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俺は校舎に入り、真っ先に職員室へ行く。遅刻者はまず、職員室に行って、先生から『遅刻入室許可書』という、訳の分からない紙を渡される。
俺は職員室の扉の前に立つ。拳を握り、扉をコンコンとノックする。扉を開ける。
「失礼しまーす。1年7組17番、鈴木理玖でーす。遅刻入室許可書をくださーい」
すると、いつも俺の遅刻を叱る先生が出てきた。図体が大きく、顔はヤ〇ザみたいな顔をしている。いかにも生徒指導のような先生だ。体育の先生をされている。両手には、原稿用紙と、例の許可書が。俺を待っていたかのように、準備をされていた。
「おい、理玖。お前また遅刻か」
「すんません。ちょっと人助けをしていたもので」
嘘は言っていない。
「アホか。もっとマシな嘘をつけ」
「嘘じゃないっすよ。スマホを落とした男性が――」
「あのな、理玖。実際そうだったとしてもな、普段からの行動を見ていれば嘘に聞こえてしまうんだ。大人しく反省文を書け。ほら、今日は5枚におまけしてやる」
原稿用紙と許可書を渡される。――いやいや、2枚増えてますがな。
たしかに、俺の普段の行動から見れば、そうなるわな。
「センセー。これで短編小説書いてもいいですか?」
そう言うと、先生からチョップを喰らう。
「いてっ」
「アホ。さっさと授業に行け。今ならまだ4時間目の授業を受けれる。それ今日までに提出しろよ」
「はーい」
職員室の扉を閉める前に一言。「失礼しましたー」と言って閉める。
俺は自分の教室に向かう。1階の廊下の真ん中あたりにある教室だ。それにしても、校舎が汚い。私立ではなく、公立だからだろうか。トイレも臭いし、廊下の壁はボロボロだ。床も緑色のコンクリートが、穴でボコボコになっている。
自分の教室に入る。扉をガラガラと開けると、先生と生徒の注目を浴びる。
「すんませーん。遅刻しましたー」
「はあ。またか。早く席に着け。授業が遅れる」
許可書を先生に渡す。どうやら今は数学の授業をやっているようだ。黒板にはびっしりと数式が。黒と白で目がチカチカするほど、書かれていた。
数学の先生は、細身でメガネで、偉そうな人である。
「十分早いと思いますけどね」
高校1年生の学期末で、数Ⅱをやるのは頭がおかしい。しかも公立で。偏差値なんて60もない高校なのだが。この先生は文部科学省の決まりを無視している。
「うるさい。早く座れ」
俺の席は、前から3列目の窓側だ。日当たりが良く、寝るのには最適である。席に着く。机から数Ⅱの教科書のコピーを取り出す。俺たちはまだ、数Ⅱの教科書を配られてないのだ。だって、2年生からやるんだもん。
小さな声で話しかけられる。隣の席の中村という男子だ。顔はフツメンだが、クラスで一番身長が高く、それが補っているのか、モテる。なぜだ。
「鈴木、お前何してたんだよ」
「え? 寝てた」
「ははっ。いつも通りだな。いっそのことサボっちまえば良かったのに」
「いやいや、単位がかかってる」
「でも、テストの点数高いから大丈夫だろ」
「三者面談で、留年する可能性がある、なんて言われちゃったからな。ハッタリかもしれないが、実は内心ビクビクしてる。まあ卒業さえ出来たらそれでいいけどな。指定校推薦なんて初めから興味ないし、一般で受けるつもりだし」
「そうか。お前国立狙ってるんだもんな。すげーや」
中村に褒められて、嬉しくなった。俺は中村にも国立を目指そうと布教する。もちろん断られる。楽して大学に行きたいってさ。
俺は、腕を組み、足を組み、バレないように――寝る。だが。
「鈴木、寝るな」
「え? まだ寝てませんよ?」
「まだとはなんだ、まだとは。この問題を解け。前に出ろ」
クソ。寝たかったのに。まあいいや。多項式の割り算なんて簡単簡単。俺を舐めてもらっちゃあ困る。俺は前に出て、解く。
「えーっと。こうしてあーして――できました」
「正解だ。戻れ」
「ういー」
俺は再び席に着く。
「さっすがー」
「だろ」
また腕と足を組み、寝る。
――すると、突然頭痛に襲われた。両手で頭を抱え、唸る。俺以外も唸る。目を開けると、床一面に大きな魔法陣らしきものが現れていた。教室中が騒がしくなる。
まさかこれは……クラス転移⁉ だが、喜んでいる場合じゃない! 頭痛が激しくなってきた。
「な、なんだこれ!」
「お、おい! どうなってんだよ! 頭が割れる!」
「ま、魔法陣だ! まさか異世界に召喚されるのか⁉ や、やったー! こ、これで俺は――」
メガネをかけ、ちょい太っている見た目の、いかにもオタクと言われる奴が喜んでいた。俺は咄嗟に言う。
「馬鹿野郎! 喜んでいる場合か! センセー、何とかしてください!」
俺は先生に助けを求める。先生なら何とかしてくれるだろう。
「はあ? 俺に解決できるわけないだろ! とりあえず職員室に行くわ!」
あ! こいつ逃げた!
先生が教室を出ようとする。――が、扉が開かない。鍵が掛かっていないのにだ。
「クソ! なんで開かねえんだよ!」
ガチャガチャと必死に扉を開けようとしている先生に、中村が言う。
「先生! 田中が倒れました!」
田中が白目をむいて倒れている。力が入っておらず、腕を持ち上げても、バタリと落ちる。――まるで死体のように。
「先生! 中川原くんも倒れました!」
女子の山崎が言った。同じように、中川原が倒れている。
――次々にクラスメイトが倒れていく。俺はその光景を目にしながら、俺も膝から崩れ落ちる。
窓から見える景色は、異様にも美しく見えた。一つの絵画のようだ。天から何かが迎えに来る。その姿はまるで女神のように見える。俺はその感覚を気持ちいいと感じてしまう。
クソ。嫌な予感とはこれのことだったのか――。
応援よろしくお願いしまああああああああああす。