家事が必要な理由
実は……野島さんの家の掃除はすごく大変だ。
夫婦で1時間ずつの仕事で、合計2時間。
朝の9時半から11時半までの仕事で、身体は動かしっぱなし。
まずは最初にたまっている洗濯物を洗濯機に突っ込んで回す。これも何日かまとめてやっているのか、一回にできる洗濯の量が少ないのか……あたしが週2日、ここに来るときにはすごく洗濯物がたまっている。
洗濯機を回している間に台所の食器洗い。
これがすさまじい。
生ごみが三角コーナーにたまっているし、ゴミ箱の中にもいっぱいになっている。
夏のこの時期は悪臭がするし、コバエも沸いている。これをまずはすべて片付けてしまわないと不衛生なのだ。
あたしは台所用の手袋をはめて生ごみを大きなゴミ袋に入れた。幸いなことにここの団地はゴミを所定の大型のダストボックスが設置されているのでいつでもゴミが捨てられる。
とにかくゴミはたくさんある。
窓を開けてベランダをみるとそこにも数袋ゴミがあった。
まあ、毎回のことなのだけど、これだけ多いと週2日のサービスで大丈夫なのだろうかと考えてしまう。
ゴミをまとめて一度ベランダに置くと、先に台所の流しに置きっぱなしになっている食器類を片付ける。
食器類に関しては一応それなりに片付けている様子なのだけど、それでも数日分のものがたまっている印象だ。
歳をとるということは、こういうことが億劫になるということなのかもしれない。
昔、若い頃にはきちんとできていたことがだんだん面倒に感じるようになるのだ。
いつも思うことなのだけど『老い』というのは寂しい。
日常生活で必要なごく当たり前のことが少しずつできなくなってしまうというのは……想像するだけで、なんだかおそろしい。
食器を洗い終わると、ベランダのゴミを捨てに行く。
洗濯機が洗濯を終えた音がしたので洗濯物をカゴに移し替えて、2回目の洗濯物を洗濯機に入れてまた回す。
ここまでであと一時間。
洗濯物は二度干さなければならない。
『ちょっとゴミ捨ててきますね』
あたしは幸恵さんに言った。
『はい、ありがとう。よろしくね』
幸恵さんはテレビを見ながら愛想よく返事した。
部屋の奥に長椅子を二つ置いて、一番奥に旦那さん。手前に奥さん。仲良く並んで座っている。
旦那さんの大悟さんは奥の長椅子に寝そべって本を読んでいる。
対照的に奥さんの幸恵さんは手前の長いすに座ってテレビを見ている。
普段は二人が話すのをあまり見たことがないのだけど、話し出すといつも口喧嘩している。
一見、仲良さそうなのだけど……夫婦というのは分からないものだ。
ゴミ捨ては何回かゴミ捨て場にある大きなダストボックスと野島さんの部屋を往復しないと終わらない。
夏の時期には汗が額を伝うのが分かる。
『よいしょ、よいしょ』
ちょっときつい作業をする時、あたしは自分に掛け声をかける。
こうすればちょっと頑張れるような気がする……。
暑い最中……
2往復。
ちょっと水分取らないとこの暑さはまずいなあ。
あたしは野島さんの部屋に戻って水分を捕らせてもらうことにした。
持ってきた水筒に冷たい麦茶が入っている。