もう一人俺がいたら相槌する
「あぁ、俺がもう一人いたらなぁ」
「全くだ。俺が一人増えれば百人力だというのに」
俺が相槌を打ってくれる。俺も俺と同意見だ。全くなんで己が何人もいないのだろう。
俺はこの無職の部屋と化した空間を貪りながらゴロゴロと横になっている。畳なのがありがたい。安アパートだが俺にはこのぐらいが丁度いい。俺もここには満足しているようだ。
「俺が二人いたらどうするよ」俺に聞く。
「やっぱ、仕事をしてもらうな。そして俺は家事。専業主夫だ」
「それはいい。でも、もっといいのが家事もしてもらうことだ。俺が三人いて、一人は仕事、一人は家事。俺は寝る。最高だろう?」
俺はそう答える。なるほど確かにそっちのほうがいいな。わざわざ家事なんてせずとも楽はできる。俺はゲームするのも漫画読むのもかったるいので寝ていたい。
ロースペックニートの真髄を考えていると腹が減ってきた。俺も腹を鳴らし空腹を黙々と訴えている。
「こんな時に料理してくれる俺がいたらなぁ」
「同じ意見だ」
シンクの前で寛いでいる俺も同調してくれる。トイレにいる俺にとっても同意見。流石にトイレは俺自身でやりたいな。風呂はどうだろう。それも俺一人でいいか。だけどそもそも風呂に入らないのよな。シャワーで充分。
だが、俺にとっては風呂は大衆浴場でやってほしいのが本音だ。ここは俺が一人、歌を歌っても文句を言われない特等席。そこを侵害するのは聖域を壊すのと同等だ。
俺にとっては反対意見を出したい。外に出るのはなるほど運動にはなるが歩くだけで暑くなる俺には帰るまでにまた汗をかいてしまう。それはごめんだ。
「昼飯何にしようかな」
宇宙で作業中の俺は考える。この空間ではパスタも食えやしない。しかし、宇宙に来てまでしてすることが修理とは。地球にいたら好きなもの食べながらエンジニアとして暮らせるのに。
そうはいかないぞとシステムエンジニアの俺。俺がやっているような機械の修理とは違うが、俺が行っている作業も似たようなもの。よって同列に語らせてもらうが、これは地獄だ。毎日毎日残業続きで休みも取れない。顧客のバカみたいな要求を飲むのにも苦労する。海外では違うと聞いたが、どうだろう。
海外と一括りにするが、世界は厳しいぞ俺よ。最先端の技術は日々勉強しなければならないから俺の生活とそう変わらない。海外で成功するなんて野望を持つのはやめておけ。
俺は昼飯にありつきながら明日のことを考える。貯金はまだあるが、このままではいけない。何がいけないかって、金がない。やっぱりアルバイトぐらいはしなくちゃな。カップラーメンを啜りながら思案した。
次の日、俺が二人になっていた。俺は言った。
「俺がもう一人いたらなぁ」
「俺もそう思うな」