Episode 2 ― もしかして異世界転生?
——(ここは、どこなのだろうか・・・地獄・・・なのか?)
目を覚ますと、そこはお人形さんみたいな顔立ちをした女の人とゴリラみたいな男が一人いる。
にしても二人は笑顔で俺を見ている。
『かわいいでちゅね~!これから――』
(最後の方はよく聞こえなかったが・・・なんだこれ・・・選別か? 男の方に選ばれれば地獄、女の方に選ばれれば天国ってところなのか・・・にしてもこんな暗いところでやらなくてもいいんじゃないか? 選別って言ったらもっと明るいところじゃなかったか?)
バカな俺だが何故が自信があった。名推理だと……
すると男の方が両脇を抱えて俺を軽々と持ち上げた。
体は羽のように軽く、前よりも頭の方が重く感じた。
ふと自分の手を見て違和感を感じた。
ここに来ていつもより手が一回りも二回りも小さいことにようやく気が付いたのだ。
モチモチとした触感、生まれたての赤ちゃんのようだ―― ん?
言われてみれば“ココ“に来てからというものの、力はあるみたいだが、声も出にくいし、なんだか少しぼやけて見える。
なんだこの感覚……味わったことのない不思議な感覚だ・・・すべてが新しく思える。
ここで俺はあるラノベの代表的な物語を思い出した。
そう、異世界転生というものだ。
俺はあまりそういう類のものは信じないのだが今回ばかりはそうとしか思えない。
だが基本こういうのは大抵“神”が決めている。はずだ。
ラノベあるあるだからな……
《少年よ》
(ほら来たこのエコーがかかった感じ、年寄りの声。やっぱり神の仕業だったのか!)
《人生つらいこともあれば楽しいこともたくさんあるんじゃ。もう一度チャンスを与える。今度こそ悔いのない人生にしてみなさい》
(いや、話聞いてねぇなこの神。勝手に転生させておいてもう一度チャンスを与えるって何?)
《お主、前世では未練しかなかったようだったからつい・・・》
(いや余計なお世話だわ。いいから早く殺してくれ)
神は聞こえなかったかのように消えていった
ここで分かった。
この神は無能なのだと……
俺は凶悪殺人犯。いつまた人を殺めてもおかしくないわけだ......
一つ分かったことは、俺は本当に異世界に転生してしまったということだ。
“悔いのないように生きろ“ と言われてもイマイチどうすればいいかわからなかった。
と言うわけで異世界に転生した俺だが、生活していくうちにわかったことが何個かある。
まず、ここでは日本語ということだ。
なんて都合のいい設定なのだろうか。英語もまともに話せないから助かった。
二つ目は俺の名前はテラ・べロムということ。父の名がトーマス・べロムで母の名がクロエ・べロムとのこと。
父の方は見た目はゴリラっぽいが一応元貴族の家庭らしい。今は鍛冶職人として生計を立てている。だから金銭的な余裕は他の人に比べれば全然ある。
母は家事育児を担当している。
なぜ貴族ではなくなったのかというと、母上が農民だったため、“地位の低い人と結婚した”から剥奪されたとのこと。
いわゆる政略結婚というものだろう。怖いものだ。
そして3つ目。
今住んでいる村が「デビュト村」だ。
この村の周りには多くの魔物が生息しているが、結界があるおかげで村には入れないのだとか。
それに父が読み聞かせていた本には
{転生者は前世で大罪を犯しているからこの世界に来た――異世界人は排除するべし。}
と記載された。
そのため、俺が転生者ということは一生隠し通さなければならない。
時は流れ3年後。
ある程度この体で言語を話せるようになった5歳のころ、俺はあることに気が付いた。
それは前世の体力、筋力、知力のすべて引き継がれているということだ。
俺はこの年齢ではまさに最強と言えるのではないだろうか?
前世から体力と筋力だけには自信があった。
フルマラソンは2時間とちょっとで完走し、続けて同じ日にハーフマラソン大会に出場するくらいだった。
リンゴは人差し指と親指で挟めば刃物要らずで半分に切れる(と言うか割ってる)し、横になった状態から前後左右に手を使わず上がれるし・・・
俗に言う筋肉バカだったのかもしれない。
その体力と筋力が今、この3歳の体に宿っているというわけだ。
これはもしや【異世界チート】というものではないのだろうか?
