1-3
「――よーし、できた」
俺の声ではない。女の子の声だ。
「動け。”ゴーレム”」
ゴーレムとやらは動かない。女の子は不思議そうな顔をする。
「あれ、おかしいな。魔法陣は間違ってないし……。こら、動け。ご主人様の命令だぞ。……こんのっ!」
一発殴られる。ガゴンという固い音が、部屋中に響く。女の子は痛くて悶絶する。
――だが、俺はこれで目が覚めた。目の前にいたのは、銀髪美少女だ。
ここはこの美少女の部屋だろうか。汚い。本も出っぱなしだし、服も脱ぎっぱなし。ブラジャーが目に入る。ベッドも綺麗に整えず、めちゃくちゃな状況である。女の子の闇を見てしまった気分だ。
「おい、初対面で殴るなよ」
美少女は驚いた顔をして、俺と目が合う。
「……えっ? 喋るの?」
「喋るよ。人間なんだもん」
さらに驚いた顔をする美少女。俺もなにがなんだか分からない。
「えっ?」
「えっ?」
ついさっきまで教室で授業を受けていた。――ああ、そうか。魔法陣が現れて倒れたんだっけか。あの状況はなんだったのだろうか。俺が知るに、クラス転移、というものだ。異世界漫画のド定番のやつ。現実に起きるものだったとは。
――じゃあ、みんなは? て思っただろう。俺も思う。今はまだ分からないな。ここが異世界という証拠もないし、夢の中かもしれない。それにしてもリアルである。
「お、お前は誰なんだ?」
疑ったような声で、美少女が言う。
「俺は鈴木理玖だけど……。お前こそ誰なんだ? いきなり殴りやがって。痛くなかったけど」
「スズキ……リク……? 本当に人間なのか?」
「だから、人間だって」
「何を言う。お前は私が作ったゴーレムだ。ゴーレムが自我を持つなんて聞いたことがないぞ」
俺がゴーレム? 何を言ってんだこの美少女は。
「だから人間だって言ってんじゃん。ほら、手も足もある。顔だって」
「そりゃそうだ。人型に作ったのだからな」
美少女が拳でノックするように、俺の体を叩く。叩くたびにコンコンという音が鳴る。
「しかも鉄で作ったんだ。相当硬いぞこりゃ」
「えぇ……マジで?」
俺も自分の体を触る。ガチじゃん。全身鉄で出来てんのか。俺の体重どうなってんだろ。
「俺……ゴーレムになっちゃったのか」
「なっちゃった? 本当に人間だったのか?」
どうせ夢だろうが本当に異世界だろうがなんだっていいや。
「そうだよ。俺は人間だったし、他の世界から来たみたいだ」
「他の世界? 何を言っているんだ?」
そりゃそうなるだろうな。
「とりあえず、この部屋から出ないか? 後から話す」
「なぜだ」
「部屋が汚いんだよ。落ち着かん」
「ご主人様に何を言うんだ! 我慢しろ!」
「そんな契約を交わした覚えはない。ほら行くぞ」
美少女の手を取ると、彼女の顔は赤く染まる。――可愛い。腕を払われると、彼女は守るように腕を引っ込めた。
「さ、触るな!」
美少女は下を向く。ボソッと何かを言う。
「……恥ずかしい」
ん? なんつった? 俺は何も聞えなかった。彼女はまだ下を向いている。
俺は首を傾げ、もう一度手を取ろうとする。
「や、やめろ! 分かったから! 外に出るから、ついてこい!」
そう言うと、美少女はバンッと扉を開け、部屋を出る。俺もついていこうと、部屋を出ようとする。
ふと、鏡が目に入った。俺は自分の顔をマジマジと見る。――はっはーん。こりゃイケメンだな。黒髪に、イギリス人のような綺麗な青い目。身長も高い。高スペックだ。美少女め、自分の好きなタイプをモデルにして作ったな。そりゃ照れるわけだ。可愛いやつめ。
「お、おい! 何をしている! 早くしろ!」
「はいはい。今行きますよー」
部屋を出る。美少女についていき、外へ出る。外はヨーロッパのような外観の街が広がっていた。いわゆる、ナーロッパってやつだ。
そこにはいろいろな種族、と言えばいいだろうか、犬耳や猫耳、トカゲの顔をした人がいた。もちろん人間もだ。――本物⁉ 本物なのか? ケモミミだ! うっひょおおおおっ!
俺は興奮していると、美少女に突っつかれる。
「おい、興奮するな」
「仕方ないだろ。初めて見る光景なんだからさ。異世界って本当に存在してたんだなー。――って、お前の屋敷デカくね? そういえば、家の中は誰もいなかったし、まさか、一人で住んでんのか?」
「そうだが」
「マジか。家賃やばそうだな」
「いや、私はSランク冒険者だから、この屋敷は無償だぞ」
え、マジで? Sランク冒険者? こんな美少女が? 俺は驚きを隠せない。
美少女はフッと鼻で笑うと、俺を見下すような顔で見てくる。俺よりも身長が低いんですけど。可愛い。
「そうだな。下僕。近くのカフェにでも行くか」
「下僕言うな。俺にはちゃんと名前がある。それにお前の名前をまだ聞いてない」
「下僕は下僕だ。私の名はリディア=ベルンハルト、お前のご主人様だ――」
応援よろしくお願いしまああああああああああす。