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夕凪と朝顔が咲くのを待つ日々  作者: 尾仲庵次
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杞憂

夕凪(ゆうな)が通っていた保育園はあたしが勤めていた施設の併設の保育園だったので、彼女が今通っている小学校には保育園時代の彼女の友人は独りもいない。


寂しがるかな……


心配になったのだけど、それは杞憂(きゆう)だった。


小学校は保育園と違って学区というものがあるので、元は学区の外の保育園に通っていた夕凪(ゆうな)のような子供は少なくなかった。

入学式で少し寂しそうな顔をして隣に座っている女の子に話しかけている夕凪(ゆうな)は、少しの時間で彼女と仲良くなったようで、学校から帰る頃には『また明日ね』とにこにこしながら話していた。


女は強いなあ……。

あたしはつくづくそんなふうに思ってしまった。


小学校に入学してから夕凪(ゆうな)は新しい生活にすぐに馴染(なじ)むことができた。

友達もできたので学校から帰ってきてすぐに近所の公園に遊びに行くことも少なくない。

勉強も嫌いではなく、そうやって遊びに行ってから夕方に家に帰ってきて、自分で宿題をやったりしている。

夜の時間は図書室で借りてきた本を開いて静かに読んでいる。


だからあたしもその時間は合わせて勉強をする。

高校を中退してから数年……。

頭は固くなっているかな?

そんなふうに思ったけど、これもまた杞憂(きゆう)だった。


てゆうか勉強は当時よりも数段楽しい。

数学の問題は公式を当てはめて解くという行為がこんなにも面白いとは思わなかったし、国語にしても知らない言葉に出会った時はなんだかとてもワクワクする。


世の中にはまだまだ自分の知らないことはたくさんある。


ただ漫然と学校に通っていた頃には分からなかったけど、こうやって大人になって自分で時間をとって勉強してみると学問がいかに楽しいものかを思い知らされる。

やはり人間は学習を楽しむ生き物なのだ。


『ママが勉強しているから、一緒に勉強するんだろうね』

母親は細い目をして微笑みながら孫娘でもある夕凪(ゆうな)を見て言った。

確かにそうなのかもしれない。


『ねえ、母さん』

『なに?』

『あたしもこうやって勉強してた?』

ついあたしは自分の子供の頃のことを思い出したくなって母親に聞いてみた。

『どうだったかしらねえ……』

『覚えてないの?』

『記憶にないってことはあまり勉強してなかったということかもね』

『そっか……』

確かに自分が小学校の頃、ものすごく勉強したという記憶はあまりない。

それどころか、中学、そして中退した高校を通して、勉強ってあまりしてこなかったような気がする。

そして勉強が楽しいと思うこともなかった。


人間、ないものねだりをするものなのだろうけど、あたしも例外なくそういう感じなのかもしれない。

高校を中退して勉強をしなくなったので、急に勉強がしたくなった……そんなところだろうか。


まあ、楽しいと感じるのだからそれは幸せなことではある。

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