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夕凪と朝顔が咲くのを待つ日々  作者: 尾仲庵次
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何かが起こる

『春海……』


 真面目な顔をして父親があたしを呼んだ。

 月曜日の夜。

 夕凪が寝て、時計は21時を指している。

 元々、父親は真面目な人だが、いつもに比べるとなんとなくだけど落ち着きがなかった。


 何か大事なことを話す時の緊張感みたいなものがあった……

 そもそもあたしの今の暮らしにはそういった緊張感とは無縁だ。


 夕凪(ゆうな)がお腹にいると分かった時に比べたら、あれ以上の緊張感はない。

 あれを経験してしまうと大抵のことはそんなに緊張しなくなってしまう。


 まあ……それだけ大きなことをしでかしてしまったわけだ。

 あたしは……。


 とりあえず今が幸せなので、それはそれでよしとすることにしている。


『何?』

 あたしはリビングのテーブルに座っている父親に返事をした。

 話があるならコーヒーでも淹れてあげよう。

 そう思ってあたしはキッチンのコーヒーメイカーに水を注ぎ、コーヒー豆をセットした。

 コーヒーの香ばしい匂いが部屋の中に充満する。

『よいしょ』

 ババくさいなあ……なんて思いながらもついつい座るときや立ち上がるときにはそう言ってしまう。

 実は言葉にすることによって脳が身体に行動の準備をさせるらしく、この掛け声は理にかなっているらしい。


 あたしは父親の座る席の正面の椅子に座った。

 コーヒーが沸くまでにしばらく時間がある。

『今日は野球はないの?』

『月曜日だからな』

 夜は大抵野球中継を見ている父だけど、そんなに野球が好きでもなく、見ている試合も特定の球団の試合ではないことは、あたしのように興味のない人間でもよく分かる。

 たぶん会社での話題作りのために眺めているのだろう。

 一応、ルールは理解しているようだ。


 それにしても月曜日は野球がやっていないとは知らなかった。


『そうなんだ……』

『仕事はどうだ?』

『うん。給料は安いけど楽しく仕事できてるよ』

『それは良かった』

『何においても勉強ができるのがいいのよね。この仕事』

『へええ……いいことじゃないか』

 介護の仕事は常に勉強である。

 もしかしたら何の仕事でもそうなのかもしれないけど……新しい知識を日々、頭の中でアップデートしておかないと仕事についていけなくなることがある。

 特に、介護保険制度についてはある程度、理解しておかないと在宅の仕事はヘルパーがやっていいことと制度上やってはいけないことがあり、それについて説明を求められることもあるのだ。


『充実しているみたいだな』

『うん。とりあえず幸せと言えるかな』

『そうか……いや……あのな……』


 父親は少し歯切れの悪い仕方で何かを話そうとしている。

 気が付けば母親も隣に座っていた。

 緊張した空気が濃くなったような気がする。


 一体……何が始まるのだろう……。

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