さらに8年。
13歳になった春のこと。
あれから俺は悩みに悩み続けて結局、自分が持っている怪力を駆使してこの世界で人助けをすることにした。
始めはコップを掴むだけでコップが粉々になるわけだから両親から転生者なのではないのかと疑われ、両親や村の人にまで驚かれたけど、今では力加減も制御できて村人からの信頼も厚い。両親も才能だと思い込んだのか何も言ってこなかった。と言うか喜んでいた。
単純でよかった。
そうそう。村人の手伝いと言っていいのかわからないが、具体的には原木を持ったり、薪を素手で折ったりと俺にとっては単純作業というわけだ。
だが、村人は大変助かるらしく、それのおかげか村の人たちからは“小さな英雄”と呼ばれるようになった。
見た目は小さいが中身はいい歳こいたおっさんなんだけどな。
この頃になって初めて知ったのだが、この世界では13歳で成人ということ。
そのため、父親は俺を冒険者ギルドに入れようとしてるのだが、そのためにはまずステータス鑑定というものを受けなければならない。
その後に実戦を模様した試験を受けなければならない。戦う相手は魔物だ。
バランスのいいステータスなら一人で冒険に出てもいいのだが、一部に偏っていると、3人でパーティーを組まなければならない。
俺はさっそくギルマスに挨拶をしに行き、ステータス鑑定を行った。
すると――
《ほっほっほ! 久しぶりじゃのう少年! どうだったか?元気しておったか? まあ全部見ておったがのう! ほっほっほ!》
どこか懐かしい声が聞こえてきた。
(この声・・・ あの神か・・・!)
《覚えておったのか! まだ小さかったから覚えていないと思ったわい。 長話は無用じゃ!早速じゃが、今回はステータス鑑定をしに来たのじゃな?》
(はい。 父の勧めで冒険者ギルドに入ろうと思っているので・・・)
《なるほど・・・それじゃ、鑑定を始めるぞい!》
そう言うと途端に体が熱くなり、だるさと睡魔に襲われた。
気づけば俺は気を失いベッドの上にいた。
「大丈夫かテラ!」
父上がそういったと同時に安心した。
「はい・・・大丈夫です父上・・・僕、急にだるくなって眠ってしまいました」
そう言うと父が席を立ち、紙を持ってきた。
その紙には俺のステータスが事細かく書いてあった。
中でも特に目立ったのが体力、物理攻撃力とスキルだ。
ステータスは10段階であらわされるのだが、俺の場合:
体力:未知数
物理攻撃力:未知数
スキル:―肉体改造
―隠密移動
―認識阻害
―【大地の神タナトスの加護】
それぞれの効果は:
【肉体改造】
危険を感じたとき、一時的に自分のステータスを10倍にする
【隠密移動】
スキル発動時、足音が完全に消える
【認識阻害】
スキル発動時、相手から自分を認識することが出来なくなる。
魔力探知もできないため、解除しない限り誰も自分のことが見えない。
【死の神 タナトスの加護】
常に死んだ相手の魂を吸い取り、ダメージを回復する
両親はこれに驚いていた。
スキルだけでも上級冒険者でさえ覚えることが難しいとされているものだらけなのに、神の加護をも受けているからだ。
普通神の加護を受けるにはその神と契約をしなければならないが、契約に至るまでに相当苦労しないといけないらしい。
上級冒険者でも、生涯加護を受けずに引退する人もいるらしい。
俺はいつの間にか契約をし、神の加護を受けていたのだ。しかも“死の神”と......
あくまで推測だが、俺が前世で大量殺人を行った際に正気じゃなかった俺が勝手に契約をしたのだろう。
でなければ、“死の神”とやらと契約なんてしてなかったはずだ。
俺はほかのステータスにも目を通してみた......が、知力、魔力ともに0だった。
そう、知力、魔力がなければ魔法も錬金術も使えないということだ。
これが意味するのは、スキル【肉体改造】を発動しても0に10をかけても0になるということだ。
戦術なんて無いも同然。
所謂、脳筋ゴリ押しプレイだ。
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