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夕凪と朝顔が咲くのを待つ日々  作者: 尾仲庵次
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青く澄み渡っている灰色の日

 お見合い写真を見てしまってから、頭の中でぐるぐるとこれからどうしていくのかとか結婚のこととか……なんだか自分でもよく分からないことで頭がいっぱいになって、夜も寝たのか寝てないのかよく分からないそんな状態だった。


 少し考えさせてほしい……と両親には伝えたのだけど、そんなに結論を引き延ばすわけにも行かない。


『行ってきます……』

 恐ろしいぐらい調子が悪い声が出たことに自分でも驚きながら、それでも言い直すわけでもなくあたしはそう言って自宅を出た。


 今日は仕事の日。

 少し遠くの家まで自転車で出かける。


 空は青く、澄み渡っている。

 夏の空だ。

 景色は実に気持ちがいい。

 なのに抱えている悩みのせいでそんな景色も灰色に見えてしまうから不思議だ。

 こんな日はひたすら自転車をこいで頭の中を空っぽにしてすっきりしたいものだ。


 まあ、実際にはいったん悩んでしまった悩みは、それが解決するまでは頭の中から離れてくれないことはあたし自身よく知っている。


 鬱々(うつうつ)しているわけではない。


 ただ悩んでいる。

 自分がどうしていいか悩んでいるのだ。

 結婚など考えたこともなかった。


 だって……夕凪(ゆうな)と二人での生活はすごく楽しかったし、今もあたしは十分に幸せだから。


 もちろん大変なこともあったけど、なんとかなってきた。

 喉元過ぎれば……かもしれないけど、そんな苦労した思い出すら今となっては(いと)おしい。


 シングルマザーとしての生活は決して良いものとは言えない。


 でもその中で多くの人に出会い、助けてもらいながら生活していけたことは、あたしの中では大きな財産になっている。

 本当の意味で『人は一人では生きていけない』ということが分かっただけでもあたしは幸せなのだ。


 ただ……あたしはそれで良くても娘の夕凪(ゆうな)はどう思っているのか分からない。

 できるかぎり子供には父親と母親が必要だとあたしは思っている


 父親と言えば……

 夕凪(ゆうな)には父親は死んだことにして伝えている。

 確かにあの男があたしたちの前に現れることはないだろう。

 あたしも子供だったし、今もって大人にはなり切れていないのだけど、夕凪(ゆうな)の父親はもっと子供で、到底自分が父親になってしまったことの自覚などないだろう。

 彼は子供がいることだけは知っているはずだ。だけどあたしが夕凪(ゆうな)を産むと言った時、彼には迷惑をかけずに一切に連絡もとらないことになっている。

 もちろん養育費などももらっていない。


 時間が彼にどんな影響を与えるかは分からない。

 もしかしたら少し大人になるにつれて、あの時の娘に会いたくなるのかもしれない。


 しかし……あたしとしてはお腹に宿した小さな命を一瞬でも粗末に考えたそんな男に夕凪(ゆうな)の前で父親を名乗ってほしくはないのだ。


 なんだか……

 いろんなことが頭の中を駆け巡る。


 夏の朝の少し生暖かい空気が顔に当たるけど、そんなことを感じている余裕は今のあたしにはない。

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