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死にたい僕たちは“今”を逃避行する。

作者: 雨方蛍

「どこまで行くんだー!」


僕の手を引いて走る制服姿の黒髪少女に、僕はそう呼びかける。

夕焼けを反射し、赤く燃える海を横目に僕たちは走る。


「どこまでも!」


彼女はそう言って振り返り、白い歯をニッと見せて笑う。

その笑顔に嘘はない。きっと僕たちはどこまでも続けるのだろう。


行き着く先、最終目的地のみ決まったこの逃避行を。


****************************


僕、光瀬葵(みつせあおい)天音花夏(あまねはなか)に出会ったのは一ヶ月前、とある掲示板でのことだった。


そこに僕が書き込んだ『死にたい』という四文字が、始まり。

まばらだけど、様々な反応があった。


『勝手に死んどけwww』


『命を無駄にしてはいけません。辛いならこちらに相談を→http……』


『最近の子供ってちょっと辛いことがあったらすぐ死ぬとか言うよね。私が子供の時は……』


でも、誰も僕の求めている答えをくれない。

こんなんじゃない、こんな慰めや同情が欲しいんじゃない、、!


僕はギリッと奥歯を軋ませ、マウスをカチカチと動かし、画面をスクロールする。


そして見つけた。僕の探し求めていた、コタエを。

上から6つ目のコメント、ハンドルネーム「サマーフラワー」さん。


『じゃあ、私と一緒に死ぬ?』


このコメントを見た瞬間、僕はこれまでに味わったことのない興奮を覚えた。

これだ。これこそ、僕の欲しかった“コタエ”。言ってほしかった“コトバ”。


ニヤケが止まらない。嬉しい。この人は僕のことを分かってくれている。



すぐにサマーフラワーさんに連絡を取る。プロフィール欄にSNSのリンクが貼ってあったから、連絡を取るのは容易だった。


『はじめまして。アオイです。お時間よろしいですか?』


『はじめまして、アオイさん。もちろんです』


『コメントありがとうございました。単刀直入に聞きます。本当に僕と死んでくれるのですか?』


『いいですよ。一人ぼっちは寂しいですからね』


その後もSNS上で何度かやり取りをして、ついに僕たちはリアルで会うことになった。

偶然にも同じ県内に住んでいたため、県の中心駅のコーヒーショップで待ち合わせる。


《8月17日》

注文を済ませ、店内の二人がけの椅子に腰掛ける。できるだけ他の人から離れた席を選んだ。

これからの話を他の人に聞かれたくない。


約束の時間の5分前、トントンっと僕の肩が叩かれる。


「……背中に“Dead or Dead”と書かれたTシャツ、、ってことはあなたがアオイさんね?」


約束の服装、“千茅(ちがや)高校の制服”を着た彼女が立っていた。「ハロ〜」と手を振って、僕の隣に腰掛ける。

DMで何度も話していたのに、リアルだと緊張して声が震える。最後に女の子と話したのっていつだっけ、、


「は、はじめまして、サマーフラワーさん――」


「天音花夏です。あ! 私の本名ね。アオイさんは?」


初対面にも関わらず、いきなり自分の名前を明かす。そんな彼女の個人情報セキュリティーの甘さに戸惑うが、相手が名乗った以上、僕も名乗らないわけにはいかない。


「光瀬葵です。名前、ハンドルネーム通りなんです」


「私も名前を英語にしてチョチョイっていじっただけだから。そっか、葵くんか。高校生?」


“葵くん”という呼び方に少しむず痒い思いがする。そんな呼び方されたのは何年ぶりだろう。名前を呼ばれたのも……。でも、気さくに話しかけてくれる彼女の声に、緊張がスッと解けていく。安心できる声だ。

やっぱり、この人は僕にとっての理解者なんだ。


「はい、高校2年生です。天音さんは?」


「花夏でいいよ。でも、私のほうが年上みたい。今年受験生、高校3年生だから」


花夏さんがいたずらっぽく笑う。

そんな彼女の笑顔に、僕は不安を覚える。


――どうしてこんな人が死ぬ事を選んだのだろうか。


花夏さんは美少女コンテストに出たら間違いなく入選するだろうと思えるほど、整った顔をしていた。それに話し方も、笑顔も明るい人のそれだ。こんな幸せそうな人がどうして、僕なんかと……


「あの、本当に僕と一緒に死んでくれる?」


不安をかき消すため、僕はもう一度彼女に確認をする。

彼女はにっこりと微笑み、僕の手を握る。


「葵くんを1人にはしないわ」



その日から僕は、僕たちは家に帰っていない。




逃げて、逃げて、逃げて……きた。いつか死ぬために、今を生きるために。

花夏さんがよく言っていた言葉がある。


「明日死ぬために、今日(いま)を生きるのよ」


僕たちは逃げる。あの人達の目から。警察から。苦しい現実(リアル)から。


『僕たちはどこまで行くのか』


その答えを求めてどこまでも。そして、いつか死ぬ日まで生き続ける。

  


これは、死にたい僕らが繰り広げる、逃避行の物語。


「続きが気になる」「もっと詳しく知りたい」という声や評価があれば、連載したいと思っています。



 


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