『そうなんですか……』
『うん。案外、周りが助けてくれるもんなのよ』
『そんなもんですかねえ……』
あたしの言葉にちょっと納得のできない顔をして下を向く彼女。
彼女が今抱える悩みは、あたしが夕凪を産んだばかりの時の悩みとは違うし、同じにはならない。
それにどっちの悩みが大きいかなどと比較する物でもない。
彼女の抱える問題は他人からどう映ろうと彼女にとっては山のように大きな問題なのだ。
知り合ってまだ数か月。彼女には彼女なりの何か悩みがあるのだろう。
そんなに簡単じゃない。




